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僕は妹をMAZyOにした  作者: 赤雪 妖
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第26話 金持ちは貴族のように

高木家の朝食は、全員が揃ってから始まる。それは別荘地でも変わらないルールだ。

 今朝は空気が清しいからと、高木がテラスにテーブルを出したので、和子の指示で、それぞれが椅子を運び、朝食の準備をした。


 啓子だけがパンとサラダ。他は和子が言ったように和食で味噌汁も五穀米も各自が必要なだけ自分で取る。


「ゲストにまでウチのやり方を押しつけるようで、すまないのだが……」

 と言う高木に美月が、「パパ。陽にいは私達がゲストになったときも同じ事をする人だから、むしろこの方が良いの。他のことや片付けはみんな私に任せて」

「そのとおりです。そのために寮に入った訳ですから」

「成る程。わざわざ全寮制にする学校があるぐらいだから、それも集団生活の規律を身に付けるには良いのでしょうね。もっとも、私達の大学の寮はセクトのアジトでしたが……

大介はよくぞ引き抜いてくれたものだ」

「高木さんは何故セクトに入ったんですか。それ程魅力があるというか、重要な主張をしていたんでしょうか」

 陽介のいる学生寮にもそういった運動の片鱗は残されている。彼らはK大などの寮に住む活動家と連携し、学祭などでパフォーマンスを見せる。

「私は『粛正』によって築いたレーニンの本当の姿を知らなかったんです」

 高木は自嘲気味に笑った。

「加えて私の家は金持ちだった。所謂、彼らが忌み嫌うブルジョワジーです。そんな自分の出自を恥ずかしいものと考えて、家に反発していたんですね。だがそれは、貧しい者や虐げられた者の言う事には反論できないという心理を利用した闘争階級を形成するための詭弁でしかなかった」

「……」

「大介は私に、『ブルジョワを恥じるな。レーニンがどれだけの贅沢をしているか、どれだけの人を殺して地位を築いたか知っているか』と言い、『金持ちは貴族のようにノブレスオブリージュの義務を果たせばいい』と言ってくれました。そのとき私は、大介を助け、私の義務を果たすことで人々に貢献できると思いました」


 父の若い頃を話してくれる高木に陽介は、

「貴重なお話を有り難うございます」と礼を言い、

「高木さんは明日から会社に行かれると聞いていますので、できましたら昨夜の続きを伺いたいのですが」

「勿論、私もお話ししたいと思っていましたので、望むところです。どうぞ何でも訊いてください」

「では、具体的にどのような事業展開をお考えでしょうか。まずその辺りから」

「そうですね」

 高木は家族の顔を順に見る。

「先ず、何があっても彼女たちの今の生活と社員の家族の生活は確保したい。そのために傘下の優良な一部をグループから切り離す。その後で……」

 啓子が小さな吐息をし「良かった」と、呟いた。


「一案ですが、順序としては、まず燃料会社が必要だ。これは作るより買収した方が手っ取り早い。幸いホワイトナイトを我が社に要望してきたところがあるので中身、所謂クラウンジユエリを精査して会議に掛ける予定です」

 美月がスマホを取りだし、言葉の意味をネットで調べて頷く。


「次に政府に働きかけて試掘の許可を取得する。採算が取れる見通しがつけば採掘の許可だ。そうやって燃料会社のプラントからルートに乗せてガスエナジーを安価に供給する。最終的には石油資源への依存度を二五パーセント減らせればと考えています」

「それだけでも日本は莫大な支出を抑えることができますね」

「そうです。そうなれば財団を設立し、貧しい国に富を分配して地球規模で豊かになれる……地球からの恵みは地球人全てが享受すべきだ。私はそう思って働いています」


「かなり壮大な構想ですね。ただ、富の分配の部分は、教育施設やインフラを充実する方向にするとか、相当考慮した方が良いように思いますが」

 高木が声を出さずに笑った。

「良い考えですね。確かに貧しい国では、注ぎ込んだあらゆる物資が権力者のところに集中して消える。だから、そう思うあなたに私の会社でこの事業をやっていただきたい。私は、最終的にはガスハイドレートに関する部門を全て陽介さんにお任せして、大介君の夢を実現させたい」


「高木さん。『富の分配』はわざとですね。引っかけました?」

「引っかけるも何も、まだ何の実態も無い言葉だけの事ですからね。仰有るとおり、他国を支援するという事は簡単な事じゃない。日本という国は過去の失敗からどれだけ学んでも学びすぎと言う事はない。それほど無駄な支援や金をばらまいています。政治家の人気取りのためだけにです」

「はい。わかります。そこらは父もよく言っていましたから」


 戦前の日本は国際社会に足並みを揃えるために、植民地支配が蔓延する中、ただ只管ひたすらに優等生であり続けようとした。

 そのために日本の本土より優先して、民族の教育施設を整え、インフラを整備したが、その結果、戦後独立した国のうち、日本に対して敵視政策を採り、賠償金を重ねて要求している国がある。

 日本の未熟な善意の与え方は、与えられた者を欲望の虜に変えた。

 対等でない善意は国際社会では機能しないことを、国際感覚に鈍い当時の日本の宰相は読み取れなかったのだろう。 


 高木は「ごちそうさま」と、合掌して食事を終え、湯飲みを手に取った。


「政府は、開発する費用より買う方が安いという理由で、まったくチャレンジをしなくなった。その結果、産油国の言いなりに化石燃料は高騰を続け、国民にその代価を支払わせている。税の収入が増えるので政府は対策どころか値上げを歓迎する有様だ」


