表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

(旧)第二話

修正前のシナリオですが、次の更新で書き直した1話に寄せる方向の新しい二話も入れます

「あっ……」


 それはなんというか、白昼夢から覚めたというか、ボーッとした時に視界の焦点がぶれて、自分がどこを見ているのかわからないのを、誰かに呼びかけられてパッと焦点がもとに戻るような、その程度の感覚で西香はその光景を目にしていた。


 そこにあるのは一面の大平原だ。西香は崖の近くに寝転がっていて、眼下数メートル先から美しい緑の大地が広がっている。森、平原、そこからでは高さはわからないがそれなりに大きそうな起伏があって、それからそう遠くない場所に街らしき場所が見えた。


 その時背後でガサガサと音がした。西香はそれを確認するために振り向くと、白髪の少年が顔を少しだけ木の陰から覗かせて、西香の方を伺っていた。その少年の年齢はおよそ10歳かそれくらいだろうか。


「お姉ちゃん、だぁれ?」


 少年は声変わりをしていない、可愛らしい声でそう言った。西香は「あら?」と数秒前に見ていた光景を思い出して、そのギャップに目をパチパチとさせていた。


「ここはどこですの?」


 西香は少年の問に答えず、自分から質問する。すると少年は「ルーゼの近くの森だよ」と言った。なんでも眼下に見えている街のような場所の名前がルーゼというらしく、西香は聞いたことのない地名に首を傾げている。


「お姉ちゃん、ルーゼの人じゃないの……?」


「知りませんわよルーゼなんて。日本にそんな場所あるんですの?あーんもう。携帯もつながらないですわ」


 西香はポケットから取り出したスマホを触っているが、どうやらアンテナ一本すら入らないらしい。


「わ……もしかしてお姉ちゃんの持ってるそれ、動く文字盤?お姉ちゃん、異界人なの?」


 少年は興味津々で木陰から出てくると、茶色のフードをかぶりながら西香に少しずつ近づいていく。


「異界人~?なんですのそれ?」


「伝承にあるでしょ?不思議な道具を持って現れる異世界の人の事だよ。お姉ちゃんはそんな感じするなって」


「まったく。アニメの見過ぎですわよじゃりじゃりボーイ。仕方ないですわ。とりあえず人がいる場所にいかないと。ボーイくん、近くの街はあのちっこい田舎町だけなんですの?」


「ボーイボーイって、ボクはフェルディナントだよ。それにあの街は王国で一番か二番目に大きいんだよ」


「はいはい。あなたの中ではそうなんでしょうね。しかし遠いですわね。タクシーを呼びましょう。あ、圏外でしたわ。仕方ないですわ、衣玖さんに連絡して転送装置を……あ、圏外でしたわっ。仕方ないですわ、留音さんに迎えに来てもら……あ、圏外でしたわッ。こうなったら信者共に送迎を……あぁっ圏外!もう!なんて日ですの!」


 西香は携帯を睨んで叫んでを繰り返し、乱暴に携帯をポケットにしまう。フェルディナントと名乗った少年が近づいて、眼下の街を見ながら言った。


「あの、お姉ちゃん、ボクあの街への近道知ってるよ。教えてあげようか」


「はぁ……仕方ないですわね。じゃあ早めに患ってしまったボーイとど田舎デートと参りますか……」


 疲れたように言った西香の言葉にフェルディナントは目を丸くして聞き返した。


「で、デート?」


 西香はフェルディナントの反応に顔も合わせず呆れるように付け加える。


「おバカ。本気で言ってないですわよ。おませさんね。わたくしの隣に立てる男性は年収3億は最低ラインですから」


 なんだか楽しい人で良かった、とフェルディナントは口元をほころばせて先導を始めた。生い茂る森の坂を下っていく道すがら、彼らはいくつかの言葉を交わす。


「お姉ちゃんはどこから来たの?」


「銀扇町ですわ」


「聞いたこと無いなぁ」


「それであなたは?田舎臭い格好ですし、あの街の人ですの?」


「ううん、ボクは……森に住んでるの」


 西香はじっと見るではなく、視線の中で捉えるようにしてフェルディナントの服装に注目する。茶色のマントは裾が地面にあたっているのか、擦り切れていたり枝に引っ掛けたことがあるのか穴が空いたりしていて、その上靴はボロボロだ。街が近くにあるのにわざわざ森でこんな生活をしているのだから、きっと大貧乏なのだろうと察した。


「はぁー。良かったですわねボーイ。わたくしのような天上人と触れ合う機会を持てたって明るい思い出が出来て。大人になった時の生きる希望にしなさいな」


 西香は悪意を一点もそんな事を言った。西香の美貌は男性限定ではあるが生きる希望を与えることに定評がある。ファンクラブの人間は西香成分が長く補充できないと死ぬと自己申告していたので間違いない。西香はこんないたいけな少年の未来まで救ってしまったか、なんて良いことをした気分になってすらいた。


「うん……そうするよ」


 だがフェルディナントは皮肉にも受け取らず、本当に明るい思い出が出来たかのように、楽しそうに軽く笑うのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