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僕は妹をMAZyOにした  作者: 赤雪 妖
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告白

 パインには慣れた道なのだろう。

走り出しては止まって振り返る動作を繰り返している。

 建物が視界から消えると美月は、

「手を繋いでいいですか」

 そう言うと返事を待たず、陽介の左腕を抱えるように右手を絡めた。

「陽にいって呼んでいいですか?私のことはママのように、みっちゃんとか、友達やパパみたいにミッキとかでいいですけど」

「それはいいが、普通に美月とは呼ばれないのかな?」

「呼ばれないですね。ミニーって呼ぶ子も居ましたけど、先生までミッキって言うもんだから、もう、私の本当の名前、誰も知らないんじゃないかしら」

 美月はクスクスと笑いながらそう言った。

「それとも何か考えてくださいます? 陽にいから私を見たイメージで」

「じゃあ、お前」

 美月は立ち止まり、口を開けて目を丸くすると、叫ぶように言った。

「お前!」

 満面の笑顔になる。

「すごい発想。素敵……。ねえ、お前って呼んでみて」

「お前」

「はい。あなた」

「いや、それはシチュエーションが違うだろ」

 美月は、「あははは」と軽やかに笑い、

「そうですね。これじゃ、ご夫婦だわ。でも凄くいい。だってそう呼ばれたいと思ってたもの」

 美月の反発する姿を見てみたい。そう思って言った呼び方に、予想外の反応をされた陽介は、美月がそのように呼び合えるものを欲していることを知った。


「普段はみつきって呼ぼう。人とは違う呼び方をしたい」

 そう言って順当な案を提示した。

「あっ。そうですね。フフッ、それだって、私と陽にいだけの呼び方だわ」

「じゃあ、改めてみつき。初めまして。どうぞ宜しく」

「こちらこそ。どうぞ宜しくお願いします。私、陽にいが今日来るの、スッゴク楽しみにしていたんですよ。やっと私の願いが叶うし、味方が来たわ」

「味方って、喧嘩でもしてるのか?」

「う……ん。喧嘩ってわけじゃないけど……]

それまでの屈託の無い顔が曇って、声が沈んだ。

 信にいと啓子ねえにはママの子じゃないって意識があるから、ママが注意するといつも二人で固まるの。あの二人の中に私は入れない。だから、高木の家では陽にいと私は同じ

立ち位置になるというか、そんな感じです」

「そうなのか」


 高木の兄妹にとっては、母を亡くした淋しさが癒えぬうちに見知らぬ女性が母だと言って現れた。ところがその女性は赤子を連れていたので、母の愛は全て赤子に注がれると思ったのかもしれない。高木の兄妹は、多分そんなことで母になつくことができなかったのだろう。  

 そう思いながら陽介は美月の横顔を見る。

 母の面影はあまりない。高木に似たのだろう。


 広い額。ツンと反ったように見える鼻。ポニーテールもよく似合っている。ああイレーヌだ。と、ルノワールの絵を思い出した。


 美少女だ。笑うと口が大きくなり目尻が下がる。笑顔が可愛い。


「ねえ。私を初めて見た印象はどんな感じでした?」

 陽介の視線を感じて、美月は女性の誰もが発するであろう質問をした。

「知性派だと思う。名古屋弁のなまりが無いし言葉が語尾までしっかりしているから、聡明な感じがする。学校ではモテるんだろうな。そんな感じかな。ボーイフレンドは多いのかな?」

