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……暖かい
ふわふわとした感覚。
春の温かさ、あの日のことは何故か強く覚えている。高校一年生で、まだこんなに辛い思いを抱えることも、そんなことすら思ってなかった。
「今日から担任になる、紅神 竜輝だ。授業は歴史を基本担当していく。」
その名前に違わずとても明るい赤い髪、赤い目をした先生だった。なんとなく、この人が担任になったことに安心と、……ちょっとした不安を感じた。
安心したのはなんとなく分かる。見た目は優しそうな人で、授業も分からないところはきちんと教えてくれるし。…クラスに馴染めない僕に、優しくしてくれた。
だからこそどうして不安を感じたのかが分からなかったんだ。
先生は、大国戦争前から生きている事。当時自分も戦争に参加したこと。英雄と呼ばれる人の側に居たこと。戦争の真実を伝えるために教師になった事を話してくれた。
「先生の事はこれくらいでいいだろう。そろそろみんなに自己紹介をして一一…」
…クラスメイトの自己紹介が、席順で始まる。そのうち自分も自己紹介をしないといけないのに、ぼんやりしていた。そんな僕に関わらず、時間は過ぎていく。
………僕、どうして…
一一春の温かさが遠のいていく
「…お、本当に起きた。」
ぱちぱちと燃える火。
それを囲むように置かれた丸太に座る外套の軍人さんと、起きた僕に近寄る軍人さん。
「ここは…」
「今の俺らの拠点みたいなもん。いやーー悪かった、からかいすぎたな。まさか倒れるとは思わなくてさ」
丸太に凭れるようにしてたらしく、ちょっと体が痛い。体を起こすと軍人さんが掛けてくれたのか、毛布が落ちた。暖かかったのは焚き火とこの毛布だったのかも。
「…えっと、」
「ん?」
「……その、ご迷惑おかけしました…?」
「いやいや、からかったこっちにも非があるからな。」
「いえ、その…化け物に追い掛けられてるのを助けていただきましたし………森に入った僕が悪いのもありますから」
毛布を受け取って外套の軍人さんに投げ渡した軍人さん(なんだかややこしい)は「ああ!」と手をぽん、と叩く。なんか漫画みたい…
「そうだよ少年、なんでこんな森の中に居るんだ?」
「おい、火を跨いで投げるな」
「あーごめんごめん」
「少年、この森は危険だって学ばなかったのか?俺らが近くに居たから良いもの、あのままあのバケモンに殺されてたのかもしれないんだぞ」
「……すみません」
殺されてた、その言葉に今更ながらゾッとする。危険だと分かってて入ったのに、死を直面に持ってこられて初めて理解した。
それでも…
「少年も起きたし、早めに外に案内するぞ。こういうのは早い方がめんどくない」
「迷子の案内をめんどいって言うな!」
「…………です」
「ん?」
「少年、なんか言ったか?」
「嫌です…」
「……………………」
外套の軍人さんが立ち上がり、僕に近寄る。
「声が小さいな。もう一回言ってみろ」
「い、やです……」
近寄る軍人さんの目を見て、はっきり答える。
彼の被る帽子の奥、オレンジ色の瞳を僕に向けてじっと見下ろす彼の視線は無感情で、とても冷たかった。
怖くても、僕はあんな所に帰りたくなんてなかった。