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僕と軍人さん  作者: 奏昏343
3/5

3

 



 ……暖かい


 ふわふわとした感覚。

 春の温かさ、あの日のことは何故か強く覚えている。高校一年生で、まだこんなに辛い思いを抱えることも、そんなことすら思ってなかった。


「今日から担任になる、紅神(こうがみ) 竜輝(たつき)だ。授業は歴史を基本担当していく。」


 その名前に違わずとても明るい赤い髪、赤い目をした先生だった。なんとなく、この人が担任になったことに安心と、……ちょっとした不安を感じた。

 安心したのはなんとなく分かる。見た目は優しそうな人で、授業も分からないところはきちんと教えてくれるし。…クラスに馴染めない僕に、優しくしてくれた。

 だからこそどうして不安を感じたのかが分からなかったんだ。


 先生は、大国戦争前から生きている事。当時自分も戦争に参加したこと。英雄と呼ばれる人の側に居たこと。戦争の真実を伝えるために教師になった事を話してくれた。


「先生の事はこれくらいでいいだろう。そろそろみんなに自己紹介をして一一…」


 …クラスメイトの自己紹介が、席順で始まる。そのうち自分も自己紹介をしないといけないのに、ぼんやりしていた。そんな僕に関わらず、時間は過ぎていく。

 ………僕、どうして…




 一一春の温かさが遠のいていく










「…お、本当に起きた。」


 ぱちぱちと燃える火。

 それを囲むように置かれた丸太に座る外套の軍人さんと、起きた僕に近寄る軍人さん。


「ここは…」

「今の俺らの拠点みたいなもん。いやーー悪かった、からかいすぎたな。まさか倒れるとは思わなくてさ」


 丸太に凭れるようにしてたらしく、ちょっと体が痛い。体を起こすと軍人さんが掛けてくれたのか、毛布が落ちた。暖かかったのは焚き火とこの毛布だったのかも。


「…えっと、」

「ん?」

「……その、ご迷惑おかけしました…?」

「いやいや、からかったこっちにも非があるからな。」

「いえ、その…化け物に追い掛けられてるのを助けていただきましたし………森に入った僕が悪いのもありますから」


 毛布を受け取って外套の軍人さんに投げ渡した軍人さん(なんだかややこしい)は「ああ!」と手をぽん、と叩く。なんか漫画みたい…


「そうだよ少年、なんでこんな森の中に居るんだ?」

「おい、火を跨いで投げるな」

「あーごめんごめん」

「少年、この森は危険だって学ばなかったのか?俺らが近くに居たから良いもの、あのままあのバケモンに殺されてたのかもしれないんだぞ」

「……すみません」


 殺されてた、その言葉に今更ながらゾッとする。危険だと分かってて入ったのに、死を直面に持ってこられて初めて理解した。

 それでも…


「少年も起きたし、早めに外に案内するぞ。こういうのは早い方がめんどくない」

「迷子の案内をめんどいって言うな!」

「…………です」

「ん?」

「少年、なんか言ったか?」

「嫌です…」

「……………………」


 外套の軍人さんが立ち上がり、僕に近寄る。


「声が小さいな。もう一回言ってみろ」

「い、やです……」


 近寄る軍人さんの目を見て、はっきり答える。


 彼の被る帽子の奥、オレンジ色の瞳を僕に向けてじっと見下ろす彼の視線は無感情で、とても冷たかった。


 怖くても、僕はあんな所に帰りたくなんてなかった。

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