俺は新たに決意した
魔王軍幹部を名乗るスパイシードックは終始厳しい表情を浮かべているが
その素振りとは裏腹に尻尾を嬉しそうにパタパタと振っていたのだ。
ダメだ、こいつもとんだ変態野郎の様だ……この世界にはこんな奴しかいないのか?
「ダメですね、やはり魔王軍の司令官だけあって簡単に口を割りそうにはないですね」
サーラがため息交じりにそう呟いた。でもそんな事ないと思うよ
もうスパイシードッグさんは陥落寸前、話したくて仕方がないみたいですよ。
「どうした、やらないのか?その鞭で俺を叩いてみろと言っているんだ、思い切りぶて‼」
サーラに向かってまるで挑発するかのような発言を繰り返す。
欲しがっていますねスパイシードッグさん、ここは躾としてお預けを覚えてもらいましょうか。
そこに一人の老人が現れた。先程俺の事をずっと無言で見つめ続けていた謎のボケ老人である
その老人は足早にスパイシードッグに近づくと、顔をグッと近づけ再び無言で見つめたのだ。
「おい、何だこのジジイは?俺に何か言いたい事でもあるのか?あるのなら言ってみろ⁉
何で黙っているんだ?おい何とか言え、何なんだこのジジイは、離れろ‼」
それからその老人は無言のまま十分ほど見つめ続けた結果、敵司令官スパイシードッグは全てを白状したのだ
何を言っても微動だにせずジッと自分を見つめ続けるだけの老人の謎の圧力に屈したのである
全てを自白したスパイシードッグはグッタリと憔悴しきっており、敵ながら同情を禁じ得ない。そこに先程の老女が現れた。
「あれまお爺さん、またこんな所に⁉すみませんねえ、さぁさっさと帰りますよお爺さん」
老女に手を引かれてそそくさと帰っていく謎のジジイ。俺は思わず村長に問いかけた。
「一体何なのですかあの老人は?」
「あの人は松ちゃんと呼ばれているこの村で最年長のお方ですじゃ、無口で不愛想ですが
中身はいい人なのです。ただ最近はややボケが進んでしまっていて……
去年親友の梅ちゃんが亡くなったことがショックの様で、それが原因ですかの」
「そうなのですか親友が……もしかして梅ちゃんという友人の方は魔族のせいで亡くなったのですか?
それならば魔族の司令官に敵意を示す気持ちもわかります」
「いや、梅ちゃんは病気で亡くなったのです。長年梅毒にかかっていて去年亡くなりました
そんなわけで皆から梅毒の梅ちゃんと呼ばれていたのですじゃ」
なんという酷いネーミング。愛称にしてもどういう神経なんだ、この人達は。
「じゃあ先程の松ちゃんと呼ばれている老人も何かのニックネームなのですか?」
「いえ、あの方は松平元網という名前の人なので松ちゃんですじゃ」
それどこの徳川将軍ですか?もう深く考えるのは止そう
俺がそう決意を固くした時、グッタリとしていたスパイシードッグが涙目で俺の方を見て懇願してきたのだ。
「なあ勇者さんと村長さんよ、魔王軍の秘密を喋ってしまった以上、俺はもう魔王軍には帰れない
だから頼む、俺とこの魔犬達をここで雇ってくれないか?村の用心棒として役に立つと思う
俺たちにできる事ならば何でもするし、村長さんの意見には逆らわず絶対服従を誓う
同じ〈こくらゆい〉のファンとして俺も一緒に応援する。だから頼む、俺とコイツらを助けてくれ‼」
先程までの態度と一変し、頭を下げて頼み込んでくるスパイシードッグ
魔犬達もそれにつられるように一緒に頭を下げている
ついさっきまで命がけで戦っていた相手だが、こうなるとやや同情心が湧いてきてしまう。
「なあ村長さん、俺からも頼むよ。今まで色々あっただろうから
コイツ等を心情的に受け入れ難いって事は百も承知だが、そこを何とかお願いします」
俺も一緒に頭を下げた。どこにも居場所がないという言葉が引っかかったのだろうか?
