一瞬背筋が凍ったはなし。
先日、仕事から帰るとあまりに疲れが取れず、頭がほてってよくない状態に気づく。仕方ないので明日もうまくいってもいない仕事に行かねばならなくて、せめて自宅であるアパートの一室で頭を冷やそうと本当に久しぶりに携帯のホラー話を読んでいた。
クーラーを効かせ、部屋を無理やり冷やし、いつも部屋の外がうるさいのにそんな日に限って周囲が静かだった。しかし、明らかに息を潜めているような悪い緊張感はいつものままだった。
そして、急に押入れでものが落ちる。その音に少し驚き、疲労感から感覚が鈍化していて隣の部屋だと思ったが、すぐに自分の部屋だと気づき確認する。すると二三日前に届いた贈り物の空ダンボールだった。一番上の方に重ねて置いたものがそのタイミングで落っこちた。
それでも疲労感から気にしないで、ホラー小説を読んでいた。
そして、今度は何か壁をたたくような物音。玄関の外の音かとはじめは気にしなかったが、いよいようるさくなる。
立ち上がり物音の所在を確かめる。すると一匹の緑色の昆虫がお風呂場で明かりに何度もぶつかっていた。気をつけて部屋に入っても昆虫は入るがそんな日に限ってそういうことがある。仕方なしちり紙を一枚取りだし、それで昆虫採集。生き物とはいえ、昆虫は好きではない。
もどかしさを感じながらもつかみ、玄関のドアを開けて逃がそうと手をふらつかせる。
ところが、昆虫はドアの隙間からまた暗い足元のほうへ入ってしまい、不平を言いながら僕はまた昆虫をつかもうとさがす。
しかし、靴をどかしたり、ほうきをどかしたり、玄関の明かりをつけたり、いくら捜しても見つからない。
あきらめてあとでまた出てくるだろうと部屋に戻り、ホラー小説を読む気もなくなって、寝る前のタバコの一服。
ベットの横にすわり、タバコをふかすと一瞬呼吸が止まる。
……見つからないわけだ。
緑色の昆虫が自分の右ひざの上にいた。それだけ。
小説は止めなさいと言われて止めていました。これは話ですし、別にそれでなんにもなりませんが、ありがとう。