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桐島ルートその2


 翌日、あれからサーチはパーデキ!

 どうやら近くで人気アーティストのフェスを行うようだ。チケットはネット仲間に頼んだ。まぁ高い出費だったが、背に腹は変えられぬでござる!


「……あの」


 しかしまぁ、桐島たんの喜ぶ顔が浮かみますなぁ。こりゃ、進展間違いなしですぞ!


「あの!」


 む?

 僕に声をかけるとは、物珍しい。し、しかも女子となっ!?


「昨日はありがとう。黒井くん、噂より度胸あるんだね。ただの太ったオタクだと思ってた」


 あれ?地味にディスられてる系?


「でも嬉しかったというか、見直した。最近ダイエットしてるとか耳にするしさ。私もこう見えてダイエット詳しいし、何かあったら聞いてよ。出来たら学校外で」


 じわじわ傷つくんだが。

 ま、まぁお礼を言われるのは悪くないというか、少し報われますな。

 こんな美少女が僕に声をかけるとは……でもきっと彼氏とかいるんだろうなぁ。


「とりあえずライン先、教えてよ」



(ง ˘ω˘ )ว



 学校に着き、僕はほくそ笑む。いやぁ、我がスマホに女子の連絡が増えるとは。リア充?これってリア充への一歩なのですかな?デュフフwwwwコポォwwww


「おい豚野郎。ちょっと」


 あ、栞ちゃん。

 相変わらず怖いというか、さっきの子を見習ってほしいものですな。

 僕は屋上前の入り口へとやって来た。大方の検討は付いているが。


「これが今朝のお前から聞いた情報をまとめたものだ。体重を除いてな。そこらへんは偏見というか、大雑把な私から見たデータだから気にするな」



(体重E、清潔度E、容姿D、偏見D、忍耐力D)


「とまぁ、こんな具合かな?5月にはオシャレも覚えろよ、身の丈程度にな」


 そう言い去り先に戻ってしまった。

 僕は貰った資料に目を通して、自分のステータスを知る。とりあえず前よりは痩せたのは痩せたようだが、せいぜい『親戚に前回の出会いを比較される』くらいのレベルだ。

 とりあえず今日の放課後、桐島さんにアタックしてみようと思う。善は急げと言うからね。



 キング━━━[○・`Д´・○]━━━クリムゾン



 放課後、いつもなら皆が帰るのを待ってから出る僕だが今日は一味違うぜ?

 隣のクラスの桐島たんを誘うんだぜぇ?ワイルドだろぉ?

 とはいえ怖い。語彙が無くならないように話さないといけないし、まだ女子という生き物の免疫がない。

 それでも行くしかない。とりあえず、彼女がまだ教室にいるかチェックせねば。


「それでね、ミツルくんがさぁ」


 よりによって聞きたくない会話ですな……。他の子と他愛もなく話しているようだ。これだと話しづらい……というか、彼女が1人になるタイミングを伺うのは些か難易度extraなのではないでしょうか!?

 だ、ダメだお……くそぉ、内心までオタク喋りになっちまうじゃないか!

 ここで話したところで周りにチャカされるのがオチ、これはまた作戦を立て直すかぁ?


「あれ?黒豚じゃね?こっち見てる……」

「うわっ、キモ」

「てかアイツ少し痩せてね?」

「いやどこがだよ。巨峰じゃん」


 はいはい、退散退散。

 今はダメだ。タイミングが悪い。

 誰か仲裁する人がいれば一番手っ取り早いのだが、彼女の友達なんかいないしなぁ。

 このままじゃ、チケットが無駄になるし、それだけは避けたい。ギリギリまでタイミングを計るしかない。このままではミツル氏にゴールデンウィーク中に取られてしまうかもしれぬ。


「(とりあえず、今日は帰るお……)」


 僕は足早にその場から離れ、いつもより早く学校を出た。これはライブに誘うまでが厳しい道のり、とはいえ……何か策はないだろうか。それともライブを諦めて他の方法を……でもチケットがなぁ……うぅ。


