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僕は妹をMAZyOにした  作者: 赤雪 妖
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第14話 雨耕亭のメンテナンス

ドアをノックする音と、もうすぐ朝食ができるという母の声で陽介が目が覚めた。

 美月はいつの間にかベッドから出て自分の部屋に戻っている。

 母がノックする前に 「はーい。聞こえました」と自室のドア越しに返辞をしている。


 美月はこの年頃の少女がよく言う、『至福の2度寝』はしないようだ。

 昨夜もあの後、同衾した途端、懐にくるまって寝る子猫のように、スースーと健康な寝息を立てた。

『セックスをしたくなるほど好きになれ』という割には男と寝ているという緊張感がない。

 むしろ陽介の方が、無意識のうちに友梨と間違えたら取り返しがつかなくなる。と、背中を向けて身体を硬くしていた。

 

 半開きになっていた隣のドアから「おはようございます」と美月が顔を覗かせた。

 すでに着替えを終えている。

 半袖の白いブラウスに、フリルが付いた紺色のミニスカートが今日の服装だ。

 「先に降りてるね」

 そう言ってドアを閉めると、「カチャリ」というサムターン錠を掛ける音がした。


予定していた朝のジョギングは、スクワットと腕立て伏せで補った。

 チノパンとポロシャツを手早く身につけた陽介は、歯を磨き洗顔を済ませて階下に降りる。

 朝食は、玄米と味噌汁、漬け物、海苔、納豆、干物の小魚という、典型的な和食だった。

「陽介さん、朝は洋食? でも、たまにはいいでしょ」

「いいね。本当はこういうのが好きなんだ。手っ取り早いから洋食にするだけで……って言ってもコンビニのサラダと牛乳だけだからね。洋食とも言えないな」

 美月は『だから~私が』と言いそうな顔だ。だが流石に朝食を作るのは無理なので黙っている。

「よかった。うちは朝は和食なの。それで今日、何か予定があるかしら?無ければ軽井沢にでも一緒に行く?街に降りて遊ぶならみっちゃんに案内させましょうか」

 母は陽介を呼び寄せはしたものの、娯楽のない別荘地で陽介が退屈するのではないかと心配しているようだ。

「ガレージに釣り道具があったよね。あれ借りていい?」

「いいけど、もう一年以上使ってないのよ。大丈夫?」


「あら。今日はお弁当持ってハイキングに行こうって言ったのに」

美月が不満そうな声で割り込んできた。

 どうやら、美月は陽介を使い、本格的に隠れ家のメンテナンスをしてしまう積もりのようだ。

「ハイキングかあ。いいわね。だったら釣り道具は川の所に置いてったらいいじゃない。 それと陽介さん。お魚は釣れなくてもいいわよ。釣れても三匹以上は持って帰らないでね」

「親父もそう言ってたよ」

「夜はみっちゃんのお誕生日会だから、お弁当の量は控えめにしといて」

母の声に頷いたあと、美月は四角い革のランドセルのようなリュックに食材を詰め、陽介はガレージで釣り道具を揃えた。


 道具箱から防錆潤滑剤のスプレー、ガラスクリーナーとクロス、ペンチ、ドライバー、ノコギリと鉈も見つけ、クーラーボックスに入れて担ぐと、美月が目を丸くする。

「何を釣るのかしら」

「監視カメラの手入れは、初めてだろう」

「ええ。ガラス拭くだけでは駄目ってこと?」

「常時、通電してれば傷みは少ないんだがな」

 あまり興味は無いらしく「ふーん」と気のない返事をする。 

「ねえ、お父様が魚は3匹以上は釣るなって言ってらしたの?」

「食べるだけしか釣るなってことだよ。必要以上に取るのは自然破壊と同じってことだから」

「そうか。陽にいのお父様とママってやっぱり夫婦だったのね……同じ考え方をするようになるんだ。なのにどうして別れたのかしら」

「さあな。人の考えは変わるという代表例かも知れないな。美月のパパと親父は大学では親友だったようだから、何かあったのかも知れない。ただ、喧嘩をしたり、憎み合ったりして別れたのではない。それは間違いない。美月のパパはスマートだし親父は山賊のような奴だし……いろいろだろうけどな」

美月は、あははっと弾けるように笑う。

「山賊みたいだったんだ! 私、絶対にそっちが好きだわ」

「そりゃあ親父が喜ぶだろうな」

「ねえ。もしお父様がお元気だったときに、こんなふうに家族同士行き来出来てたら、どんなに素敵だったでしょうね」

「お前が来るのは勝手だが、俺には啓子さんや信一さんと付き合う必要性は無いな」

「でも、こんなに可愛い妹が付いてくるのよ」

「そうか。みつきに恋人になれと言われなくても済んだってことか」

「あ……」

「なにが、あ……だよ。今更、選択肢が有る訳でもないのに」


「そうでした。今のチョイスが常にベストなんだわ。頑張る」

 陽介は美月のその気負った言い方が気になったが作業に取りかかった。



 美月が使う丸木橋は、幹を支えている枝の高さを揃えて切ったので、揺れはなくなった。

鉈と鎌を使い、梢の先に見えていた道を雑木で隠した。これで偶然丸木橋を見つけたとしても先端まで渡る人は居ないはずだ。

 

 陽介と美月は隠れ家の納屋から脚立を出して運び、八台全ての監視カメラの防水ケースを開けてガラスを拭き、接点に防錆スプレーをかけた。

 柵沿いに鉄条網と有刺鉄線を点検して回り、錆びたところを針金で補強した。

 

美月とパインが出入りしていた場所も、有刺鉄線をただ絡ませるのではなく、アングルの爪に挟んで固定されているように見せかける工作をした。


「よし。これで当分柵の心配は無い筈だ。後はモニターでチェックしよう」

「有り難う。とっても助かったわ。じゃ雨耕亭に行きましょうか。今度は私がお昼を作るわ」

 美月は、自分の手料理を陽介に食べさせるのが嬉しくて、声を弾ませる。

 『雨耕亭』の名は外周のメンテの最中に二人で決めた名称だ。

 『隠れ家』という言葉には、聞いた誰もが反応する魅力がある。

「うっかりママに聞かれたら、それだけで耳がウサギか象さんになる」という美月の提案からだ。

 『てい』を邸より亭にしようと決めたのは陽介で、それは雨耕という名前が、雨読を凌駕する逞しい和を連想したからだが、それを陽介が文字としてどこかに表すことはない。

 

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