俺は壁ドンをされた。
俺の話を聞いたサーラは大きくため息をついた後、やや呆れ気味に言い放った
「シンジさんは女の子に幻想を持ちすぎです、女の子は意外とズルいモノなのですよ
むしろ男の子の方が純粋なぐらいです。その子にしても王女様にしてもそうなのです
もっと女の子を疑う事を覚えてください」
「そんな馬鹿な、彼女も王女様もズルい所なんかない
見た目の美しい女性は心も美しいと決まっているんだよ‼」
「もの凄い発言ですね……シンジさんは生涯キャバクラとか行っちゃダメですよ
でもその壺を勧めてきた彼女の名前も知らないのですよね?」
「知らない、本当の名前も連絡先も教えてはくれなかった……
だから俺は彼女の事を、アナスタシアと呼んでいるんだ」
「そうですか……まあ、呼び方はどうでもいいです
でも本当にシンジさんって馬鹿みたいに女の子は可愛くて優しいモノだと思っているのですね……
クスッ、夢を見すぎですよ」
サーラは優しく微笑みながら諭すように俺に語り掛けてきた。
「物語上の登場人物などは話を面白くする為に、やや誇張気味に性格を設定していますからね
シンジさんだって男の主人公を見て〈こんな奴いないよ‼〉と思う事だってあるでしょう?
女の子のヒロインだってそれと同じですよ……クスッ、本当にバカみたい」
そのままクルリと背中を向け再び話始めるサーラ。
「シンジさんは本当に馬鹿みたいに……」
その瞬間、俺はたまらず割り込む様に口を挟んだ。
「もういっその事、馬鹿って言って‼一思いにさ……」
再び視界が歪む、枯れ果てたと思っていた俺の体内にはまだ水分が残っていたようだ。
サーラは両手を自分の腰に当て本格的に俺にコーチングする構えを見せていた
十二歳の少女に恋愛特訓を受ける二十歳の男……いや、深く考えるのは止そう
今はなりふり構ってなどいられないのである
溺れる者はワラをも掴むというが、目の前にいる美少女はワラよりは随分とマシなはずだ
可愛いし、多分ワラより柔らかい
「ではシンジさん、初心に戻りましょう。愛情の伝え方というか、
自分が相手に好意を持っているという事を伝え、仲良くするにはどうしたらいいと思いますか?」
「え~っと、課金かな?」
「真面目にやってください、ぶち殺しますよ」
十分真面目に答えたつもりだったのだが、どうやらサーラの逆鱗に触れたようである
軽蔑と怒りの混じった目で俺を睨むように見つめる若干十二歳の美少女
鬼コーチが爆誕した瞬間である。
「だって考えてもわからないのだからしょうがないだろ?褒め方って……
俺が思いつく事といえばアニメのヒロインに例えるとか
フィギュアの造形に例えるしか思いつかないのだから」
俺の魂の言葉にサーラは再び大きくため息をついた
「では方針を変えましょう、言葉がダメなら行動です
確か王女様は演劇を見るのが好きだと聞いたことがあります
二人で一緒に演劇を見に行ったという設定で考えてみましょう
演劇を鑑賞中にそっと手を握る、というのはどうでしょうか?」
「えっ⁉いきなりそんな高レベルな事を⁉ハードモード過ぎないか?」
「そんな事ないと思いますよ、いたって普通だと思いますけど?」
「だって、相手は王女様だぜ?悪い奴等に襲われている所を颯爽と現れて
悪党どもを蹴散らし〈お怪我はありませんか姫?〉って感じがベストじゃないのか?
白馬の王子が迎えに来るいうのが女の子にとって究極の憧れにして永遠のデフォだろ⁉」
熱く語る俺をサーラはまたもや冷ややかな目で見ていた
「何を馬鹿な事を言っているのですかシンジさん
貴方は夢見る少女ですか?現実的にそんな都合のいい状況ある訳ないでしょ
それとも悪者役でも雇って王女様を襲わせてシンジさんが助けるという
マッチポンプ演出でもするつもりですか?」
「うっ、まあ場合によってはそれもアリなんじゃないのか?」
「無いですよ、そもそも演技とはいえ王女様を襲うという事は国家反逆罪にあたるのですよ?
シンジさんのくだらない幻想の為に重罪人の汚名を着てまで命を懸ける人がいると思いますか?」
「くだらない幻想とか言うな‼いい手だと思ったんだよ
でもこのロマンティック演出ならば一周回ってワンチャンありそうじゃね?」
「完全なノーチャンスですよ。一周回ってとか、何周回ってもありません
大体その演出がバレたらどうするんです?
