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無謀な策


────僕さあ…広い世界に出たいと思ったんだよね。




そう言って屈託のない笑顔をみせるココアは、とても大きく見えた。


明るくてパワフルで人懐っこくて統率力があって。ココアがいるだけで周りにいるみんなが元気になれた……





水平線から丸く顔を出した朝の光が、空を、村を、俺達の冷えた体を……

残酷なまでに、温かく照らした……





タイムオーバーだった───────……






「ちきしょうっ!!」



思いっきり地面に拳を叩き付けた。

シャオンは…言葉にもならずにその場に立ち尽くしていた。


ドラゴンは自分を捕らえていたアルビラへの復讐を遂げ、歓喜の唸り声を上げながらドラゴンの息吹を放った。

コビーナ村を取り囲む山がまた1つ、今度は跡形も残らないほどの爆風で吹き飛ばされてしまった。

それは魔具で出したもどきなどとは比べ物にならないくらいの、とてつもなく凄まじい破壊力だった。



「ツクモ…僕はこれ以上、コビーナ村をドラゴンの好きにはさせたくない。」



シャオンの目の奥で燃える紅い炎が、折れそうだった俺の心を奮い立たせた。

俺だってそうだ…ココアの育った自然豊かなこの故郷を、荒れ野原になんかさせやしない。


「あれを倒す策はあるのか?」


ひとつだけ思い付いていたものはあった。

でも凄く不確かだし、例え成功したとしても恐らく俺はシャオンと─────……


「ツクモ、あるのかないのかどっちだっ?」

「用意するのに時間がかかる…しばらくあのドラゴンの相手を一人でやれるか?」


問題ないとシャオンは短く答えると、ドラゴンへと向かっていった。

今はシャオンに頼るしかない……



村外れにあるティーチ博士の家へと飛んだ。

ティーチ博士は以前ドルミン王国の首都を爆弾型魔具で壊滅状態にしたことがある。

もしその魔具と同じものかそれに準じるものがあれば、あのドラゴンでも十分倒せるはずだ。


ティーチ博士の奇妙な形の家に着き、玄関の扉を開けて愕然がくぜんとした。

あれほどごちゃごちゃと魔具で埋め尽くされていた部屋が、綺麗さっぱり空っぽになっていたのだ。。


「あんっの野郎!全部持って逃げやがった…金だけじゃなかったのかよ!!」


あの鞄は四次元にでも繋がってんのか?!

俺の大声で胸に抱いていたナギが目覚めてしまい、不安そうに見上げてきた。


「ごめんナギ、起こしたか…大丈夫、なんでもない。」


ナギの頭を撫でながら苛立つ気持ちを落ち着かせた。

超再生能力のあるドラゴンは爆発でしか殺せない。

爆破魔法以外で大きな爆発を起こす方法となると……

粉塵爆発に水蒸気爆発、火山に可燃性の気体にニトログリセリン……

どれもこれも用意に手間がかかるし、動き回るドラゴンを倒すには利便性に欠ける。


なにか……なにか他に手は───────……






「お目当てのものはコレですか?」




真ん丸い魔具を持ったティーチ博士が入口に立っていた。


「……逃げたんじゃなかったのか?」

「まあ…女の子にあそこまで言われたんじゃねえ。私も一応男ですので。」


ティーチ博士は参ったというようにポリポリと頭をかいた。

シャオンにそれでも男かと怒鳴られたのが相当堪えたようだ……



「まずは村人を避難させましょう。これは威力が強すぎて50km圏内のものが全て吹き飛んでしまうんです。」

「爆発は別の場所でさせるつもりだ。俺をベッドごと庭に瞬間移動させた魔具があったよな?あれでドラゴンを遠くまで移動させることは可能か?」


「はい。どんなものでも大きさ距離に関係なく瞬間移動出来ますよ~多分。」

多分てなんだよ……つくづくこいつは自分が創ったものに対して責任感てもんがねえな。


ティーチ博士は鞄から男の子と女の子が対になった魔具、LOVEカップルちゃんを取り出した。

男の子の帽子のスイッチを押すと愛する彼女の元へとあっという間に瞬間移動が出来る魔具だ。

すごく素晴らしい発明なのに、その見た目のせいで子供のオモチャにしか見えない……


先ずは女の子の人形を移動させたい場所まで運ばないといけない。


「ティーチ博士。あの空飛ぶホウキに乗ってこの人形を今から言うところに置いて来てくれ。」

「あれでですかっ?!無理です!あんなの乗りこなせっこない!」


てめえが創った魔具だろ……?

