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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

恋心一つ

作者: 葉月茉莉

あれ?


これって恋なの?


俺、恋しちゃったの?





「恭好きだ」


 俺、笹本恭はいきなり今の今まで幼なじみと思っていたやつ野間浩之に抱きつかれ、自室で押し倒された。


 目の前に拡がるのは、幼なじみの顔と自室の天井。

どちらも見慣れたものだ。


 何で、こんなことになったんだ? と頭を抱える。


それより、俺の頭はパニック寸前だ。

 何が悲しくて、同じ男に。


 しかも幼なじみなんかに押し倒されないといけないわけ?


 ぐるぐるとそんなことを考えていると、目の前に、浩之の顔が迫って来る。


 元々、悔しいことに浩之の方が俺より10センチほど背が高い。

押し退けるなんて。この体格差では無理な話だ。


 ―――キスされる。


 唇まであと5㎝。


 そう思いすんでのところで、俺は首を捻り浩之の唇をかわし、浩之の唇は虚しく俺の頬を掠めた。


 俺は、幼なじみの顔を睨み付ける。


「浩之、お前……冗談にも程があるぞ」

「いや、俺マジだから。もう限界! だからヤらせて。俺、恭と高校が別になって。恭がどっかで、襲われていないか心配で心配で夜も眠れねぇんだよ。だから、ちゃんと恭は、俺のだって確認したいんだ」


 言われた言葉に、頭がついていかない。

暫し絶句する俺。


「はあ?! 意味わかんねーし。襲われるって何? 何でそうなる訳? そもそも、俺がお前のものにならないといけないのも、何でだか全然意味わかんねーし」


 俺の顔は、至って普通。別段女顔じゃない。モテる部類とモテない部類に分けたら間違いなく後者だろう。


対して、浩之は誰が見ても通りすがりの人が振り返ってしまうほど、整った容姿をしている。


 ノンフレームの眼鏡を掛けて。

 天然の色素の薄い茶色の髪はサラサラで。

髪と同じように、透き通るような瞳の色は琥珀色で。

 鼻筋はすっきり通り、形のいい唇にキメの細かい白い肌。



 文句の付け所のない容姿だ。こんちくしょう!

 おまけに、身長に至るまで、180cmと本当に羨ましい限りだ。

 でも確か、俺の知る限り男が好きって訳ではなかったはず。


「だから、俺はずっと恭一筋だったの。分かってる?」


 そう言われて、パニック寸前のもともとあまり廻っていないと思われる頭の考えを廻らせる。


「そう言えば、お前誰とも付き合ったりしたことないよな」


 これだけ整った容姿をしているのに勿体ない。そう何度羨ましく思ったことか。


 今更ながら、その事に気が付いた。


「俺の愛は一方通行だったの?」

「はぁ?! なっ、なんて?」

「だ、か、ら! 俺の愛! まさか……恭、気がついてなかった。な~んて言わないよね?」

 浩之は、にっこり黒い笑みを浮かべる。


 いやいやいやいや。それこそ、まさかだろ! 


