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第二話:出遭い

「はぁ……まだ寒いな……もう暦の上では春なんだから、そろそろ暖かくなってもいいだろうに……」

青年は、手をこすり合わせながら一人呟いた。

「村長の口癖が移っちまったかな……我ながらジジくさいことを言ってしまった……」

肩をすくめながら、姿勢を正す。

「でもまあ、少しくらいぼやいてもバチは当たらないさ……なんせ今の俺は村を守る立派な戦士、だからな……なんて」

腰にさげた剣の柄を握り、抜き放つ。

月の光を反射して輝く刃。

何の変哲もない、よくある護身用の長剣だ。

だがこの青年……くろがねにとっては、まるで御伽噺の聖剣が如く大事なものだった。

鉄は先日、この村……アジ村の成人の儀式を経て大人として認められ、その証としてこの長剣を与えられている。

今まで使っていた木剣とは違う確かな重みは、誇らしくもあり、恐ろしくもあった。

「やっぱ、いざとなったらこれで戦わないといけないんだろうな……人なんか斬りたくねぇけど……」

二、三度素振りをし、鞘に納める。

そして、自らが守っている大きな門を見上げた。

「頼むから俺が見張りの時は攻めて来ないでくれよ、盗賊さんたち……」

「あのー……」

「うわッ!?」

突如、声をかける者あり。

鉄は驚いて飛び上がった。

「お、お前!この森から着たということは……あの盗賊団の一味だな!」

剣を抜き、相手を見据える。

だが、その相手は盗賊にしては小柄で、そして……

「とうぞく……?なんだい?それは……」

「ひ……ひぃっ!?」

フードの奥から除く目は、妖しく金色に光っていた……!



数刻前。

野盗を下した白波は、深い森の中を彷徨っていた。

「おかしいな……さっきまで山を歩いてたはずなんだけど……」

すっかり日は落ち、月明かりも木々に閉ざされ方向がまるで分からない。

「うーん……仕方ないけど今日はこの森で眠るしかないか……朝になればもう少し周りが見やすくなるだろうし……」

枕にするのに丁度いい木の根を見つけ、腰をおろす。

「……おや?」

しかし、そこには先客がいた。

「タマゴ……?鳥にしては大きいし……なんだろう?」

木の根に包まれるようにして、何者かの卵が鎮座していた。

「うーん……ま、仕方ないか……別の木を……」

と、身を翻そうとしたそのとき。

「……ん?」

卵から異音が響いた。

「なんの音だろ……まさか?」

そのまさかであった。

パキパキという音を立て、みるみるうちにヒビが入っていく。

「あ、ああ……どうしよう、心の準備が……」

白波の言葉も虚しく、ついにその主は姿を現した。

「……やぁ。元気?私は白波。キミは……トカゲ?にしては大きいね?」

「……」

「……」

しばし、無言で見つめ合う。

巨大なトカゲと思しきその生物の瞳は、闇夜に輝くような金色をしていた。

「えーっと……そうだ、これも何かの縁だし……ちょっと手伝ってくれない?」

トカゲは少し間をおいて頷いた。……少なくとも、白波にはそう見えた。そういうことにした。

「ありがとう。賢い子だね」

白波はトカゲを抱え上げた。

「君はいかにも夜目が利きそうだし、ちょっとその目を『借りる』ことにするよ」



「お、おい!寄るな!」

すっかり腰が引けた状態で剣を突きつける鉄。

「失礼だな、人をバケモノか何かみたいにさ」

「どうみてもバケモノだろ!!!」

「……あっ、そうか」

白波は抱えていたトカゲを地面におろした。

「ありがとう、いま『返す』よ」

「……!?」

鉄は今にも気絶してしまいそうだった。

突然巨大な槍を持った目が光る怪人物が現れ、しまいにはやや大きすぎるトカゲと会話を始めたのだから、無理もない。

「やぁ君、ごめんね、驚かせちゃったみたいで」

「お、お前、なんなんだ?何者なんだ?人間か?」

「うん。私はただの旅人。一晩泊めてくれるところがあると嬉しいんだけど……」

「少なくとも『ただの』旅人ではないだろ……」

呆れながらも、どうやら敵対的な意志は感じられない上に何故か目ももう光っていないので鉄は落ち着きを取り戻した。

「とりあえず、そのフードを取ってみてくれないか?顔も見えない奴を信用するわけにはいかない」

「おや、これは失礼」

白波はフードを取った。

「……女だったのか」

「え?うん……女だと何か?」

「えっ!?あー……いや、そうじゃなくてその、あんまり女らしくない喋り方というか、あーいや!別にこれは悪口とかではなくて!」

「……ふふっ、変な人だ」

勝手にしどろもどろになる鉄を見て、白波はいたずらっぽく笑った。

「あー……まあお前が盗賊の一味でないなら……泊まれる場所くらいはあるだろうが……しかしな……」

鉄はすっかりばつが悪くなってしまった様子だ。

「その、とうぞく?ってのは何のことだい?」

「は……?」

からかっているのかと思ったが、至って真剣な表情の白波を見て、鉄は当惑した。

「盗賊って言葉を知らないのか?そんなもん担いで一人で旅してたら会わないことは無いだろ?」

「?何に?」

「あー、つまりだな……」



「……つまり、人の物を盗もうとする人たちのことを盗賊って言うんだね」

「そういうことだ……そこまですっとぼけられると逆に怪しいな……」

「盗むだなんてとんでもない!借りるだけさ!」

白波は頭を振って否定した。

「そう……いわゆる『借賊』ってやつかな」

「そんな言葉無いと思うが……というか、なんなんだ?さっきから『借りる』だとか『返す』だとか……」

「それはね……」

白波が説明しようとする声は、突然遮られた。

村の門が凄まじい勢いで開かれたのだ。

「おい鉄!お前ちゃんと見張ってなかったのか!?」

中から出てきた村民が鉄に詰め寄る。

「な、なんのことだよ!俺は今こうして怪しいやつに……」

「この際そんな事はどうでもいい!表門だ!急げ!」

「わ、分かった!」

異様な剣幕に押され、鉄は駆け出した。

……白波を置き去りにして。

「えぇ……私の泊まるとこは……?」 

一人、途方に暮れる白波。

「ま、仕方ないかな……忙しいみたいだし……」

白波は門に寄りかかって寝ることにした。

「明日には、きっと入れてくれるさ……」



続く

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