スパイシードッグと魔犬達をこのまま見捨てることができなかった。
しかし村長の反応はあまりいいものではなかった、プイっと視線を逸らし険しい表情を見せる
まあそれも無理からぬ事だろう。コイツ等は今まで村に散々被害を出し苦しめてきた張本人なのだ
しばらく無言のまま黙っていた村長だったが意を決したかのように口を開いた。
「魔族にこくらゆいの何がわかるというのじゃ⁉」
そこ?引っ掛かっているところそこなの⁉俺は思わず言葉を失う。
「何だとジジイ、俺のこくらゆい愛は半端じゃねえ、ふざけた事抜かすとブチ殺すぞ‼」
君、今ぶち殺すって言った?ついさっき、逆らわずに絶対服従を誓ったばかりだよね?
「ふん、まあいいじゃろう、合格じゃ」
村長はニヤリと笑いスパイシードッグの仲間入りを認めた、え~っと今のどこに合格要素があったの?
できれば教えてください。俺が大学受験に失敗した原因は別にあったのではないか?
と思えるほどの茶番劇を目の前で見せつけられた。
しかし何やかんやあったが無事に村を守り抜いた俺は英雄への第一歩を見事に踏み出すことに成功したのだ。
その夜、祝勝会とスパイシードッグ達の歓迎の宴が催され、村長に招かれた俺とサーラはそこに参加することになった
皆酒が進み陽気な笑い声が所々で聞こえてくる、俺はどことなくいい気分に浸りながら一人ニヒルを決め込んでいた。
「おや?あまり酒が進んでいませんな、勇者様」
俺に話しかけてきたのは村長であった、酒臭い息とやや赤くなっている顔が酔っている事を証明している。
「俺、酒は飲めないんですよ」
俺はそう言って丁重に断る、先日二十歳になったので試しに酒を飲んではみたのだが全く体に合わなかった
こんな物のどこが美味いのだろうか?気分が悪くなるだけでちっとも美味くなかった
こんな物を吐くまで飲む奴らの気が知れない。あくまで俺の意見であり感想であるから異論反論は一切認めない
「何だ何だ、全然飲んでいないじゃないか、祝勝会だぞ、お前が飲まなくてどうする⁉」
酒の入った容器を片手に馴れ馴れしく肩を組んできたのはスパイシードッグだ
どうやら随分と出来上がっている様子で上機嫌のまま酒をがぶがぶと飲んでいた
ただお前が祝勝会を楽しむのはどこか間違っていないか?
俺がそんな事を考えていた時、横にいるサーラが食べ物を持ってきてくれた。
「今日はお疲れさまでした。ここの料理はおいしいですよ」
そう言って料理の乗った皿を俺に差し出してくれたのだ。いいね、実にいい
将来この子はいいお嫁さんになるだろう、幾多のギャルゲーを制覇してきた俺が太鼓判を押すぜ
そういえば太鼓判って何だろう?三文判ってのもあるし、単に太鼓が三文より高いからという意味なのかな?
