俺の心は何度も折れた。
壁ドン?を終えて何故か得意げなスパイシードッグさん、サーラに向かってドヤ顔を決め込んでいた
よほど気分が高揚しているのであろう、尻尾がご機嫌に激しく動いている
今回も随分と欲しがっていますねスパイシードッグさん。
しかし当のサーラは何やら不満げな表情を浮かべていた、どうやら御所望の品とは違っていたようだ。
ご褒美の言葉をもらえずガックリと肩を落としたスパイシードッグはそのまま部屋を出ていった
その後姿は何とも寂し気であり、哀愁漂う男の背中を見せつけながら
重い足取りのまままトボトボと出て行った。そんな傷心の君に一言だけ送ろう、ざまあ。
「大丈夫ですかシンジさん」
「ああ、ちょっとビックリしたが、俺の体は耐久力だけはMAX設定にしてあるからな
あのぐらいなら全然平気だ」
心配そうに俺を見つめるサーラ、スパイシードッグの壁ドン?を食らった時
一瞬意識が飛びそうになったのだが、ここは男らしく強がってみせた
「スパイシードッグさんには随分お世話になっていますから、こんな事は言いたくないですが
今のはひどすぎます、男同士の神聖な壁ドンを何だと思っているのでしょうか⁉
アレは壁ドンに対する冒涜ですよ‼」
随分とご立腹のサーラ嬢、どうやら俺の体を心配するより壁ドンに対する思いの方が強いご様子です。
そんな時、外が何やら騒がしい事に気が付いた、何だろう、また祭りでもあるのかな?
するとスパイシードッグが息を切らせ慌てた様子で戻って来たのだ。
「大変だ、シンジの旦那、お嬢ちゃん、魔王軍が、魔王軍が攻めてきた‼」
「何だと、本当か⁉」
俺達は急いで部屋を出て外の様子を見てみると、魔王軍来襲の報を受け町は騒然としていた
住人たちは恐怖の声を上げながら逃げまどい、パニック状態になっていたのだ
「一体どういうことだ?橋を渡って来たのなら事前に気が付くだろうし
森からは大軍は来られないはずじゃなかったのか⁉」
俺の疑問に対してスパイシードッグが答えた。
「どうやら気づかれない様に湖を潜って来たようだ、泳ぎの得意なモンスターもいるからな
王宮の連中には気が付かれなかったのだろう」
魔王軍の中にも頭のいい奴がいるようだな。
当然といえば当然だがスパイシードッグの様な馬鹿ばかりではない様だ。
「よし行くぞサーラ、今こそ勇者の出番だろ‼︎
地の底まで落ちた俺の支持率回復に向かってダッシュだ‼」
「はい‼」
俺達は急いで大通りに出ると魔王軍のいる方角へと向かう
すると反対側から逃げ惑う住民達の姿が見えた、その中には女子供も多く
皆が恐怖で怯えこちらに向かって必死で逃げて来る
よし今俺が助けてやるぞ、待っていろ‼
俺が決意を固めたその時である。こちらに向かって走って来ていた女性が急に足を止め
その場で硬直する、そして悲壮感を漂わせながらゆっくりと首を振り嘆きの言葉を口にしていたのだ。
一刻も早く非難しなければいけないという状況にどうしたのだろうか、何があった?
「ああ、そんな……こっちにも……もうお終いだわ」
絶望したその女性は、その場に力なくへたり込んだ
視線が完全に俺に向いている事を考えても、やはり俺を見て絶望したようだ
どうやら人類の敵である魔王軍と女性の敵である俺は同等の扱いらしい。
「そりゃあ無いだろ、俺はみんなを助けに来たのに……」
俺は再び心が折れた、この世界に来て何度目だろう?まあ日本でも度々心が折れていたが
そんな俺の気持ちなどお構いなしに魔王軍がやってきた
半魚人の様な格好のモンスターが数十体とその後ろに黒いローブを着た小柄な男が一人
どうやらコイツが司令官の様だ。
敵司令官はゆっくりと近づいてきてニヤリと笑うと俺に向かって挨拶をしてきたのだ。
「初めまして勇者シンジ、私は魔王軍諜報部班司令官のスペランカー・文春と申します
対勇者の為の私の作戦はどうでしたかな?」
俺に対する作戦だと?一体何の事だ?戸惑う俺を見て再び嫌らしい笑みを浮かべた
「おや?どうやら理解できていないようですね勇者シンジ
貴方がここ二か月の間、世間からゴミの様に扱われていたのは
私が情報操作をしていたからなのですよ、クックック」
「情報操作だと?まさか俺の評判が地の底にまで落ちたのはお前の仕業だったのか⁉」
「ようやく気が付いたようですね、そう私こそは情報操作のエキスパート
この国に貴方の悪評を広める為に二か月もの間寝る間も惜しんで噂話をバラまいたのは私なのですよ
私はこの能力だけで魔王軍の司令官になったほどですからクックック」
愉悦混じりの笑みを浮かべ楽しそうに説明する敵司令官スペランカー春文
そして元同僚であるスパイシードックに向かって声をかけてきた
「おや?誰かと思えば裏切り者のスパイシードックではありませんか
やはり下等な生物はどこまで行っても愚か者の域を超えないようですね
それとも犬は犬らしく節操なく敵に尻尾を振ったという訳ですか?」
挑発的な言葉を受けたスパイシードックだったがそれに怒る様子もなくニヤリと笑って言い返した
「生憎だが俺は尻尾を振る相手を選んでいる、俺は本能に従い魔王より美少女に鞍替えしただけだ‼︎」
キメ顔で言い切ったスパイシードックだったが、そのセリフ全然決まっていませんよ?
