司令官スパイシードック
「クソっ、ただの音楽アプリに乗せられてその気になっていたなんて
我ながら恥ずかしいぜ。じゃあもういい、音楽を消してくれ‼」
〈何を言う、お主が恥ずかしい男という事は認めるがこの後の曲がいいんじゃ
二曲目のこくらゆいちゃんと、五曲目のいなせみのりちゃん
そして七曲目のかみさかすみれちゃんとかお勧めじゃぞ‼〉
「キ〇グレコ〇ドの回し者ですかアンタは⁉」
思わず突っ込まずにはいられなかった。
もうこのジジイは相手にするだけ無駄だ。なにせ今俺は戦いの真っ最中なのである。
とはいえ、このワーグナーの曲は確かに気分か高揚しテンションが上がる
俺も音楽に乗せられる形で次々と魔犬達を斬り倒していった。
そういえば音楽が運動に与える影響は大きいと聞いたことがあるし
単なる音楽アプリでも馬鹿にできないのかもしれないな。
壮大なBGMをバックに剣を振り続ける俺はこの異国の地で孤高のエトランゼとなった
この言葉が適切かどうかはこの際問題ではない、もちろん一度使ってみたかったからである。
波のように次々と押し寄せる魔犬達を華麗に斬り伏せていく俺
力なき村人の為、いや世界の人々の為に華々しく魔獣と戦う俺
王女やサーラの熱い期待を一身に浴び颯爽と活躍する俺、そう俺は……
もうカッコいいフレーズが思いつかないな、この時の為にもっと考えておけばよかった。
そんな事を考えながら次々と魔犬を倒していくと〈ジャーーーーン〉という音と共に一曲目のワーグナーの曲が終わった
さっきバルドの爺さんには散々文句を言ったが戦闘中のBGMとしては悪くない
まるでゲームの主人公になったような気分になったからだ。でもまてよ、そういえば二曲目って……
〈あなたとベイリースイート、ベイビーラブ ホントノオモイだけ~♫……〉
先程のワーグナーの曲とは打って変わって、可愛い声による甘いラブソングが鳴り響く
げげっ、そういえば二曲目ってこくらゆいって言っていたな、だけど何でこの選曲?
戦いに向いている曲ならもっとあっただろ〈フューチャーストレート〉とか⁉
俺のそんな気持ちなどお構いなしに曲が流れ、魔犬達も心なしか動揺している様である
俺は気を取り直して剣を構えるが先程と違ってどうにも気が乗らない、明らかに選曲ミスだろコレ?
俺は再び襲い掛かってくる魔犬達を退けていくが本来凄惨であるはずの戦闘と
バックで流れる甘いラブソングの違和感がどうにも気になってしまうのだ。
「戦いにくいわコレ、どうにかしてくれバルドさんよ‼」
〈お主は気に入らないのか?最高の曲じゃろ〉
「いい曲とか悪い曲とかを言っているんじゃない
この甘い歌声のラブソングが流れてくると戦闘意欲がわいてこないんだよ‼」
〈それじゃよ〉
「どれだよ?」
〈そこが狙いなのじゃ、敵の戦闘意欲を消失させ戦いを有利に導くという効果があるのじゃ
ワシがそのあたりを何も考えておらんと思っておったのか?〉
なるほど、敵に対して戦闘意欲を低下させるというデバフの効果があるという事か。
確かにさっきに比べ魔犬共の動きが鈍い、それなりの効果はあるみたいだが
俺にもデバフの効果が出てしまうんじゃプラスマイナスゼロじゃねーの?
俺がそんなことを考えていた、その時である。突然魔犬達がピタリと動きを止めた。
何だ、何があったんだ⁉
あれ程統率の取れた波状攻撃を仕掛けて来ていた魔犬達の動きが突然止まったのである
俺は更に警戒心を強め聖剣を構える、すると俺の目の前に信じられない光景が繰り広げられたのだ
何と先程まで俺に襲い掛かってきていた獰猛な魔犬達が曲に合わせて突然踊り始めたのだ。
何が何だかわからない俺は唖然としてその光景を見つめる
気が付くと後ろで見ていた村の人間や王宮から来た兵達も歌に合わせて踊り始めていたのである。
何だこれ?イミガワカラナインデスケド……
そんな俺の思いなどお構いなしに曲に合わせて踊り狂う魔犬と村人、兵士達、皆が一緒に踊っているのだ
メンディ村長などはどこから持ち出したのか両手にサイリウムを握り一心不乱にそれを振っている
その光景はまるで出来の悪いインド映画のラストシーンの様である。
そういえばある学者が言っていた事を思い出した。
〈こくらゆいが十人いれば世界から全ての戦争がなくなる〉と
眉唾な学説だと思っていたがどうやら本当の話らしい。まあ何にしてもこれで戦いがなくなるのであれば結果的に……
その時、流れていた曲が突然止まったのだ。
気持ちよく踊っていた魔犬達も辺りをキョロキョロと見まわし動揺を隠せないでいる
もちろん村人や兵達も同様でメンディ村長などは膝から崩れ落ちていた。
突如訪れた緊急事態?の原因を探るべく俺は慌ててバルドに問いかけた。
「おいバルドさんよ、急に曲が止まってしまったけど一体何があったんだ?」
〈う~ん、原因はわからんがアプリに曲を詰め込みすぎてフリーズしたのう
