第13話 雷雨-Ⅱ
「いいよ」
陽介は床に立ち、スエットのズボンとパンツを同時に降ろした。
「男のを見るのは初めてか?」
「初めて…かな。記憶としてはパパとお風呂に入ったことがあるけど覚えてないわ。ねえ、それが普段の状態でしょう?」
「まあ、そうだな」
「どれくらい大きくなるの?」
「人に寄るけど、大体これの二から三倍かな」
パンツとスエットを穿きながら、「まあ、良い機会だからこのさい説明しようか。今なら恥ずかしくはないだろう」
陽介の言葉に頷く。
陽介のものを見たことや、自分のものを見られたことについて、多少の照れは有ったが恥ずかしさは無かった。
「不思議なんだけど、どっちかって言うと恥ずかしくないのがつまらない」
いつの間にか雷はおさまり、雨だけになっていた。
陽介は灯りを付けてソファに座り、美月はベッドに座った。
「例えばだな。笑う口許を見られるのが恥ずかしくて手で隠す。でも、歯医者さんの前では大口空けても平気だろう? あれと同じ事だ」
「あっ。そう言われればそうか。それなら納得。私っておかしいのかなって思った」
「大丈夫。羞恥心というのはシチュエーションが変われば相応に感じる。うーん。ただし、女性に見せる事で喜びを感じる人もいるが、見られて嬉しいのか、驚く女性が見たいのかは判らない。その判断は医師じゃなくて、検事の仕事だろうな」
「わかった!」手を上げて答える。
「どちらで反応するか。ということだわ」
「正解」
美月が両手を口に当てて笑う。
「みつきが昼間言ってただろう。恋の延長線上には性の問題があるって。確かにそれはどんなに美化しようと無視はできない。何故ならそれが恋だからだ。前にもリビドーのことは言ったけど、男性の射精機能が完成すると男性因子の中にあるリビドーという暴力的性衝動によって射精機能が初見される。だから好きだという感情に任せて性衝動をコントロールする理性や知識、能力も育ってないまま感情に走るから、中高生で子供を産むことになる。これは『情』じゃなく、『欲』という」
「はい。さっき聞いた、子供が欲しい訳じゃ無く、育てる能力も無いのに子供を作る行為だけ、つまりセックスだけしたいという人間独特の感情のことだよね。」
「うん。ま、動物界でもオスはそうだから見境の無い男性を『ケダモノ』と表現するけどな」
「ケダモノのような男とか……悪魔とか。陽にいなら、変身してほしいな」
「馬鹿。えーと、みつきはアクメとかエクスタシーという言葉を知ってるか? 他にオルガスムス、オーガズムと発音されるものもあるけど」
「それならエッチサイトで見たわ。それと麻薬の名前でエクスタシーというのがあったわ。アクメは知りません」
「アクメはオーガズムのフランス語だ。そう言った知識はどこで知った?」
「ネットと友達から……が殆ど」
「美月のパソコンには年齢のロックが掛かっていない?」
「だって、教育の場や親が、変な自意識や無知から子供にセックスの事を教えないのだから、興味を持った子がネットや仲間から知識を得るのは当然のことだわ。それを咎める人には性についての明確な説明責任があると思う」
「わかった。俺もそう思うし、親父もそんなことはしなくていいと言ってた。一応大学の教授だった親父が言ってたな」
陽介は十四歳の時、父から強力なウィルス対策ソフトを貰ったが、その意味を知ったのは十六歳になる前だった。
「つまりセックスの頂点はオーガズムによる射精だ。女姓にも前立腺があるので少量だけど射精はある」
「へー。女性にもあるんだ? 知らなかった」
「人間はこのオーガズムを求め、それだけのために四六時中セックスができる」
「オーガズムがセックスの頂点でそのためのセックスが人にはできるのね」
「うん。オーガズム……日本語では絶頂感とか訳されているが、肉体的な生理学用語だ。一方エクスタシーは精神的なトランス状態で恍惚感とか訳されている。正しくは、お坊さんが集団でお経を唱える声明、合唱、好きな歌手とかのコンサートでフアンが絶叫の末に酸欠で恍惚状態になり気絶するとかだが……こちらは?」