どこまでもブレないスパイシードックさんの新たな決意表明を聞かされただけであった。
「そういうお前こそ相変わらず陰険な野郎のようだな。
人の悪口を広めるというだけで魔王軍幹部に成り上がったこの根暗野郎が‼︎」
「この二ヶ月間の俺の屈辱は全てこいつのせいだったのか⁉︎クソッ、何て陰険な奴だ。
でもよく考えてみれば人の悪口を言いふらすだけで魔王軍の幹部にまでのし上がったのか?
ある意味凄いな、お前」
スペランカー春文は俺の言葉を受け嬉しそうにほくそ笑んだ、いや別に褒めてないけど
「私は人の悪口言い続けてここまで生きてきたのだ、悪口だけは絶対に誰にも負けない
二か月もの間、世間に叩かれ続けた苦渋の生活はどうだった?
辛かったろう、苦しかったろう?いい気味だ、調子に乗っている奴を絶望のどん底にまで叩き落す
これが俺のポリシーでありアイデンティティだ、わかったか‼︎
悪口王に俺はなる‼」
何だコイツ⁉妙に意識は高いが志はやたら低いな
そのヒガミ根性と性格の歪みっぷりにはどことなく親近感を覚えるが。
だがある意味一番厄介な敵とも言える。
「確かに、俺の人生の中でこれ程の長い間、忍耐を強いられたのは〈エンドレスエイト〉以来だぜ
だがお前の陰謀もこれまでだ、俺達の伝説はこれから始まるんだ‼」
俺達の周りには町の人々が遠巻きに事の成り行きを見守っていた
しっかりと見ていてくれよな町の人々。ようやく俺のターン、名誉挽回のチャンスだ
俺がみんなを守るぞ、さあこれからだ‼
「サーラ、町の人々が俺にエールを送ってくれるように呼びかけてくれ
俺達の伝説はこれから始まるのだから‼」
「わかりましたシンジさん、任せてください‼」
口元に笑みを浮かべながら大きく頷くサーラ、二人の心が通じた瞬間だった。
この苦しい月日を一緒に過ごしてきたおかげで、俺達は真のパートナーになったのだろう
真のパートナー、何かとてもいい響きだ。それとも本当のパートナーになったのだろう……かな?
これもいいな。さらに別の視点で正真正銘のパートナーに……これも捨てがたい
いやそれなら……俺がそんな事を考えている間に、サーラは町の人々に向かって大声で叫んだ。
「皆様、これまで応援ありがとうございました、雨乞猫先生の次回作にご期待ください‼」
「おい⁉それは週刊漫画の連載が打ち切りになった時に使われる言葉だ
〈俺達の冒険はこれからだ‼〉という時のセリフじゃないか‼︎
俺が言ったのは〈俺達の伝説はここから始まるんだ‼〉だよ」
「えっ、違うのですか?」
「全然違うわ‼」
俺のツッコミにペロリと舌を出すサーラ、う~ん、あざとい。
しかし可愛い、心なしか周りの人々も俺達の事を少し好意的に見てくれている気がする
さすが昔から伝わる有難い格言、〔可愛いは正義〕という言葉に嘘偽りはなかった
何にしろ彼女の機転でいい方向へ向いている事は確かである
さすがサーラたそ、マジ天使。
その時、スペランカーは顔をしかめ〈ちっ〉っと舌打ちをした
この二か月というモノ俺達への風評被害を広め続けたスペランカーにしてみれば
サーラが作ったこの雰囲気は予定外であり、思惑を外れているのだろう
いい気味だ、最後に正義は勝つんだよ‼
まあ俺自身は特に何もしていないし、俺自身が正義かどうかは物議を醸すところなのかもしれないが
そこは賢明なる読者の判断に任せたい。いいですよね?展開的に俺が正義って事で?
だがスペランカーはこのままではマズいと思ったのだろう
突然町の人たちに向かって訴えかける様に大声で語り始めたのだ。
「皆さん騙されてはいけません。この男が何をしたのか、もう一度思い出してみてください
我らが敬愛すべき王女様に対してセクハラの限りを尽くし
筆舌につくしがたい卑猥な言葉を浴びせかけられた王女様は
どれほど辛く苦しい思いをし、涙を流されたか⁉︎
そこにいる少女にも有り余る欲望をぶつけ、人間の尊厳を奪い
肉体も精神もボロボロにするという悪魔の所業を
日常茶飯事においておこなっていると関係者筋から聞いております
それが自称勇者、正義の味方を騙る男で女の敵、色情狂シンジなのです
こいつは人間じゃありません、人の皮を被った変態です、皮かむり野郎なのです‼」
それを耳にした俺はすかさず反論する、あまりにもひどい捏造とでっち上げ
それはあの東ス○をも越えるレベルにまで達していたからである。
「おい、ちょっと待て‼黙って聞いていれば言いたい放題言いやがってふざけるな‼
未だ彼女いない歴=年齢で童貞の俺が、王女に向かって卑猥な言葉攻めとか
サーラに対してエロの限りを尽くすとか、そんな夢のプレーをしている訳ないだろ‼︎
皆さん耳を貸さないでください、コイツの言っている事は嘘ですよ
信じないでください、皆様の味方シンジ君を信じてください‼」
必死で身の潔白を訴える俺だったがそれに対する世間の目は冷ややかだった
俺のいう事には誰も耳を傾けず軽蔑と嫌悪感の入り混じった視線を俺に向けてきたのである
俺は童貞のまま〈色情狂〉や〈女の敵〉という謎のステータスをゲットした
今心の骨がポキリと折れる音が聞こえた瞬間だった。
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