三文芝居という言葉もあるし、三文って価値のない事の代名詞みたいな使われ方の様だ
今のレートで言うと百円くらいなのかな?早起きは三文の得って言葉もあるけれど
百円の為に早起きするぐらいなら徹夜でゲームしている俺は時間の使い方を知り尽くし
物の価値がわかっている人間という事の証明でもある。昔の人はいいこと言うなあ。
「シンジさん、あまり楽しそうではないですね。何か気に入らない事でもあるのですか?」
「いや、そんなは事ないよ。ただ大勢の人間で楽しむって事が苦手でね
どうしても一歩引いてしまうんだ、別に楽しくないわけじゃないよ」
「そうですか、ならいいのですが……でも意外ですね、シンジさんは口も上手いし博学ですから
こういった集まりやお祝い事などが得意なのかと思っていましたよ」
まあ悪い方へのイメージではなかった様だが、俺ってそんな風に思われていたんだな。
俺はそこから自分の身の上話を始めた、こんな事を他人に話すのは初めての経験だったが
誰かに聞いて欲しいという気持ちは何処かにあったのだろう
俺は今まで生きてきてあったことや思ったことを着色や変更することなく、ありのままに話した。
「そうですか、シンジさんのお兄さんはそんなに優秀だったのですか」
「ああ、成績優秀、スポーツ万能、人望もあって、責任感が強くて仲間思い、おまけに美人の彼女と結婚するって話だ……
それに比べて俺は勉強はできないしスポーツもダメ
友達もいないからずっと家に引きこもって好きなアニメやゲーム三昧の生活
そんな奴に彼女なんかできる訳ないだろ……」
俺の話を聞いたサーラは申し訳なさそうな表情を浮かべ言葉を選んでいる様だった。
「あの、何と言っていいかわかりませんが、シンジさんにもきっといい人が現れますよ」
出たよ、何の根拠もない〈いい人出現予告〉、そんないい人が現れるならばどこにいるのか教えて欲しいぜ
ダンジョンの最下層にいるのか?それとも朝の曲がり角を何度も走り抜ければ出会えるのか?
単なる気やすめならば言わないで欲しいぜ……いや、そんな事をサーラに当たっても仕方がない事か
よし、ここは気持ちを切り替えていくぞ。これからの俺はポジティブシンキングだ‼
「まあ俺の人生はここからなんだ。この世界に来て俺は変わる、この世界は俺を待っていたのだ
今話した事はいうなれば俺の【エピソードゼロ】となる内容だと思ってくれ
見ていろ世界、語り継げ国民、そして刻むぞ歴史、見届けろ俺の伝説の始まりを‼」
決まった。練習していた通りに噛まずに言えたぞ、サーラはさぞかし俺を羨望の眼差しで……アレ?
俺の想像とは裏腹にサーラは呆れ顔を浮かべながらジト目で俺を見つめていた。
「シンジさん、もう少し現実を見つめましょう。そもそもその中二臭い言い回しが嫌われるのじゃないでしょうか?
先程の話を【エピソードゼロ】とか言っている時点でもう……
どう聞いても【黒歴史】ですよね?彼女が欲しいのであればそういう努力をしましょう
私も微力ながら協力しますから」
う~ん、こんな年下の女の子に正論で諭される俺って……
いや認めない、俺は間違っていない、そう俺には確固たる信念がある、世間の常識など知った事か‼
「べ、別に彼女なんか全然欲しくないしぃ~、だって俺には二次元の彼女が三人もいるからな
それに三か月ごとの毎クールに現れる新たな彼女候補への対応で
三次元の女にかまっている暇なんか全く無いしぃ~」
その時、俺を見つめるサーラの目がまるでゴミを見るような目だったことは
俺にとって一生消えないトラウマである。
「もっと現実的な話をしましょう。このままだとシンジさんには一生彼女ができませんよ
それでもいいのですか?」
何だかわからないが俺物凄くカッコ悪い。いや認めない、絶対に認めないぞ‼
ここで屈服してしまったら俺はこの美少女にダメな奴というレッテルを張られてしまう
「前に母親にも同じような事を言われたが、俺は現実逃避などしていない
本当に俺の彼女は居るんだ、二次元だけどな。俺は親にもそう言い切った、この心に嘘偽りはない‼」
俺は己の信念と決意の表れを言葉として示した、その事に一片の悔いはない。
「で、親御さんはシンジさんのその言葉を聞いてどうおっしゃったのですか?」
「……そんな彼女がいるなら一度連れて来いと……」
「……いたたまれませんね、もちろん親御さんの気持ちに立っての事ですが」
俺の目からなぜか水分がこぼれ落ちた。とめどなく流れ出る水分、何だろうこれは?
俺とサーラはしばらく黙ったまま会話を交わすこともなく、どことなく気まずい雰囲気を感じていた
恋人との疑似体験を期待していた俺だったのだが
まさか倦怠期の夫婦の様な疑似体験を先にすることになるとは思わなかったのである。
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