「おっす!」


 学校を出て直ぐのバス停に今朝の女の子がいた。金髪のツインテールにヘソ出し、着崩しにパーカーを腰に巻いていた。それにしても随分とアグレッシブな挨拶ですな。


「えっと……」

「星。星マミっての私。ラインの登録しただろうが」

「でしたな。マミ氏、何の用で?」

「氏って……ま、まぁいいや。ダイエットに付き合ってやろうと思って。私、こう見えてもスリム保つスペシャリストなんだぞ?」

「てかキャラ変わりすぎ。普段とのギャップ凄すぎだろ常考」

「これが私なの。学校だとさ、ある程度綺麗キャラての?してないと吊り合えないというかさぁ。ようは猫被ってるのよ」

「……なるほ」

「とりま『今夜7時』くらいにここの先の公園に来てよ。ただ走ってたんじゃ、効率上がらないからな。ほいじゃま〜」


 そう言い去り走ってその場から姿を消した。あの走りの速さ、やはり普段から鍛えているのだろうか。僕もあのくらい走れればいいのだろうけど、たぶん当分先の話だろうな。とりあえず今夜7時、彼女にトレーニング付き合ってもらうこととなった。これで少しでも効率が上がるなら越したことはないですなぁ。


 僕はそのまま寄り道せず帰宅、一旦シャワーを浴び、鏡に映る自分の姿を見た。


「やっぱ直ぐには変わらないお。前よりは確かに少しばかり痩せたけど、スリムになるにはまだまだって感じだお」


 急ぐような気持ちにはなる。だが身体は素直に細胞を動かすことはない。むしろ元の姿に戻ろうとするーーお腹が鳴るのだ。

 わかっている。正直、お腹が空いている時こそ虚しい気持ちになるのだから。

 身体に力も前ほど入らないし、たまに頭痛が起こる。水分不足なのも調べてわかった。だったら水を飲む。美味しい我が家の水を、1Lほど飲み干した。


「ご、ご飯そろそろだけど……」


 母親が引いた。それは分かりみが深い反応だった。



( っ‘ᾥ’ c) マッ



 夜7時少し前、予定通り公園にいつもの格好でシュシュッ参上ォ!という訳で。


「遅いぞ!」


 もう既に彼女が来ていた。全身青のジャージで髪を後ろに縛っていた。どうやら本気でダイエットに付き合ってくれるようだ。


「それじゃ、いくぞ」

「どのようなプランで?」

「へへっ、見たら私に感謝するぞ?」


 見る?ど、どういうことなのだ?


「まあまあ、来ればわかるって」


 彼女の赴くまま、僕は付いて行くことにした。てっきり一緒にランニングするのかと思ったが、違うようだ。もしかしてジムの勧誘目的、とか?

 それはそれでいいのだけど、何か腑に落ちない展開というか。まだ分からないけど。


「ここだ」


 ボクシングジムだ。しかも本格的なやつ。


「マ?」

「マジだ。いこっ」


 腕を引っ張られ、無理やり中に入ると、そこには細マッチョやゴリマッチョが打ち合ったりサンドバッグを叩いていた。ガチ勢揃いで僕が真っ先に思ったのは「帰りたい」だった。

 肩身が狭いだろこんなん。こんなデブがいていい場所じゃないだろうに。


「お嬢のお帰り、みな敬礼!」

『イエッサー!!』

「やーめーろー!もぉ……あ、私の親父、陸軍なの。それでここにいる何人かは元陸軍の人で……こんな感じ」


 なるほど、よく分からない。

 しかも対応を見る限り、上位クラスの陸軍のお方なのは分かった。つまりここ、彼女の親父が建てたジムということか。

 あし○のジョーかよ。


「それで、どの方が拙者のトレーナーに?」

「ん?私」

「和多氏さんとは、どの方?」

「ミーだよ!アイマイミーマインド!!この私が直々にシゴいてやるってんだよ!」


 し、シゴく?

 い、いや……違うだろ常考。これは全然おいしくない。むしろ辛い予感しかしない。


「ちなみに、今ベンチにいる彼、昔はKONISHIKI並に太っていたが、今はあぁだ」


 小栗旬みたいだった。終


「お前もいずれあぁなる」

「お、お手柔らかに」

「あぁ、ミンチやってやるよ」

「豚だけに?」

「その冗談が言えないぐらいにはしてやる。基礎体力から行くぞぉ!」

「ひぃ!!」


 この後やったのはまず縄跳び、腕立て、腹筋、スクワット、空気椅子を50回ずつ。途中倒れるたびに32ポンドのグローブで腹を殴られた。本当に32ポンドが疑う痛さだけど、耐えられるレベル。というか手加減してるのが分かった。僕のためだと厳しくするのも分かる。分かるけど……。


