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第二章友よ 初仕事


「やーいっ、半分にんげーん!」

「お前だけ太陽に無敵ずっこいのー!」



………うん?


なんだこのくそ生意気なガキ共は……

そういや昔は居たな。俺に半分人間の血が混じってるからってやたらと馬鹿にしてくる奴らが。

俺は逃げるふりをして巨大な落とし穴にガキ共を落とし、上から氷水をぶっ掛けてやった。

ぎゃーぎゃー騒ぎやがってバカな奴らめ……大人数だからって調子に乗りやがって。

火炙りにもしてやろうと思ったらやりすぎだと後ろからお袋に殴られた。



……えっ……お袋?

人間だったお袋は随分昔に死んだはずなのに……





そうかこれは…夢か─────






「ツクモの分際で私とまともにやり合えるだなんて本気で思ってるんじゃないだろうな?」






────────げっ!


なんだよ、てめえまで居んのかよ。

こちとらてめえの顔なんて金輪際見たくないってのに……

勝手に人の夢ん中に出てくんじゃねえわっ。






ツクモ……

おまえがいるだけで里が汚れる。


臭いんだ…おまえのその──────





───────薄汚れた血が………!!
















「……痛って〜。」



体中にビリビリッとした衝撃を受けてベッドから転げ落ちた。


「大丈夫か?だいぶうなされていたが……」


シャオンが心配そうに覗き込んできた。

俺が声をかけても叩いても目を覚まさなかったから仕方なく電撃魔法の〈デンデ〉を食らわしたらしい。……て、ちょっと待て。普通うなされている奴を起こすのに電流をお見舞いするか?


「悪い夢でも見ていたのか?」

「ああ?まあ……そんなとこ。」

どうせならシャオンとイチャコラしてる夢を見たかった。



「シャオン、俺におはようのチュウは?」

「……ツクモは男の僕にも平気でそんなことを言うよな。変態なのか?」



変態じゃねえわ。

シャオンが男の姿でも可愛いすぎるのがいけない。

にしてもこんな胸糞悪い夢を見たのは久しぶりだ。

俺はヴァンパイアで千年生きている。

今になってなんで大昔の嫌な記憶を振り返らなきゃならないんだ……


ヴァンパイアの里を出てからもう四百年か……


ずっと魔法を封印し、人間の振りをして毎日を適当に過ごしてきた。

千年生きたヴァンパイアの俺が、人間の魔法学校に入学してド素人達と一緒に魔法を学んでるっていうんだから笑える。


まあ、そのおかげでシャオンに出会えたんだし……

長生きはしてみるもんだな。





「どうせツクモは今日もヒマなんだろ?支度出来たらまた魔法の特訓に付き合ってくれ。」



ルームメイトでもあるシャオンは最初こそは俺のことを遠ざけようとしていたが、今では一切の遠慮がない。

シャオンも俺と同じ魔物なのだが、魔物界でもちょっとやそっとじゃお目にかかれないスーパーレアな魔女だ。

魔女の特徴である紅い瞳と類まれなる美貌を隠すために普段は男として過ごしているのだが、その美しさは隠しきれるものではなく……

超美少年でクールな性格なもんだから女子からはモテまくっている。

かく言う俺も、男の姿だったシャオンを女だと勘違いして一目惚れをしてしまった。

シャオンからはつれない態度を取られまくっているのだけれど、諦めるつもりは一切ない。

頑張れ、俺。



「今日は爆破魔法を覚えたい。」

「げ、マジか……」



一週間前からこのメタリカーナ国立魔法学校は冬休みである。

寄宿舎制であるこの学校の生徒は、家族で年末年始を過ごすためにほとんどが実家へと帰省していた。

もう一人のルームメイトであるココアも故郷に帰っていった。

俺とシャオンは帰るところなんてないし行くところもないので学校の寮で過ごしていた。


時間もたっぷりあるし、テンチム校長が魔法で作ってくれた頑丈でだだっ広い部屋もあるので特訓し放題だ。

最初こそ、女の姿に戻ったシャオンと二人っきりで手取り足取り~なんて浮かれていたのだが……


魔女の魔力は他とは桁違いなほどの底なしだ。

覚えも良くてコツを掴むのも早いシャオンは、魔法書無しで魔法が出せるレベル2までなんなく突破出来る。


が、コントロールがすごぶる悪い……

力の加減も最悪だ……


何度魔法をぶち当てられたことだろう。

どんだけ俺が離れていてもこっちに向かって飛ばしてきやがる。

これってわざとなんじゃないだろうか……?

