後日談(?)2
俺のスマホには不思議なフォルダがある。
題名もついていないそのフォルダにはしっかり鍵が掛かっていてパスワードが無ければ開けることが出来ない‥。どうやら膨大な文章データが入ってるみたいなんだけど‥開けることの出来ない不思議なフォルダ。
『最近どうなんだよ?サトルとは』
朝の光に溢れる自室の窓際。
電話口から聞こえてくるのは少年の声。
‥驚くほど顔の良いこの少年といつどうやって出会ったのか、どうして連絡先を交換したのか俺はよく覚えていない。
彼曰く、何かとてつもなく大変な事件があってそれを一緒に解決した仲、らしいのだが‥。
彼との出会いを思い出そうとすると記憶が霧がかかったように不透明になって何一つ頭に浮かんでこない。
『‥普通かなぁ?』
『え?結婚したんだろ?何かねぇの?』
これだけ何年も同棲してればもう事実婚だろ、と思う気持ちは置いといて。俺とだーりんが結婚したなんて本気で信じてるのは仲間内の中じゃこの子だけだ。
『折角の新婚生活‥邪魔しちゃ悪いよ、ね?』
電話口から同職の相棒の声がする。少年と彼女は今一緒にいるらしい。
『結婚なんかしてないくせに』なんて言わず上手に流してくれる彼女に感謝しながら少し言葉を交わして受話器を置いた。
‥リビングの方からテレビの音が聞こえてきて立ち上がる。ああ、彼が起きてきたんだ、と。
『だーりんっ』なんて声を掛けながら背中から抱きつくと彼は『うわ』だか『わぁ』だかよくわからない声をあげて毎度驚いてくれる。だけど今回は特にお怒りの声が上がらないものだから不思議に思って見上げるとだーりんはテレビを嬉しそうに指差していた。どうやらここ一年で一番売れた漫画と小説の表彰するイベントの中継らしい。
『ああ‥』なんて声が漏れる。ステージに上がる2人には見覚えがあった。
『‥ダーリン嬉しそうだネ?』っと聞くと照れ臭そうに頷いて『嬉しい』なんて言うものだから思わず笑ってしまう。そしてそれを見て少し顔をしかめる彼を強く抱きしめて‥あれ?あの子達もどうして知り合ったんだっけ?何で友達になったんだっけ?
『‥鍵の掛かったデータ?』
その後、朝風呂に行くと言う彼に無理やりついて行ったが浴室の中まで同行する事は当然許されず脱衣所に座り込みながらシャワーを浴びる彼と言葉を交わす。
『パスワード、何だったか思い出せないの?』
『‥何だったかなぁ』
少しの間があって『君に取って意味のある言葉かどうかわからないけど』と彼が口にしたのは8文字のアルファベット。
‥半信半疑にそれをパスワード入力欄に打ち込むとあっけなくフォルダは開いた。
入っていた膨大な文章データ、その内容は‥
『‥!?』
『え、何?どうしたの』
浴室の中から心配する彼の声が聞こえても今は答える気になれない。
文章データの内容はまるで漫画のような冒険談で俺が未来の地で大好きなだーりんに出会って恋に落ちるというあまりにも都合がいい夢小説。とてつもなく酷い内容のポエムに頭を抱えながらも一応最後まで読んでみた。信じられないような命がけの旅。まさかこれが本当にあったことだとは到底思えなかった。でも‥それでもこれはきっと。
長い長い冒険談の最後のページを読んでそう確信した。
『ダーリンのあちらの世界での20年間は確かに俺の人生を変えた。こんな幸せきっと他にない。これからもこの人だけを愛していこう。後日談なんていえるものではないけれど俺の残りの人生は全部この人の幸せの為に捧げて行くんだと思う』