 幼なじみな上に俺たち男同士なんだし。幼なじみ以上の愛情を求めていたなんて、知らないってーの。

それこそ、幼稚園の頃からの付き合いなんだぞ。


 第一、俺も浩之もゲイではない。至ってノーマルだと思っていた。


「マジかよ。冗談は、やめろ。いい加減にしねぇと。蹴り上げるぞ、こら」

「あ? 何? 俺の愛を否定するわけ? いい度胸してるじゃん」

 浩之の完全に据わった目が怖い。本気だこいつ。


 頭の中で、俺の警報が鳴り響く。


 その恐怖に油断していた隙に、無防備に晒された俺の首筋をペロリと舐め上げられる。


「あっ……」

「ふふっ。思った通り、恭……感度良いね。嬉しいよ」


 満足気に、浩之が呟く。


「や、やめっ……」


 そんな浩之に抗議しようとした唇は、呆気なく油断した隙に塞がれた。

 いきなり押し倒された上にキスまでされているこの状況。


 俺の頭はもはやパンク寸前だ。


 抗議しようとしていため、開いていた俺の唇に浩之の舌が滑り込んでくる。


段々とキスが、深いものになる。舌を絡め合わせて。

歯列を丁寧に愛撫しながら、敏感な上顎をなぞられ。

唇を啄むように甘噛みされ。


あまりの気持ち良さに、思考がますます纏まらなくなってくる。


 こいつキス上手い。


 甘い痺れが体中に広がっていく。


 快感を追うように。もっと、とでも言うように俺は、浩之の背中に腕を回した。


 くちゅくちゅとお互いの唾液の絡まり合う音だけが室内に響く。


 唇を放すと、お互いの唾液の銀糸が引いた。


「んっ……」


 羞恥に頬を染めながら、俺は、快感の余り蕩けきった瞳で浩之を見詰めた。


「気持ち良かった?」

「……うん」


 俺は、聞かれるまま素直に頷く。


 幼なじみ、その上同性同士と言うことに不思議と嫌悪感は、わかなかった。


最早そんなことは頭の片隅にもなくって。

快感の余韻だけが残っている。


 唇にされた愛撫だけで。

浩之と一つになれたような一体感が生まれる。

俺は、唾液で濡れた唇を指で撫でる。


「俺……、良く分からないけど。浩之のこと好きなのかも。キスも嫌じゃなかったし」


 何とも短絡的な俺の頭。

その言葉に、浩之は満面の笑みを浮かべる。


「その言葉を聞けただけで満足だよ。いきなり、ヤらせて。なんて言ってごめんね」


 そう言って、浩之は俺の上から身体を起こす。


「でも、これだけは忘れないで。恭のことを一番に好きなのは俺だから。他の奴には、絶対渡さないよ」


 そう言って、浩之は俺の頭を一撫でして、俺の部屋を後にした。


「これ以上、ここに恭と二人きりでここにいたら、俺何するかわかんないし」


 そんなことを言いながら。


 いきなりの告白に、俺は浩之の背中を見詰めることしかできず、唖然としままだった。


 情けないことに、さっきの浩之とのキスがあまりにも気持ちよくて。

 俺のモノは勃起していた。

 もう既に、硬く張り詰めて、痛いほど勃起している。


 多分、浩之も気付いていたはず。


 置いてけぼり、所謂お預けを食らったような気分だ。


 浩之が出て行った後、一人残された俺は、ズボンのファスナーを引きおろすと、先走りで滑る自身を取り出し扱きあげた。


 その際脳裏に浮かんだのは、さっきの浩之とのキス。


「ああっ……」

 あらかじめ用意していたティッシュに白濁を染込ませ、

「浩之の馬鹿」

 そう悪態を吐きながら、俺はベッドへと沈んだ。


 翌日、いつもと変わらず浩之は俺を迎えに来てくれる。


 その顔は、何事もなかったかのよう。


 昨日の出来事は夢だったのか?


「恭ー。おはよー」

「浩之、はよ」


 たわいもない話をしながら、途中まで同じ通学路を歩く。


 何時ものように、電車の中で他校の女の子達が浩之に熱い視線を向けるのも同じ。


 本当に、本当に。昨日のは幻の浩之だったんだと納得しかかった。


 それなのに、やっぱり現実だったみたいで。


 俺が、駅で降りた際に、浩之に頬にキスを落とされたことに驚き、再びパニックになる俺。


 ああ、情けない。振り回されてばっかりだよ。


「恭、可愛いから襲われないでね」

 そんなふざけた台詞と共に。

もう一度、俺の頬にキスを落とす浩之。


 もちろんそんなことをすれば嫌でも目立つわけで。


 案の定、周りの奴がぎょっとした視線を向けてくる。

 ちなみにその駅は、俺の通う高校の最寄り駅。


 羞恥のあまり真っ赤になった俺が、周囲に視線を廻らせると何の因果か、見てるの同じ高校の奴らばっかりじゃん。


 中には、クラスメートまでいるよ。

 ああ、視線が痛いよ。浩之の馬鹿やろー。


 そう叫びたくとも、もう電車のドアは閉まっていて。


 浩之にその声は届かない。


 何てことしやがるんだ!


 そう思うものの、なぜか嫌じゃない。


 キスを落とされた頬に掌を充てて。

 するりと撫でると、柔らかい浩之の唇の感触が蘇る。


 公衆の面前で、キスをされても嫌じゃない。


 そんな自分が居ることに気が付くのはもう少し先のお話。


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