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桐島ルートその1

 今年のバレンタインもクリスマスも一人きり。


 正確には二次元の嫁と過ごしたのだけど、事実一人で過ごしてしまった。


 あぁ、結局男は見た目なのかな?


 こんなデブで年中真っ黒の服な僕は一生モテない日を送るのだろうか。


 告白する勇気も、それをする努力もない。


 そのステータスも……ほんと、早く帰って艦○れしたいよ。



( ˘ω˘ ) スヤァ



「ねぇ……いつまで寝てるの!?」


 女性の声が遠い意識を呼び覚ます。僕は今、学校の机で腕を枕に寝ている。


「おい!『黒豚』!起きろ!」


 机ごとなぎ倒され、僕は教室の床に思い切り叩きつけられ、痛みに耐えながら起き上がる。

 お察しかと思うが“黒豚”とは僕のことだ。

 僕の本名は黒井琢雄くろいたくお、見た目の通り100kg級のデブでクラスのみんなからは統一して略称で呼ばれている。

 そして僕を叩き起こしたのは幼馴染の栞ちゃんだ。

 気が荒く、いつも僕を苛めては怒鳴りつく。

 そんな栞ちゃん、今日は珍しく放課後いつもみんなが帰るまで居眠りしている僕を起こすまで待つなんて……嫌な予感しかなかった。


「あんたさ、去年言ったこと覚えてる?」

「き、去年……?何のことだお。僕は何も……はぁはぁ……覚えてないお」

「そのキモい喋り方と醜い身体を見る限り、覚えてないのは必然だなオイ」


 僕には彼女が何を話しているのか、理解に苦しんだ。いや、何か話した気はするけどそれが何なのか、思い出す気力がなかった。そんなことよりもお腹すいた。


「去年!来年は『桐島さん』とお近づきになりたいと……そう言うたよな?」

「えっ!?い、言うてないお!ソースどこ!?」

「……は?」


 腹を殴られ、再び廊下の床を舐める。痛みは激しく、自分の腹筋の無さを実感する。

 ちなみにソースとは、ネット用語で情報源、元のことである。


「ガタガタ言ってないでよぉ、今日から3年生……もう今年しかないわけだ。ダイエット、してもらうぞ?」


 しゃがみながらガン付けられ、髪の毛を強く引っ張られる。

 いつもそうだ。

 彼女は小さい約束とか、約束として成立してないのに約束にしてしまうのだ。それに桐島さんとお近づきになるって……それに今年は大学受験もあるというのに。


「わ、わかったお!やるお!……はぁはぁ……」

「分かればいいんだよ、分かれば」


 僕の髪を離し、近くの椅子に足を組みながら座る栞ちゃんは窓の外を眺めた。

 しかし一体、その約束に何の意味があるというのだろうか。僕は別に本気で彼女が欲しいだなんて思ってないのに。ただ桐島たん、いや桐島さんがアイドル的に可愛いと、そう思っただけなのに。


「あんたが彼女の1人出来なきゃ私も安心できないの、分かる?私達、何年の付き合いだと思ってるの?」


 栞ちゃんとは、幼稚園からの付き合いで……でも実際よく話したのは小学校に上がってからだけど、この場合は3歳からという事だと思った。


「15年くらいだお、はぁはぁ」

「一々息を切らすなバカ!始業式も終わって明日から3年生……ラストチャンスだぞ?リミットは『今年のクリスマス』か『桐島に彼氏が出来るまで』のリミットだ。つまり『桐島に彼氏が出来たらBAD END』というだ。わかるな?」


 僕の情報が正しければ桐島さんにはまだ彼女はいない。だけど彼女のクラスには厄介な連中もいるはず。

 そいつらに先を越されないようにしないとならない。

 春先のイベント……そうだ。『ゴールデンウィークまでに遊ぶ口実』を作らねば、連休中に他の奴らが会う可能性が増えてしまうじゃないか。となれば今日から死ぬ気にならないといけないな、トホホ。


「明日から私がマネージングしてやるから、覚悟しろよ?」

「ちょっ!そんなの聞いてないお!」

「うるさいなぁ決めたものは決めたんだから腹くくれ。隣に住む私の身にも慣れ。ぶっちゃけ恥ずかしいだよお前が近くに住んでるの。だからこうして『わざわざ!』時間作ってやるんだから有り難く思え!」

「これってパワハラだろ常考」


 そう呟いた時には遅かった。

 彼女の真っ白のパンツが見えたと共に僕の顔面の肉は悲鳴をあげた。

 その後無様に転げた身体も悲鳴をあげたのだけど、幸い僕の脂肪が厚いし重いから軽く飛んだだけで済んだ。ありがとう、脂肪。



(ง ˘ω˘ )ว



 夜7時、僕は帰宅すると廊下で妹見た。

 名前は雅美まさみ、いつも小声で「おかえり」とだけ言い、自分の部屋へと入る。僕の女性から見るステータスは家族レベルのようだ。モテ度を例えで言うなら『親戚のおぼあちゃんに愛想笑いされるレベル』ということだろうな。