「はい、やり直し。プラス殴る♪」


 たぶん、僕をストレス発散の何かだと思っている。


「ぐふぅっ!!!」


 殴られると自然に筋肉も付くらしい。それ、口実なのでは?とも疑ったまま、3時間が過ぎた。


「今日はここまで。はぁ、頑張ったじゃん。ジムのシャワーは貸すから、浴びたら帰りな。水曜と金曜、あと土日は私いるから……て、聞いてる?」

「だ、大丈夫だ……問題ない……」

「普通に話せるじゃん。そのオタクっぽい喋りも辞めなよ。モテないぞ?」

「う、うむぅ……」


 ま、まぁどこかでは止めようとは思っているのだけど、タイミング逃してやめてないんだよな。なるべく気をつける努力もしないとならない。


 僕はシャワーを浴び、身体を拭きながら自分の身体を見た。腹の周りがアザだらけなのが分かった。


「エグい……」


 これは間違いなく、明日筋肉痛との戦いになると思った。最近のランニングではまだそんなに来ていなかったのだが、明日は覚悟をせねば。



 帰宅。の前に栞ちゃんがいた。


「はい、サプリ」

「え?」

「……いいから、飲め。そして今日からは爆弾は作らないから、それじゃ」


 静かに家へと戻って行った。何となく、寂しい目をしていたのだが、どうしたのだろうか。


「……飲んでおこう」


 翌日、起きても筋肉痛が起こらなかった。どうやらサプリのおかげのようだ。というかあの爆弾ヨーグルトにも、そのような成分があったのではないだろうか。100kgの僕が毎日快適に走れたのはきっとそうだった。



 それから栞ちゃんはあまり積極的に僕の監視をしなくなった。期末テストが近いからだろうか。だけどデータは取っているようだ。たまに話す際にはデータ結果を寄越し、会えない時は下駄箱に入れていたりした。



 4月下旬、土曜日。月曜日からテストが始まる。赤点だけは取らないようにある程度、勉強はせねばならない。てかまだデート誘えてない現状ではあるのだが。


「ふぅ……国数社は何とかなるな。あとは理科と英語……要らんだろ」


 いや人生で使うかもしれないのは英語なのは分かる。けど理科って……化学社にでもなれというか。


 屁理屈言うても仕方ない……やるか。


 ピンポーン♪


「ん?あ、親いないんだった……独り言でもオタク用語抜け出来てきた我偉い偉い」


 などと言いつつ、玄関を開けた。

 そこにいたのは予想を超えた人物がいた。嘘だろ……いやでもなんで。


「こん、にちは。黒井くん」

「桐島、さん」

「上がっていいかな?」

「……どうぞ」


 嬉しい、というよりは、僕のような人間はまず疑う。なぜかって?これ、誰かが罰ゲームで僕の家に行けとか何とかの仕向けたんじゃないかと思うからだ。でないと可笑しい。とはいえ、やっと2人になれた。やることは1つだ。そりゃあもちろん、アレだ。


「コーヒー淹れるから、先に部屋にいて」

「うん」


 さぁバケの皮を剥がすがいい。大人しく待つ訳ないだろう。僕は『コーヒーを淹れる』といえば数分かかると思うだろ?


 で、出来たものがこちらになります。


 バリスターー彼は数秒でコーヒーを作れる優れものさ。


 さぁこの予想もしない時間帯でどうする?

 僕は静かにコーヒーと茶菓子を持ち、部屋と入る。


「黒井くん、理科進めてたんだ」


 ……何もない。というか平然な顔付きだ。

 汗とか、焦りがまるでないじゃないか。

 なるほど、僕の家にバリスタがあるのを知っていたんだなぁ。


「正直、英語と理科は苦手……でさ。あんまり気が進まないんだ」

「ふーん、そうなんだ。私でよければ教えようか?」

「いや、その前に。何しに来たの、かな?僕なんかの家に」

「えっ?」

「誰かに言われて、とかだったら無理しなくていいかな、て。例えばほら、罰ゲームで来たとか」

「ううん、そんなんじゃないよホント。ただ最近、気になってたというか」


 は?

