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まさかの展開


─────何がどう作用したのだろうか……


同じことをしろと言われても二度と出来ない……





光の中から手足をバタつかせながらそれは降りてきた。




残っていたダルドの肉の体積から考えると、ガタイの良かった元の体格に戻るのは到底無理だとはわかっていた。

上手くいったとしてもガリガリか背の縮んだダルドを想像していた俺は、それを見て面食らった。






光の中から出てきたのは赤ん坊だった。






夢でも見ているのだろうか……

そっと抱き寄せると、腕の中に確かな命の重みを感じた。



「……赤ん坊のくせに厳つい顔してやがる。」



どこからどう見てもダルドだ。

ダルドは無垢な瞳で俺のことを見つめると、両手を広げて甘えてきた。





小さくなっちまったけれどちゃんと生きてる……



死ななくて、


良かった……────────









「君はツクモ君だよね?その赤ちゃんといいさっきの物凄い魔法といい……あれ?口に生えてるのは…牙?」



頭がツルツルになったボンボンが話しかけてきた。

周りを見渡せば大勢の野次馬が集まっていた。この人数…全校生徒の半分以上はいるかもしれない……

こんなにたくさんの人間に一部始終を見られてしまった……




俺は面倒くさいことが嫌いだ。

行動に移す時はありとあらゆるパターンを分析して一番リスクが少ない方を選ぶ。

いつもそうやって切り抜けてきた。


なのに……───────


シャオンのせいだ……

シャオンが目の前で食われそうになるから、頭に血が上ぼってやらかしちまったじゃねえか!!




「それにあの綺麗な女性のことシャオンって言ってなかった?あの人はシャオンなのかい?」

「あ〜……」



先生達も集まってきて生徒から事情を聞き始めた。

みんな俺を指さしてチクってやがる……

魔力は完全に底を尽き、立っているのでさえ辛い。

なんてこった……俺が考えるありとあらゆるパターンの中で一番最悪な状況だ。

このピンチを切り抜ける方法は……




……ダメだ。

な──んも思い浮かばない。





ボンボンがいきなり白目を向いてぶっ倒れた。

周りで騒いでいた生徒も、俺に話を聞こうと近付いてきた先生までもがみんな眠るかのようにバタバタと倒れた。



なんだ…一体なにが起こってるんだ?





「……これは…なんでみんな寝てるんだ?」



コウモリの上でシャオンがようやく目を覚ましたようだった。

校舎の中もシンと静まり帰っていた。

この学校の、全ての者が眠らされているのだろうか……

なんで俺達だけが起きているんだ?


まさか、烈士団の仕業か……?

俺もシャオンも魔力を使い果たして戦える状態じゃない。

今奴らに襲われたら……──────



「ダルドはどこに行ったんだ?」



コウモリから降りてきたシャオンは周りを見回し、自分なりにこの状況を解釈しようしていた。

でも俺が抱っこしている赤ん坊を見つけて思考回路がストップした。


「なんだ?!どうしたその赤ん坊は?!」


一先ずシャオンと逃げようにも、学校の周りには防御魔法が張り巡らされている。

くそっ…どうすりゃいいんだ……?



「なんでツクモが赤ん坊を抱いてるんだ?!」

「……俺とシャオンの子供だからだよ。」


「僕が産んだとでも言うのか?全然身に覚えがないっ!」

なんで信じるんだよ……考えがまとまらないから頼むから静かにしててくれ。



「だいたいなんでツクモが父親なんだ!!」

「うっせえ!ダルドだよ!」



俺達の言い合いに赤ちゃんダルドが泣き出してしまった。

ああもう…さっきまで上機嫌だったのに……


「……この子が?本当にダルドなのか……?」

「だいぶ寄生されてたからな。これが限界だ。」


シャオンは俺から赤ちゃんダルドを受け取ると、ヨシヨシとあやし始めた。

子供好きなのだろうか……

なんだか表情が柔らかくて、赤ちゃんの母親のように見えてしまった。


こういうシャオンも母性的で良いな……

ついほのぼのとした気持ちで見とれてしまった。





「随分派手に壊れてんべ。こりゃ直すの難儀だあ。」





独特の訛り声が後ろから聞こえてきて、隠れる間もなく見つかってしまった。

まさか起きている人物が俺達以外にもも居ただなんて……


「そんなに警戒せんでええ。後始末に来ただけだあ。」


クマは俺達の横を通り過ぎると、破壊された医務室の壁を修復型の魔具を使って直し始めた。

どういうことなんだ一体……?

こいつは……味方、なのか?