「フフッ。今のところは、そこまでの経験無いです……。でも、エッチな気分になってモヤモヤするのを強くしたときの感じかな」
「うん。そう。要するにエクスタシーとは、精神的に感じる頂点だと考えればいい。それが『性』によって引き起こされたもので、それに物理的作用が加わればその頂点で射精が行われる。つまりオーガズムが得られる」
「そうなんだ。それで射精された中に陽にいのジュニアがいて運ばれて来るのね」
美月は「魚の卵を連想するわ」と言った。「どれくらいいるの」
「精子の数か?それなら一度の射精が三ミリリットルとして一億五千万前後だ。それでも精子は約四パーセント。あとは脂肪、優良タンパク質、アミノ酸、ビタミンC、糖分を含むアルカリ性の優良物質だ」
「陽にい達ってほんとに何でも調べるのね」
美月は可笑しそうに両手で口を押さえる。
「でも、どうして私のを触っているときには大きくならなかったのかしら。そんなに自由にできるものなの?」
「なるわけがないだろう。さっき歯医者の事を例えたけど根本的な意識の問題だ。俺には治療するという意識があったし、お前も治療して欲しい、痛みを取り除きたいという意識の方が強かった。だから。そんなときにセックスの対象に考えられる訳がない」
「そうか……そうなんだ。私には、そういう魅力がないのかと思った」
「そんなことはない。そういう時が来れば充分すぎるぐらい魅力はある。『好き』に愛情が重なれば、男性は自然にそうなるし、何よりもお前自身が望んでいなければできないことなんだから」
「じゃあ、私をセックスの対象に考えられるぐらいに好きになってほしいわ。私はもう陽にいをそれぐらい好きだもの」
美月にとっては、陽介の存在が特別なものになっている。
「大丈夫。美月が妹で無ければ多分その気にはなれる。それに友梨が居なければだな。それから、若し俺が結婚する気になったとしたら……だけど」
「それって全然大丈夫じゃないと思うけど。もし、友梨さんが知ったらどうなるのかしら」
「友梨が何を知ったら?」
「私と陽にいのを見せっこした」
「何だそれ。その幼稚園児のようなみせっこは。もし脅迫してるつもりなら、当然、倒木から滑って落ちて、性器に棘が刺さった。なんて笑い話もくっつけるんだよな」
「えっ」
絶句した美月の顔がみるうちに赤くなった。
「以前大学で、患者さんの性的羞恥心に、どう対応するか。という講義があったが、十代の未経験の女性には羞恥心など全く見受けられなかったという証明に使えそうだ」
「なにそれ。卑怯だわ」
「あれ、お前が卑怯とかいうか。治療を受けた恩も忘れて、さもセクハラを受けたかのように脅迫を迫る極悪人め。こんな面白い話をゼミの奴らに広げたら、どれ程みんなのストレス解消になるか」
歌舞伎の見得を切る場面を真似て、大げさに言う。
「きゃーっ。やめて、やめて。そんな言い方人にされると、私生きていけない」
美月は耳を塞いでしゃがみ、笑い転げる。
「そんな話広げたら私死ぬから」
言いながら、それまで感じなかったことが噓のように恥ずかしくなる。
笑いすぎた美月が咳をする。
「判りました。自分の身体のことなのに恥ずかしかったり、抵抗があるのは、行動と意味を不純なものとして考えるからだわ。それに」コホンと咳払いをする。
「確かに友梨さんには、陽にいとのことを内緒にして、その内緒をカードにできるかなっという気持ちが混ざっていました。ごめんなさい」
「よろしい」
陽介は大げさに頷く。
「俺には守秘義務があるから、初めから誰にも言うつもりは無かったけどな」
「いやだもう。マジ、ビックリした」
「彼女には、母さんや美月と会うことは言ってるし、俺に何があっても彼女は俺を信じてくれてる。俺の代わりになる男はいないし彼女に代わる女はいない。だから俺達に脅迫は通じない」
「まあ。羨ましい信頼関係ですね」
美月のツンッとした言い方が面白くて、陽介が笑った。
「でもー。恥ずかしさを除く講義なんてあるんだ。面白そう」
「あれは医学のカウンセリング講義だ。参加フリーだったんで、俺も面白そうだったから混ぜて貰った」




