俺の中の天使と悪魔
サーラに一方的に言われながらもどうにか体裁を整えようと必死の俺
そんなやり取りをしながら俺たちは城の地下一階に向かう
薄暗く狭い廊下を進んで行きようやく倉庫らしき扉の前に到着した
扉自体は普通の大きさであったが地下の雰囲気にそぐわない豪華できらびやかな装飾が施してあり
厳重そうな鍵がかかっていて、不自然なほど仰々しい。
「ここが地下倉庫でしょうか?」
「どうやらそうみたいだな、じゃあ早速笛を借りていこうか」
「でもこの倉庫の扉、妙に物々しくないですか?鍵もかかっていますし」
「う~ん、でもバローさんが〈勝手に持っていけ〉と言っていたし、いいんじゃね?
学校の体育倉庫だって鍵ぐらいかかっているし普通だろ、そういえばサーラ、お前、鍵開けは得意だったよな?」
「まあそうですが……まさか王宮のお城でやる事になるとは思っていませんでしたよ」
「じゃあ、ちゃっちゃと頼むわ」
「何か引っかかる言い方ですが、わかりました……アレ?この鍵、思ったより凄く厳重ですよ
この鍵には魔法処理もされているようですし、どうやら高級鍵職人の手による物の様です」
高級鍵職人って何だ?そんな職業あるの?ていうか食っていけるのその職業?
「お前でも開けられないのか?」
「いえサムターン回しでいけます。初めてこの技が役に立つことができました」
まあそうだろうな、まさか本当にこの世界でサムターン回しが役に立つことがあるとは……
ガチャリという音と共に扉が開く音がした、物々しい扉を開け中をのぞくと
薄暗い倉庫内は視界も悪くどうなっているのかサッパリわからない。
「真っ暗ですねぇ、これじゃあ笛がどこにあるのかわかりませんよ」
「そうだな、でもこうしていてもしょうがないし、とりあえず中に入ってみようぜ」
恐る恐るゆっくりと倉庫内に入る俺達
すると俺たちに反応する様に中のランプが突然点灯し室内を明るく照らし始めた。
「おお~中々便利な仕組みになっているな、自動照明とか、魔法の仕掛けかな?」
「でもシンジさん、ただの倉庫にこんな仰々しい仕掛けをしますか?鍵も妙に高級でしたし、何かおかしいですよ⁉」
確かにその通りだ、俺達は改めて周りをよく見てみると
そこにはきらびやかな宝石や高級そうな道具
そして豪華な剣や防具と言った装備がきれいに並べられていたのだ。
「もしかしてここは宝物庫じゃないですか?」
確かに漫画やゲームで見たことのある様な光景である
さまざまな宝石や金銀で装飾された高級そうな物がズラリと並んでいた
だとすると俺とサーラは宝物庫に鍵を開けて入り込んだことになる、この状況は……
俺達、宝物庫に侵入した不審者って奴になるんじゃね?
俺は一瞬パニックをおこし思考回路が停止する。
いやフリーズしている場合じゃない、こんなところを見られたらどんな誤解をされるか分かったものじゃないぞ⁉
「お、お、お、落ち着けサーラ、れ、れ、冷静に行動するんだ、俺達は窃盗犯じゃない
何もしていないんだ、幸い目撃者もいなかったし、俺たちがここに侵入したという証拠もない
ここは一旦落ち着いて、俺達がここに来た痕跡を隠滅し
何を聞かれてもシラを切り通すのだぞ、いいな‼」
「シンジさんこそ落ち着いてください、使っているワードが
〈痕跡を隠滅〉とか〈シラを切り通す〉とか〈目撃者はいない〉とか
完全に犯人目線じゃないですか⁉」
「馬鹿、今そんな事を言っている場合か⁉さっさとズラかるぞ
サーラは廊下の先にも人がいないか見てきてくれ
この地下倉庫までは一本道だからな、誰かに出くわしたら逃
げられん
〈逃走ルート〉の確保が第一優先事項だ‼」
「色々ツッコみたいところが満載ですが、今はいいでしょう
私が様子を見てきますから待っていてください」
サーラは倉庫を飛び出し廊下を走っていく音が聞こえる、どうやら人はいない様だ。
「ふう、参ったぜ、こんな事で犯人扱いされちゃ堪らんからな」
俺はようやく胸を撫で下ろした。その安堵からか少し気が緩み奥の棚の何かに腕が接触した
ほんの少し触れただけなのだがその棚の上の物は床へと落下し〈パリン〉という音と共に破損したのだ。
「あっ⁉……」
俺は慌てて床へと視線を移す。するとそこには棚から落下し真っ二つに破損した置物が転がっていた
俺の立場が〈犯人扱い〉から〈真犯人〉へと見事に昇格した瞬間である。
「やべ~よ、やっちゃった……」
俺はその破損した置物を手に取りマジマジと眺めてみる
それは10cm位のこけしの様な物体で妙に不気味な顔が付いていてどうやら置物の様である
