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序幕


僕の、思い過ごしだったか……



僕はメタリカーナ国立魔法学校にある図書室に来ていた。

ここには何万冊もの書物が置いてあり、多くの学生が調べものをするのに利用している。

僕達に関する魔物系のものまで置いてある。

といっても…地下空間にあったようなものとは違い、都市伝説程度の情報だったりファンタジーでの登場人物くらいなものなのだけれど……


ドラゴンとの大爆発であの地下にあった大量の書物は復元できないほどに炭と化してしまった。

まだ読んでない本もたくさんあったのに…非常に残念だ。



今日はテンチム校長のことについて調べにきていた。

昔は魔法界の三剣士に数えられていてクィーン魔道士と言われるほどの有名人だった人だ。彼女のことを記載した書物はこの図書室にもたくさんあった。


本名、テンチム・リシャール。表向きの職業は魔法学校の教育者であり、凄腕の魔導師だ。

娘が一人いるとあってもしやとは思ったのだが、載っていた名前も写真の顔も、僕の母とは違っていた。




あの時──────……


ツクモを探していて心が折れそうになった僕をテンチム校長は力強く戒めてくれた。

その声や姿が母と瓜二つで血の繋がりのようなものを感じたのだが……



僕はもう一度50年前の卒業アルバムを見た。

テンチム校長もここの卒業生だったようだ。

若々しい姿で写るテンチム校長の写真の下には、旧姓であるテンチム・バトラスと書かれていた。


母の名前はリハン・ドゥ・アルディだ。


テンチム校長の家系図も調べて見たけれど、母の名字と同じ人は親戚を辿っていってもどこにもいなかった。

やはり関係性はないのか……



思えば僕は母のことをなにも知らない。

母の両親のことや兄弟がいたのかさえ、なにも聞かされていなかったからだ。


将来自分のことを探られないように、あえて情報を与えなかったのだろうか……

名前も…本名なのかどうか──────



やるせなくなってきて、ぼんやりと窓の外にうつる風景に目をやった。

高い木の枝に緑色の鳥が1羽とまっているのが見えた。

こないだ中庭で新聞を読んでいる時に餌をあげた小鳥かな…… ぷいっと飛んでいって食べてはくれなかったけど。





「シャオン君。」



席を立とうとしたらクラスの女の子達に呼び止められた。

最近僕は女子に限らずクラスのみんなから話しかけられることが増えた。

「あのっ明日のテストで分からないところがあって…良ければ教えてくれないかなって思って……」

ココア曰く、僕の雰囲気が柔らかくなったからだそうだ。

僕自身は全く意識したつもりはないのだけれど……


「僕でわかるところなら教えてあげるよ。どこ?」


女の子達の顔がパアっと明るくなって、持っていたノートを競うように一斉に広げてきた。



「……出来たら一人ずつ見せてくれる?」

「そ、そうだよねっ!やだあ、私達ったらあ!」




もし僕が変わったとするならば、それはきっとツクモのおかげだ。

遠慮なく人の心にズカズカと入ってきて、これでもかってくらいにかき乱していく……



ツクモといると、自分にもこんな感情があったのかと驚かされてしまうんだ……──────















緑色の鳥はシャオンが図書室から出たのを確認すると、木から飛び立ち空に大きく円を描いた。

そして遥か上空にある窓から室内へと入っていった。


「ご苦労様。ちゃんと誤魔化してきてくれたのね。」


戻ってきた鳥を鳥籠へと招き入れて好物の餌を与えた。




「や───っぱりな。」




私しかいないはずの部屋から声がした。



「シャオンが調べても調べてもなにも出てこないはずだ。」



いつの間に忍び込んでいたのだろう……

ピンクの髪の毛をなびかせたカガミ・ツクモが、私の椅子に足を組んでふんぞり返るように座っていた。


「あら…レディの部屋に無断で侵入するだなんて、あなたにしては随分無粋なことをするのね。」

「ばあさんがあまりにもミステリアスな女だからな。強引に迫られんのは嫌いか?」


このテンチムともあろう者が自分のテリトリーへの侵入を許すだなんて……

しかも今の会話で私がシャオンにしていたことを勘づかれてしまった。

そう…私はこの小鳥を使ってシャオンが知り得る情報を操作していたのだ。



「アルビラって知ってるだろ?ばあさん直属の部下で本部の烈士団員だったはずだ。」



