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おとり捜査

公爵の屋敷に不法侵入したあげく招待客に電撃魔法を放ってしまった……

本来ならば警察に連れていかれてもおかしくない事案だ。

でも…僕達が魔法学校の生徒だと知ったミリア令嬢が、前途ある若者にそこまでするのは可哀想だと言って庇ってくれた。

見た目のみならず、心まで美しいお方だ。



「次は警察に突き出すからな!二度とこんなイタズラはするな!」



護衛の魔導師により外に放り出されてしまった。




「何やってんだシャオン!派手にやらかしやがって!」

「すまない…ついカッとなってしまった。」


「その女に間違われてデンデ出すクセなんとかしろ!!」



そうなことを言われたって……


僕は母の教えを守り、6歳の頃から人前では男として過ごしてきた。

僕の中では自分は男なのだ。

男になる時は母が創ってくれたペンダントの力によって変身している。

母の魔具は完璧なのに、女の子だと勘違いされると母を侮辱されているみたいで無性に腹が立ってしまうのだ。



「……どうすんだよ。完全にマークされたぞ……」


先程の護衛の女魔導師が、屋敷の門前で僕達が立ち去るのをじっと凝視していた。

僕の分析が正しければ今夜あのパーティの中に連続殺人犯が紛れている可能性が非常に高い。

なのに……十分に調べることも出来なかった。

次の犠牲者がいつ出るかもしれない状況で足を引っ張ってしまうなんて……


悔しい気持ちで屋敷を見つめていると、ツクモが神妙な面持ちで話しかけてきた。



「ひとつ策があるんだが、シャオンに頑張ってもらわないといけない。」

「……策?それはなんだ?何でも言ってくれ。」


「何でも?男に二言はないな?」

「ああ。もちろんだっ。」










─────あんな返事するんじゃなかった……




「どれがいいかな~これもシャオンに似合いそうだな〜。」



ツクモが僕に着せるドレスを鼻歌交じりに選んでいる。


僕達は今、表通りにある高級ブティックに来ていた。

ツクモの策は簡単に言うとおとり捜査だった。

女に戻ったこの僕に、あのパーティ会場でセレブ美人の役をやれと言うのだ。

魔女だとバレないようにすりゃ大丈夫だろうって……

男に二言はないなと聞いておきながらなんなんだこの策は!!


「シャオンはどれがいい?」

「どうでもいい!時間が惜しいから早くしろっ!」


ツクモはじゃあコレと言って紐みたいなのを手渡してきた。

……この面積で肌をどう隠せと?



「冗談、冗談。こっちに着替えてきな。」



ふざけやがって!!

ドレスをひったくるように奪って試着室へと向かった。

だいたい元を正せば最初に騒ぎを起こしたのはツクモじゃないか!

なのになんで僕がこんなことを……!

怒りながらも女の姿に戻り、ドレスに着替えた。






な、なんだこの服はっ?!


