俺はついに戦いへと向かう
今度は本当の村長に矢継ぎ早に事情を説明し、この村の平原で戦うと告げた
しかし後ろの村人達はどうも不満の様子だ。何故だ?俺はこの国の為に魔犬退治に来たんだぞ⁉
そんな空気を察したのか村長は申し訳なさそうに俺に話始めた
「すみません勇者様、実はこの村は国からあまりよく思われていないのじゃ」
なんだそれ?ここは国から見捨てられた村って事なのか。
「この村の住人は皆、純粋なルドラン王国の人間ではないのじゃ」
「どういうことですか?」
「ここに住む住人は魔族との混血や異世界から来た者たちの末裔
他国からの移住者ばかりでな。それ故に他の国民からもあまりよく思われていない
王宮もそんな空気を察してか、この村にはあまり目をかけてはくれないのじゃ
この村が魔犬の被害を一番受けておるのにな……」
村長は悲しそうにそう語った、それを聞いていた俺とサーラはいたたまれない気持ちになる。
「ちゃんと王女様はこの村の事も気にかけていますよ、だから俺がここに来たんですから」
「そうですよ、元気出してください村長さん」
俺とサーラの気休めともいえる言葉に悲しそうに笑う村長
すると後ろの村人が我慢できない様子で叫んだのだ。
「あの王女は純粋なルドラン人じゃない俺たちの事なんかどうでもいいと思っているに違いないさ‼」
「そうだそうだ、俺たちが一生懸命に育て上げた農園があの魔犬達にどれだけ荒らされた事か
それなのに国は何もしてくれない。俺たちを見捨てたんだ、純血のルドラン人じゃないからって‼」
「この村にはキャバクラや風俗店、メイド喫茶すらないんだ‼︎それが俺たちが国に見捨てられた証拠だよ、国の横暴だ‼︎」
村人から次々と起こる王国に対する不満、キャバクラや風俗店はともかく農家が農園を荒らされることは死活問題だ
人種による差別意識もあって皆忍耐の限界なのだろうな……
「そんなに被害が出ているのですか?」
俺の問いかけに対し、悲しそうにうなずく村長
「ええ、一時期106もあった農園が魔犬の影響で今では30しかないのです……」
その想像を超える被害状況に俺もサーラも表情が歪んだ
「そんなに?それはひどいですね」
「そんな悲惨な事になっているのですか?まるでシンジさんの偏差値じゃないですか⁉」
「おいコラ、なぜここで俺の偏差値が出てくる?それに俺の偏差値はもう少しだけ高いぞ」
俺たちのやり取りに村長も思わず苦笑いを浮かべる、そりゃあ村の人たちにしてみれば死活問題であり
村の存亡に関わる深刻な事態だっていうのにいくらなんでもこのやり取りは不謹慎だよな……
そんな俺たちの会話が不満だったのか村長が再び口を開いた。
「勇者様の偏差値程は悲惨ではないのですが、我々も困り果てているのじゃ」
話に乗るんかい、何か同情が薄れてきたな
「じゃあ村長さんも混血なのですか?」
「ええ、私の祖父が異世界から来た勇者だったのじゃ。
弱かったので世界を救ったとかの武勇伝は無いようじゃがな
あっ申し遅れたの、ワシはこの〈カリーノ村〉の村長をしている
メンディ・弥左衛門と申す者じゃ」
ペコリと頭を下げるメンディ・弥左衛門村長。苗字と名前のマッチングというか違和感が半端ないな
俺たちがそんな話をしていた時、王宮からの援軍がようやく到着した
総勢五百人ほどの若い兵たちが俺たちの前に集まり全員に向かって敬礼をした。
「勇者シンジ様、この度は我がルドラン王国の危機に助太刀いただきありがとうございます
我らルドラン王国聖騎士団一同、ラブニルド将軍になり替わりお礼申し上げます‼」
この世界に来て初めてまともな勇者扱いしてもらえた気がしたのは気のせいではないだろう
少しだけ気分が良くなった俺はなるべく〈できるやつ感〉を出しつつ、偉そうに指示を出した
「今回は俺との共同作戦をとることになっている、言うまでもないけど共同作戦は連携が大事だ
各自勝手な行動は慎んでくれ。まず敵の攻撃に対しては俺が一人で相手する
君たちは俺が討ち漏らした魔犬を確実に倒してくれればいいよ」
「あの魔犬を一人で相手するのですか⁉」
「さすが勇者様、伝説のナロウ系勇者の加護を受けし者‼」
「この人がいれば安心だ、俺たちも続くぞ‼」
いい流れだ、実にいい、ここからが俺の伝説の始まりだ。ここからずっと俺のターン‼
そういえば王女様が何か兵達に作戦があるとか何とか言っていたな、なんだろう?
