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疑惑から確信へ

ここはメタリカーナ国が誇る、世界でも名の通った由緒あるメタリカーナ国立魔法学校である。


魔力を持つ人口が減ってしまったことにより、世界中で幾つもの魔法学校が廃校へと追いやられた。

何百年もの歴史があるこの学校も一度は閉鎖されてしまったのだが……

魔法を自在に扱える魔導師が年々減っていく現状に危機感を抱いた政府により、今年から再び、多額の資金を投入して国内外の有望な少年少女達を集めて開校する運びとなった。



久しぶりに聞く子供達の希望溢れる明るい声に、完全に冷えきっていた心が緩やかに動き出す……


高くそびえ立つ校舎のさらに一番上にあるベル塔も、生き返ったかのように毎日時間を告げる鐘を鳴り響かせていた。


私もこの学校の生徒であった。

このカランカランとした雄大な鐘の音を再び聞けるとは思いもしなかった。

私の居る部屋はそのベル塔の真下にあり、この広大な学校の敷地内のちょうど真ん中に位置していた。



私は長年、ずっと一人でここに閉じこもっていた。





部屋へと続く長い廊下を誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。

目を瞑るとピピ先生の姿が瞼の裏に映った。

いつも優し気なお顔立ちなのに、珍しく険しい顔つきをしていること。

ピピ先生は大きな扉の前で立ち止まると息を切らせながらノックをした。


「お休みのところ申し訳ありません。すぐさまお伝えせねばならぬことが起こりまして……」


私は24時間魔法を発動し続けなければならない。

だから決して休むことなど許されないのだ。



「入りなさい。起きているわ。」



私はこの魔法学校の校長、テンチム魔導師である。

若い頃は魔法界の三剣士と呼ばれたほどの実力の持ち主であった。

今は年老いて柔和な印象のおばあさんになってしまったけれど、魔法の腕前の方はまだまだ健在だと自負している。


「実はおよそ100人ほどの生徒が寮からいなくなったと連絡が入りまして…敷地内のどこかに居るとは思うのですが……」

「その子達なら東の塀から穴を開けて抜け出して行ったわよ。」


私の言葉にピピ先生はポカンと口を開けた。


「え、えぇえっ??穴なんてどうやってっ?!す、すぐに連れ戻します!!」

「およしなさいな。」


また走り出そうとするピピ先生をやんわりと引き止めた。


「大方街に出たんでしょう。朝になれば帰って来るわ。ふふっ、最近の子は随分とやんちゃね。」



学校を取り巻く2つの巨大な魔法は生徒達を閉じ込める為にあるわけではない。

はしゃいでいる生徒達を可愛く思い、ロープを貼った部分だけ魔法を解いてあげたのだ。

あの魔具は物資や威力の弱い魔法は通れる様だが、私の魔法にまで穴を空けることは不可能だったのだ。



「それより、頼んでいた魔薬の材料は揃ったのかしら?」

「いえ…黒オオトカゲの目玉がまだでして、近日中には届く手筈となっております。」



ピピ先生は直立不動で答えた。

どうも彼は私のことを雲の上にいるような憧れの存在に思ってくれているようだが、無駄に恐れてもいる。

もっと肩の力を抜いて接してくれてもいいのに……



「しかしいったい誰が医務室からナ・オールの傷薬を盗んだのでしょうか?テンチム校長にしか創れない希少な魔薬なのに…懲こらしめないといけませんね。」



私はそうねえと曖昧な返事を返した。

机に置いてある鳥カゴの中で、小鳥がバタバタと激しく羽根をはばたかせた。


「ピピ先生はもう休みなさい。遅くまでご苦労さま。」


ピピ先生は深々とお辞儀をすると部屋から出て行った。

鳥カゴを片手に持って部屋の窓を開け放つと、月明かりに照らされた学校内が遠くまで見渡せた。


交流会と称してこんな日に夜の街へとくり出した生徒達。

行ってらっしゃいと見送たものの、気がかりなことがある……



私はカゴの中の緑の小鳥を夜空へと開け放った。

小鳥は勢いよく外へと飛び立って夜空に大きく円を描くと、街の方へと消えて行った……


























俺は繁華街のクラブに来ていた。

けたたましい音楽が鳴り響き、薄暗い店内はミラーボールやチカチカしたライトに照らされて目も耳もバカになるくらいに騒がしかった。

みんな踊ったりお酒を飲んだりおしゃべりをしたりして、日頃の勉強漬けによるストレスを発散していた。


どこの国でも街でも、若者が集まる店というのはギラギラとエキサイティングしているもんだ。



店には行かずに国境に向かおうと思っていたのに……

ココアに道そっちじゃないよ〜と見つかり、方向音痴だと思われたのか手を握られて店まで連れて来られてしまった。

子供扱いしやがって……

頃合いを見てからこっそり外に出よう。

明るくならない内にこの国から抜け出さないと……


カウンターで煙草を吸いながら酒を飲んでいると、クラスの派手な女子グループが話しかけてきた。


