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魔法レベル3

魔法には大きく分けて二種類ある。


火、水、氷、雷などを具現化して相手を倒す攻撃魔法。

防御、治癒、封印、浮遊などの攻撃以外の特殊魔法だ。



魔法を出すには相性というものがある。

それはそれぞれが持つ魔力にはオーラというものが宿っているからだ。

たぎるようなオーラの魔力を持つ人は火系の魔法が得意だし、穏やかなオーラの魔力を持つ人は水系の魔法が得意だったりする。

火系のオーラだからといって水系の魔法が使えないわけではない。

自分の魔力を使う魔法に合わせて上手く操れさえすれば、どんな魔法だって使えるのだ。


同じ魔法・同じ魔力の大きさでも、どれだけの威力が出せるかは魔力の質に比例している。



要は慣れだ。


魔法は1日にして成らず。

毎日毎日鍛錬するしかないのである。













教科書ばかりの退屈な授業もようやく終わり、いよいよ魔法を実際に扱う実技指導が始まった。

まあみんなは頑張って魔導師を目指せばいい。

俺は今日は天気が良いから屋根の上に寝そべって昼寝でもしよう。

て、いつものごとくサボろうと思っていたのに……



「おやおやツクモ君どこ行くんだい?なに?魔法書がない?じゃあ先生の予備のをあげるから頑張ろうね。」



ニッコリと笑いながら有無を言わさず分厚い魔法書を手渡された。

入学式の日に具合が悪いのかと俺に話しかけてきた先生で、確か……ピピって名前だった。

気の弱そうな優男な見た目なのに、どうやら今日から始まる攻撃魔法専門の先生らしい。



魔法書は魔法を練習する上で欠かせないものだ。

基本的な魔法が載っているだけの薄っぺらいものでもとても高価だったりする。

なのにこんなぶっといのを簡単にくれるだなんて……おかげでサボりづらくなってしまった。




「まずは君たちには魔法書を使って火系の魔法を出せるようになってもらうよ。」


教壇に立つピピ先生をみんなが固唾を呑んで見つめている。

ピピ先生が火炎魔法のページに描かれている魔法陣に手をかざして〈フレア〉と唱えると、焚き火のような炎が出た。

〈フレア〉は初心者向けのとても使い勝手の良い魔法である。

慣れてくると大きさはもちろん、形も自由自在に変えれるのだ。



「魔法書を使って魔法を出すのがレベル1。そしてこれがレベル2だ。」



ピピ先生は魔法書を閉じて右手を前に上げ、意識を集中させた。

すると手の平から魔法陣が出現し、同じく〈フレア〉と唱えると炎が吹き出た。


「魔法陣の色、形は各魔法によって異なる。それを一つ一つ細部にいたるまで覚え、深く念じることで魔法陣を自分で創り出せるようになるんだ。」


レベル2の魔法を目の前で見るのは初めての生徒も多く、みんな食い入るようにピピ先生の手元に注目していた。



「レベル3になると唱えるだけで魔法が出せるようになる。」



ピピ先生は魔法を出していた手を握り、炎をかき消した。


「まぁレベル3まで行けるのは限られた魔導師だけだから先生には無理なんだけどね。ではみんなも各自でやってみよう。」


ピピ先生の合図とともに、みんな机の上に魔法書を開いて手をかざしながらブツブツと唱え出した。

魔力があるからといっても直ぐに出せるものではない。




にしてもレベル3、ねぇ……


俺は横にいるシャオンを盗み見た。

シャオンは魔法陣に手をかざし、目を閉じて集中しているが炎はチョロっとも出ていない。

あの日……シャオンが俺に出した電撃魔法は明らかにレベル3だった。

あんな高度な魔法は出せるのに、こんな初歩的な魔法を出せないだなんて……


これは演技なのか?

だったらなんのために……?