 いや待て、最後まで人の話は聞くものだ。


「どういうこと?」

「栞さん、だっけ?噂に聞いててさ。栞さん、あんなんだからクラスとも馴染めてないし、きっと黒井君にヤツ当たってるて聞いたのよ」

「だ、誰がそんなこと……」

「それは……言えない」


 だよなぁ。言うたら怒ると思うよな。

 もしかして最近来ない理由はそれなのか?

 僕といると迷惑とかそんな感じなのか?

 あいつらしくもない。そんな事で会わないようにしてるなら、電話くらい使えって。


「先言うと、栞ちゃんは僕をいじめてないよ。それにいつものことだよこんなの」

「それ、黒井君が我慢してるように聞こえるけど」

「違うって。栞は素直じゃなくて、僕なんかといるとほら、あいつのが迷惑だろ?ご近所だし、尚更だよ」

「黒井君、あなたは自分が思ってるほど皆嫌いなんじゃないと思うよ。あなたの優しさに助けられた人だっていると思うし……私もね」

「桐島さん?」

「何でもないよ。ただそれだけ。栞さんの噂はGW過ぎたらきっと消えるよ。そんなことより、私がここに来たのは勉強したくって!」


 急に元気そうな顔になった。

 噂のことは、栞ちゃんには言わないでおこう。でもなんで僕、あいつのこと庇ったりしたんだろうな。むしろ嫌いと思ってたはずなのに。まぁ、いいか。いないといないで寂しいし、僕も少しは痩せてきたから、ご近所さんの僕の評価もそろそろ変わるかもしれないしね。


「コーヒー、美味しいね」


 作り笑顔っぽい。けど可愛い。


「うちのは良いコーヒーマシンだからね」

「機械を褒めたんじゃないのにな。あとここの問題なんだけど……ここをね」


 この後、桐島に理科と英語を教わった。

 苦手なところを軽く、あとは軽く話をした程度に。正直、こんなに話せるとは思わなかったけど、この幸せな時間を嚙みしめようじゃないか。



(っ ´-` c)マッ



「それじゃ、そろそろ帰るね」


 お昼か。そだね、そろそろ帰る頃合いだとは思っていたけど。おっと、アレを渡すのを忘れていた。


「桐島さん、良かったら、だけど」


 手が震えるじぇ〜。怖い、断られるのが。

 でもやるしかない。ミツルに取られるくらいなら玉砕も覚悟の上だ。


「あ、米寿玄人も出るやつだ!」


 元ボカロPだった人だよな、僕も知ってる。


「良かったら、ゴールデンウィークに、行かない?」

「行く行く!3日、はまだ空いてるから大丈夫だよ!」


 やったぁぁあああ!!!

 今、僕の中の観客が拍手喝采やで!!!


「じゃあライン先送るね。プルプル出して」

「は、はい」


 僕のスマホに桐島さんが……良かった、アイコンとかヘッダーに彼氏とかいたらどうしよとか思っちゃった。


「それじゃ、またね」


 桐島さんは帰った。

 そして僕は部屋に戻り、栞ちゃんに電話をかけた。何となく、声が聞きたくなった。


『なんだ豚か。どした?』

「デート誘えた報告を」

『あそう。じゃ』

「待て待て待て!!」

『なんだよ』

「最近、あんま会わないからさ。気になって」

『……別に。お前は今後桐島と付き合う訳だろ?そこに私がいて、変な噂立たなきゃいいと思ってだな。気にするな。今後は普通にするから』

「栞ちゃん……」

『バーカ。せいぜいオシャレな豚になれや。あと体重計買えっ!バーカ!』


 ブツッと電話は切れた。

 とはいえ、栞ちゃんは元気なようだ。良かった。


 僕はこの後夕方までテスト範囲を進め、またジムに行こうと着替えと水をリュック詰め、軽くジョギングしながら向かった。


 身体は段々と絞り始めた。理想まではまだまだかもしれないけど、動くことと空腹に耐えるくらいに成長出来た。



( っ`-´ c)マッ



 いつものトレーニングを終え、シャワーを浴びて戻って来ると、そこにまだマミが残っていた。


「折角だし、私の弁当を分けてやろうと思って。正直、直ぐバテると思ったけど、ここ最近通う姿みて驚きだよ。だからそのご褒美」

「いいの?むしろタダでトレーニングして貰って申し訳ないのだが」

「気にしなくていいよ。私なりの恩返しだもの」


 恩だなんて、そんなこと気にしなくていいのに。

 彼女が用意したのは軽く焼けた鶏肉、それとサラダ、ゆでタマゴだった。

 まさにトレーニング向けのご飯と言ったところだろうな。

 でもちょっと嬉しいのも感じる。


「いただきます」


 鶏肉を口へと運ぶ。うむうむ……質素な味だ。だが体に良いのは間違いない、サラダもほとんど味がない。ほんとはドレッシングをかけて食べたいくらいだ。ゆでタマゴも塩分を感じないし、もはや女子の手料理と呼ぶには遠いものだった。