俺になんの恨みがあるってんだ。



「爆破魔法の予習はバッチリだ。今日中にはレベル2まで行ける自信がある。」



俺の深層を他所にシャオンがめっちゃ張り切っている。

爆破魔法は攻撃魔法の中では最強なのだが、爆破魔法というカテゴリーがある訳では無い。

魔法陣には相性というものがある。

複数の魔法陣を同時に出現させることでお互いの共鳴と反発を利用し、破裂させるのである。

かなり繊細なテクニックを必要とする魔法なのだが……


俺はヴァンパイアなので銀の十字架を胸に刺されない限りは死なない。

でも痛いもんは痛いし傷だって一瞬で治るわけではない。


不器用なシャオンが爆破魔法を会得するまで俺の体はもつのだろうか……





「ちょっと入るで~。」



まん丸でどデカい体型のクマが部屋の扉を開けてニュっと顔を出した。


「テンチム校長がお呼びだべ。烈士団に仕事の以来がきたんだと。」



俺とシャオンは顔を見合わせた。

烈士団での初仕事だ。









烈士団とは魔物を狩る殺戮集団だ。

凄腕の魔導師ばかりで構成されていて世界中に何万人もの団員がいる。

なぜ魔物の俺達がそのメンバーなのかというと、シャオンの母親を殺したのが烈士団員だったからだ。

シャオンはそいつの素性を探るために危険なのは承知の上で潜り込んだ。

まあ俺はそんな無鉄砲なシャオンに巻き込まれた訳なのだけれど……


シャオンを守るためなら何だってするつもりだ。



「朝早くに申し訳ないわね。最近この国で若い女性が次々と殺されていることはご存知かしら?」



テンチム校長は若い頃はクィーンと比喩されるほどの実力の持ち主で、烈士団本部の最高司令官である総長を務めたこともある凄腕の魔導師だ。

今は東の荒地からの魔物の侵入を防ぐため、巨大な防御魔法と感知魔法を張り巡らせて門番の役割を務めている。

俺達のことを魔物と知ってて烈士団にスカウトした、何考えてんだかわからん食えねえばあさんだ。



「美人セレブ連続殺人事件と世間で騒がれているあの事件ですね。」



毎日新聞を読むのが日課であるシャオンがすらっと答えたのだが……

なんだその二流の推理小説みたいなネーミングは?


「そうよ。ちょっとこれを見てもらえるかしら。」


俺達はテンチム校長から受け取った資料に目を通した。

被害に合った女性達の写真や詳しい経歴、事件の詳細や現場の写真などがまとめられていた。

関係者しか見れない、事件の内部情報だ。

警察では手に負えないような魔物絡みの事案は烈士団に送られてくるらしい。


普通魔物に殺された人間の死体は激しく損傷されていたりするのが常なのだが……

死因は全員毒殺らしく、遺体には少しの火傷の跡があるくらいでとても綺麗な死体だった。

でもなんだろう…写真から感じるこの違和感は……



「何か気付いたかしら?」

「……鼻が、違う。」



シャオンがポツリと呟いた。

遺体の写真と生前に撮られた写真とを見比べてみた。

確かに鼻筋が真っ直ぐに通っていたのが、丸みのある団子っ鼻になっていた。



「そうよ、この女性は鼻。こちらは目の部分。この女性に至っては両手両足が丸ごと……」



どの被害女性も体のパーツが別人のものと取り替えられているのだという……

でもつなぎ目などは何もなく、写真を見比べなければ気付かないほどのナチュラルさだった。



「魔物の特殊能力か……」



魔物の中には特殊能力を持ったものがいる。

それは一般的な魔法とは全く別次元のもので、魔物の種類によってその能力は異なる。

体の一部を他人のものと取り替えっこ出来る特殊能力なんてのは初めて聞いた。

この連続殺人犯は今、自分が殺した人間のパーツを身に付けているということになるのか……

悪趣味な野郎だ。



「実はこの魔物による事件は数年ごとに起きていて、いつも後一歩のところで逃げられているの。今はこの国に潜伏しているわ。今度こそ、あなた達の手で捕まえてちょうだい。」





シャオンの爆破魔法の特訓に付き合わなくて済んだものの、こっちはこっちで面倒くさそうだ。













俺とシャオンは任務を遂行する時に着る戦闘服とやらを支給された。

それは支部ごとにデザインが異なり、メタリカーナ支部のは地下空間でドールが着ていたあの白のロングコートだった。


魔法学校の制服も上着がケープという古臭いデザインなんだけど……

この戦闘服も一昔前の軍服みたいだ…ダサい、ダサすぎる……




「烈士団は秘密組織なんだろ?こんなのが背中にあったら目立たないか?」


戦闘服に着替え終えたシャオンが、鏡に映る背中の欠けた星の印を見ながら聞いてきた。


こいつ、白似合うな……

シャオンの私服はほとんどが黒い。汚れが目立たないからという合理的な理由だ。

全身を包む白いコートが、プラチナブロンドの髪と透き通るような白い肌に合わさってシャオンの美貌をさらに際立たせていた。

女の子らしい可愛い服を着たとこも是非見てみたい。


「それは魔法で創られた絹糸で刺繍されてるんだ。強い魔力がないと見ることが出来ないから…一種のあぶり出しみたいなもんだな。」


つまりこの印が見えるものは烈士団員か魔物かも知れないということだ。

魔物ならこの印を見たとたん恐怖で顔が引きつる……



「黒いマント姿で肩にこの印が付いてるのが居たら逃げろよ?本部の奴らだから。」



本部の連中は烈士団の中でもエリート中のエリートで構成された精鋭部隊だ。

あんな奴らに俺らの正体がバレたら終わりだ。

でもまあ、こんな世界の端っこにあるような田舎国の支部……団員も俺達二人しかいないのでそこまで注意を払う必要もないのかもしれない。
















街を出て捜査を始めたは言いけれど……

すれ違う度に女の子達がきゃあきゃあ言いながらシャオンを見てきた。


「……この服、目立ち過ぎじゃないか?」


服というより、シャオンが目立ってるんだよ。

俺だってそこそこモテてたっちゅーのにっ。女のくせに、この超イケメンめっ!

「あの…サイン下さい!」

女の子からいきなり紙とペンを渡されたシャオンはキョトンとした。

アイドルかよ……


とにかくこんなに目立ってたら聞き込みどころじゃない。

かといって犯行時刻も場所もバラバラな神出鬼没の連続殺人犯をどう見つければいいんだ。

関連があるのは被害者が美人でセレブってことだけ。

よくこんな情報の少なさで俺達に丸投げ出来たもんだ。

てか、シャオンはさっきからどこに向かって歩いてるんだ?


「おいっ、シャオ……」

「あった、あそこだ。ツクモ。あの中に入れるか?」



そう言ってシャオンが指さした先は、湖畔に建つ絢爛豪華な御屋敷だった。















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