自分が使いこなせねえような魔具を無責任に創ってんじゃねえわ!!

無理矢理ホウキにくっ付けてでも飛ばしてやるっ!






「僕がやるよ。」






──────この声、まさかっ………



信じられない気持ちで後ろを振り向くと、そこにはココアが立っていた。




「ココア…生きてたのか?でも、どうやって……」




俺の質問にココアが悲しげに微笑んだ。



「じいちゃんが……身代わりになってくれたんだ。」



身代わり……?

もしかして教会の屋根裏部屋でドングリが忙しそうに箱から出していたのって……

相手の災いを自分が代わりに受ける特殊魔法。



──────身代わりの儀式。



儀式を行うためには香木や勾玉や銅鏡といった特別な神具が必要で、どれも手に入れるのが非常に困難だ。

ドングリはきっと……妹のナギを助けるためにありとあらゆる魔法を必死で調べて試していたんだ。

身代わりの儀式の対象となるのは災難や不幸などの災いのみだ。

不老不死は災いではないから、ナギの代わりになることは叶わなかったのだろう……






ココアは女の子の人形を懐に入れて空飛ぶホウキにまたがった。


「さあこれをどこまで運べばいいの?」


行き先は俺達が通うメタリカーナ国立魔法学校。テンチム校長が空間魔法で創ったあの地下空間だ。

異様にだだっ広くて、魔女になったシャオンの遠慮のない攻撃魔法にもビクともしない鋼のように頑丈な空間だ。

今日は元日で生徒は一人も居ないから、なにが起きても心配はいらない。



「10分で頼む。」

「5分で充分だよ。」



ココアが乗ったホウキはロケットエンジン並の炎を吹き上げ、ドリルの様に回転しながらぶっ飛んで行った。

一応は進行方向へと進んではいったけれど…大丈夫なのだろうか……?

