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第三話:襲来

白波が眠りについたその頃、村の表門では。

「鉄連れてきたぞ!」

「よし!これで戦える奴は全員揃ったな!」

村の男達が各々武器を抱えて並び、なにやら物々しい空気が漂っている。

「……一体、なにが始まるんです?」

とりあえず最後列に加わった鉄は一人、状況を飲み込めないでいた。

「アレを見れば一発で分かると思うぜ」

農業用の大きな鍬を武器として構えた村人が、門の方に顎をしゃくってみせた。

「……っ!」

促されるままに門に目を向けた鉄は、思わず息を呑んだ。

門から立て続けに何かを打ち付けるような音が聞こえる。

その様子はまるで……

「外から攻撃を受けている……!?」

「ああ、どうやらそうらしい……お前も戦えるよう準備しとけ」

「は、はい……!」

こんな辺鄙な山奥の村の門を、夜中に攻撃するような輩は十中八九ロクな来訪者ではない。

鉄は剣の柄を握る自分の手が汗ばむのを感じた。

「お前は剣技はからっきしだが力だけはこの村でも一番だ……いざというときは思いっきり暴れろ。いいな?」

「からっきしって……そんな言い方は……」

鉄が文句を言おうとしたその瞬間、門が弾けるように開かれた。

「チッ……苦労させやがってよぉ……やっと開いたじゃねーか」

開いた門をくぐり、一人の男がゆっくりと侵入する。

髪は逆立ち、目が爛々と光る、見るからに凶悪な風貌だ。

「う……動くな!」

最前線の村人が剣を突きつけて叫んだ。

「あぁ?うるせーなぁ……なんでオレがてめーらの言うことを聞かなきゃならねーんだ?」

男は意にも介さず、一歩足を踏み出す。

村人たちは色めき立った。

「なぜお前がここに!禁足の森に閉じ込めたはずなのに……!」

「……やっぱりあの森に何か仕込んでやがったのか……クソがよ」

男は苦々しげに吐き捨てた。

「まあ残念だったな……オレたちはもう自由ってわけだ」

「くそっ……!うおおお!!先手必勝!!!」

村人の一人が突然声を挙げて男に飛びかかった。手には使い慣れた農業用の鎌!

「チッ……」

男は喉元に迫る鎌を蹴りで払い除け、続けて弾かれてバランスを崩した村人の腹部めがけて鋭く手刀を叩き込む!

