俺が勇者に!?
「メレン・スティアという世界じゃ、ここは何年も魔王軍と人間が戦っている
今回この世界の国から勇者募集の依頼を受け、こちらでも候補を探していたところじゃ
ちなみに募集主はルドラン王国という国の王女じゃ。中々の美人だしこの世界にはドラゴンもデーモンもいる
お主の要望する条件にぴったりじゃ、え~と勇者応募の条件は……
健康で誠実な方、運転免許は不要とあるな、最後にこの国の募集書類には
〈明るい雰囲気で元気がモットー、とても戦いやすい世界です〉とあるぞい」
「ここはハローワークか⁉ていうか勇者って求人みたいに募集するものなの?それに戦いやすい雰囲気って何?」
思わずツッコミを入れずにはいられなかった。どこか俺の想像していたモノと違っている
そんな理想と現実の差を見せつけられ愕然としてしまう、これが社会の洗礼というやつか⁉
「戦いやすい雰囲気というのは大事じゃぞ。
今我々のいる天界でも〈戦い方改革〉というモノが進んでいて
勇者やその仲間の労働時間が問題になっているのじゃ……」
「異世界にも労働時間規制とかあるの⁉︎
パーティーメンバーの残業時間を気にしながら戦うとか意味不明だぞ⁉︎」
妙に生々しい事実を突きつけられ戸惑ってしまう
「他には無いのかよ?美女がいてドラゴンと戦えるような剣と魔法の異世界は?」
俺の問いかけにバルドは厳しい表情で他の資料に目を移す
「う〜む、あるにはあるがお主には少し厳しいぞい」
「厳しいだと?舐めてもらっては困るな、俺がどれだけのファンタジーゲームをこなしてきたと思っているのだ?
どんな凶悪なモンスターや無敵の魔王がいようがむしろ攻略にしがいがあるっていうものだ、どんと来いって感じだぜ
いいから言ってみろよ、その厳しいと言われる理由を‼︎」
「いや、お主に厳しいと言ったのはそういう理由では無いのじゃ
この世界の募集条件として〈大学卒以上、もしくは偏差値45以上の方を募集します〉
とあるのでな。お主確か二浪中だったよな?偏差値はいくつだっけ?」
「……32だが……」
「少々、いやだいぶ足りないの……プッ」
「おいジジイ、今笑ったろ?」
「いや、笑っていないぞい」
「嘘つけ、今思わず吹き出しただろうが⁉︎」
「変な言いがかりはやめてもらおう、神であるワシが嘘などつくわけなかろうが」
いけしゃあしゃあと、このクソジジイ……
それにしてもこんなところまで学歴社会なのかよ、嫌いだお勉強なんて……
「じゃあ最初の世界でいいよ」
俺はすぐさま気持ちを切り替えた。まあ何にしても勇者として戦えるのであれば
どこの世界だろうがそんなものは些細な問題でしかないと思っていたからだ
それが大きな認識違いであることを理解したのは更に後の話である
「じゃあこの世界でOKという事じゃな、先方にはこちらからそう連絡しておく
すぐに魔法陣による異世界召喚であっちの世界に呼ばれるはずだから
お主は履歴書などの必要書類を持参して最終面接に臨むがよい
なあに面接とはいっても、あくまで形式上の事じゃ、まず大丈夫……のはずじゃ」
「何だ、今の微妙な間は?キッチリしているのか、いい加減なのかどっちなんだ?」
俺の素朴な質問に対してバルドからの返事はない
何やら露骨に視線を逸らし知らんふりを決め込む自称最高神
もはやツッコミ所が多すぎて全てにツッコむことを諦めた
考えることが馬鹿馬鹿しくなってきたからだ
今ならジョジョに出てきたカーズの気持ちが理解できる気がした
そして俺にとってはここからが重要な事である。
勇者として異世界に行くのにありのままの何の補助もなしで降臨すれば
あっという間に死亡してしまう事は容易に想像できる
なにせ俺は今まで生きてきた中で格闘技はおろか運動の部活動もしたことがない
そもそもドラゴンやデーモンを相手にありのままの姿で戦える者なんて
俺の知る限り人類最強と言われている武〇壮かア〇と雪の〇王ぐらいである
そういう訳でステータスの向上は必須、チート級にまで引き上げられた能力を元に異世界で無双する
これこそ異世界の醍醐味だからだ
「なあバルドさん、俺の初期設定能力のステータスの件だが……」