その顔と胴体部分が真っ二つに割れたのだ。
俺は咄嗟にその置物を棚に戻しそっと頭の部分を乗せると、何とかそのまま固定できた。
「よし、これで誤魔化せるな。しかし見た所、他の物に比べて明らかに変な置物だし
大した物ではないのだろう、多分……」
するとそこにサーラが帰ってきた、キョロキョロと周りを確認しながら警戒している様子だ
そんなサーラを俺は何食わぬ顔で出迎えた。
「シンジさん、今なら誰もいないようです。早くここから立ち去りましょう‼」
「えっ⁉ああ、そうだったな……誰もいないのかぁ~そりゃあ良かった、なら行くか~」
俺のあくまで自然体の受け答えに、なぜか苛立つサーラ。
「何ですかその態度は、そんなのんきな事を言っている場合ではないでしょう、さあ……」
やや慌てた態度で俺の右腕を引っ張るサーラ、その際に体が僅かに棚に触れた
その衝撃で俺が棚に戻した謎の置物の頭部だけが床に落下したのである。
「えっ⁉」
突然の出来事に驚きを隠せず固まってしまうサーラ。
棚から落下した置物の顔の部分は床に転がり、胴体と顔の部分が分離してしまっていた
さっき見た光景だから俺は驚かなかったのだが、自分がやったと思い込んだサーラは絶望的な表情を浮かべた
すると見る見るうちに顔面蒼白になり、ガタガタと震えだした。
「私……私とんでもない事を……どうしよう……」
「いやサーラ、その置物はさっき俺が……」
その瞬間である、俺の中の悪魔が囁いた。
『おいシンジ、このまま黙っていた方がいいんじゃないのか?サーラがやったことにして
その事を黙っていてやると言うんだ。秘密の共有というのは心理的な距離を埋めるには絶好だし
サーラもお前に感謝するだろう、いつも小うるさいこの美少女がお前の言いなりになるかもしれないのだぞ⁉
悪くない話だろケ~ケッケ~』
すると次の瞬間、俺の中の天使が囁く
『いけませんシンジ、その様な脅迫じみた方法で言う事を聞かせるのは絶対にダメです
愛です、愛を持って黙っていてやるというのです
そうすればサーラも貴方に感謝し心触れ合える様な仲へと変わるでしょう
それによってサーラのお小言も減り貴方の理想の女性へと生まれ
変われるかもしれません
愛です、全ては愛の成せる業なのです』
そうか、全ては愛の……いやちょっと待て。お前ら言い方が違うだけで同じようなこと言っているぞ⁉
俺の心の中は天使までゲスいな、完全に堕天しているじゃねーか⁉
まあ天使と悪魔の意見が一致した珍しい症例としていつか論文にすることにして
ここは俺がやったという事はあえて黙ったまま、優しく接してやるか。悪く思うなよサーラ……ケ~ケッケ
そして俺はそっとサーラの肩に手を乗せた。
「心配いらないサーラ、誰も見ていない。黙っていればわからないさ」
「でも……でもシンジさん、私、私は……」
サーラは涙目で震えている。その姿を見た時、若干ではない後ろめたさが俺の心を襲い
自分の取った行動を激しく後悔したが、逆にもう言い出せなくなっていた。
「大丈夫、大丈夫だ」
俺はそんな言葉しか出てこなかった。
何が大丈夫なのか全然意味不明なのだがそれしか言葉が思いつかなかったのだ
そんな俺の言葉にサーラは大粒の涙を流す。
「シンジさん、私、私はとんでもない事を……わああ~~~」
サーラは俺に抱き着き堰を切ったように泣き出した
しっかりしている様でやはりまだ子供である、そんなサーラの姿を見て激しく自己嫌悪に陥る俺
こんな状態でも美少女に抱き着かれているという事に少し心が高揚している事が自己嫌悪に拍車をかけた。
『ケ~ケッケ いいじゃねーか、いいじゃねーか これでサーラはお前の言いなりだ‼』
『愛です、優しく抱きしめ、サーラのぬくもりを感じなさい、全ては愛なのです‼』
もうどっか行けよお前ら……本当にどうしようもないな俺。
泣き崩れるサーラをおぶって地下倉庫を出る俺達、幸い誰にも見つからず無事に脱出に成功した
しかし未だに泣き止まないサーラに慰めの言葉をかける。
「サーラ、いつまで泣いているんだ、大丈夫だバレっこない
大体あんな不気味で気持ち悪い人形、価値があるわけないだろう
心配するな、いざとなったら俺が庇ってやる」
「すみませんシンジさん、私、勇者の仲間なのに……かえってこんなご迷惑を……本当にすみません」
まだ涙が止まらない少女に俺は心の中でこんな言葉をかけた。
〈いやこちらこそ、こんな勇者で本当にスミマセン〉
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