「ぐふっ……!」

村人は声にならない声を上げて倒れ込んだ。

「話にならねーなぁ……」

男は倒れ伏す村人の身体を蹴飛ばし、さらに一歩前進。

村人たちによる包囲網は威圧され一歩下がった。

「まあ落ち着けよ……オレは別にてめーらに喧嘩をふっかけに来たわけじゃねー……聞きてーことがあるだけだ」

男は振り返って、後ろに控える手下達に合図した。

そのうちの二人が、二人がかりで何かを抱えて前に歩み出る。

「こいつのこと知ってるやつが……いるよなぁ?この村によ……」

抱えられたものは、気絶した大男だった。

「こいつはそこの山道で倒れてやがったんだ……無様だよなぁ、まだ目を覚ましやがらねぇ」

男は愉悦をたたえた笑みを浮かべながら大男を足蹴にした。

「ま、だが……どれだけ無様でもこいつはオレ達の仲間なんでな……仲間が酷い目にあったら礼の一つもするのが礼儀ってもんだよな……」

瞳が残忍に輝く。

「言ってる意味、分かるか?つまりだ……」

背負った鞘から剣を抜き、村人たちの眼前に突きつける。

「こいつをブチのめしたやつが名乗り出れば、そいつを殺すだけで勘弁してやるが、すっとぼけようもんなら……てめーら全員、地獄行きだッ!」



「ど……どうする!」

「どうするもこうするも……!」

男から『犯人探し』のために少しの猶予を与えられ、輪に並んだ村人たちは混乱の中話し合いを始めた。

「一旦落ち着こう。今日村を出たのは全部で3人のはずだ。龍、玄司、そして……鉄」

帳簿をめくりながら、村長が確認する。

「ああ、確かに俺は薪集めに出たけど……山の方までは行って無いぜ」

龍と呼ばれた壮年の男が返事をする。

「そうか……玄司、お前は?」

「僕は……ちょっと遊びに出ただけだよ、そもそも僕にあんなでっかいの倒せるわけないじゃないか」

玄司はまだ6歳の少年である。

村長は頷いた。

「確認しただけだ……では鉄、お前は?」

「えっ?俺は……」

鉄は今日、確かに表門から外に出ている。

しかしそれは他の者達に秘密で剣の特訓をするためであり、野盗の一味を倒すようなだいそれた真似は当然していない。

そう弁解しようとした鉄であったが……

「……なあ、本当に俺たち3人しかこの村を出てないのか?」

「ああ、わざわざ嘘をつく必要もないだろう」

村長は全員の顔を見渡しながら答えた。

目尻に皺が刻まれていても、その眼光は衰えていない。

その威圧感に、誰ともなく唾を飲む音が応えた。

「そうだよな……じゃあ、俺がやった。そういうことになるよな」

「なっ……鉄!お前突然何を……!」

村人の輪がざわめく。

「それしか答えは無いだろ?こんな山奥の村まで来るやつは滅多にいないんだ、関係ない誰かの仕業ってことは……」

そこまで言ったところで、鉄の脳裏には先程の奇妙な旅人の姿が浮かんだ。

(本当にあいつにあの槍を扱えるほどの力があるんだとしたら……あのデッカイのを倒したとしても不自然ではないか……まさかあいつが……?なら、あいつを突き出せばこの危機はひとまず去るはず……)

「……関係ない誰かの仕業ってことは無い。そうだろ?」

だが、鉄はその思考を飲み込むように続けて言い切った。

なぜ見ず知らずの人間を庇うような真似をするのか、自分でも分からなかった。

「鉄……その言葉に嘘偽りは無いな……?」

村長が鉄にゆっくりと問いかける。

「……ああ。俺が……やったんです」

「……」

村長の眼差しが一層鋭くなり、鉄を射抜く。

鉄は目を逸らしそうになる自分を全力で抑えた。

「そうか。それならば……私は止めん」

「……」

鉄は全てを見透かされているようで、何も言い返せなかった。

「おいやめろ鉄……!俺たちのために死ぬつもりならよせ!何も若いお前が死ななくても……」

龍が抗議しようとしたその時。

「時間切れだ!!!答えを……聞かせてもらおうじゃねぇか」

突然輪の中に侵入者の男が割り込んできた。

「俺だ。俺がやった」

鉄は毅然と答えた。

「いや違う!やったのは俺だ!だから殺すなら俺を……」

「うるせぇよ」

「ウグっ……!?」

男は声を上げる龍の方を振り向きもせず、裏拳を打ち込んだ。

「オレは聞いてたんだぜ?さっきのてめーらのチンケな話し合いをよぉ……」

「おい!俺だけを殺して、皆には手を出さないと言ったはずだろ!」

鉄が男に詰め寄る。

「ああ。あのデカブツがやられた件についてはな……今のは個人的にイラッときたからやったんだ」

男はやおら鉄の胸ぐらを掴んだ。

「なんせオレは嘘つきが嫌いでなァ……でももっと嫌いなものがあるんだ、何か分かるか?」

「……そんなことを聞いてどうするつも……」

言葉は不意の拳によって遮られた。

右頬への衝撃と血の味が、鉄に襲いかかる。

「答えはなぁ……てめーみたいに!」

「うっ……!」

続けて掴んだ胸ぐらをそのまま持ち上げ、地面に叩きつける。

「『正義』だとか『みんなのため』だとか……!」

「……!」

仰向けに地に倒れる鉄の腹部に容赦ない踏み付け。

もはや悲鳴は声にすらならない。

「薄っぺらい事言ってかっこつけた気になってるヤツだッ!!」

トドメに渾身の蹴りを食らわせた。

鉄の体は2mほど吹っ飛び、無様に転がった。

「ゲホッ……」

もはや鉄は血を吐き出す程度のことしかできなかった。目の前が霞んでいく。

「ケッ……弱っちいヤツ。この程度のヤツがグレオを倒した?笑わせるぜ」

男は勝ち誇ることすらせず、心底つまらなさそうにボロクズになった鉄を見下ろした。

「つまり結局こいつも嘘つきだったってことだ……こんな嘘つきの村は、皆殺しにしてやるのが一番だよなァ!」

男は村人たちの方へと振り向きざまに背中の剣を抜いた。

「……戦いは、避けられないか……」

村長は静かに呟くと、腰に差した大太刀を抜いた。

「……へぇ、てめーは村長とか呼ばれてるだけあって中々強そうだな……名前は?」

「無法者に名乗る名など、生憎持ち合わせてはいない」

「チッ……そうかよ」

両者の視線がぶつかり合い、火花を散らす。

戦いの火蓋は、今にも切られようとしていた。


続く

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