俺、死んだの?
「あ~あ、何か面白い事ねーかな……」
誰もいない自室でそんな事を呟きながら天井を見上げた。
朝から勉強をしているのだがその内容が一向に頭に入って来ない
集中力の問題だろうか?いや、そんなことは無い
美少女ゲームの攻略ならば寝食も忘れ徹夜もいとわないこの俺に
集中力がないなどという事は有り得ないからだ
だから多分この参考書が悪いのだろう、そもそも受験の為の勉強など将来役に立つのだろうか?
というありきたりな疑問を持ち出す事で俺は自分を正当化させた
おっと、紹介が遅れたが俺の名は松岡真二
先日二十歳になったばかりのアニメと漫画とゲームと美少女フィギュアが好きな
どこにでもいる普通のナイスガイである。
俺は高校を卒業して決して一流とは言えない大学をいくつか受験したが何故か全て落ちた。
一年浪人したのち今度は三流大学も含めた5つの大学を受験したのだがこれも全滅したのだ。
〈名前さえ書ければ受かる〉などと言われていた大学にすら落ちたのである
もしかして俺は自分の名前を書き間違えたのだろうか?
俺自身かなりショックだったが両親の落胆ぶりは相当で
言葉にこそ出さなかったが態度にありありと出ていた。
俺には四つ上の兄貴がいてこれが非常に優秀なのだ
兄貴は一流大学を出て一流企業に就職した、学生時代はテニス部でキャプテンをしていて人望もある
そしてまだ二十四歳だというのに大学時代から付き合っていた彼女と来年結婚すると聞いた。
彼女を二度ほど見たことがあるがこれがとびきりの美人で人当りもよく
俺はまともに目を見て話せなかったほどだ、何で兄貴ばっかり……
同じ両親から生まれているのにこの差は一体何だ⁉
神様は俺の分の能力パラメーターを全て兄貴に振り分けてしまったのではないのだろうか?
悔しいので腹いせに兄貴の彼女を頭の中で何度も素っ裸にしてやった、虚しいだけだった……
当然こんな俺に彼女などいるはずもなく、年齢=彼女いない歴という定番ステータスを持ち
二浪という決して軽くない十字架を背負ってしまった俺は知り合いに会う事が恥ずかしくなり
ほとんど家からも出ず好きなアニメを見て、ゲームばかりしていた。
しかしそんな生活に危機感を覚えた俺は、玄関から新しい一歩を踏み出す
十日ぶりの外出だ、〈俺は引き籠っているだけの男ではない‼〉という魂の主張
それはきちんと反省ができ行動力もある証明である
玄関からから出て眩しい日の光を浴びるとこれから冒険に出る勇者の気分になる
行先は魔王の待つ城ではなく近所のコンビニという些細な違いはひとまず置いておこう。
久々に外に出たら近所のおばさんが俺を見て凄く驚いていた
どうやら俺は死んだと思われていたらしい、しかしそこは大人の対応ができる俺である
ニッコリと笑いキチンと挨拶をすると、慌てた様子の近所のおばさんは釣られるように頭を下げた
「あら真二君、久しぶりね、私てっきり……あっ、ごめんなさい」
謎の謝罪を快く受け入れ再び歩き出した俺
決して前途は明るくないがせめて表情だけは明るくいこうと心に誓ったからだ
何というポジティブシンキング、自分で自分を褒めてあげよう
自分へのご褒美として帰ったら課金ガチャを回そう。
外の空気はおいしい、新たなる一歩は実に清々しい
家にいることがいたたまれないから逃げるように出てきたのでは断じてない
そんな純粋な気持ちでいる俺の前に、女の子が倒れて激しく泣いているのが目に入ってきた
それは8歳くらいの子で地面にはアイスがぶちまけられており
状況から察するにどうやらアイスを持ちながら転んでしまったようだ
