俺は息苦しくて甘酸っぱい思い出を語る
信じていたサーラにまで裏切られ絶望の淵へとおいやられてしまった俺はつい悪態を口にした。
「もういいよ、信じていたのに……サーラの裏切り者」
「何でそんな発想になるのですか?信じられないのはこっちですよ全く……
もう一度33話の71行目〈俺がサーラを守ってやらないと〉という一連のくだりを読み返してください」
ついさっきまでのいい雰囲気は何処かに吹き飛び、いつもの通り説教されてしまう俺。何なんだコレは?
「まあ、今更済んでしまったことを言っても始まりませんから、これからの事を考えましょう
どうやったら王女様と仲良くなれるか、皆で考えましょう。今の話からしてシンジさんは
今まで女性とお付き合いしたことは無いのですよね?」
まだ心の傷も癒えていないというのに随分と直球の質問だな
しかもインコースに剛速球を投げやがったぞ、この美少女は。
「まあ、何というか、二次元ならゲーム内で何度も……」
「現実的な話をしているのです、女生徒の交際経験はないのですよね?」
「まあ、今はいない……かな?」
「そういう無意味な見栄はいいですから。
であればこれから王女様の好感度を上げる努力をしていきましょうまずはそこからです」
「好感度を上げるって、どうやって?」
「まずは褒める事です、女の子は褒められると悪い気はしないモノです
見た目だけでなく内面もそれとなく褒めてみるというのはどうでしょうか?」
「でも俺は女の子とあまりしゃべったこともないし
咄嗟にそんな気の利いた言葉が出て来るのか不安なのだが……」
「だから練習するのです。試しに私を褒めてみてください
私では役不足でしょうが練習するのには最適なハードルの低さではないでしょうか?」
自ら俺の練習台になってくれるというサーラ。最適なハードルと言っているが
でも結構可愛いよ君。まあサーラがこう言ってくれているのだし、折角だからやってみるか。
「じゃあやってみるよ……へ~い彼女、きゃわいいね~~
きっと下着も可愛いの着けているのだろうね~~‼」
どうだ?俺的には中々うまく言えた気が……あれ?サーラがゴミを見る目で俺を見ているぞ?
「最低ですね、考えうる限り最低の誉め言葉でした
しかもどうしていきなり下着とか言い出すのですか⁉意味不明すぎますよ‼」
「いや、だってさっきサーラが言ったじゃないか、内面もそれとなく褒めてみるって……
おれはその通りにしてみただけだぜ」
「内面と言ったら、普通は性格的な事を指すでしょうが⁉
服の内側に着ているインナーを褒めてどうするのですか⁉真面目にやってくださいよ‼︎」
俺に対して完全に呆れ気味の視線を向け、苛立ち交じりの口調に変わってしまったサーラ
俺的には結構真面目にやったつもりだったがこれを言うと更に冷たい言葉が返ってきそうなので
ここは話を合わせておこう。
「いや~悪い悪い、何か照れ臭くって少しふざけちゃったよ」
そんな俺の言葉にサーラは大きくため息をついた。
「やっぱりそうでしたか、こんなシュミレーションが恥ずかしい事はわかりますが
こっちもシンジさんの為にやっているんです、真面目にやってもらわないと意味がないですよ」
「悪い悪い、今度はちゃんとやるよ」
何とか誤魔化せたようだ、しかし同じ手は何度も使えない、今度こそは
「じゃあシンジさん、今度こそ女の子が喜ぶことを考えましょう
とはいえ付け焼刃で、普段しないような慣れない事をやってもボロが出てしまいますから
あくまで自分のフィールドで勝負です。何とか相手を自分の土俵に引きずり込むというのはどうでしょう?」
「俺のフィールドに?具体的にはどうするんだ?」
「そうですね……ゲームでもアニメでも女の子が好きなジャンルというのは必ずあるはずです
そこを狙ってみるというのはどうでしょうか?」
なるほど、一理あるな。最近は、昔ほどオタク差別はひどくないっていうし
アリと言えばアリなのかも、しかし女性向けか……
「じゃあ相手はどうしたらいい?」
「相手、何の話ですか?」
「相手だよ相手、カップリングっていうのか?俺的にはラブニルド将軍とかは勘弁して欲しいし