「私なりに気を使った料理なんだけど、どうかな?」


 えぇ、分かんないんだが。とはいえない。


「美味しいよ。アッサリして食べやすいし」

「よかった!おかわりもあるから」


 おかわりって何ですか?

 いや、十分だよ。このサラダ苦味しかないもん。


「いや、来る前には食べたから大丈夫だよ。帰ったら寝るだけし」

「そっか、食べないにしてるんだもんね。明日も時間あったら来てよ。また作るから」


 えっ、また?

 あぁ……うん、贅沢はいけないよな、うん。

 下手な過食よりは間違いなく体にいいしね。


 僕は今日もジョギングしながら帰宅し、ふかふかの布団へと潜る。今日はなんだか、とても疲れた……精神的なもので。


 こんな調子を付き合えるまでするのか。それに今日話して思ったのは、本当に僕は、桐島さんのこと、好きなのかなって。

 もっとドキドキするものかと思ってた。たぶん冒頭から疑ったり、栞ちゃんの話をしたからかな?

 もっと彼女と、楽しく過ごせば変わるのかもしれない。

 僕の中で何か、動くものを感じる。そんな夜だった。



 ٩( ᐛ )وテスト



 月曜日、今日からテストが始まる。

 初日はさっそく理科と英語だ。苦手なところは克服したし、きっと何とかなるだろうの精神で挑むしかない。

 僕は席に着き、外を眺めていた。


「おはよ」

「……栞ちゃん」


 栞ちゃんはデータを渡し、自分の席へと戻った。そのデータを見た。


「……」


(体重D、清潔度C、見た目D、周りの目C、忍耐力C)


 この一か月で結構自分というものがそこそこ変わってきた。とはいえ、停滞期が来るのが怖い。ダイエットすれば必ず来るというらしい。今のところは順調に体重は落ち、筋肉もそれなりに付いてきた。

 だからと言って安心出来るものでもないけど、ここからが踏ん張り所だろう。


 キーン〜カーン〜コーン〜


 テストが始まる。今日は午前中で終わりか。

 ここが正念場、頑張って解いていこう。



 …………


 ……………………


 よし、全部埋めた。あとは見直そう。


 …………


 ………………あ、ここ違う。


 ………………



 あぁ、大丈夫、ぽい。

 とりあえず合格ラインには行っただろう。

 分からないところは無かった、はず。

 そういえば、最近アニメとかゲームしなくなったな。受験生らしいのかもだけど。そのせいか、妙に勉強した記憶が残っている。変に大人になった気分だな。



 その後、英語も同様、言うほど困るところは無かった。テスト範囲の正解のラインで出来たようで安心した。

 前はこう、食べることとかばかり考えてた気もしたからね。それが消えて、脳がスッキリしているのかもね。



(^∇^)終わったぁ



 放課後、今日はどうするか考えながら下校中、ミツルを見かけた。一緒にいるのは、例の黒ギャルか。あれが彼女、らしい。

 どうしよ。このまま跡を付けるべきか。

 いやなんのために?

 下手なことはやめよう。ここは別ルートで帰って、たまには息抜きをしに行こう。

 アキバ、なんてどうだろ?

 そうだな。たまにはアキバに行って、アニメやゲームに触れるのもいいだろう。


 そう思い経ったが吉日、僕は電車を乗り継ぎ、アキバへと向かう。

 平日でもやはり電車はそこそこ混む。あとテスト期間なのがうちだけじゃないからだな。


「やめて下さい!」


 ふと顔を上げると、女子校生が男子校生と揉めている。止めろよ、迷惑だぞ。


「いいじゃん、ちょっとくらい」

「俺ら暇だからさ」


 ……こういう時、やっぱ周りの人ってのは目を背けるよな。僕だってそうだったからね。でもさ、こういう時、殴られるのが怖いから何もしないってのは違うと思うのよ。怖いのは殴られることじゃない。そのあとの事も跡目に思うからだ、そうだろ。

 なら僕はいいのさ。もう嫌われることには慣れた。


「おい、辞めろよ」

「なんだテメェ」

「通りすがりの豚ですが何か?」

「なんだ、ぶっ殺すぞ」

「やれよ。その貧弱な拳で殴れるものならな」


 男子校生Aの攻撃!

