~僕と君が出会った意味~
<プロローグ>
人は常に何かを欲する生き物なんだと、
あなたの言葉を聞いたとき
素直にそう思った。
何もかも手に入れているかのように見えるあなたでさえ、
手にできないもの、手に入れたいものがあるんだと。
あなたがあなたとして生きる世界は
どれほど不自由で、そしてどれほど孤独なのか。
それはあなたにしかわからない
だから私が私として生きる世界が
どれほど自由で、そしてどれほど無力なのか。
それは私にしかわからない
そんな私たちに問われた世界は
どんな意味を持つのだろう。
もし、神様にもう一度だけ生まれ変われると問われたなら、
あなたはどう答える?
私は私として生きるよと、あなたは言える?
真っ赤な長い道が大勢の人を中心で分断するように光の舞台まで続く。
スタート地点で咲良は手を振りながら左右平等に視線を投げかけ、笑顔を作る。
歓声があがれば反対方向に、また歓声があがれば反対方向に。
幾度となく、その繰り返しをしながら常に口角を意識し、
ゆっくりとしたスピードで歩く。
「咲良!」
「咲良くん」
「今川くん}
聞こえてくる自分を呼ぶ声に咲良は時々、
それが自分であることが嫌になる瞬間がある。
その声の全てが今の自分を作り、支え、
大袈裟な表現を使えば、彼の明日を連れてくる。
だから決して、その声を無視してはならない。
心の中で何を思っても、何を感じてもだ。
「みんなのおかげだ」
そう全身で伝えなければ、自分の明日は来ないのかもしれない。
そんな義務感が浮かんだとき、
咲良は自分が「今川咲良」であることが嫌になるのだ。