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森には入ってはいけない。
神隠しに遭ってしまうから。
それは子供に言い聞かせるおとぎ話のようなものだった。
神隠しなんて誰も信じていないけれど、もちろん入ってはいけない理由はある。
今から100年近く昔の大国戦争の最大の戦場がその森の中だった。終戦後当時の物が未だに捨て置かれている、とかなんとか。後は、魔物が出るらしい。生まれてこの方見た事…無い、けど。(それらしいのに襲われはしたが)
だからなのか、この国は世界で一番発展しているのに、大陸の三割を占める広大で危険な森に手をつけないまま放置している。
森の近くに電車も走っていて公道もあるのに誰も中に入らない。入れないように鉄柵でも作ればいいのに、それも特に無い。
今は魔物も出ないし、危険も無いと判断された為だった。
神隠しの話はそこに繋がる。戦後少し後にとある学生が近道をしようと森に入り、一ヶ月行方不明になったらしい。怪我も無く無事に帰ってきたその学生は、行方不明の時の事をよく覚えていないらしかった。ただ、一ヶ月も経った感覚は無かったと証言した、らしい。
その後にふざけて入り込んだ子供や大人が行方不明になり、暫くして見つかるという事が相次いでからは神隠しと呼ばれて森に入ろうとする人間は居なくなった。
森なんてただでさえ不気味なのにそんな話が流れたら、目的が無い限り恐ろしくて入らなくなるのは当たり前だろう。
それでも、やっぱり森に入る人間は居るのだ。
自分のような、からっぽで行き場の分からない人間が。後の事なんて何も考えずに。
だからこそ、ここに人が居るのはありえないのだ。
「…え、エルフ?」
戦争当時から生きている先生は、「あの森にはもしかしたらまだエルフがいて、結界をして人を追い返してるのかもしれない」と言っていた。そうじゃない可能性の方が高いらしいけれど。
「お前の目にはそう見えんのか、眼科に行った方がいいぞ」
「じゃ、ないなら、ここにどうして人が…?」
そう聞くと、外套を着ている方の人がニヤ~っと、嫌な顔をしてぶつかってしまった人の方に「おいおい俺たちの正体が分かんないみたいだぜ~?」と寄っていく。ぶつかった人も「おやおや~これはこれは~?」とか言っている。
…見たところいい大人なのに、こんなふざけて何をしているんだろうか。
白い目でこのでかい子供二人を見遣る…と、え?
ぶつかった人の、化け物を切ったその人の外套からちらりと見える、俗に言うミリタリーっていうか、その服は…
二人は、面白いと思っている顔を隠さず、口元に手を当ててそのまさかを口にする。
「こんな森の中に"居る"のなんて…」
「幽霊に決まってんだろォ?」
理解出来ない物事が起こりすぎた僕は、キャパオーバーをしてそのまま気絶した。