この完璧な推理と洞察力、名探偵コ〇ンと金田〇少年を全巻制覇した俺には容易い推理だった
見た目はニート、中身は浪人生、迷宮している迷い人、それが俺、松岡真二でなのである
「大丈夫かいお嬢ちゃん?」
俺は優しく声を掛け倒れている少女に手を指し伸ばす
何せ相手は8歳くらいの少女である、邪な気持ちなど微塵もない
しかしこれを機会にこの子が〈私、将来お兄ちゃんのお嫁さんになる‼〉
というのであれば俺は十年待つこともやぶさかではない
現代の光源氏というのもわるくないかもしれないな……という考えが頭の片隅によぎった
だが待っていたのはそんな八十年代の少女漫画の様な展開ではなく
少女の冷たい目であった、その女の子は不審者を見るような目で俺を見つめている
これは長年俺が浴びせられてきたクラスの女子の冷たい視線と同質のモノだ
こんな小さくてもやはり女である。俺を見て何かを感じた様だ
俺は慌てて両手を広げフレンドリーな笑顔を振りまき誠実さをアピールした
「ほら見てごらん、お兄ちゃんは全然怪しい者じゃないよ、わかるだろ?」
精一杯の誠意を見せる、これこそが人間として自然な姿だろう
俺は久々の外出だったので身に付けている服はヨレヨレのジャージだが
中には美少女キャラのプリントしてあるTシャツなので親近感を覚えるはずだ
ズボンからシャツが飛び出している事も、お茶目さを演出しているだろう
無精ひげにボサボサの髪、徹夜でゲームをしていた為に寝不足で
目の周りにクマが出ているがそんなことは問題じゃないだろう。
「ほら、どこをどう見ても怪しい人間じゃないだろう?」
俺は両手を広げて精一杯いい人を演じた
しかしそれを見た女の子は怯えた目で慌てて立ち上がると逃げ出そうとして
再び石につまずきまた転びそうになった。
「危ない‼」
俺思わず転びそうになった女の子を受け止めた、その瞬間である、俺は意識を失った。
気が付くとそこは見た事の無い場所だった
足元には白い雲の様なモノが果てしなく広がり周りには何もない
そう、どこまでも広く果てしない世界
「俺は夢でも見ているのか?」
まだ寝ぼけているのか?と思いながらそう呟いた
するとそれに答えるかの様に頭上から野太い威厳に満ちた声が聞こえてきたのだ。
「夢ではない、松岡真二よ、お前は死んだのだ」
驚いて頭上を見上げるとそこには白いローブを羽織った老人が俺を見下ろしていた
長い髪と大量の口髭。その全てが白く、まるで漫画やアニメで見た仙人か神様のようだ。
「貴方は一体……」
その老人は空中をゆっくりと降りてきた
重力を無視したまるで手品のようなその光景に俺は思わず言葉を失ってしまう
そしてゆっくりと俺の前に立ちジロリと厳しい目で俺を睨みつけると
敵意を含む口調で語り掛けてきた
「松岡真二よ、お前は死んだ。何故だかわかるな?」
〈わかるな?〉と言われても俺には何を言っているのかさっぱりわからない
「あの~いったい何のことでしょう?死んだってことは、ここは天国ですか?」
「馬鹿者が、そんなはずなかろう、お前が天国に行けるような人間か?
自分のした事をよく考えてからモノを言え‼」
悪戯っ子をしかりつける様に厳しい言葉を浴びせてきた謎の老人
ビクッと首をすぼめ思わずビビってしまった俺だが
このまま言われっぱなしで黙っている俺ではない、すかさず次の行動に移った
地面にひれ伏し額をこすりつける様に土下座をしたのである。
「申し訳ありません、なにとぞお許しを。私がした事といえば
小4の時にクラスの女子鈴木あかりちゃんの縦笛を持って帰って嘗め回したことでしょうか?