疑問に感じた俺は兵の一人に聞いてみることにした。
「ねえ君、王女から聞いたのだけれど何か作戦があるとか無いとか……」
「ああ、その事ですか。作戦と言いますか兵たちの士気を高め戦いを有利にする心構えの一つで
かの〈軍神〉ラブニルド将軍が考案されたものなのですよ」
ああ、あの筋肉オカマのラブニルド将軍ね。何か嫌な予感がするけど……
その若き兵は嬉しそうに左手を見せつけてきたのだ、その薬指には銀の指輪が光り輝いていた
〈恋人の為に頑張れ〉という事なのだろうか?何のことかさっぱりわからない俺は戸惑うが
その若き兵は嬉しそうに話し始めたのだ。
「俺、この戦いが終わったら結婚するんですよ‼」
止めてくれ、最もポピュラーな死亡フラグじゃないか。一体何がおこっているのだ?
「ラブニルド将軍は戦いに挑む前、恋人のいる若い兵達にプロポーズをさせ
戦い終了後結婚することを心の支えにして戦い抜くという斬新で画期的な作戦を思いついたのです
全く〈軍神〉の名にふさわしい、凄い事を思いつくお人なんですよあのお方は‼」
いやいやいや、やっぱりあの人に〈軍神〉の名は過大評価が過ぎるでしょ
いや待てよ、よく考えてみたら今回の戦いは聖剣〈エロガッパ〉を手にした俺が
なろう系勇者として先頭で敵と戦うのだよな?
仲間はピッキング少女と〈俺この戦いが終わったら結婚するんだ〉という兵の集団……ヤバくねこれ?
そうだ、こんな時こその神頼みだ、俺には神が付いている。でも何だろう?この不安感は。
聖剣を手に入れ過去最強と言われる英雄の力を受け継ぎ
そして神の全面バックアップの元、強力な助力を得ているはずなのにちっとも安心感がない……
いや、いくら何でもネガティブが過ぎるな。
俺は松岡真二、世界を救って伝説を残す男のはずだ、よしバルドに電話だ。
俺はバルドに連絡をすると今度はちゃんと本人が出た。
〈どうしたシンジ君、何かあったのか?〉
「いや、今から初めての戦いなんだけど大軍相手に対し俺は一人だけという状況なんだ
だから何かいいアイテムとか魔法とか無いのかな?と思ってさ」
〈なるほど、そういう事か、だったらワシのあげたスマホにいいアプリが入っているぞいそれを使ってみるがいい〉
ほう、スマホ内に戦闘で役に立つアプリか……トコトン今時設定だな
俺はスマホを手に取り画面に目を移す、すると画面にはいくつかアプリが入っている事がわかる。
「どれが戦闘に役に立つアプリなんだ?」
〈画面の左下にTBMと名前がついているアプリがあるじゃろ?戦闘が始まる際にそれを起動させればよい
必ず役に立つはずじゃからの〉
さすがは腐っても神様だな。初めてバルドを神として認めた瞬間だった
これで準備は万全であり心は完全に戦うモードに切り替わる、俺は心を躍らせて戦いの開始を待ちわびた
すると橋の方から黒い影が次々と視界に入ってくる、さあ追いでなすったな魔犬共
徐々に魔犬の唸り声が耳に入ってきて初陣を前に俺の心は高揚していた
手は僅かに汗ばみ心臓が高鳴る英雄としての伝説の始まりだ。そんな俺を心配そうに見つめるサーラ。