「おお、そうじゃったな。で、どんな能力が欲しいのじゃ?」
バルドは中々話が早くて助かった。
理解力に乏しい事はこの際大きな目で見てやる事として本題に入る事にした
しかしここで俺はふと考えたのだ、単にバカ強いだけではあまりに面白みに欠ける
初期設定でステータス能力が全てカンストした状態のまま始めるゲームなど面白くも何ともない
俺は風情もワビもサビもわかる男である、その証拠にヤンキーに絡まれたらすぐにワビを入れるし
寿司のサビ抜きなど考えられない、そんな男だ。だが努力という言葉はあまり好きではない
時間と体力が勿体ないからだ、その辺を踏まえて要求した
「まずHPはカンストで頼む、死んだら元も子もないからな
MPは経験値と共に徐々に上がる方向で
あとストレングスはドラゴンやデーモンと互角に戦えるくらいの設定にしてくれ
その代わりデックスやアジリティは並でもいいよ、経験値と共に上がって行く方向で
あとはインテリジェンスか……これもカンストまではいかなくとも高い設定で頼むわ」
色々な思惑が詰まった完璧な設定、異世界を楽しみつつも英雄として崇められたいという熱い思いが
俺を突き動かし心を揺さぶる、そんな魂の言葉を聞きながら必死でメモを走らせるバルド
「なになに、HPはカンストでMP、アジリティ、デックスは並でいいと
ストレングスはドラゴンやデーモンと互角に戦える設定を……あとインテリジェンスは高く……だったな
このインテリジェンス高めというのはお主の学歴コンプレックスが影響しているのか?」
「余計な詮索はいらねーよ、イチイチ俺を馬鹿にしなければ気が済まないのかアンタは⁉」
その問いかけにバルドは何も反応しなかった、嘘でもいいからせめて否定しろ
「大体わかった、それで他の特殊能力とかは必要か?」
「そうだな……まずは特殊な目が欲しいな、凄く遠くまで見えるとか、箱の中を透視できるとかの……どうだ?」
さりげなく言った俺の提案にバルドはやや難色を示すような態度を見せたのだ
腕組みしながら〈う~ん〉と唸っている
「う~ん、出来なくはないが、あまりに常軌を逸した能力は利用時に色々問題が出るからのう
遠くを見られる〈千里眼〉や物の中身まで見通す〈透視〉は何かと悪用されやすい
特にお主の場合は遠くの女風呂を除くとか、女性の服の中身を見るとかそっち方面で使いそうだからな
倫理的な観点から見ても許可はできないのう」
このジジイ、俺を何だと思ってやがる。そんな目的で使う様な男に見られていたという事が甚だ腹立たしく、憤りを覚える
しかし俺は寛大な男だ、そんな年寄りの言う事を聞き流してやることにした
全く俺って奴はどこまでお人好しなのだか……
ただこのジイさんのいう事も的外れではあるが完全にあり得ないのか?
と問われれば嘘になると思ったので俺は甘んじてそれを受け入れたのだ
それは何か遠くを見る際に、〈たまたま〉女風呂が見えてしまうとか
何かを透視するときに〈偶然〉女性の服の中身が見えてしまうという
不幸な事故はあり得ると感じていたからである、しかもそういう事態はかなり発生するはずだ
重ねて言おう、あくまでたまたま偶然の話である、しかし俺の誠実でさやかな申し出は歪曲された偏見によって却下された
いつの時代も天才の考えに世間が付いてくるのは遅い、この神
を名乗る男も例外ではないようだ
「じゃあ、どんなのだったらいいんだよ?」
「そうじゃな〈アイキャッチ〉という能力がある、それならどうじゃ?」
〈アイキャッチ〉だと?アニメ好きの俺には馴染みの言葉である
しかし話の文脈から考えて、恐らく俺の想像するものとは違うであろう
賢明な俺であればそのぐらいの推理はできた
「その〈アイキャッチ〉という能力はどんなモノなんだ?わかりやすく説明してくれ」
「わかった。〈アイキャッチ〉という能力はいわば限定された瞬間記憶能力とでもいうべきモノじゃ
一度見たモノを一定時間内であれば画像として何度でも見返せるという代物じゃ
ワシにその記憶を転送すればプリントアウトも可能という優れモノじゃぞ⁉」
何やら得意げに語るバルドのジイさんだが、そんな能力、一体いつどんな場面で使うのだろうか?