ヤラセが発覚して打ち切られてしまった過去のTV番組を思い返してください
その場合、国家反逆罪でシンジさん自身の首が打ち切られますよ⁉」
中々うまい事を言う少女である。そんな事を言いながら椅子を並べ替えるサーラ
二つの椅子を横並びに揃え俺の左側の椅子にちょこんと座った。
「シンジさんは右側に座ってください
私が相手なら緊張しないでしょう?練習には丁度いいと思います」
俺は言われるままに右側の椅子に座り正面を向いた。
「いいですか、ポイントは〈さりげなく〉ですからね」
俺に向かって言い聞かせるように念を押してくるサーラ
つぶらな瞳で左右色の違うオッドアイが俺を見つめる姿は中々に絶景である
しかしさりげなくと言われても……俺にとって女性の手を握るとか
画面越しでしか発生した事の無いイベントであり
その未知の領域の行動には俺の精神が限界突破しなければ到底不可能な超難易度なのだ
ヤバい、心臓の鼓動が高まり大量の汗が噴き出す。
意識すればするほどガチガチになってしまう俺。
「何でそんなに緊張しているのですか?今の相手は私ですよ、王女様ではないのです
練習でそんな状態だと本番はどうなってしまうのですか⁉
私の右手にシンジさんの左手をそっと乗せるだけでいいんです
もっと力を抜いてさりげなくそっとですよ」
俺はゴクリと息を飲み込み震える手を無理やり動かした。
「左手は添えるだけ、左手は添えるだけ、左手は……」
俺は震える手を無理やり動かし、サーラの手の上にそっと左手を重ねた
何だろう?凄く気持ちがいい、俺がいつも愛用していたおっぱいマウスパッドとは訳が違う
オクラホマミキサーとも違う、女の子の手ってこんなに……もう俺の人生に一片の悔いもない。
「ちょっと固いですが、手慣れているよりむしろいいかもしれません
では次のステップに行きましょうか、シンジさんに合いそうなモノは……そうだ壁ドンとかどうですか?」
壁ドンか、聞いたことはあるな。リア充男子が女子に向かって繰り出す有効的な攻撃手段だと聞いていたが
まさか自分がやる事になるとは⁉
「でも相手が私ですと王女様とは身長差がありすぎてリアリティが無いかもしれませんね……」
顎に手を当て考え込むサーラ。この美少女が俺の為に真剣に考えてくれていると考えるだけで
十分胸が熱くなる展開である。そんな時、後ろから待ったをかける声が聞こえてきた。
「なら俺がやってやんよ、俺こう見えて壁ドンは得意だしな‼」
話に割り込んできたのはスパイシードッグだった。そういえばお前も居たな、すっかり忘れていたぜ
でも身長のリアリティを追求するのに190cm近いお前は相手としてどうなんだ?
まあいいか練習だし。だが相手がサーラからスパイシードッグに変わっただけで
俺のテンションは地の底まで落ちた。ならばちゃっちゃと済ませて次に行くことが先決だ。
「じゃあさっさと始めようぜ、アンタが見本を見せてくれるって事だよな?
じゃあ俺が王女様役という事だな、よろしく頼むぜ、スパイシードッグさん」
「ああ、任せておけ‼」
男同士の壁ドンとか気持ち悪い以外の何者でもないが、緊張しないで済むという点では非常に有難い……
あれ?何でサーラはあんなに目を輝かせてこっちを見ているんだ?
「じゃあ行くぜ、シンジの旦那‼」
「ああ、いいよ」
何だ、スパイシードッグの奴、妙に気合が入っているが……あれ?
何で俺の後頭部を手で掴む?うわぁぁぁ~~‼
スパイシードッグは俺の後頭部を鷲づかみにしてそのまま壁に叩きつけたのだ
俺の首は壁を突き抜け隣の部屋に顔を出す、土壁が崩れてバラバラと破片が床に落ち
部屋中にモウモウと煙が上がった。
「うううう、何で?……いったい何が?」
俺は壁に顔だけめり込んだ状態となっていた、朦朧とした意識の中で思わず問いかける。
「いや壁ドンだろ?俺はこの壁ドン得意なんだぜ、何人もこの技で相手をぶちのめしたぜ」
何故か得意げなスパイシードッグさん、俺の想像とちょっと違うが?
もしかして、これが本当の壁ドンなのか?そこはもう神のみぞ知るといったところである
でもよく考えたら神様といってもバルドの爺さんだよな?じゃあもうどうでもいいかそんな事
俺は朦朧とする意識の中で考えることを止めた。
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