 黒豚は1のダメージを受けた。


 なんだ?思ったより痛くないぞ?

 そか、ボクシングで痛みが麻痺してるーーというか、鍛えられているからか。


「こいつ、硬いぞ」

「ボウヤだからさ」


 黒豚の攻撃!

 男子校生Aは倒れた。


 そりゃ電車出し、少し押しただけで転けるわな。わい、思ったよりは下半身ガッチリしてるならそんなにヨロケないんだわ。今知った。


「くそっ!」


 Bと一緒に隣の車両に逃げた、か。

 でも今回だけは女子校生は逃げなかった。

 無事で良かった。


「助かりました。良かったら、バイト先に来てくれませんか?」

「バイト、先?」


 言われて降りたのはアキバ、そこから数距離歩いた先に彼女の務めている店があった。


「ここって、執事喫茶じゃ……」

「ただの執事じゃありませんよ。男装執事喫茶、です」

「えっ……つまり、男の娘の逆?」

「ややこしい例えですが、まぁそゆことです」


 なるほど。てかバイト雇うんだ学生を。

 中に入るとクラシックな内装で視界にあるのは黒と茶色、天井にはシャンデリアがある。かなり雰囲気がしっかりしてる。でもここお高いのではないだろうか?


「いっしゃい坊っちゃま、私はここのオーナーを務めている仁、と申します」

「ど、どうも」


 白ひげにタキシード、本物の執事に見えた。


「噛み砕いて言えば我が娘の叔父でございます」

「つまり、ここの設立者?」

「左様です。助けて頂いたお礼です。どうでしょう、パンケーキなど召し上がっては」

「あぁ……ごめんなさい。今完全ダイエットしてるので、紅茶だけ貰えますか?砂糖抜きで」

「ほぉ、それは失礼を。では特別、無糖での茶菓子ではどうでしょうか。それなら、お召し上がりになられるのでは?」

「そんな……助けたのは偶然ですから」

「偶然でもそこに貴方がいたのは事実。我が家の教訓は恩を決してアダにしないこと。つまり今返さねばいつ返す、ということでございます」


 なんだか、罪悪感を殺すことの出来ない対応に焦りしかないのだが。

 という訳で、頂いて行こうかな。


「それで、彼女は?」

「彼女?……あぁ孫ならご指名で席を外しております。ちなみに彼女はここのNo.2でございます」

「凄いな。ちなみに1位は?」

「ふふっ、私です」



 凄かったな。まぁなんというか、人生は色んなところで分岐点があるものだな。

 また行けたらいこう。かなり美味だった。

 何というか、食べた瞬間ストレスが一気に飛んだというか、甘みがないのに旨味が広がるというか、語彙が無くなる。元々ないけど。


 もう夕方、今日もまた走ろう。少しだけ足軽な気分だった。


 でもあの時、ミツルの跡を追っていたら、何があったのだろうか?



 それから……5日後、テスト期間は終わり、再び土曜日となった今日。この間、ジムにもきちんと行き、ランニングもこなした。

 あの喫茶店には行っていない。なんだか、雰囲気が良すぎるというか、今の僕が居ていいところじゃない気がしたから。

 ゴールデンウィークまで後3日、今日は服を買いに近くの街までと足を運んだ。

 正直、オシャレとかは分からないから、ライブで着て行くことを踏まえてラフな格好のがいいのかもしれない。

 高いのを買うよりも、身の丈にあった奴を選ぼうと、店内をぐるぐると回った。


「あれ?貴方様は?」

「あ、電車の……」

「だと思いました。その説はどうも」


 丁寧な言葉に新鮮さと土日で制服じゃない。白く身を包んだ姿に目移りしてしまう。華奢な身体にふわふわとパーマのかかったライトブラウンの髪色、執事をやる女の子とは思えない可愛さである。


「お買い物で?」

「うん、今度近くのライブに行くから」

「もしや、彩奈さんの?」

「あぁそっちじゃないんだ。米寿が出る方」

「あら、意外とミーハーなのですね。予想とは違って驚きです」


 まぁ僕が行くとは思わないよね、普通。


「それで服選びで悩んでいてね」

「なるほどですわ。なら、私がコーディネートして差し上げますわ」

「ホントに?助かるよ」

「ただし……そうですわね……あと『ワンランク上』の男になった時、また話して下る?その時にお願いがありますの」


 ワンランク?

