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誇りに思う

可愛くねえ可愛くねえ可愛くねえ!!!

なんで俺はこんな可愛くねえ女を好きになっちまったんだ?!


でもその可愛くねえところが猛烈に可愛かったりするんだ。

現に今も…怒った顔で言い返してくるシャオンを可愛いとか思っちまってるしっ……

なんだこの矛盾っ?なんでこんなチェリーボーイみたいな思考回路になってんだっ?!

誰か俺の後頭部を頭蓋骨が砕けるくらいぶん殴ってくれっ!




「全く……こんなとこでケンカするなんて大した度胸ね。」




………えっ…ばあさん……?


あれっ、ここって…学校の校長室?

シャオンとの言い合いにムキになり過ぎてここがどこだかすっぽり抜けてしまっていた。


「テンチム校長?!なんでっ……学校の防御魔法はどうなってるんですか?」


シャオンが驚いて声を上げた。

そうだ、ここは烈士団の本部がある離島だ。学校からは遠く離れている……

東の門を守るばあさんがいないと、荒地に巣食う魔物が侵入してくるかも知れないのだ。



「私がティーチ博士を学校に呼んだのはなぜだと思う?」



ティーチ博士は魔具創りの鬼才だ。

そう言えばばあさんから頼まれている魔具があると言っていた。

そうか…ばあさんの代わりに防御魔法を行うための魔具だったんだ……


「まだ試作段階で一時間くらいしかもたないのだけれど、充分だわ。」



ばあさんは周りにいた烈士団達にぐるりと睨みを利かせたあと、威厳に満ちた声を響かせた───────





「この二人は私が校長を務めるメタリカーナ国立魔法学校の生徒よ。手出しすることは、この私が許しません。」





どういうことだと団員達がザワつき始めた。

それもそのはず…今回の魔女狩りの大義名分は、娘を無惨に殺されたばあさんのための弔い合戦だった。

魔女であるシャオンが人間の魔法学校に通っていることも前代未聞だ。


幹部の一人と思われる年老いた団員が慌てた様子でばあさんの前に駆け寄ってきた。


「しかし我々人間の魔力は薄れてきています。始まりの儀式を行わないと、このままでは魔物にいいように支配されてしまいます!」

「そうね…その危惧はある。でも彼らを見て、なにか感ずることはない?」


その場を取り囲んでいた全ての団員達が、俺とシャオンに注目した。

中には魔物によって仲間や家族を殺された者もいるだろう……

しかしどの団員も、比較的好意的な目をして俺達を見つめていた。




「この子達は魔物だけれど、烈士団の一員として私達人間を何度も助けてくれたわ。確かに…悪さする魔物もいる。でも全てを悪とするのではなく、彼らのような魔物と協力していく世界をこれからは築いていくべきではないかしら?」




ばあさんからの思いもよらない提案に、どよめきの声が上がった。

魔物と分かれば躊躇なく殺せと教えられていた連中だ。当然の反応だろう。

ジョーカーだって黙っちゃいない。



「随分大層な綺麗ごとだな。今まで散々好き勝手に魔物や弱い立場の人間を食いもんにしてきたのはあんたらのくせに、その尻拭いを俺達の代にさせる気か?」


「そうね……ジョーカー。今はあなたが総長よ。古き烈士団の悪例に縛られずに、あなたはあなたの考えで正直に生きなさい。」



ジョーカーはばあさんを馬鹿にしたように鼻で笑った。


「あなたの考えねえ…俺はイカレてると評判の総長なんだが、好きにしろってか?」

「ジョーカー…無理して悪ぶらなくてもいいわ。あなたは歴代の総長の中で一番優しいし、良い男だわ。」


ばあさんからの予想外の切り返しにジョーカーは面食らった。

言い当てられてしまったのだろうか……ジョーカーは不覚にも頬が赤くなってしまったことに小さく舌打ちをした。




人間と魔物が協力し合える世界───────


ヴァンパイアと人間とのハーフでずっとどっちつかずの生活を送ってきた俺にとって、そんな世界が本当に訪れるとしたら夢のようだ……

今までの歴史からしたら雲を掴むような話なのに、クィーン魔導師と恐れられたばあさんが言うと急に現実味を帯びてくる……



「とにかくこの子達はこのまま連れて帰ります。異存はないわね?」



俺達に行くわよと言ってばあさんは歩き出した。

シャオンの近くにいた団員が行かせまいとしたのを、ジョーカーはよせよせと言って止めた。

ばあさんはジョーカーはイカれた野郎だが誰よりも人の痛みが分かる男だとも言っていた。

俺にも、そう悪い奴ではないように思えてきた……



「クィーン魔導師…言っとくが今は俺が上司だ。あんたの絵空事に付き合ってもいいが、その代わり俺の下でこき使う。いいな?」


「ええ。困った時はいつでも命令してちょうだい。これからは直ぐに駆けつけるわ。」




取り囲んでいた団員達を押しのけるようにして大きな飛行艇が不時着してきた。

運転席にいたクマが笑顔で手を振っている。

この飛行艇…ロケットが詰むような高馬力のジェットエンジンを搭載してやがる……

魔具の効果時間がたった一時間でどうやって学校と本部を往復するんだろうと思っていたけれど、こんなすげえ乗り物があったとは……

だったらシャオンを追いかける時に俺に貸せってんだ。



「ああ、そうだ魔女。言い忘れていた。」



飛行艇に乗り込もうとしていたシャオンにジョーカーが声をかけてきた。



「あの時の奴隷の子供達は死んではいない。俺が仮死状態になる薬に入れ替えたからな。今は全員ピンピンしてるよ。」


「……僕を騙したのか?」


ああそうだとジョーカーが頷くと、あろうことかシャオンがジョーカーに抱きついた。



「ジョーカー、君は良い奴だっ!」



ちっとも良くねえ!!すぐさまシャオンを引っぺ剥がした。

子供が生きてたことが嬉しいのは分かるが抱きつく相手が違うだろっ!