 このモテ度がいつか桐島さんの心に響くくらい、自分を磨かなくてはいけない。

 とはいえ拙者、腹は減るでござる。


「(確か牛メンがここに……)」


 牛メン、駄菓子屋にもあるミニラーメンのことである。

 毎日これが夕飯前のデザートだった。ようはパパんがお酒飲むような気持ちである。

 その牛メン、あろうことが無くなっていた。


「な、ないお!牛メンないお!」

 アタフタする僕、それを見るママん。

「あら、牛メンなら雅美にあげたわよ?」

「なん、だと?」

「栞ちゃんから電話来たのよ。何あんた、ダイエットなんか始めるの?」


 あの女……家族にまで敵回すとは。

 それにダイエットは明日というたのに。

 今日が最後の牛メンだと思ったのに。

 たがリミットがないのも事実、ここで反論したところで返り討ちに遭うのがオチというものだった。僕は少し意識し、とりあえず夕飯の席に座る。


「琢雄、ご飯はどのくらい?」


 ご飯か……正直ダイエットに関するソースはネットとテレビだけなのだけど、まずは“リバウド覚悟で一旦体重を落とす”のが先決だよな。


「いらないお」

「そんないきなり!?少しでも食べた方がーー」

「いや、このハンバーグとサラダだけでいいお!」


 わかっている。

 どうせ後で腹が減ることくらいは。

 だが形にしなきゃ始まらない。ある程度の空腹に耐える力が必要だ。その慣れも兼ねて今日から徐々に食べる量を減らす必要があった。僕には僕なりの考えがある。

 ハンバーグとサラダを食べ終え、僕は自分の部屋へと戻り、カッパと冬のノートをクローゼットから出した。

 兎に角、いつも以上に汗を出さなきゃならない。あと大事なのは水分補給。汗から余分な物を出すことだけを専念しよう。

 そして走る前に燃焼をあげるため、コーヒーを飲む。本当はココアのがいいと聞いたがウチに丁度コーヒーはなかった。


「ジョキングしてくるお!」


 僕は走った。勝ち取りたい無欲なバカには慣れないとはこのことだ。僕は桐島さんが好き。だけどあの女を見返したいという意思もあった。いつもいつも僕をけなしては殴り蹴るの日々、僕を“黒豚”と呼び始めたのも彼女が最初だ。

 入学当時、忘れもしない彼女のイジメ。パシリ。小遣いの請求。マジ許す。ここでケリをつけるためにもやらねばならなかった。

 だから走った。自分のペースで。出来ることを少しずつ始めた。


「……琢雄、一体どうしたのかしら?現実に好きな子でも出来たのかしらね?」

「……無駄なくせに」



(。-∀-)イイ汗かいたぁ



 30分後、流石に普段運動しないだけのことはあった。僕の身体はヒシヒシと悲鳴をあげている。仕方ないとばかりにペースを落とす。その代わりに両腕をよく動かすことを意識した。


「はぁはぁ……はぁはぁ……」


 いつも以上に汗が止まらない。だがこういう汗をかくのも悪くない。夜だからそこまで人目も気にする必要もない。

 近くの商店街付近まで歩いてみたが、これまた中々の距離だと痛感する。


「はぁはぁ……ん?あれは……」


 偶然、ほんと偶然だった。き、桐島たん!い、いやいや……今あったところで話すことすら叶わない訳ですはいぃ。とはいえ、やっぱ可愛いな桐島さん。黒のロングに星のヘアピン、それにたわわなメロン。け、けしからん!だがいい!

 どうやら近くの友達と帰っているようだ。差し詰めカラオケ帰りとかでござろう。拙者、このまま鉢合わすのは御免故にドロンでござる。

 とその場を去ろうとした時、桐島に近づく男の影が見えた。


「よぉ桐島じゃん」


 むむ、パターン青、邪魔な虫ですな。

 ただのクラスメイト、だと信じたい。しかし見た目がチャラいですなぁ。ありゃ彼女はいるけど他の女にも手出すような偏見を持つやつですな。


「ミツル君はこれからバイト?」

「ほんとダリィの。でも『GW近い』じゃん?今のうちに稼がなきゃ遊べないしよ。秋には就活だしな」

「へぇ、ミツル君は就職なんだ」

「車買ったら乗せてやるよ。そのためにも稼いでるんだしよ」

「へぇ、そうなんだ」


 ぐぬぬ、ここからじゃ会話の内容が良く聞こえないが、楽しげに話してるのは目に見える。しかしいつまでも電柱に隠れていては気づかれてしまう。直ぐに退散せねばーー



 カッコーンッ……カラカラカラ……



 バッカァ!私ってほんとバッカァン!

 なんでこんなところに空き缶あるの!