「解ります。僕も地球の資源は地球人全てのものだと思いますから」

「但し、それは理想です。利益の配当は本当に難しい。例えば私は、日本は随一の被爆国であるが故に、原子力の平和利用をどの国よりも強く推進すべきだと考えています。だが日本は原爆のトラウマから脱し切れておらず、庶民の原発に対する知識は低く、拒否反応は情けないほど強い。高名な作家が、『電気は無くても人は死なない』などとのたもうて、自分は外国で空調を効かせた豪邸に住み、優雅に生活しているのに、庶民はその言葉に踊らされて高額な火力発電の電気代を払わされている。国会議員は、国家国民の為では無く、自分の票を確保するために原発の危機感を煽る。実に嘆かわしい」

 啓子が言った。

「でも原発があるとプルトニウムができるでしょう。それって原爆ができるってことじゃない。日本に原爆なんか要らないわ。だから原発も要らないと思うけど」

「原爆は恐いですよね」

 陽介は啓子に微笑みかける。

「でしょう。初めて意見が合った気がするんですけど」

 ハイタッチでもしようかと喜ぶ啓子に、

「いえ、啓子さん。あなた二つ間違ってると思いますよ」

 否定の声がやんわりと啓子の声に被せられた。

 陽介が同調したように笑ってみせたので、喜んだ啓子はすぐに言葉を否定されて混乱した。

 だが啓子がこれまで見知った男は、啓子の容姿に惹かれ、嫌われることを恐れて自分の意見を迎合させる者ばかりだった。

「あら何かしら。伺ってもかまわない?」

 結局は陽介もどこかで私の意見に追従するに決まっている。と、そう思っている。


「勿論です。一つ目はですね、プルトニウムにも種類があります。専門的に言うと核爆弾に使うプルトニウムはPu239です。だが、原発でできるプルトニウムにはこのPu239の含有量が少ないので爆発する前に燃えてしまう。つまり発電所原子炉クラスのプルトニウムでは原爆は作れないんです」

「でも新聞に書かれていたんでしょう。日本の保有量で原爆六千発だったかしら」

「あっあれ噓ですね。反原発のためのミスリードです。K大のY准教授が成果を出せない苦し紛れに出した論文にもならない寄せ集め文書をA新聞が利用しただけです」

「だって新聞が噓書くなんて有り得ないわ」

「そう思わせた時点で新聞の勝ちですね。もしかしたら、新聞の使命は真実の報道なんて勘違いしてませんか? 売ることなんですよ。その為だったらあそこは国だって売りかねない。

「いい。分かった。二つ目は?」

「『日本に原爆は要らない』と言われましたね。何故要らないと言えるのですか?持つべきなんですよ」

「えっ陽介さん。あなたさっき原爆恐いって言ったわよね」

 叫ぶような啓子の声に、二人の会話を楽しんでいた高木が、

「啓子。興奮したら負け」と口を挟む。

「言いましたよ。恐くない訳がないじゃありませんか。だからこそ持つことに効果があるんです。使うことは悪だが、持つことは悪じゃない。日本には核兵器を持つ権利がある。特に核保有国のC国が日本の領土を盗ろうとしているし、核ミサイルの高性能化を進めている国が目の前にいる今はね」

「陽介さんの言ってることは詭弁だわ。武器を持てば必ず使いたくなるに決まってる。核を持つから核戦争になるの。それがわからないかしら」

「あれ? 核を持っている国同士で核戦争がありましたか。核も軍も持たない国がC国に占領されて核実験で民族を滅亡させているのは知ってますけどね」

「どこよ。それ」

「東トルキスタンって知ってます? ウィグルとか?」

「名前ぐらいは聞いてるわ」

「そうなんですよ。名前だけしか無くなっちゃった。C国の核実験場は、シルクロードに隣接するウィグル族の居住地なんですよ。イギリスのBBCが取材して、日本を除く世界中に知れ渡りました。今は亡命政府で辛うじて民族が存続している。チベットも内モンゴルもそうですよ。可哀想でしょ」

「だからといって、それで原爆を持つ理由になんかならないわ」

「啓子さん。いいですか」

 陽介の声はあくまでも柔らかい。それが啓子を聞く気にさせるので腹立たしい。

 自分が言い負かされているのを肴にしてニソニソと笑っている父にも腹がたっている。

「なによ」

「憲法にね。どれだけ不戦の誓いを書いたって。それで戦争が無くなる訳ではないんですよ。オークやゴブリンに日本の憲法が理解出来ると思いますか?現実にC国は尖閣を盗ろうとしているけど、違憲にしろ合憲にしろ、自衛隊があるから今はこの程度ですが、もし、尖閣をよこさなかったら原爆を落とすぞって言われたらどうします?日本にも原爆があれば少なくともそれは言えなくなるでしょうけど」

「あっ。でもだめだろうね。あの国は」

高木が口を挟んだ。

「指導者が、核戦争になって自国民が半分になったぐらいで丁度良い、とかいう国だからね」

「だったら日本が原爆を持つ意味なんかないじゃない」

「あっそれはそうですね」

 啓子は論戦に勝利する糸口が見つかったと思った。

「大体、陽介さんの意見は極端だわ。人には解決する知恵というものがあるのだから、話し合えば絶対わかり合える。それにそんな横暴、世界が許さないわ」

 美月が片手で口を抑え「クスッ」と笑う。


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