ココアの底力を信じるしかない。





「あの…この爆弾は大変危険なので時限型にしてるんです。起爆スイッチを押してから爆発するまで1時間はかかるのですが……」


ティーチ博士が遠慮気味に教えてくれた。

そのことについては把握していた。爆発までの時間に猶予があったからこそ、ドルミン王国の市民は全員避難してケガ人が一人も出なかったのだから……


どんなに頑丈な空間だとしても、あのドラゴンの息吹にはそう何発も耐えられやしないだろう。

逃げられたんじゃ元も子もなくなる……


「俺が爆破魔法で誘導させて直ぐに爆発させる。」

「ちょちょ、ちょっと待って下さい!自動で起爆させれるような魔具がなにかあるかもしれないっ!」


あれでもないこれでもないと鞄の中をゴソゴソと探りまくるティーチ博士を待っている余裕はもうない。

シャオンがドラゴンと戦っているであろう海岸付近では渦を巻いた黒い煙が立ち込め、幾つもの稲光や火柱が上がっているのが見えていた。

もう行くからといいと断ると、ティーチ博士は悲痛な面持ちで俺を見た。



「わかっているんですか?いくらヴァンパイアだからといってもそんなことをしたら……」


「問題ない。」



シャオンの口調をマネて言ってみた。

あのシャオンのことだ。俺がしばらくいなくなると言っても、クールな顔して問題ないって言うんだろうか……

そんなことを想像したらなんだか可笑しくなってきて、クっと笑ってしまった。



「ナギを頼む。」



ティーチ博士にナギを預けてシャオンの元へと向かった。















シャオンとドラゴンは村から離れた無人の島で死闘を繰り広げていた。

島では大量の砂埃が舞い、朝だとは思えないほどの暗闇に包まれていた。

怒り狂ったドラゴンの地鳴りのような唸り声が何度も聞こえてくる……

闇の中でシャオンの体は、あの紅い瞳から漏れ出た紅蓮色の炎に包まれていた。


火炎魔法に水流魔法に電撃魔法に風氷魔法……

性質の異なる魔法を同時に操り、それは一つの巨大なうねりとなってドラゴンに襲いかかっていた。

魔法なのにまるで生きているみたいだ……

ドラゴンも超再生を繰り返し、シャオンへのアタックを緩めようとはしない。




なぜだろう……

あそこに居るのはシャオンなのに……──────


何発もの凄まじい魔法を放って紅く浮かび上がるシャオンの姿に、逆立つような恐怖を感じた。




シャオンが体制を崩してふらつくと、すかさずドラゴンが長く鋭い爪を振り下ろそうとしてきた。



「シャオン!!」



俺はありったけの魔力を振り絞って〈ブリザード〉を唱え、ドラゴンを猛吹雪の中に閉じ込めた。


「シャオン、大丈夫か?!」


シャオンは立つのもやっとなくらいのフラフラな状態だった。

これは明らかに魔力の使い過ぎだ。

俺の顔を見て安心したのか…体を包んでいた紅い炎がフッと消えて倒れ込んできた。



「……策は…出来たのか?」



俺の胸の中で苦しそうに喘ぎながら聞いてきた。

シャオンはちゃんと力加減というものを覚えなければいけない……


「ああ、万全だ。」


俺はティーチ博士からもらった爆弾型魔具と瞬間移動が出来る人形について手短に説明した。


「この人形の片割れは今、ココアが運んでいる。」


ココアと聞いてシャオンは目を見開いた。

朝日が昇りきったのを見た時、俺もシャオンもココアは死んでしまったのだと思った。



「ココアは生きてるよ。いつも通り元気一杯だ。」



汗まみれで真っ青だったシャオンは頬を少し赤らめ、心底嬉しそうな表情を見せた。



「俺がドラゴンをあの地下空間に瞬間移動させて爆破させてくる。」



─────シャオンの表情が一気に凍りついた。



「……正気なのか?」



シャオンの瞳が動揺を抑えきれずに大きく揺れた。


「大丈夫だ。俺は爆弾じゃ死なない。」

「ドラゴンを倒せるほどの威力なんだろ?そんな爆弾をツクモも一緒になって受けるって…危険すぎるだろ!!」


シャオンのこんな反応は予想していなかった。

不謹慎だが、俺の身を案じてこんなにも取り乱すシャオンを見て嬉しいと思ってしまった。

俺が思っていた以上に、シャオンの中で俺という存在は大きいのかも知れない……


シャオンはさらに声を荒らげて問い詰めてきた。



「バラバラになるんじゃないのか?そんな風になっても体は元に戻せるのか?!答えろっツクモ!!」



バラバラどころか、何万個もの小さな肉片になるだろう。

仲間のヴァンパイアでそこまで体が破損した例は聞いたことがない。

完全に元に戻るまでに一体どれくらいの時間を費やすのだろう……

何年、何十年……?全く見当が付かない。

その長い年月、痛みはずっと続くのだろうか……


でももう……覚悟は決まっていた。

シャオンを守るためだったら、俺はなんだってやる。



「復活したら真っ先にシャオンに会いに行く。」



シャオンは強い。

魔法学校に入学した時はデンデしかまともに撃てなかったのに、たった4ヶ月であんなどデカいドラゴンと対等に戦えるようになったのだから……

さすが魔女だけのことはある。


俺がしばらくいなくなっても……きっと大丈夫だ。



ドラゴンが吹雪を突き破って出てきた。

シャオンは素早く〈チェーン〉を唱えてドラゴンの体に巻き付けた。


シャオンの体はもうとっくに限界なのに……



「もういいシャオン!俺に任せろ!」

「いやだっそんなの許さない!他のを考えろっ!!」



チェーンが消えてしまわないように、体を震わせながら必死になって魔力を送り続けるシャオンが堪らなく愛しく思えた……





俺はシャオンを抱きしめて

おでこにそっと……キスをした──────




これ以上シャオンの辛そうな顔を見ていたら離れられなくなる……






「次会った時は口にさせろ。」






そう言い残し、俺はドラゴンへと突っ走っていって人形のスイッチを押した。












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