エレガントなロングドレスだと思いきや、背中は丸見えだしスカートには大きなスリットが入っていた。

歩く度に足が丸見えになる……

くっ…ツクモがどスケベ野郎だというのを忘れていた。

清楚可憐なドレスを選ぶはずがないっ……



「シャオン、時間が惜しいから早くしろよ。」

「わ、わかってるっ。」


こんな事で時間を浪費している場合ではない。

しぶしぶ試着室から出ると、ツクモが穴が開くほど見つめてきた。


「びっくりするほど可愛いな。シャオンはピンクも良く似合うな。」

「おまえ面白がってるだろ?早く犯人を捕まえて終わらせるぞ。」


屋敷に戻ろうとした僕を、ツクモは無理やり鏡の前に座らせた。



「まあそう焦んなって。」



そう言って僕の髪を慣れた手つきで綺麗に編み込んでいった。

ツクモはいつも面倒くさそうにしているし、生活態度はいたって不真面目だ。

でも…千年生きてるだけあってなんでも知っているし、なんでも出来るんだよな……

あっという間に髪をセットし終えると、お店から借りた化粧箱を持ってきて僕の顔を触ろうとしてきた。


「化粧なんてしないっ!」

「セレブなお嬢様がすっぴんだなんて怪しまれるだろ?」


ツクモはプロが使うような化粧道具を迷うことなく使いこなしていた。

美容師の仕事をしていたこともあるのだという……

一体、何人の女の子に同じことをしてあげたんだろう。



にしても顔が近い。

それに、この甘い香りも……


ツクモは動物の香のうから得た香水を好んで付けている。

いつもは微かに臭ってくるだけなのに、こんなに近いとすごく濃厚で鼻腔をくすぐられているようだ。


「ま、まだかっ?」

「あとカラーレンズを付けたら終わり。ちょっと上向いて。」


カラーレンズとは美容魔具で、二時間の間だけ瞳を好きな色に変えれるらしい。

ツクモが選んだのは自分と同じピンク色だった。

動かないようにと僕の顎を手で軽く押さえる……

ツクモの真剣な顔と甘い香りがさらに近くなり、気持ちがザワザワと乱れて落ち着かない。


「おっしゃ完璧!こりゃ犯人じゃなくても飛びつく可愛さだぜ?ちょっと鏡見てみろよ。」

「いいよもうっ…直ぐに屋敷に向かおう!」


なんなんだっ…なんで僕はこんなに動揺してるんだ?

履いたことがないピンヒールに足がふらついてバランスを崩す──────



「危ないっシャオン!」



後ろからツクモが抱きしめるように支えてくれた。

背中が開いたドレスだったのでツクモの温もりが直に伝わってきた。

心臓が耳のそばにあるんじゃないかってくらいに音がうるさいっ……


ツクモはそのままの体制で近くにあった花瓶から花を一本抜き取ると、僕の髪の毛にかんざしのようにスっと刺した。





「シャオン…キスしてくれ。」





─────……なっ?!



いつもならふざけるなと一喝して終わらせるのに……

ダメだ……胸がドキドキし過ぎてツクモの顔さえ見れないっ……




「店出る前に……こいつと。」




……はっ……?

こいつ………?


ツクモが親指で示した方を見ると、このブティックの小太りな店長が照れくさそうに立っていた。



「俺もシャオンも金持ってないだろ?シャオンがキスしたら全部タダにしてくれるって。」



…………はい?


なんなんだそれは……

本人の了解無しにそんな重大な約束有り得ないだろ?


店長がタコのように唇を尖らせ迫ってきた。




僕はツクモにデンデを食らわした。















「おーいシャオーン。聞こえてたら返事しろ~。」



僕を呼ぶツクモの声がイヤリングからする……


ツクモはいつもアクセサリー型の魔具をジャラジャラと身に付けている。

このイヤリングは100m以内なら離れた場所でも会話が出来るという、耳に付けて使用するタイプの通信魔具だ。


「悪かったって。そんなに怒るなよ。」


ドレス代は結局、ツクモの指輪に埋め込まれていたラズベリルという希少価値の高い宝石で全額支払った。

最初からそうするつもりだったらしい。

なにが店長にキスしろだっ…全くふざけている!!




さき程の屋敷の前までやってきた。

門には送られてきた招待状をチェックするスタッフがいる。

ツクモのように防御魔法の隙間を見極める術など僕は持ち合わせていない……



「どうやって中に入るんだ?まさかまたスタッフにキスしろとか言うんじゃないだろうな?」

「大丈夫。そのまま通過しろ。」



招待状もないのに門を通過しろだと?

いいから行けと自信ありげなツクモの言う通りにすると、スタッフは僕に会釈をして笑顔で通してくれた。


「シャオンみたいな美人は顔パスなんだよ。怪しい人物がいたら教えてくれ。」


……そんなもんなのか?