ハゲも照れてゆでダコになってんじゃねえ!!










飛行艇が飛び立つと総長を含めた団員全員が背筋をピンと伸ばし、右手をこめかみにあてて敬礼をしながら見送っていた。

まるで俺達が国宝級の客人だったような扱いだ。


散々な目に合わされた俺とシャオンにとって、それはとても異様な光景に見えた。



ばあさんが現れてちょこっと話をしただけでなんなんだこの180度の変わりようは……

俺はこの二日間で心臓を二回も十字架で刺されて水攻めにもあって六分割にまでされて…一生分かってくらいの痛みを味わったっていうのに……

結局最後はシャオンを取られそうになっちまうし。

情けねえ……



「はあ〜ぁ〜……」



……ったく、くたびれ過ぎてため息しか出ない……


















ツクモは体を酷使し過ぎたのだろう…窓の縁に頭を乗せて熟睡していた。

このふた晩、寝ずに僕のことを探し回ったりもしてくれたからな……

いつも頼りがいのあるツクモなのに、安心しきって眠っている寝顔は子供みたいに幼く見えた。


ついさっきまではツクモと別れて一人で死ぬことさえ覚悟していたのに……



戻れるんだ……

ツクモとまた一緒に────────……






感傷に浸りながら、向かいの席に座っているテンチム校長に視線をうつした。


ツクモは母が死んでしまったあの日の真相についての全てをテンチム校長に話した。

リハンを殺した真の黒幕は俺と同じヴァンパイアであったのだと……

大っ嫌いなクソ野郎だったけれど、一応は自分の兄がやったことだから謝っておくと言って頭を下げた。



テンチム校長は表情を崩すことなく、そう…と一言いったきりずっと黙ったままだ。




どう、思ってるんだろうか……


僕のことを───────……





下の娘は僕の宿主となって死に、上の娘も僕によって人生を狂わされ、殺された。


僕がいなければ二人とも死ぬことはなかったのだ。






テンチム校長は僕と視線が絡むと、目尻のシワをくしゃっと下げて微笑んだ。


「なあに?シャオン。さっきからなにか言いだげね。」

「あの…どうして僕を助けてくれたのですか?あなたに恨まれていても仕方がないのに……」


今回のことだけではない。

冷静になって客観的に考えれば分かる……

学校に入ってからずっと、危なっかしい僕のことを陰から見守ってくれていた。

真実を伝えなかったのも、僕を傷付けたくなかったからだ。



「正直に言うと、あなたを恨んだこともあったわ。」



テンチム校長の言葉にズキリと胸が傷んだ。

分かっていたことなのに……いたたまれなくて顔を下に背けた。



「魔女を身ごもったのは不運なことだった。でもアイリスは、お腹の子に愛情を感じて自分の命と引き換えてでも産んで上げたいって思ったの。」



テンチム校長は僕の手を取ると、そっとなにかを手渡してきた。

それは…あの翡翠のペンダントだった────……



「リハンもそう…烈士団から追われることも殺されることも覚悟の上であなたを連れて逃げた。そして死んでもなお、あなたのことを守り抜いてる。」



母が僕の正体を隠すために創ってくれたペンダント……

戦闘によってひび割れていたのに……

こんな複雑なものを、直してくれたんだ……



「……ありがとうございます……」



ペンダントを握りしめて泣く僕の肩を、テンチム校長は優しくさすってくれた。



「シャオンが後ろめたく思うことはなにないわ。むしろ、二人の母を誇りに思いなさい。」




……誇りに──────


母も同じことを言っていた。

自分の過去のことなんて一切話さない母だったけれど、一度だけなげくように言ったことがあった。

今なら自分のことを厳しく育てた母の気持ちが身に染みてよく分かると……


魔導師としても母としても、とても立派で……

誇りに思うと──────……





「リハンの敵を討ってくれてありがとう。さすが私の孫ね。」





そう言って微笑むテンチム校長と母の面影が重なった。

こんな世界だからこそ将来一人でも強く生きていけるように……

愛情があるからこそ、厳しく育てるんだ。



「あのっ……テンチム校っ……」



寝ているツクモがゴロンと僕の膝の上に頭を乗っけてきた。

「ちょっ…ツクモ?!」

慌てる僕を見てテンチム校長はふふっと笑うと、私も操縦を手伝ってこようかしらと言ってコクピットへと移動していってしまった。

ああ…もっとテンチム校長と話をしたかったのに……

ツクモの頭をペシリと叩いた。



「……シャオンあぶねえ…そっち、いくな……」



ツクモがむにゃむにゃと寝言を言っている。

夢の中でも僕のことを守っているのだろうか……


ツクモの髪の毛って…フワフワしてて柔らかいんだな。






窓の外を眺めると、雲の隙間から漏れた光が帯となって下界に降り注いでいた。

キラキラしていてとても綺麗だ……



こんな日がくるとは思わなかった。



何もかもが温かい……

穏やかな気持ちだ。








長かった夜もいつかは終わる。


あの日から解放されて、やっと……




まっさらな一日が始まるんだ──────……












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