俺とオームくん
王女が最後に紹介してくれたのはカゴに入った鳥だった
黄色い体に緑色の羽、七色のトサカが特徴的なオウムに似た鳥である。
「最後にこの子を紹介しましょうか。この子はクドカン鳥と言いまして人間の言葉を理解して喋るのですよ
珍しいでしょう?名前をオーム君と言います」
へえ~、喋る鳥か、俺たちの世界でいうと九官鳥かオウムみたいなモノか……
〈オームくん〉とは、九官鳥なのかオウムなのか紛らわしい名前だが、初めてマトモな名前だな、少しホッとしたぜ。
「シンジさん、鳥が喋るらしいですよ。信じられますか⁉鳥ですよ、鳥‼」
俺とは対照的に終始、興奮気味のサーラ。よほど驚いたのだろう
いつも俺に厳しめのツッコミを入れてくるクールな美少女とは別人のようである。
「ああ、俺たちの住んでいた世界にも喋る鳥はいたぜ
短い言葉を覚えて反復するだけだけどな、昔友達の家で見た事もあるぜ」
サーラに対して初めてマウントを取れる話題だけに俺は得意げな上から目線で語ってみた
だがこの話は半分本当で半分嘘である。昔小学四年生のころ、クラスの女子にマユミちゃんという子がいて
その子がオウムを飼っていると聞いて〈クラスのみんなで見に行こうという〉話になったので当然俺も付いていくことにした
〈えっ、松岡君も来るの?……え~っと……うん、まあ……別にいいけど……〉
はにかみながらそう言って快く招待してくれた優しいマユミちゃん。勿論俺はオウムなどに興味はなかった
〈マユミちゃんの部屋を見てみたい〉ただそれだけの理由だった
だからオウムや九官鳥というモノも、知識として知ってはいるが見たことは無い
勿論マユミちゃんの家でも鳥など見る気も起きなかったからである。
だが俺はここである重大な事に気が付いたのだ。この鳥がオウムや九官鳥と同じような特性を持っているのであれば
普段王女が何を喋っているのか、その鳥に問い掛ければ聞くことができるではないか⁉
俺は高鳴る気持ちを抑えつつあくまで冷静を装い、さりげなく問いかける
「王女様、このオーム君と喋ってみたいのですが、よろしいですか?」
「えっ⁉別にかまいませんが……この子に興味がおありですか?」
「ええ、私は動物大好きですから。それに普段、王女様とこのオーム君が
どんな会話をしているのか、少々興味がありまして」
「まあ、乙女の秘密を探ろうなんて、あまりいい趣味とは言えませんわね、勇者様」
少しだけ恥ずかしそうに、しかし気品ある笑顔で受け答えしてくれる王女様
いいねえ実にいい、これで一気に俺と王女の距離が縮まるのではないだろうか⁉
そして俺はクドカン鳥のオーム君に話しかける事にした
もしかしたらコイツが恋のキューピットならぬ、幸せの黄色い鳥となるかもしれない
もしもこのオームくんが〈シンジ様、カッコイイ、スキーー‼︎〉
とか言い出したら王女様はどんなリアクションを取るのだろうか?
顔を真っ赤にして恥ずかしそうに視線を逸らす王女、そこに優しく寄り添う俺
想像しただけでにやけてしまう。イイぞ、最高だ‼︎
本来なら鳥なんか食い物としてしか見ていなかったが、この際そんな事はどうでもいい。
するとサーラが横から口を挟んできた、目を輝かせ好奇心が止まらないといった感じだ。
「シンジさん、私も、私もオーム君と喋ってみたいです、お願いしますよ‼」
ヤレヤレしょうがないな、まあここでガツガツして俺の本音がバレても困る
ここはサーラを挟むことで印象を和らげるとするか。
「じゃあ先に喋っていいぜ、いいですよね王女様?」
「ええ勿論、ではサーラさん、最初は〈こんにちは〉から初めてみてください」
「わかりました、ではいきます……」
サーラが妙に緊張しているのが少し意外でどこか微笑ましい
俺に対しては普段あれ程脱力しながら遠慮なく説教してくる癖に、やっぱりまだまだ子供だな
「オーム君、こんにちは」
「コンニチワ、コンニチワーー」
オーム君の返事に目を丸くして驚くサーラ。
「喋った、本当に喋りましたよシンジさん‼凄いです、賢いんですねオーム君‼」
すると王女が嬉しそうに頷いた。
「ええ、この子は本当に賢いのですよ、もっと話しかけてやってください」
「はい、王女様‼オーム君、オーム君」
「オームクン、オームクン」
興奮気味にはしゃいでいるサーラとそれを暖かい目で見ている王女。
いい風景だ、でも鳥って奴はどうにも好きになれない、今回で更にそれを再認識した
なぜなら名前と挨拶を言えただけで美女二人にこれ程褒めてもらえるのだ、俺ならもっと色々な事が言える
そう、お前程度が賢いのであれば俺は既に天才の領域に達している、東大にだって入れるだろう
たかが挨拶ができただけで美女二人にチヤホヤされやがって、人類の英知をナメるな‼
おれは鳥類に対して高らかに勝利宣言をすると、心の中で勝ち誇った。その直後虚しさが全身を襲った。
「オーム君凄いですよ、シンジさんも話しかけてみてくださいよ‼」
サーラが嬉しそうに俺に振ってきた。ようやくここで真打ち登場である
チラリと横に視線を移すと、王女様がニコやかにこちらを見つめている。
よし、この生意気な鳥を利用して一気に王女様との距離を詰めるぞ
ついでに王女様が普段どんなことを言っているのかも探ってやるぜ‼
「こんにちはオーム君、俺は松岡真二よろしくね」
すると俺の名前に反応したのか、急に激しく暴れけたたましく叫び始めるオーム君。
「キモーイ キモーイ 私ヲ イヤラシイ目デ 見テクルーー イヤラシイーー」
何だ、この反応は……王女様は普段こんな事を言っているのか?