「みんなを眠らせたのはあんたか?」



クマは魔具を持っていた手を止め、大袈裟なまでに首を左右に振った。



「まさかまさか。これは忘却魔法言うて記憶を消す魔法をかけられただ。み〜んな起きたらさっきあった出来事ぜ〜んぶ忘れてるべえ。だからなんも心配せんでええ。」



忘却魔法自体は難しい魔法ではない……

でもこの学校にいる全員に同時にかけたとしたら話しは別だ。

生徒だけでも800人はいるのに───────




「あんさんらはそのお方にお礼を言うてくるといいべ。赤ちゃんもワシが預かるで。」


クマは赤ちゃんを受け取ろうと両手を伸ばしたのだが、シャオンは背中を向けて拒んだ。


「ダメだ……この子は、ダルドなんだ。」


クマはわかっていると言った感じで、うんうんと深く頷いた。



「ちっこくなっちまったけんど無事で良かったべ。もう一度ご両親んとこで暮らせるようにワシが何とかするべ……」



もうダルドと一緒に学校生活を送ることは出来ない。

シャオンはダルドをギュッと抱きしめると、お願いしますと言ってクマに手渡した。





「そのお方っていうのはどこにいるんだ?」



クマは黙って上を見上げた。

その目線の先にはダリアの旗がたなびく古城がそびえ立っていた。




「あのベル塔の下のお部屋で二人が来るのを待ってるべ。」





その部屋にいる人物……





メタリカーナ国立魔法学校の校長


テンチム魔導師だった────────




















ヤバい、ヤバいヤバいヤバいヤバい。


この展開はどう考えたってヤバいぞ……



逃げ出したいのに逃げ場がない。

戦おうにも魔力がない。

おまけにこの騒ぎで俺達が魔物だということも気付かれたはずだ。

烈士団に…俺達の存在がバレたっ……!



「この魔法学校の校長に会えるだなんて光栄だな。入学式典の時もお見えになられなかったから、是非会いたいと思っていたんだ。」



なにを呑気なことを言っているんだ。

シャオンが何も知らないとはいえ、この温度差はどうしたもんだろう……


「シャオン…今から俺と駆け落ちしてくれ。」

「……なにを言ってるんだ?するわけがないだろ。」


自分でも意味不明なことを言ってるのは分かっている……

でも、それほどまでに今の俺はテンパってるんだっ。



最上階まで来ると長い廊下の先にひとつだけ扉があった。

アーチ型のその扉は左右にある燭台に照らされて、そこだけ時が止まっているかのように浮かび上がって見えた。


恐ろしいまでの馬鹿でかい魔力をビリビリと感じる。


学校のまわりを取り囲んでいるあのどデカい防御魔法と感知魔法、そしてあの巨大な地下空間も……この中にいる校長とやらが一人で全部創ったのだろう。

この魔力…烈士団の中でも幹部クラスに違いない……


わざわざ俺達を呼び出して何の用なんだ?

何を企んでいるんだか全然分からねえ!



「ヤバくなったら俺が食い止めるからからシャオンは逃げろよ。」

「逃げる?校長は僕達を助けてくれたんだろ?」


どう説明すりゃあいいんだ。

とにかく、シャオンだけは何があっても守りたい……



「ツクモ…さっきから変だぞ?」



こんな風に上目遣いで見てくるシャオンもこれで見納めかも知れない……


「シャオン。可愛いからキスしていい?」

「……おまえのそういうところって、病気なのか?」






俺達が校長室の前まで着くと大きな扉がゆっくりと開き始めた。

扉の隙間から見えてきた部屋の奥に、背もたれの長い椅子に座っている年老いた女性が見えた。


それは…見に覚えのある有名な顔だった……



「クィーン魔道士……」



人間の世界でも時に膨大な魔力を持って生まれてくる者がいる。

彼女はその中でも特に、三剣士の一人として数えられるほど名の知られた魔導師だった。

なぜこんな田舎の魔法学校の校長をしているのだろう……


なんてこった……

幹部どころか、烈士団本部の最高責任者だった魔導師じゃねえか。

人間相手に足がすくむほど恐怖を感じるなんて初めてだ……

俺達を閉じ込めるかのように、無情にも扉が固く閉まった。



「昔の私の通り名を知ってくれているだなんて嬉しいわ。」



そう言ってクィーン……今は魔法学校の校長であるテンチム魔導師はニッコリと笑った。

柔和な表情からは昔の面影どころか、俺達に対する敵意さえ感じられなかった。

その名を口にするだけで魔物から恐れられるほどの存在だったのに……



「まずはお礼を言わせてもらうわね。昆虫型の魔物に取り憑かれた生徒を救ってくれてありがとう。あなた達が気付いてくれなかったら、より多くの犠牲者が出ていたでしょう。」



そう言ってテンチム校長は俺達にソファーに座るようにと託した。

お礼を言われるとは思ってもみなかった。

もしかして俺達は歓迎されているのか……?

テンチム校長は自ら調合した魔力の回復を促すハーブティを入れて振舞ってくれた。

一口飲んだだけで体が熱くなるほど魔力が増幅してくるのがわかった。すげえ……

クィーン魔導師は三剣士の中でも特に、魔薬を創ることに長けていた。



「あなたのその紅い目は魔女ね。そしてあなたはヴァンパイア…なぜ魔物であるあなた達が人間の魔法学校にわざわざ入学して来たのかしら?」



シャオンは口元に手を置き、どこまで話していいのか悩んでいるようだった。

この質問…返答によっては今の友好的な態度が崩れるかも知れない。

慎重に言葉を選び、この危機をなんとか切り抜けなければ──────




「10年前に母を殺した犯人を追っている。そいつは欠けた星の印の付いたハンカチを持っていた。貴方は烈士団というのをご存知ですか?」




───────?!!