スパイシードッグも好みじゃないというか、どっちかと言えば俺は受けよりも攻めだと思うんだけど
その辺を踏まえて考えると……」
「女性向けってそっちじゃないですよ⁉一般女子に向けての話です
腐っている人たちの事でははありません‼」
またもや俺の信頼度が急落した。もはや政権を維持できない程の内閣支持率である。
「そもそもシンジさんが腐女子の人達と上手く話せるとは思えません
あの方たちは独自の世界観を持っていますから、いくらシンジさんとはいえ話は合わないと思われます
それにシンジさんならどちらかといえばヘタレ受け……
いや何でもないです、あくまで一般女子向けでいきましょう‼」
何だ?妙に詳しいな、まさか?いや有り得ないだろ、俺は頭を切り替えていくことにした。
「一般女子向けって……そう言われてもだな、普通だろうが腐っていようが
俺は女性とオタ話をした事なんか一度も……いや、一度だけあったな⁉」
俺は昔の記憶からある事をふと思い出したのだ
もう完全に記憶の奥底に封印した、あの甘酸っぱくてホロ苦い思い出を。
「へえ~そんな事があったのですか⁉だったら話が早いですね、その時を思い出して会話を進めていきましょう
ところでその時はどういう状況で女の人とオタ話をしたのです
か?」
「え~っと、あの時は秋葉原に買い物に行った時の帰りだったな
駅に向かう途中で後ろから女の子に声を掛けられたんだ」
「へえ~逆ナンという奴ですか⁉意外ですね、まさか相手はオカマだったとか
そういうオチじゃないでしょうね?」
「馬鹿、そんなんじゃねーよ。その子は俺と同い年の可愛い女の子だった
女の子に声を掛けられる事何て今までなかったから俺は戸惑い硬直してしまったのだけれど
彼女は笑顔のまま親し気に話しかけてきてくれた
そのまま近くの喫茶店に入って随分と話し込んだよ
というより俺が一方的に話していたのだけどさ」
「やるじゃないですか、どんな話をしたのですか?」
「俺の好きなアニメやゲームの話をした。彼女が聞きたいっていうからね
俺がまくしたてる様に話している時もずっと笑顔で聞いてくれた〈それで、それで?〉って
楽しかったな……俺は胸が苦しくなって甘酸っぱい思いをした事を今でも覚えている」
昔を思い出すようにしみじみと言葉を紡いでいく俺
そんな俺の話をサーラは嬉しそうに聞いてくれた。
「いいじゃないですか、いいじゃないですか⁉それで彼女とはどうなったのですか?」
「それが、別れは突然やって来たんだ……
そう、ずっと笑顔のまま俺の話を黙って聞いてくれていた彼女が
急に真剣な眼差しで俺に語り掛けてきたんだ」
「何と言ってきたのですか?」
「彼女は笑顔でこう言った〈幸せになる壺があるから買わないか?〉って」
「……」
「あまりに突然の事で困惑していた俺を見て笑顔のまま席を立ち、彼女はいなくなった
それ以来彼女には合っていない。それと入れ替わる様に黒い服を着たゴツイ男たちが数人現れて
俺の積に座り契約書を突き付けてきた〈契約するまで帰さない〉と」
「あの……胸が苦しくなる甘酸っぱい思い出って……今の話がですか?」
「ああ、数人のゴツイ男たちの無言の圧力に呼吸も苦しくなって
酸っぱいものが込み上げてきたからね」
「それ極度のプレッシャーで過呼吸起こしているじゃないですか⁉︎
その込み上げてきた酸っぱいモノって恐らく胃液ですよね⁉」
「彼女は天使の様な笑顔のまま去っていった、いや本物の天使だったのかもしれない
もしかしたら役目を終えて天界に帰ったのかもしれないな……」
「役目を終えて去ったのは間違いないでしょうが
天使というより死神と言いますか魔女と言いますか……
シンジさんはその魔女に生贄にされたという訳ですね?」
「失礼な、俺は魂を売ってなどいない、寧ろ買った方なのだから‼」
「買っちゃったんですね、その壺を……」
俺は力なくコクリと頷いた。
サーラのいたたまれない表情を見て、いたたまれない気持ちになる俺であった。
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