聡明な俺でも殆ど想像がつかない、あえて言うなら偶然たまたま見えてしまったパンチラの瞬間を
画像としてプリントアウトする……このぐらいの事しか勇者として
有効的な使用法を思いつかない
まあ無いよりはマシなので一応貰っておくことにした。そして俺は話を続ける
「目の方はそれでいいとして、耳はどうなんだ?聴力を大幅に強化したとしても、実害はないだろ?」
「そうじゃな聴力は大幅に強化してやるぞい。ただ常に強化されている訳ではなく
使用する際に発動させる様にしてくれ」
「了解だ、で?その能力の名前と、どうやってそれを発動させるのか?教えてくれ」
「うむ、技の名前は〈デビルイヤー〉じゃ、使用の際は〈デビルイヤーー‼〉と叫ぶだけじゃ、簡単じゃろ⁉」
俺は思わず顔をしかめた
「おいバルドさんよ、その名前は色々無意味でマズくないか?」
「いや全然マズくはないぞ⁉お主は考えすぎじゃ」
この神様大丈夫だろうか?俺を間違えて死なせてしまった事といい
おっちょこちょいでどことなく軽い、まぁこれでも神様なのだしそこは信頼するとしよう
「能力はそのぐらいでいいや、後は伝説の武器とか超レアアイテムとかが欲しいな
聖剣とか魔剣とかの、それこそファンタジーの醍醐味でもあるし」
バルドは軽くため息をついた、何だ?何か俺変な事を言ったか?
「お主は要求が多いのう……確かメレン・スティアには封印された伝説の剣があったはず
炎に囲まれた山の頂上にあってその激しい炎のせいで今まで誰も近づけないとか何とか……」
「いいじゃないの、いいじゃないの⁉それそれ、そういうヤツだよ
う~んようやく冒険ファンタジーって感じがしてきたぜ‼」
湧き上がる高揚感、未知の世界での冒険に胸が膨らむ
「満足してもらえたようじゃな。なら武器はそんなところで良いな?
あと超レアアイテムか……わかった、特別にこれを授けよう」
バルドは懐から何かを取り出すと、それを俺に差し出した
「おい、これって⁉」
バルドが俺に差し出したのは一台のスマホだった
「世界観的には微妙だが、今時っていえば今時か……これをどう使うんだ?」
「これを使えばいつでもワシと連絡がつけられる、そしてこれからの冒険に色々と役に立つアプリもダウンロード済じゃ
ちなみに通話はワシ限定だしもちろんインターネットにも繋がっておらん
しかしこのスマホはただのスマホではない、我らが神界の知恵と技術の結晶じゃ、有難く使うがよい」
どことなく仰々しい態度でスマホを手渡された
まあ神界の知恵と技術の結晶を渡されたのだから有難い事なのだろう
俺は素直に頭を下げ感謝を告げた、ちゃんとお礼を言えたのだ、そう俺はやればできる子なのである
「有り難うバルド、でもそんな貴重な物を俺に預けても大丈夫なのか?上から怒られたりしないのか?」
俺は心配になってバルドに聞いてみた、何せこの神様はうっかり屋さんでとにかく考えが軽い
後で大問題にでもならないか⁉と老婆心ながら心配になったのである
「なあに、ワシもそろそろ機種変しようかと思っていたところだったしな
そのスマホは〈失くした〉と紛失届を提出しておけば問題ないだろうて」
俺の想像をはるかに超えた軽さである、もう心配するのが馬鹿馬鹿しくなってきたので素直に受け取ることにした
「じゃあこれですべての準備は整ったという訳じゃな
それじゃあチャッチャと向こうの世界に送るからソッチに移動してくれ
そこにガムテープでバミリがしてあるじゃろ?
そこに立っていれば速やかに転送できる、後はこちらから先方に対して
〈本日、勇者の発送を完了しました〉とメールすれば完了じゃ」
もう俺はツッコむ事を止めた。目を閉じこれから待つ大冒険に思いを馳せる
その時俺はあることがふと気になりバルドに聞いてみた
「そういえば言葉とかは大丈夫なのか?異世界に行って言葉が通じないのでは意味がないし」
「なあにそれは大丈夫じゃ。そこはホレ、お約束というやつじゃ」
俺の問いかけに対して実にあっさりと答えたバルド
何だよそれは?神の力で言葉を変換するとか、特殊能力で言語を習得できるとか普通そういった設定があるだろ⁉︎
〈お約束〉とか、いい加減も甚だしいぞ⁉︎……まあいい
英語などがちょっぴり苦手な俺は少しホッとした気持ちで異世界へと旅立つ決意を固めた
期待と不安に胸が高鳴り、心のワクワクが止まらない、俺はこの為に生きてきたと心から思えた
「じゃあ行くぞ~い、ポチっとな‼」
俺の足元に巨大な魔法陣が発生する、眩しい程に光り輝くその魔法陣は徐々に俺を包み込み、異世界へと誘う
そう俺は時の旅人となった。時の旅人という言葉がこの場合に合っているかどうかはこの際どうでもよい
ただカッコいいから言ってみたかっただけだ
こうして俺は新たな世界メレン・スティアに旅立った、世界が俺を必要としているのだ
「待っていろ異世界、俺が必ず救ってやるぜ‼」
思わず言葉に出して言ってみた、もちろん理由はカッコいいからだ
そして十秒もしないうちに俺は異世界へと転移された、正確には転送された
今から待ち受ける冒険に心躍らせながら第二の人生のスタートである。
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