表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

第五話:「返す」

「見つけたぞ……」

「……」

「よもやこのような所に身をやつしていようとは」

「んん……誰だ?」

聞き慣れぬ声に目を覚ました鉄は上体を起こして周囲を見回した。

誰もいない。

「我が誰か?詮無きこと……今の汝には理解できぬ」

「失礼な奴だな、勝手に人の家に入っといてよ……」

鉄はベッドから降りようとした。しかし……

「……は?」

ベッドがない。

それどころか、よくよく見れば周りには何も存在しない。

鉄は白とも黒ともつかない無彩色の空間を一人漂っていた。

「……そっか、俺……死んだのか」

気絶する前までの記憶が戻ってくる。

奇妙な旅人の来訪、野盗の侵入、そして……

「はぁ……あんだけかっこつけておいて結局死んだのか、俺は……何やってんだろうなぁ」

「汝は……死んでいない」

「そりゃどうも……それはそれでかっこ悪いぜ」

謎の声に適当な相槌を打ちながら、鉄は上体を投げ出して横になった。

「腐っている場合ではない……汝が天命を果たす時が来たのだぞ……」

「なんだ?何言ってるのかさっぱりだぞ」

「今は分からずとも……いずれ……それまでは……」

謎の声に雑音が混ざり始める。

「なんだよ、よく聞こえないぞ」

「『力』よ……我が元へ……」

「おーい?もっとはっきり話してくれよ」

だが、それきり声は聞こえてこなくなった。

「……なんだったんだ?まあいいや……どうせ死んだんだし、もう一眠りするか……」

鉄は目を閉じた。



「……ん……」

次に鉄の耳に入ってきたのは刃物を研ぐ音だった。

「おや、目が覚めたみたいだね……えっと、鉄くんだっけ?」

「……はぁ!?」

鉄は我が目を疑った。

見慣れた自室のベッドの脇に、見慣れない人物。

「お、お前……なんで……?俺は……どうして……?」

すっかり混乱した様子の鉄を見て、その人物……紫髪の旅人、白波は無邪気に笑った。

「ごめんね、勝手に部屋に入っちゃって……でも君が一番最後まで目を覚まさないから心配でさ」

「……」

「でもよかった、このまま目を覚まさなかったらどうしようかと思ってたんだ、なんせ丸2日寝てたからね」

「……」

返事が無くとも気にせず話し続ける白波のことを、鉄は半ば放心状態のように眺めていた。

「村長さんもすごく心配してたし、君の無事を報告してくるね……」

「なぁ」

立ち去ろうとする白波の後ろ姿に向け、鉄は声をかけた。

「なに?」

「その……ありがとうな、皆を助けてくれて……えーと」

「白波」

「え?」

白波はくるりと振り返って微笑んだ。

「私の名前。白波って言うんだ。よろしくね」

「……ああ、よろしく」



白波が去った後、鉄はぼんやりと自室を眺めながら思考を整理した。

「どうやら俺は死んでない……らしい。自分で死んだと思い込んでたせいで変な夢を見ただけか……」

鉄は自嘲気味に笑った。

「英雄ぶって一人で犠牲になろうとして、結局赤の他人に助けられて生き延びる……情けなさの極致だな」

ふと、見慣れないものが置かれているのに気づく。

「これは……あの旅人の武器か」

巨人の持ち物としか思えないような巨大な盾に、身の丈以上の大きさの槍。

「普通……じゃないよな、色々とやっぱり」

何の気無しに、盾を持ち上げようとする。

「?」

びくともしない。

「おいおいウソだろ……」

両手を使い、全身の力で持ち上げようとする。

「うおおおおおお……」

なんとか持ち上げることには成功したものの、すぐに限界が来て取り落としてしまった。

鈍い音が響き渡る。

「ハァ、ハァ……なんなんだこの重さ……!?あいつこんな物持って戦ってんのか!?」

「そうだよ」

「うわぁ!?」

いつの間にか戻ってきていた白波が戸口に立っていた。

「でも君の力ならそんなに苦労しないはずだけど……ああ、そうか」

白波は合点が行ったというように手を叩き、鉄の近くに歩み寄った。

「ありがとう、借りてたもの、返すね」

「な、なんの話だ……?」

鉄は目を白黒させるばかりだ。