思った以上に…このヴァンパイアは厄介だわ。



「ばあさんが本部の総長を辞めたのは16年前だよな?16年前……その日、本部でなにが起きた?」



あの日あの場所にいた団員は全て記憶を消して脱退させたはずなのに……

アルビラは当時から禁術とされていた黒魔術に精通していた。

忘却魔法を効かなくする術でも使ったのだろう……



「シャオンの母親のリハンも烈士団員だったのか?」

「……さあ。聞いたことのない名だわ。」


「シャオンが入学してきた時にはもう魔女だって気付いてたんだろ?この学校を再開させたのはおびき寄せるためか?」

「ここは国立の魔法学校よ?今の私にそこまでの権限はないわ。」


どこまで勘づいているのかしら……?

シャオンのボディガードとしては最高の人材だけれど、ここまで頭が良いとは誤算だったわ。



「ばあさん嘘が上手だな。顔色一つ変わんねえ。」

「褒め言葉として受け取っておくわ。ありがとう。」



半分人間の血を引くイレギュラーな存在である魔物。

千年も生きているだけあって底が知れない……

でも、真実を知ったところで、いちヴァンパイアが手に負えるような話ではないのに……



「知らない方がいいことも世の中にはあるわよね?わざわざシャオンを悲しませるようなことをしたいの?」



冷たい印象が漂う三白眼の目で、私を探るように見てきた。

値踏みをされているようであまり気分の良いものではない。



「私は味方よ。余計な詮索はせずに、あなたはシャオンのことだけを守りなさい。」

「言われなくてもそうするつもりだ。シャオンに妙な素振りを見せてみろ。ばあさんだろうがぶっ殺す。」



そう言って小鳥が入ってきた窓辺に立つと、私に中指を突き立てながら背中から倒れるように落ちていった。



やれやれ、味方だと言っているのに……よっぽどシャオンのことが好きなのね。

千年も生きてるくせに、初めて恋を知った少年みたい。



「ふふっ、熱いわねえ。」



私がそんな情熱を感じていたのはいつだったかしら。

あの日からずっと…この部屋で自らが犯した罪に懺悔をしながら生きてきた。





シャオンをおびき寄せるためですって?

私だって入学してきたシャオンを初めて見た時、息が止まるかと思うくらい驚いたっていうのに……


シャオンが胸から下げているあのペンダント……

あれはリハンがとても大切にしていた翡翠の硬玉だった。



リハン……私の娘───────



10年前にリハンが遺体で発見されてから、連れ去られた魔女の行方も完全に途絶えた。

魔女もリハンとともに死んだのだと烈士団の内部では結論付けられた。


それがまさか男の子になって生き延びていただなんて……






扉をノックしてクリマー先生が入ってきた。表情が暗い…うまくいかなかったのだろう。


「結果を聞くわ。報告してちょうだい。」

言いにくそうにしているクリマー先生を託した。


「コビーナ村に来ていた新聞記者なんだけんど、事前に人魚騒動があっだせいで人数が多ぐて……一人一人追跡はしたんだども、既に外部に漏れ出た情報もあっで……」


こんなにも早く恐れていたことが起きるだなんて……



「もうオラの力じゃ無理だっぺ。」

「そう…ご苦労様。もう下がっていいわ……」




シャオンが生きてることを隠さねばと思った。

でもシャオンはリハンを殺した犯人を追い、あろうことか烈士団を探っていた。

そんなことをしていたら、いずれ魔女であることがバレてしまう……


怪我をさせて痛い目に合えば怖がって諦めてくれるかと思ったのに……

一向に止める気配はなく、さらに危ないことに首を突っ込んで行く。

それならばと烈士団に勧誘した。私の監視下に置いて守るために……



狼男の時は目撃者もあまりなく、自然公園は火事で焼けたのだということで処理出来た。

でも…今回のコビーナ村での騒ぎは事が大きくなりすぎた。


私が自らコビーナ村に行けたら上手く処理出来ただろうに……

今更ながら、東の門番などという自分に課した足枷あしかせに悔いてしまう。





いずれ本部も知ることになるだろう……

死んだはずの魔女が生きていたって。


そうなったらまた始まるかもしれない。





人間達の、私利私欲にまみれた……







魔女狩りが……─────────












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