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僕は妹をMAZyOにした  作者: 赤雪 妖
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第19話 雨耕亭

 "二人で散歩に行きます"


 美月がそう書いた紙を、寝ている和子の部屋のテーブルに置き、パインを伴い二人で雨耕亭に向かった。


 美月は昨夜、拘束具を外した途端ベッドに入り、魂を無くしたように、スースーと寝息を立て始めた。


陽介はその寝顔を見ていると、昨日感じた妹としての愛おしさとは別の、友梨に対して持っているのと同じ愛情が湧き上がってくる。

 それは血の繋がりがないことを知ったことで『異性』を意識しはじめたこと。もう一つは口づけのせいだ。


美月はキスをするまでDNAの鑑定書をみせなかった。

 そのために陽介は、妹とキスをするという背徳感の全てを自分が呑み込む覚悟をしてキスをした。

 美月は陽介に兄として守るべき結界を破らせたかったのだ。


 それが、陽介に何かの役割を与えるための通過儀礼だったように思えて、寝顔にキスをしてみた。美月の唇は吐く息と供に震え、何かを言った。勿論それが意識の深層から出たものか、夢からのものかはわからないが、意味としては陽介が美月を導くものである事を伝えてきた。


 昨夜の美月の唇の震えが、美月が生まれ変わるための呪文だったような気がして陽介は美月の顔を見る。


なにより今、陽介の左の腕に(すが)って歩く美月は、昨日までの美月ではなかった。

もし、血の繋がりがある妹のままなら、供に奈落の底まで落ちて行こうとする決意を持って陽介の隣にいる。

「今日は、静かだな」

「だって。恥ずかしいし、嬉しいから」

「お前のことじゃない。森が静かだって言った」

 わざと外して揶揄からかってみる。

「クスッ」と笑い、反論も何も無く、陽介の真意など見透かしていることを暗に伝えて、また口を閉じる。


言葉が意味を無くしていく。言葉はこの場にはそぐわなくなった。

 溢れるほどの愛情も、感情も言葉で説明すると陳腐に聞こえる。それは既に心に伝わっている。

 美月が陽介の前に立ち、両手で首を絡めて引き寄せる。

 陽介は美月の細い腰を引き寄せて、頭を支えてその唇を重ねた。

そのままの姿勢で佇む二人の前に、朝靄を拭い去られた廃屋が姿を現した。

 伸びた雑草が家の裾を隠して地面に沈み込むように見える。

 

「魔女の館に相応しいな」

 陽介が呟き、納屋から階段を出して、かけた。


美月は工房で、持ち帰ってきた拘束具に首輪、腕輪などのベルトを付けていく。

 背中の編み紐は下から上に編み直して、腕輪、首輪に通したあと引き絞ればコルセットと同じ役目をする。

 ただ違うのは、首輪も腕輪も通した紐の位置によって首枷、腕枷になる。


「これは私のために雨耕さんが最後に作った物だから、ちゃんとした形で一度は着けておきたいの」


 陽介は美月の腕を固定した後、背中を編み上げた紐を首枷の位置に通して引き絞れば、写真と同じ、拘束された魔女が完成する。

「編み上げた紐を滑車から降りている紐に繋いで引いて下さい」

 スタジオの天上から滑車を介した綱が数本降りていて、その一本と繋ぐ。

 美月の指示に従って紐を引くと、靴紐を締めるように編み紐が身体を締め上げていく。

 引き綱の上昇と供に首枷が閉まり呼吸を細くするが、この部分だけは途中から外れて動かなくなる。

 つまり、安全装置が働くのだ。


 雨耕の写真集『魔女(MAZyO)』では、女はここで死を決して魔女だと噓の白状をする。


 女は、「本物の魔女に生まれ変わり復讐してやる」と叫ぶのだ。

 雨耕が欲しかったのはそのとき苦悶する表情。

 だが実際のモデルが浮かべたのは喜悦の表情だった。


 雨耕は苦肉の策として、喜悦の表情を、復讐を果たすために魔女になれる喜びの表情と読み替えることにしてキャプションを付けた。


 そのときに気がついたのだ。どこからか紛れ込んできたので遊ばせておいた美月に。


 雨耕は、性の喜びを知らないこの少女なら、最後まで苦しさが表情に現れるのではないかと考え、美月の拘束具を作成した。

 しかし、完成の後、諸々の事情が撮影を許さなかった。雨耕は煩わしくなったこの地を美月に託して、ここを去り、魔女Ⅲは当初の意図で刊行され、魔女Ⅳは幻になった。


 雨耕は、今は欧州のどこかで本物の魔女を捜しているのかもしれない。 


その美月も、つま先立つまで拘束具に締め付けられて、口を開けたままの恍惚状態だ。

『裸で吊して茨の鞭で傷つけてみようか』

 普通の少女なら悲鳴を上げて逃げていくと思われたその言葉は、美月の心象情景の中にはすでに組み込まれていたのだ。 

陽介のキスが美月を性に目覚めさせたのか、或いはこの装具の卓越した機能でそうなるのか解らないまま、陽介はベルトに、スナップを取り付ける位置を記して美月を解放した。


 二人は一度別荘に帰り、陽介のマンションに向かった。 


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