「君から借りてた『力』を、今返したんだよ」

「……?どういう意味だ……?」

「うーん、言葉通りなんだけど……試しにさ、もう一回その盾を持ってみてよ」

「??ああ……わかった」

言われるがままに、全身の力を込めて盾を持ち上げようとする。

「うわっ……」

驚くほどすんなり持ち上がり、鉄はひっくり返りそうになった。

「さっきより軽い……?」

「盾が軽くなったんじゃなくて、君に力が戻ったんだよ」

「……信じがたいが、確かにそうらしいな……」

鉄は両手を握りしめながら呟く。

「お前、本当に何者なんだ?」

「ただの旅人。ちょっと『借りる』のが得意な……そう、君たちの言葉で言うと『借賊』ってやつかな」

「いや、そんな言葉多分無いと思うが……」

キメ顔で名乗る白波を前に、鉄は苦笑した。


「つまり、お前はこう、なにか形の無いものであっても、人から借りることができる、ってことか?」

「うん、そうだよ」

「なるほどな……はぁ」

鉄は突然ため息をつき、肩を落とした。

「ど、どうしたの?」

「どうしたもこうしたも……そんな特別な能力とか、すげー武器とか盾とか持ってるやつを庇おうとしてた俺って……」

「……庇う?」

「あっ、いや……なんでもない」

即座に顔を背ける鉄に、白波は探るような視線を向けた。

「もしかしてさ……今回の騒動の原因って……私?」

「いや、もしかしたらそうかもしれないって俺が勝手に思っただけで、実際どうかは……」

鉄は白波の顔をちらりと見た。

「あー……例えば?お前があいつらの仲間をぶっ飛ばすようなマネを、もしかしたらしてるのかもしれない……なんて?」

「……そういうことかぁ……」

白波は気まずそうに窓の外を見た。

その次の瞬間、勢いよく頭を下げた。

「ごめん!まさかこんなことになるなんて……」

「ああいや!謝るなって!こうなるから言わないようにしてたのに……」

鉄はばつが悪そうに頬をかいた。

「こうしてはいられない……行かなきゃ!」

白波は慌ただしく槍と盾を担ぎ上げた。

「おい、行くってどこにだよ!?」

「ちょっとケジメをつけてくるよ!」

「答えになってな……」

鉄がそう言い終えるのも聞かずに、白波は部屋を飛び出していった。

「……なんなんだ……?あいつは……」



「村長さん!」

白波が村長宅に再び戻った時、そこには村長の姿はなかった。

「あれ?さっきはいたのに……出かけたのかな……あの怪我で……?」

不思議に思いながら、念の為奥の部屋を覗く。

「……分かった……話す、全部話すから……これ以上は……」

「……?」

何やら会話が聞こえてくる。

「ふん……やっとその気になったか」

「ああ……アジトの場所でもなんでも話してやるよ……どうせこのまま帰ってもオレは……」

明らかにただごとでは無い会話。

聞いてはいけないと直感した白波はゆっくりと身を引いて……

「!?」

なんの不運か、白波の体が背後の棚に当たり、食器が大きな音を立てて落下した。

「誰だ……?」

部屋の奥から鋭い眼光が飛んでくる。

「あー……その……村長さんに話しておきたいことが……あ!何も見てないよ!何も……」

「……あなたか。別にごまかす必要はない……今、そちらに行こう」

村長は声色を幾分か和らげ、ゆっくりと部屋を出た。



「……なるほど」

白波から事態の説明を受け、村長は頷いた。

「だから、私はケジメをつけなきゃいけない。そうじゃなきゃ、申し訳が立たないよ」

「しかしあなたはすでに我々を命の危機から救ってくれている」

「その危機の原因が私だったんだから」

「ふむ……」

村長は白波を品定めするように見た。

「であれば、一つ頼まれて貰おう……丁度、聞き出せそうなところだ」

「聞き出す……って、まさかさっきの……」

「そうだ。まあ、詳しいことは本人の口から語ってもらおう」

白波は村長に導かれるまま、奥の暗い部屋へと入っていく。

「ヒッ……ま、また来た……!」

そこにうずくまっていたのは、村を襲ったあの男だった。



続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