 どうゆうことだろう?


「わ、わかった」

「その時が楽しみですわ。私には分かりますの。貴方が今、自分磨きしていることを」

「!?」

「ふふっ、簡単ですわ。まず今来ている服、明らかにブカブカ、たまたまチラッと見えた肉割れ、これだけで十分な予想が出来ました」


 洞察力あるなこの子。

 ちょっと冷や汗かいてしまった。


「私から言えるのは後1つ。この際、コンタクトに為さってみては?」

「コンタクト?」

「ライブで動くなら、絶対その方がいいですわ。あとピアスも。そうそう、このブレスなんかも……」


 この子、ちょっと暴走してないか?

 ま、まぁ何も知らないから助かる気もするのだけど……落ち着かせよう。


「あのさ!とりあえず服だけの予算しかないからさ。コンタクトは午後に行くかもだけど。コーディネート、お願いできるかな?」

「はっ!私としたことが、殿方の予算までは考えてませんでしたわ。分かりました。では、この服とパンツにしましょう」


 白のパーカーに黒のパンツ、無難で予算の範囲内で決まった。

 まぁ背伸びすることもなく、自分でもいいと思えた。少なくとも、真っ黒よりはマシであろう。


「サイズは?」

「3L」

「……今のサイズは?」

「……L?」

「よろしい」


 にやにやとした表情で僕に服を渡した。

 そっか、僕はもうこんなに痩せてきたのか。正直実感があまりないのだけど、周りに言われて始めて気づくものだと感じた。


「じゃあお会計するから。ありがとね」

「いいえ。では私はこれで」


 彼女は直ぐにその場を去った。きっと『ワンランク上の男』にならないと、彼女と一緒に遊ぶことすら出来ないのだろうな。

 いや、別に目移りしたとかじゃなくて、なんというか、お嬢様なんだなって。

 しかしお腹が空いた。やはり空腹は虚しいものだが、下手に食うのと良くない。

 僕は店を出て近くの茶屋に入り、緑茶と三色だんごを食べた。たまにはいいだろう。

 和菓子だし、そんなにカロリーの高いものではないからね。


「……うまっ」


 思わず言葉が漏れる。

 月一は食べたいくらい美味だ。

 それに偶然入ったとはいえ、店の雰囲気がいい。人は少ないし、店は静かなところだった。

 もしやここ、穴場のデートスポットなのでは?


「帰るか」


 服も買えたし、この後また動かなきゃだからね。

 そうだ。ランニングようの服も新調した方がいいかもな。


 って、なんで僕服なんか興味でてるんだ?

 これがダイエットマジック……いや、良いことなのだろうけど。



 ^m^



 いつもの時間、ボクシングジムに行くとマミがいた。その時丁度、彼女もトレーニングをしていた。何というか、その姿を言葉にするならカッコイイでしかなかった。何かに必死な姿っていいものだな。


「はいストップ!今日はここまで!いつもの客人だぞぉ」

「ん?おぉ、来たか。今日からトレーニング内容変えるからな、ちと待ってて」


 ついにミット打ちでも始まるのか?

 今までは身体にムチばかり打つトレーニングだったからな。ついに叩ける日が来るとは。


「はい」

「な、何これ?」

「重り」

「重り!?」

「んで、いつものトレーニングに加えて、踏みつけやるから」


 踏みつけ、てなに?

 もしかして、その名の通りということかな?


「ちなみに重りは両腕両足10kgずつ。トレーニングの時だけでいいから」

「あ、あの〜……ボクシングは?」

「ん?ごめん聞こえなかった」

「いやだからーー」


 言葉を放つ前に、顔面横にストレートが飛んだ。

 僕は汗が噴き出した。


「聞こえなかったっつてんだよ」

「は、はい……」

「うん♪じゃあやろっか」


 僕にボクシングをやらせたくないのか?