いやらしい目で見てくるって、俺の事?もしかして俺の事なのか⁉
俺は確かめる様に王女様の方に振り向いた。
すると先程までにニコやかに微笑んでいた王女様が、〈首がおかしくなるのでは⁉〉という程
不自然な角度で顔を背けていたのだ。
王女の顔と首筋から滝の様な汗が噴き出している、なんだろう急に暑くなったのかな?
しかし俺は確かめずにはいられなかった。
経緯と動機はどうあれ、俺は命を懸けてこの世界を救いに来たんだ
もしそれが俺の事を言っているのであればいくら何でもこの仕打ちは無いだろう。
「王女様……このオーム君の言葉は、まさか王女様が普段俺の事を……」
俺が事の真相を確かめようとしたその瞬間、王女は突然厳しい表情で一人の老人を指さし、大声で言い放った
「ロネオラ、貴方がいつも私の事をいやらしい目で見ていたことは知っていましたよ
この恥知らずの無礼者‼」
王女が指さしたのは、俺の後ろにいた宮廷占術師の老人ロネオラだった。
「ええーーーーワシ、ワシですか⁉そんなはずないでしょう
ワシは先代から王家に仕えていて、王女が赤子のころから知っているのですよ
いわばワシにとって王女は孫の様な存在、いやらしい目で見る事などあるはずが……」
驚きの表情を浮かべ必死で弁明するロネオラだが、その言葉を遮るように王女は再び声を荒げながら叫んだ。
「おだまりなさい‼︎貴方の功績に免じて今回は許しますが、今後そのような事があれば許しませんよ‼」
突然身に覚えのない罪状で吊るし上げられ叱咤されるロネオラ
激しく動揺し驚きを隠せない様子である。
何だろうこの茶番は……いや、そんな事はない
王女様がそう言っているのだ、あのロネオラという老人は本当にセクハラ野郎だったのだろう
全く男の風上にも置けない奴だ……
ふと横を見ると、俺の隣でサーラが肩を震わせ何か必死で耐えていた、どうやら笑いを堪えているようである。
しばらくして少し落ち着いたのか、サーラが冷静な口調で俺に話しかけてきた
「シンジさん。貴方のせいで何の罪もない老人が濡れ衣を着せられ
冤罪によって辱めを受けていますよ、悪いとは思わないのですか?」
俺が悪いのコレ?どうして?だってあの老人が王女にセクハラしていたんだよ⁉
すると王女がやや笑顔を引きつらせながら俺達に近づいて来た。
「申し訳ありません勇者様。不要な誤解を与えてしまったようで
あのロネオラには本当に困っていたのです。もうこの子たちはお眠の時間なので引き上げますね」
家臣に命じて動物たちを引き上げさせようとする王女様
これ以上ここに置いておくと何を言い出すかヒヤヒヤものなので
ヤバいからさっさと引き上げさせようとしている……などという邪推は考えすぎなのだろう
美女の言う事は常に正しいのだ。アレ?でもまだ真っ昼間だというのにお眠の時間って……
猫やワニはともかく、鳥って夜行性だったっけ?
動物たちが連れて行かれそうになり、残念そうな表情を浮かべるサーラ
「もっとオームくんと喋りたかったのですが……残念ですね、シンジさん」
するとサーラの発した〈シンジ〉という言葉に反応したのか、再びけたたましく叫び始めるオーム君
「シンジ イヤラシイーー イヤラシイ目デ見テクルー
デモ 魔王ヲ倒シテクレルマデノ我慢ーー 我慢ーーー‼」
その瞬間、王女の顔面が蒼白になり、こちらの様子をうかがうかのようにチラリと俺の方を見てきた
「ついに出ましたね、〈魔王を倒してくれるまでの我慢〉という決定的なワードが」
込み上げる笑いを必死で耐えながら俺にそう告げるサーラ
「あ、あの……違うんです勇者様、これはその……」
何とか必死で取り繕おうとする王女だったが、あまりに急な事で言葉が出てこないようだ。
「やっぱり、アレは俺の事で……」
絶望感で一杯の俺の頬に涙が一滴こぼれ落ちる、横で笑いをこらえながら
うずくまっているサーラとはあまりに対照的だ
その時である、王女は再びロネオラの方を指さし叫んだ。
「ロネオラ‼貴方が魔王を倒すまで先程のセクハラは我慢してあげます
だからさっさと魔王討伐に向かいなさい、今すぐにです‼」
再びご指名のロネオラ老人、先程より更に驚いた様子で両目を大きく見開いたまま仰天していた。
「えええええ~~‼ワシが魔王を倒すのですか⁉
自慢じゃないですがワシは生まれてこのかた、剣も魔法も使ったことがありませんぞ、何かの間違いで……」
「おだまりなさい、さっさと魔王討伐に向かいなさい、今すぐにです‼」
周りの兵達に囲まれるロネオラ。必死の抵抗虚しく、身に着けていた白いローブをはぎ取られ
ブリーフ一丁の格好になると、騎士の鎧と魔法の杖を無理やり装備させられ、兵達に担がれる様に部屋を出て行った。
「待ってくだされ王女~~ワシはワシは~~~~……」
廊下から聞こえてくる声が段々と離れていく、呆然と立ちすくむ俺に王女が再び話しかけてきた。
「お騒がせしました。ロネオラには本当に困ったものです」
その屈託のない王女の笑顔と言葉は俺を信じさせるのに十分であった。
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