なにせそのスマホの容量は1Gしかないからの〉
「1Gしかないの?今時⁉確か神界の知恵と技術の結晶とか何とか言ってなかったか?」
〈そのスマホは地方にコンサートに行ったとき、怪しげな外人から買った格安スマホじゃからな〉
「おいジジイ、神界の知恵と技術の結晶はどこへ行った⁉」
〈まあ仕方がない、こうなったら最後の手段をとるしかないの……〉
最後の手段だと?神の使う最後の手段とは一体……
今度こそ神の力というヤツを目の当たりにするのか⁉俺は思わず息を飲んだ
空気がピリ着いた緊張感の中、固唾を飲んで見守っていると
俺が想像していた遥か斜め下の現象が起きたのである。
〈あなたとベイリ~スイ~ト、ベイビ~ラ~ブ ホントノオモイだけ~♫〉
青く澄み切った大空にバルドのダミ声による歌声が鳴り響いた、もちろん伴奏無しのアカペラである。
「お前が歌うんか~~~い‼」
〈ん?大丈夫じゃ、歌詞は完璧に覚えておる。心配しなくとも良いぞ〉
「誰もそんな心配してねーよ‼」
先程まで気持ちよく踊っていた魔犬達が目を紅く光らせ唸り声を上げ始めた、
先程までとは比べ物にならない程の桁違いの殺気、明らかに激怒しているぞ
それも当然か……可愛くて甘い歌声が急にジジイのダミ声に変わってしまったんだからな
しかしこれじゃあ逆効果もいいところだろ、あのジジイ本当にロクなことしないな
その時、後ろにいたサーラとメンディ村長が慌てた様子で俺に近づいて来た。
「シンジさん、何なら私が歌いましょうか?私この歌なら毎日聞いていますし
コンサートにも行った事ありますから完璧に歌えますよ‼」
ん?ちょっと待て、毎日聞いていた?コンサート?
サーラさん、確か君は奴隷少女でしたよね?どんな奴隷生活を送っていたのかな?
「ワシが歌う、ワシなら振り付けも完璧じゃ‼」
今度はメンディ村長が名乗りを上げてきた
いやいやバルドのジジイがメンディジジイに変わったところで根本的な解決には程遠いぞ
結局ジジイはジジイじゃねーか、魔犬の怒りに油を注ぐだけの話だよ。全くこいつらは……
「だったら俺に歌わせろ‼」
改めて名乗りを上げてきたのは魔犬を率いていた敵の司令官だ
目を血走らせ俺の顔に顔を近づけ俺に猛アピールしてきたのである。
「ややこしいからお前は出て来るな‼どうして皆そんなに歌いたいんだ⁉」
その時、俺は何か違和感を覚えた。ん、目の前に敵の司令官?
「逮捕だ、敵司令官を確保しろ‼」
「し、しまった、つい」
我に返った敵の司令官をその場で捕まえたのである
敵は俺の機転によりお縄に付いた
こうして俺の獅子奮迅の活躍により魔犬を率いていた敵の司令官を見事捕獲し村の平和を守り切ったのである。
それから数十分ほどが経ち、目の前には縄でぐるぐる巻きに縛られゴザの上で胡坐をかいている敵の司令官と
神妙にお座りしている魔犬達が居並んでいた。元気無さげにうつむいている魔犬達とは対照的に
不満げな表情で横を向きながら舌打ちする司令官。
「汚い、やり方が汚いぞ、お前らそれでも血の通った人間か‼」
敵意むき出しで激しく罵倒してくる敵の司令官。
狼男の様な見た目の癖に〈お前らそれでも血の通った人間か‼〉
という言葉はやや引っ掛かるがそこはあえてスルーしておこう。
「お前が勝手に捕まっただけじゃねーか、まあいい。
お前と部下の魔犬の命は助けてやるから魔王軍について洗いざらい話せ
とりあえずお前の事から聞こうか」
取り調べの為に尋問する俺だったが、敵の司令官は反抗的な態度で横を向いた
さすがは魔王軍幹部、簡単には口を割らないか……中々手強そうだ
「村の人達の命がかかっているのです、早めに白状した方が身のためですよ」
サーラがその見た目に似合わないセリフで敵司令官に詰め寄る
右手にはどこから持ってきたのか鞭が握られていた。
だが敵の司令官はその強固な態度を崩すことはなかった
敵意丸出しの表情でこちらを睨みつけながら吐き捨てるように口を開いた。
「舐めるなよ、俺がそんな脅しに乗るとでも思ったのか‼俺の名はスパイシードック
魔王軍戦略実行部隊のリーダーだ、そんな鞭で叩かれたぐらいで口を割ると思ったのなら大間違いだぞ‼
俺は身長193cm体重87kg、趣味は美少女フィギュア集め
ちょっと恥ずかしがりやなシャイボーイで彼女募集中だ‼
さあ何が聞きたい、言ってみろ‼俺は絶対に口を割らない、さあその鞭でぶってみろ‼
俺の尻に向かって思い切りその鞭を振るってみろ‼どうした、やってみろよ‼
俺から情報が欲しいのだろう?だったら思いっきりやってみせろ‼」
激しい口調とは裏腹に尻尾をパタパタと振ってサーラをけしかける敵司令官スパイシードック
コイツ明らかに欲しがってやがる……何が何だかわからないが
俺の初めての戦いはまだ始まったばかりなのである。
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