それとも中一の時に伊藤里美ちゃんの顔写真を加工しアイコラでヌード写真と合成したことでしょうか?
まさか高三の時、クラスの女子全員を頭の中で素っ裸にして
妄想の中でエロビデオに出演させたことでしょうか?」
この老人が何に怒っているのかわからなかったのでとりあえず思い当たる事を羅列してみたのだが
そんな俺の言葉に思わず絶句する謎の老人。口を大きく開け言葉を失っていた。
「お前そんな事をやっておったのか⁉」
老人は口調が先ほどまでの威厳に満ちたモノではなく
ごく普通の言葉遣いに戻っていて呆れ顔で俺を見つめた
それはまるでゴミを見る様な眼差しであった。
し、しまった、自分で余罪を自白してしまうとは……じゃあ一体何だろう?
小5の時の和美ちゃん?中二の時の理恵ちゃん?それとも高三の時の立花先生?まさか兄貴の彼女の事か⁉
必死で頭を回転させるがこの老人がどの事を言っているのかわからない以上
自分から発言するのは非常に危険である。
ヤブヘビという言葉を始めて経験した俺は相手の様子をジッと伺った
そうこれは高度な駆け引きである、相手の思考を読むことこそ勝利へつながる道だと知っているからだ
なぜなら俺はそれを賭博黙〇録カ〇ジという兵法書で学んだからだ
しばらく沈黙が続きお互いの腹の探り合いが始まった
〈先に動いた方が負ける〉そんな言葉が頭に浮かぶ
手に汗を握り、空気が重くなる、ヒリヒリと焼けつくような心理戦が二人の間に飛び交っていた
そしてついに相手が我慢しきれず切り出したのだ。
「とぼけるのもいい加減にしろ、貴様は何人もの女性を食い物にし
散々弄んでは捨てきた鬼畜野郎ではないか‼︎
貴様のせいで自殺した女性までおるのじゃぞ、それなのに全く反
省の色を見せないどころか
あくまですっとぼけてシラを切るとは、その罪万死に値する‼︎
だから貴様が再び女性に触れた時にこのワシ自ら天罰を下した
だから貴様は死んだのだ。わかったか、わかったならここで猛省し、今から行く地獄で罪を償うがいい‼」
まるで被告人を断罪するような激しい口調でそう言い放った老人
しかし俺には全く身に覚えがなく、何の事やらさっぱりわからない。
「あの~、それ本当に俺の事ですか?自慢じゃないですが俺は生まれてこのかた
彼女がいた事はありませんし、女性と付き合うどころか手を握ったことも無いのですよ」
「この期に及んでまだシラを切るつもりか、一体貴様が何人の女性を食い物にしてきたと思っておるのじゃ‼︎
ワシは全てを見通すことができる全知全能の神だぞ、そんな人違いなどする訳なかろうが‼」
神様を名乗る老人は興奮気味にまくしたてるが、こちらもそこは譲れなかった
何せ俺は童貞のまま女性の敵、ジゴロとして裁かれようとしていたからである。
「ちょっと待ってください、良く調べてください
俺が最後に女性に触れたのは中学時の林間学校の時のオクラホマミキサー以来ですよ
そんな俺が女性を食い物にするなんてありえないでしょ⁉」
神を名乗る老人はさらに顔を赤くして俺を指さしてきた。
「貴様は神であるワシを愚弄するか⁉その様な見え透いた嘘でこの場を逃れようと……」
その時である、白いローブを纏った若い男が現れ慌てて駆け寄ってきて神を名乗る老人に近づき耳打ちをした
するとそれまで険しい表情を崩さなかった老人は驚きの表情を浮かべ
若い男の顔をマジマジと見つめると思わず問いかけたのだ。
「えっ⁉じゃあ、同姓同名の……」
そう言って俺の方に視線を移しマジマジとこちらを見つめてきた老人
その瞬間、俺は何が起こったのか完全に理解したのである。
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