セキュリティ的にどうかと思うのだが……



まずは人が多く集まっている1階のダンスフロアを調べてみることにした。

フロアに一歩足を踏み入れると、男共が群がってきた。

僕の手を握って強引にダンスに誘おうとする者や飲めないと言っているのに次々とお酒を持ってくる者、大袈裟なくらい褒めちぎってくる者らで身動きが取れなくなってしまった。


ツクモみたいなのがこんなにいっぱい……

全員怪しい人物にしか見えない……



「とりあえず誰かの相手してその輪から抜け出せ。」



こんなスケベそうな奴らの相手をしなきゃいけないだなんて悪夢だ……


「お嬢さん、僕と踊っていただけませんか?」


どれを選べばいいんだと迷っていたら、ちょうど後ろから声を掛けられた。

仕方がない…ため息を付きながらも差し出された手を握った。

「おいっ…今の声って……」

ツクモにそう言われ、誘ってきた相手の顔を見ると……




「なんて素敵なお嬢さんだ。あなたとは初めて会った気がしないっ。これは運命の出会いだ!」




クラスメートのボンボンだった。



ちぢれた毛を無理やりオールバックにし、燕尾の付いた礼服を着ているがまるで似合っていない。

逃げようと思ったのだが手をガッチリと捕まれ、フロアの真ん中まで連れていかれてしまった。

向かい合い、ダンスが始まった。


まずいっ…さすがにこんな間近で見られたんじゃ僕だとバレてしまうっ……

と、思ったのだが────────



「僕の父は貿易商の仕事をしていてね、去年のクリスマスは家でそれはそれは盛大なパーティを……庶民には手に入らないような高価なプレゼントが部屋中に……ペラペラ。ペラペーラ。」



金持ち自慢をしまくっていてまるで気付く様子がない。

イヤリングからはツクモの押し殺したような笑い声がずっと聞こえてきた。

ダンスなんてしたことがない上にピンヒールでバランスを崩しそうだっていうのに……二人とも耳障りでイライラしてきた。



「僕はいずれ優秀な魔導師になる。だからお嬢さん……僕と、結婚しましょう。」



……なんでそうなる?


ツクモが堪らず吹き出し、笑い転げる声が聞こえてきた。

もうっ……限界だ。

僕はバランスを崩した振りをしてヒールのかかとでボンボンの足の甲を思いっきり踏んづけてやった。


「すまない、ちょっと…気分が悪くなった。」


痛さで悶絶するボンボンを置いて、誰もいないトイレへとそそくさと逃げ込んだ。




「ツクモ貴様っ!真剣にやれと言ってるだろっ!!」

「悪ぃ悪ぃ、シャオンが狼狽えてるのがおかしくって。で、怪しい奴はいたか?」



この野郎…完全に面白がってるじゃないかっ!

ボンボンとダンスをしながら周りを確認したが、ダンスフロアに気になる人物はいなかった。

「次は2階を調べに行く。」

そう報告してトイレから出ようとした時、入ってきた女性とぶつかりそうになった。




それはミリア令嬢だった───────……





「おまえ何者だっ?ここはミリア様専用のエリアだぞ!!」



そばに仕えていた護衛の女魔導師によって、奥の壁まで詰め寄られてしまった。

どうやら招待客は使用禁止のトイレにうっかり入ってしまったようだ。


「まあ良いじゃない。そんな乱暴なことはしないであげて。」

「ですがミリア令嬢っ……」


ミリア令嬢は私に向かってフワリと微笑んだ。

育ちの良さか生まれ持った気質なのか……思わずこうべを垂れたくなるような軽やかな気品が漂っていた。



「あなたは…初めましてかしら?お名前を聞いても良ろしい?」

「失礼しました。ご挨拶にお伺いせねばと思っていたのですが……」


ツクモに言われた通り、隣国で貿易商を営む父の代理で来たシャルルだと名乗った。

「この度はお誕生日おめでとうございます。」

僕の祝いの言葉に、ミリア令嬢はふと寂しそうな顔を見せた。


「ありがとう。でも変よね…私の誕生パーティなのに、私の知り合いはほとんどいないの。みんなお父様の仕事の関係者ばかり……」


ミリア令嬢の口からこのような愚痴を聞かされるとは思ってもみなかった。

困った…なんと返せばいいのだろう……


「あらヤダ。歳が近かったから気が緩んでしまったわ。今の話はお互いの父にはナイショね?」


ミリア令嬢は口元に人差し指を重ね、悪戯っぽくウインクをした。

なんて女性らしくて可愛い仕草なんだろう……

魅入っていると女魔導師がゴホゴホと咳払いをしてきた。

早く出ていけということのようだ。

僕は失礼しますと頭を下げてからその場を後にした。













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