 なら別にここじゃなくてもいいと思うのだが。まぁ動けるスペースとシャワーがあるからいいのかもだけど。それにしても今の顔、怖かったな。


 ーー1時間後


 いつものトレーニングを終え、踏みつけというのをやるようだ。


「そこに仰向けになって」

「?こうかな」

「そう。思い切り腹筋に力入れて」


 え?ま、まさか……


「ふん!」

「ゴルパッッッ!!!」


 思い切り腹を踏まれ、僕は呼吸が苦しくなった。あれだけ鍛えたというのに、やはり彼女の力の前では関係なかった。しかし痛みも凄い、これ何セットやるのよ。


「息止めた方がいいよ!ほら次ッ!」

「〜〜〜!!!」


 拷問や。こんなん拷問やないか。

 苦しいし痛いし、痛い。痛いしか言えない。


「ワンツー!ワンツー!


 一度に二度ずつ踏まれ、僕の腹筋は悲鳴を上げている。その時の彼女の顔は笑っているようにも思えた。

 もはや、ストレス発散のためとしか思えない。前にも同じこと言ったかもしれないが。


 この踏みつけ、30分にも及んだ。


「よぉ〜し。次、殴る」

「えぇ!?」

「ほら立った立った。大丈夫、顔は狙わないから」


 大丈夫じゃない……!

 とてもトレーニングとは思えないぞ今日のは!

 で、でもここまでしてもらった訳だし。ここは騙されたと思って、やるしかない。


「来い!」

「おっ、男らしいぞ!いくぞぉ!」


 殴りに殴られた僕のお腹は悲鳴を超え、内出血となった。終わった頃、彼女は氷を持って来てくれた。


「すまん、やり過ぎた」

「ま、まぁいいよ。痛いけど」

「その代わり、今日はこれ持って来たから」


 お弁当か。今度はどんな味のない飯が出てくるのだろうか。


「今日は卵焼き!あとサラダと唐揚げ、衣は落としたけどね」


 それ唐揚げと呼べるの?

 まぁ衣は脂だからね、仕方ないか。

 それでも味は美味しかった。下味をきちんとさしてるのを思うと、手間暇かけたのだと感じた。今思えば、女子の手料理ってこいつが初めてだな。てか、弁当食わす口実で僕のことわざと殴ってり蹴ったりしてないか?

 まぁ……僕の勘違いだとは思いたいところだ。


 そんな感じに、だ。束の間の休息を終えて帰宅する。実は体重計をネット注文していた。玄関にあるダンボールを開け、早速使おうとすると、妹の雅美が現れた。座りながら荷物を開ける僕を上から宥めるように見つめていた。


「……」

「な、なんだよ……」

「なんで、ダイエットなんかしてるの?」

「ま、まぁ……約束しちゃったからね」

「誰に?」


 ・隣に住む栞ちゃんのことを言う

 ・自分に対してと言う


 ……?

 なんだ。言葉が脳裏を過った。まるでゲームの選択肢のような……そういや、最近ご無沙汰だなゲームも。


 なんだ……この嫌な感じ。こいつ、妹だよな?

 今の僕に『隣に住む栞ちゃんのことを言う』なんて言える『度胸』はなかった。


「好きな人が出来たから、今年最後くらい告白したくて。自分ルール?てやつかな」

「……そか。なら良かった。もし『誰か』に指さされてるなら、なんて思ったから。もしそうなら……私……」

「?」

「なんでもない。お休み」


 妹はすぐに自分の部屋と戻った。

 何だったのだろうか、今の質問。あの時、もし別のことを答えていたら……いや、やめよう。

 妹がそんなことする訳ない、よな。


 この日、体重を測ることに成功し、出た数値は驚きの数値、1ヶ月ちょい、少し無理なダイエットをした結果……



 78kg、炭水化物抜きにボクシングとランニングの成果が出ている。


 ここから停滞期が始まろうとしていた。

 けども、僕は元々数字を見て一喜一憂するタイプでもない訳で。日課で今の生活は生活で満足しているというか。

 健全な肉体には健全な精神が宿るとは、きっとこの事なのだなと感じていた。

 僕は体重を栞ちゃんに送り、この日は眠った。

 もうすぐゴールデンウィーク、デートが楽しみだな。

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