「ねえツクモ君。シャオン君に話しかけたいんだけど、どうしたらいい?」


シャオンは店に入ってからずっと、一人で壁際にある小さな丸いテーブルで頬杖をついていた。


「そんなもん普通に話しかけりゃあいいだろ?」

「それが出来ないから困ってるんだって〜!」


さっきからいろんな女子がシャオンにアタックしようと頑張ってはいた。

でも…人を寄せ付けない高貴なバリアに近づくことさえ出来ずに撃沈していたのだ。

女子達があーだこーだと俺にアドバイスを求めてくる……


……知るかよ。

シャオンと仲良く喋れる方法があるなら俺の方が聞きてえわっ。

喚く女子達にションベンしてくると言って席を立った。


ここから国境までは北に歩いて一時間ほどだ。そろそろ行かないと……





チャラい男達がニヤニヤしながらシャオンを指さして話しているのが目に入り嫌な予感がした。

シャオンへと近付いていく男達を後ろから追いかけた。



「ねえ彼じょ……」

「シャオンっ!!」



俺はその間になんとか割り込んで被せるように大声を出した。

こいつら…やっぱりシャオンを女と勘違いしてナンパしようとしてやがったか……

シャオンがキレてこんなとこでデンデでもぶっ放してみろ。みんな揃って店から追い出されたあげく学校にもバレて強制送還だ。


俺がシャオンの彼氏だとでも思ったのか、チャラい男達は他の女の方へと去って行った。ホッ……

シラーとした顔のシャオンと目が合った。

なにしてんだって顔で見てんじゃねえよ……誰のせいで焦ったと思ってんだ。

だいたいこんな店で自分の世界に閉じこもってアンニュイに浸ってんじゃねえわ!



「シャオン…何か飲むか?」

「いらない。」


喉が渇いてないかと思ってわざわざ聞いてやったのに、腹の立つ野郎だ。



「じゃあ何か食べるか?」

「いらない。」


「ダンスでも踊るか?」

「踊らない。」


「女でもナンパしに行くか?」

「行くわけないだろっ!」



シャオンはしつこいと言うように、頬杖をついていた手を振り下ろしてテーブルに叩きつけた。


「おまえってなんの為に交流会に来たんだっ?」

「君は質問が多いな。」


苛立ちながらそう言うと、何枚かの新聞のコピーを取り出して俺に投げつけた。



「ここ半年ほど、満月の日に人が殺されている。」



は?殺人事件……?

新聞に書かれた記事にざっと目を通してみると、それはどれも恐ろしいほどの残忍な手口で殺されていた。

場所は隣国まで広範囲に及び、被害者も男だったり女だったりとバラバラだ。

とても関連性があるようには思えない……

全部が満月の日に起こっているということ以外は……


今宵は満月だ──────……


シャオンが今日参加したのはこの事件を追うためだったのか?

つまり…シャオンはこれが奴らと関係していると思っているのか……?




「悪いがこれから別行動をするとココアに伝えといてくれ。」




そう言って立ち去ろうとしたシャオンの腕を掴んだ。

この犯人にシャオンが殺される可能性が高い。

でもそれを、俺はシャオンにどう説明すればいいんだ……?


シャオンは無言で俺の腕を振りほどいた。


俺はシャオンの紅い瞳を見た時から、どうしても胸に引っかかっていることがあった。

それを確かめることは俺にとってはなんの得にもならない。

むしろ……この危険な状況から一刻も早く逃げたいと思っている俺にとってデメリットにしかなり得ない。


それでも、離れていくいくシャオンを引き止めたくて、後ろ姿に向かって投げかけた。



「シャオン!おまえ、胸にハート型の印がないかっ?」



シャオンの足がピタリと止まった。

心臓が耳のすぐそばで鳴っているかのようにバクバクと鼓動する……

立ち止まるシャオンにゆっくりと近づいた。




シャオンの人を惹きつける類まれなる美貌。

他を逸脱した凄まじいまでの魔力……


そして何より、

女に戻った時のあの瞳の紅い色──────……



俺の記憶にひとつだけ、思い当たる節があった。







「……シャオンおまえ……魔女だろ……?」







シャオンの背中からはなにも読み取れない。

今、どんな表情をしているのか……

真っ直ぐに前を見つめるシャオンからは伺うことが出来なかった。




「……違う……」




絞り出すようにそれだけ言うと、シャオンは店から出て行った。

シャオンのその態度に、俺の最悪な予感は確信へと変わった。





シャオンは魔女だ……───────





奴らが魔女の存在を知って放っておくわけがない。

捕まったら死ぬより何倍も辛い目に合わされるかも知れないってのに……

シャオンはそれを分かっちゃいない。








「……ああもうマジかよ。勘弁してくれ……」



踏み込むんじゃなかったと激しく後悔した。














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