「ボーイフレンドはいません。持たないようにしてるの」

「へぇー。それは……。以外だな」


 陽介の知る女子高生(といっても、部活を指導する僅か数名だが)の殆どは、ボーイフレンドやお洒落。好きな芸能人の話題で溢れている。


「女子校だし。言葉は親と学校のおかげですけど……。名古屋弁はもう絶滅しましたよ」

「僕の大学には居るぞ。『やっとりゃーすな』『とれーでかんわ』とか言う奴」

 美月が空に向かって弾けるように笑う。

「あははっ。絶滅危惧的保護方言ですね。意味が判るのが痛いわ……」

美月は笑いながら、何かを求めるように、

「他には如何ですか?」

 なおも訊ねた。


「他には……想像していた以上に美人だ」

「フフッ、やった。他には?」

「チャーミングでもある」

「わあ、嬉しい。もっと言って」

「スタイルが良い。爪が短くてネイルや化粧をしてないから清潔感がある」

「見てますねぇ。クックッ、なるほど……他には?」

「皮膚の状態が健康そのものだ。おっぱいの形が良さそうでお尻が大きい。安産型で種の保存に適している。もっと聞きたいか?」

「きゃーッセクハラだー。あははは。もういいです。じゃあ私は好きなタイプ? 私を彼女にするとしたら合格ですか」

「合格だ」

「よかった。有り難うございます。陽にいは彼女いますか」

「いるよ」

「じゃあ、その彼女と比べて私はどうですか」


「ルックスとかは、清楚な感じがする分、みつきの方が点が高いかな。でも人の魅力は性格も含めたものだから、個性の比較は出来ないけどな」

「えーと。私の方が若い分、見た目の点は高いけど、経験の豊かさと人としての魅力は彼女の方が上と……そういうことですね。まあ。なんて優等生な答え」

 クスクスと美月が笑う。


「それで彼女さんは何をしている人で、今はどうしていらっしゃいますか?」

「彼女は信大の院生だ。博士課程前期。科研で香りや味のような見えないものを数値化する研究をしている。主任教授が定年でやめたので、今は後任の先生やゼミ仲間とラボを作り直している。僕がここに来る時間が取れたのも、彼女が忙しかったから、というわけだ」

「彼女さんに感謝しなきゃ、ですね。それで、見えないものを数値化って、どんなことをするのかしら」


「えーと。例えば……自然界に存在する匂いや味を分析した結果ができている。その成分を数値化してダイヤルのようなもので組み合わせをミックスできるとすれば、何万という匂いや味が作れるとか……宇宙食を刺身やステーキを食べているように感じさせることができるとか。そういうことじゃないのかな」

「へえ。そんなことが出来るんだ。楽しそう。素敵な彼女さんですね」

「まあ、優秀な人ではある」

 腕を掴む美月の手に力が込められた。

 それを、エイッと、弾みにするように、


「じゃぁあ、その彼女とエッチはしましたか?」

「えっ」

 美月の質問が、陽介の思考を混乱させて歩みを止めさせた。

 苦笑いが出る。

「初対面でズバズバ聞くねえ。 普通、どんなデートをするのか、とか聞かないか? 少しは恥じらいとか慎しみを持とうぜ」


 プライベートに踏み込まれた質問に、言葉が強くなる。

腕に当たる美月の胸の膨らみを押し戻すように陽介が言うと、頬を薄く赤らめた美月が抗議の声を上げた。


「あら、凄く恥ずかしいのよ。だから勇気を出して訊いています」

「勇気を出してまで訊くことか?」

「はい。これは私にとって、とても大事なことだし、人生で避けて通れない問題だし、誰にでも聞けることではありませんから」

「僕と彼女の関係がみつきに大事?」

「そうです。恋愛と性の関係は切り離せません。どこまで好きでセックスに進むのか。それで何が変わるのか。或いは変わるためのきっかけになり得るのか……絆としての力はどれくらいあるのか……とかですね。それに……」

 美月は振り返り、陽介を見上げる。

 

「それに、逢うのは今日が初めてでも陽にいのことは小さいときからずっとママと話していたから、私は何でも知ってます。写真も沢山あるのよ。遠くからだけど見てたこともあるし。だから、私にとっては初対面じゃありません。陽にいは私には異性のことも含めて何でも聞ける大事な先生だし、相談したいこともある。私の計画には無くてはならない人だわ」

「みつきの計画はみつきの問題だけど、僕の写真が沢山ある? どこかで見てたって!」

「あッ、しまった。言っちゃいましたね」


 少しもしまったと思ってない顔が、確信犯的に言葉を漏らしたことを示している。

「ママのお友達に、そういう仕事をしている人がいるの。だから、剣道の大会で準優勝したとか……あの時は県の体育館にママと試合を見に行って応援してたのよ。他にも、高校卒業したときに無免許で警察に捕まったとか、それで自動車学校出ても、すぐに免許がもらえなかったんでしょ。お父様が居る信大に行かず、岐阜の大学を受けるって知ったとき、ママ、凄く心配してたわ。お父様と喧嘩でもしたのかしらって。でもあとから、それは信大に獣医科が無かったからだってわかって、とても喜んでた」


「うーん。そこまで知ってるのか?それってヤバくないか」

「大丈夫です。私とママだけしか知らないことだし、さすがにプライバシーまでは踏み込んでないし、お父様が亡くなられてからの情報は有りません」

 確かに、恋人の存在を知らない程度には踏み込まれていないようだが、それにしてもだ。

「参ったなあ。充分プライバシーだろ……」


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