なに直球で聞いてんだよシャオン?!

まずはオブラートに包んで相手の出方を探らなきゃダメだろっ!!




「あら、私がその烈士団よ。そしてこの学校はそこの支部。」




ばあさんっ……?!

なんであんたも真っ向から打ち返してんだっ!!



シャオンの瞳が猛火のごとく紅蓮色に染まった。

殺気がだだ漏れだ……まさかいきなり魔法をぶっ放す気じゃねえだろうな?

とてもじゃないがシャオンが敵う相手じゃない!


「シャオンよせ!落ち着けっ!!」

「これが落ち着いてられるか!ツクモこそなんでそんなに冷静で居られるんだ?!」


俺の様子にピンときたのか、シャオンは胸ぐらを掴んできた。


「まさかここが烈士団の支部だと知っていたのか?知ってて嘘をついて黙ってたのか?!」

「シャオンのためだよ!おまえ直ぐ無茶するだろ?!」


「僕がどんな思いで奴らを追ってると思ってるんだ!!」

「知るかよ!ほとんど何も話してくれねえじゃねえか!!」



言い争う俺達の体がビクッと硬直した。

横から息苦しいほどの圧迫感を感じたからである。

テンチム校長から放たれる気で部屋中の空気がビリビリと唸る……

しまった…怒らせたか……?



「ふふっ…仲良くしなさい。ケンカは良くないわ。」



ビビる俺達を他所に、テンチム校長はダリアの模様が描かれたティカップを手に取ると、優雅にハーブティをすすった。



「少し説明足らずだったわね。私は随分長いこと烈士団からは隠居状態だし、この支部も14年前に学校が休校となった時に解散してしまっていて活動はしていないのよ。」



隠居状態って……今でも充分恐ろしいまでの現役ぶりじゃねえか。

この学校が支部なのに奇妙なほど動きがなかったのはそういう訳だったのか……



「だからあなたの犯人探しには残念ながら力にはなってあげられないわ。ごめんなさいね。」



シャオンは張り詰めた糸が切れたのか、俺の胸ぐらから手を離すと失礼したと言ってテンチム校長に謝った。

シャオンの敵討ちはまた振り出しに戻ったか……

烈士団は確固たる秘密組織だ。

外からいくら調べたところで犯人の手掛かりなんて尻尾さえ掴めやしないだろう……



暗く沈むシャオンに、テンチム校長がとんでもない提案をした。




「良ければあなた達、烈士団に入らない?」




──────ぶはっ!!


俺は飲んでいたハーブティを盛大に吹き出してしまった。

確かに外からじゃ何も分からない。だからって中に入るだなんて……──────



「正気かっ!?俺達は魔物だぞ?誰が好き好んで自分達の命を狙う殺戮集団に入るんだ!!」



烈士団によって殺された魔物は数えきれないほどいる。

人間に悪さなんてしない人畜無害な魔物だって問答無用で殺すような集団なんだ。


シャオンは何かを考えるように押し黙っている……


いつもちょっとでも手掛りがありそうなら迷わず突っ込んでいっていた。

まさかまさかウソだろ?

嫌な予感がして汗が止まらない……


「ここ最近また悪さをするような魔物が増えてきていてね……本部の方からここの支部再建を打診されているのよ。ちょうど新しい団員を探していたところなの。」


だからって魔物をスカウトするなんてボケてんのかこのばあさん!


「そんなもんあんた一人居れば充分だろっ!」

「私は東の門を守っていて、この魔法学校からは出ることが出来ないのよ。」




──────東の門……




確かこの学校より東の地域には国などはなく、草木ひとつない荒れた荒野が広がっている。

そこには烈士団でもうかつに手を出せないような危険な魔物が潜んでいるのだ。


「世の中魔導師不足でしょ?それにこんな田舎町だしなかなか適任者がいなくて。あなた達なら申し分ないわ。」


この学校の防御魔法や感知魔法はその魔物達からの侵入を防ぐためのものだったのか……




「もちろん正体は隠して活動してもらうことになるだろうけれど、どうかしら?」




ずっと考えていたシャオンが口を開いた。



「いいだろう。」

「シャオン!!」



俺がどんなに嫌だと言おうがシャオンが聞くはずがない。

マジか…マジなのか……


なんの為に俺が何百年も人間として普通に生活してきたと思ってるんだ?

あれもこれもそれも……全部烈士団に正体がバレないようにするためだったのに!!

なのにあいつらの仲間になれってか?

あの欠けた星の印を身に付けて魔物退治に繰り出すだなんてっ……


そんなの有り得ねえだろ……っ!!





「では決まりね。」




テンチム校長が指をパチンと鳴らすと、窓から柔らかな朝日が差し込み始めた。


「もうそろそろクリマー先生が全てを元通りに戻していることでしょう。あなた達も寮に戻りなさい。」



部屋の扉が俺達の背後で静かに開き始めた……







「さあ、新たなる今日を始めましょう。」















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