「気を付けてくださいねシンジさん、くれぐれも無理はしないでください‼」
主人公を心配そうに見つめる美少女、不安げな表情で見守る村人、王女の命を受け聖剣を片手に魔族と戦う勇者
これで全てのパーツがそろった、さあ来い魔犬共‼
魔犬の群れの最後尾に狼男の様な獣人とも言える人型の影が見えた。恐らくアレが敵の司令官だろう
この魔犬は司令官を倒せば一気に統率を失い戦闘集団として機能しなくなるとの事だ
前方の魔犬を蹴散らし司令官を仕留めれば俺の勝ち
そこまでたどり着けず魔犬の群れに飲み込まれ自身のバナナを食いちぎられたら俺の負け、という訳か
オーケーわかりやすくていい。敵も俺の姿に気が付いた様子だ、一度立ち止まり俺を睨みながら唸り声を上げ始めた。
「よし、今だ、ポチっとな‼」
ここぞとばかりに俺はスマホのアプリを起動させる。すると何もない上空から壮大な音楽が鳴り響いたのだ
〈ジャーン ジャジャジャーーーン ジャーン‼〉
敵を始め村人たちも〈一体何が起こった⁉〉とばかりにキョロキョロと辺りを見渡し始める
圧倒的ともいえる壮大で大音量の音楽が否が応でも皆の耳に入ってきた
「おほーーー、いいじゃん、いいじゃん、テンション上がるぜ‼」
その音楽はワーグナーの曲だった、まるで大劇場のコンサートに来ているような大迫力
大空から擦り注がれるような大音量の音楽に後押しされ気分が高揚した俺は聖剣をスラリと引き抜く
そして未だ戸惑いを隠せない敵の群れに単身で突撃し魔犬達を次々と打ち倒していったのである
単身で敵の真っ只中に突撃し勇敢に魔犬を打ち倒していく俺、勇気と希望を胸に秘め戦い抜く俺
誰がどう見てもかっこいい俺、ゲームやアニメの主人公になった気分の俺
〈この手で世界を救ってやる‼︎〉と心で叫ぶ俺
そんな中、俺は高ぶる気持ちを抑えつつ気になる事をバルドに聞いてみた。
「ところでバルドさんよ、このアプリってどんな効果があるんだ?
ご丁寧に音楽まで付いているなんてアンタにしては随分と気が利いているじゃないか」
〈そりゃあそうじゃ、そのアプリは音楽が入っているだけのアプリじゃからな
肝心の音楽が入ってなかったら何の意味もないじゃろ?バカなのか、お主は?〉
「おいジジイ、今なんて言った?音楽が入っているだけのアプリ?
じゃあ単なる音楽アプリじゃねーか、戦闘に何の関係もないだろ⁉︎
何だよそれは、俺を馬鹿にしているのか⁉」
〈何を言っておる、ワシの渾身のセットリストじゃぞ‼〉
「アンタの好みとかどうでもいいんだよ‼じゃあアプリ名が思わせぶりにTBMとか付いていたのは、まさか……」
〈そうじゃ(T)テンション (B)爆上げ (M)ミュージック の略じゃ、中々いいセンスじゃろ⁉〉
もはや何も語るまい、突っ込むだけ時間と気力の無駄だ。
このジジイを信じた俺が馬鹿だった、信じる者は救われないのである
俺は下がり切った気持ちを何とか奮い立たせ戦いを続けた。
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