つくづく、訳が分かんねえ奴だ。



みんなが最初に炎を出したくて躍起になっている中で、俺のすぐ後ろの生徒が最初の炎を上げた。

それは1cmにも満たない鼻くそみたいな炎だったが、出した生徒は得意満面だった。


「僕の魔法書は貴族のみが持つことを許されている由緒正しき書だからね。これくらいわけないよ。」



魔法書とは魔法を使うための道具、魔具である。

魔具にも大きく分けて二種類ある。

自分の魔力を注いで使う放出式タイプの魔具と、元から魔力が注ぎ込んであり、魔力を持たない人でも使える使い捨てタイプの魔具だ。


魔法書は放出式で、金さえ積めば高価なものが買えて自分の実力以上の力が出せたりする。


「おや、君のは随分貧相だね。これだから金のない庶民はかわいそうだ。」


横の気の弱そうなデブに失礼なことを言う。

いるんだよな…こういう勘違いをする馬鹿が。

魔法書なんてもんはあくまでもレベル2で魔法が出せるようになるための単なる道具なのに……

その馬鹿なボンボンは前の席にいるシャオンの魔法書に気付いた。



「君のは高そうだけど古くて汚いね。」



言われたシャオンは無反応だったのだが、ボンボンはさらに続けた。



「それにその装飾派手すぎやしないかい?ゴテゴテ過ぎて品がない。女の子みたいな君にはぴったりかも知れないけどね。」



そう言い終わるか終わらないうちに、デブの魔法書から強力な火柱が音を立てて天井まで吹き上がった。

ボンボンは前に身を乗り出していたもんだから服の裾にその火が燃え移ってしまった。


ギャーギャーと情けない声を出しながらボンボンが床を転げ回ると、みんなは悲鳴を上げて逃げ惑った。


「うそだろぉ!なんで僕にこんな魔法〜っ!!」


デブは自分がしでかしたことで泣きわめいていた。

ピピ先生が慌てて流水魔法を唱えたのだが焦ったのだろう、必要以上の水の多さに大洪水になってしまった。

教室は完全にパニック状態だ。






──────俺は……


火柱が吹き上がった時の、シャオンのわずかな指の動きを見逃さなかった。

















シャオンには日課がある。

それは毎朝誰よりも早く起きて身支度を整え、寮に届く新聞を借りて庭で読むことだ。

俺も今日は早起きをして、庭にある屋根付きのベンチに座っているシャオンに話しかけた。


「昨日のフレア、おまえの仕業だろ?」


少し離れた女子寮の窓から、シャオン君たら今日も素敵〜っときゃあきゃあ騒いでいる声が聞こえてきた。

チッ、朝っぱらからモテてやがる。

シャオンは周りのことに興味を示さない。

いつも何を考えているんだか、ポーカーフェイスな表情からは全く読み取れなかった。


「前に俺に食らわした電撃魔法って〈デンデ〉だろ?」


シャオンは新聞から目を離し、チラリとこちらを見た。

鮮やかなグリーンの瞳に捕らえられた気がして背中がゾクリとした。



「場所を変えよう。」




俺達はまだ人気のない校舎の裏へとやってきた。

なんだろう……人のいない学校にシャオンと二人っきりだと思うと妙にドキドキしてしまう。

決して変な気が起きているわけじゃあないっ。

とにかく…とっとと聞いて、とっとと終わらせよう。



「鳴り物入りで入学してきた割にはいまいちパッとしねえな。おまえ、力をセーブしてるんだろ?」



シャオンは校舎の壁にもたれかかりながら黙って俺の話を聞いていた。

さっきからずっと無表情で、眉ひとつ動かさない。


「あん時出したデンデは明らかにレベル3だった。魔法書から馬鹿デカいフレアも出せるし、おまえって何の目的で入学したんだ?」


シャオンは眉を少ししかめて目を瞑ると、うんざりしたように長いため息を付いた。





「────君も……」



長い沈黙のあと、ようやくシャオンが重たい口を開いた。



「一日中サボってばかりだし、たまに授業に出ても寝ているし、忘れ物ばかりする。まるで小さな子供みたいだ。」

「う、うるせえ!俺は元々こんな学校来たくなかったんだよ!サボるのは昼間が苦手ってのもあって……てか、俺のことはどうだっていい!!」



何で俺はこんなにイラついてんだ?

こんな面倒くさいことに自分から首を突っ込むなんて……

こーんなツンツン野郎、放っておけばいいのにっ。

シャオンに尋問のように問いかけている自分が嫌になってくる。

ぐお〜っと頭を掻きむしる俺を見て、シャオンはまたため息を付いた。



「レベル3で出せる魔法は君に放った電撃魔法のデンデだけだ。母から身を守るためにと子供の頃に叩き込まれた。」



どんな風にされたら子供がレベル3の魔法を使いこなせるようになるんだよ……

鬼のような形相をしたシャオンの母親が浮かんだ。


「フレアはあの授業で初めて習った。後ろの生徒が気に触ることを言ってきたから手元が狂った。」


気に触ることって……

ボンボンに女の子みたいって言われたことか?

なんだよ…シャオンて結構ナイーヴだな……

しっかし、手元が狂ったからって他人の魔法書から炎出すか?

いくらなんでもノーコンすぎるだろっ。


「僕はただ魔法が学べればそれでいい。この学校で優秀な成績を残すことに興味はない。もういいだろ。」



予鈴を告げる鐘の音が、高々とそびえ立つ校舎のはるか頭上にあるベル塔からカランカランと鳴り出した。

校舎へと向かうシャオンの後ろ姿が小さくなっていく……

みんな優秀な魔導師になりたくてこの学校に入ってきたっていうのに……


俺はポケットから煙草を取り出し、ゆっくりと吹かした。



「……変な奴。」



まあ俺も、他人のことは言えないか。




にしても……


初めてであんなどデカい炎を出せるなんて……

シャオンてどんだけ潜在能力秘めてんだ?













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