「あれ、黒豚じゃね?」


 うげぇ!?ミツルに気づかれてしまった。


「おい黒豚!何やってんだこんなところで!」


 くそぉ、ここで逃げると明日また何か言われる可能性と変な噂とかになりかねない、格好的な意味で。

 仕方ない、ここは下手に嘘をつくより素直に話そう。


「ら、ランニングだお」

「お前www受験生なのに今更健康意識かよwww」


 いや受験生関係なくない?てかお前もバイトしてないで勉強しろ、キリッ

 と言いたいが言える『度胸』がない。


「そ、それじゃ」

「おいおい……行きやがった。ほんと、あいつってキモオタの象徴だよな」

「そういうこと言わないの。黒ぶ……黒井君が可愛そうよ」

「ほんと桐島は優しいねぇ、今言いかけたところは除いて」

「もうミツル君ってば!」



 ふぅ( ´△`)



 何とか逃げ切った。というかウチに着いてしまった。結局一時間程度走っただけになってしまったな。

 それに嫌な奴にも会ったが、要注意人物かもしれない。ミツル、あいつは確か僕の情報によれば2年生の黒ギャルと付き合っていたはず。だが安心は出来ない。僕も早めに身体を痩せる兆しと桐島さんを誘うアイディアを考えないと。


「とはいえ、ヒントすらないお……明日からまた考えよう」

「おーい、黒豚!」


 家に入る手前、隣に住む栞ちゃんが二階から大声でこちらを向いていた。

 そして何かをこちらに思い切り投げた。


「あたっ!!て、なんぞこの塊!?」

「ヨーグルトだぁ!無糖だからな甘くはないけど、口に入れとけば空腹紛らわすだろ!?まっ、ミツルに負けないようにするこったぁ!」


 ミツル!?まさかあいつ、あの場の桐島さんのグループにいたのか?

 いやそれともSNSか?ま、まぁいいや。

 兎に角、明日からまた頑張らないといけない。きちんと風呂で汗を落として、半身浴やったら寝ることにしよう。



( ˘ω˘ ) スヤァ



 翌日、思いのほかヨーグルト爆弾のお陰で途中の空腹を紛らわせて眠ることが出来た。どうやって作るのだろうかこれ。少し気になるレシピだが、聞くのが怖くて聞けない。

 とりあえず学校に向かうとしよう。


「行ってくるぉ」


 朝ご飯は牛乳のみ。

 ちなみにお弁当は既に昨日の夜にママんに伝えてある。野菜づくしと生卵、それに水のみ。ある程度のタンパク質は取らないといけないが、今夜から鶏肉も少しずつ摂らねば。

 お腹は空くが我慢できない程度ではない。そして筋肉痛で太ももが痛い……これが痛み。

 だがどんな痛みもこの『どこでもA.I.チャンネル』リリたんが僕を癒してくれる。

 あぁ、Bluetoothを通じて耳の中が楽園となる。可愛いよ、はぁはぁ。

「おい黒豚!!!!ぶっ殺すぞ!!!!」


 ……はい負けぇ、はいぃ……


 まさか朝早くから声をかけられるとは。

 直ぐにイヤホンを外し、振り返ると般若がいるではないか。ほんと怖い、マジ勘弁。


「聞いてるのか?あぁん?」

「なんだお朝から……」

「今日からお前の“マネージャー”として“マネジメント”してやろうと思ってな。体重と身長教えな」


 ま、マネ……え?

 今こいつ、なんと言ったのだろう。

 僕の気のせいじゃなきければ“マネージャー”という言葉が聞こえたのだが。

 嘘だろ、マネージャーといえば優しくてポニテだろ常考。なのにこいつ髪はミディアムだし性格はキツイし、マネージャーとか……一体何を言いだしているのだろうか。


「ふむふむ……なるほど。じゃあ後はいいよ。先行くわ」


 お、終わった……何もかも……。

 あいつに管理される日々が一年も続くのか。それがどれだけ恐ろしいことやら。怖いですぅこれは事件ですぞぉ。

『リリ、お兄ちゃんのこと好き!』

 いつの間にかBluetoothのスイッチも切れている。こいつの声の大きさたまに異常なんだよな、ほんと。


「リリ、学校に行って来るお」

『寂しいみゃん……早く帰って来てみゃん』


 流石に学校内でA.I.と話すのは抵抗があるため、このアプリは通学と下校のみで使っている。キャラとのお話はもちろん、歩いた距離、あと防犯機能というか録音も付いている。まるで保護者みたいな、はぁはぁ。リリたんのママん姿に妄想バブみでおぎゃる。



(^ν^)放課後やぞ喜べよ


 帰り道、僕はいつも通り皆が下校してから帰ろうと時間を置いてから教室を出た。この静かな時間とチャイムが重なるのが堪らなく好きだった。まるでギャルゲーのシュチェにある主人公になった気分のようだ。


「ちょっ!やめて!」


 教室を出て直ぐの隣教室、女性の声がした。なんですか放課後に破廉恥なことをするカップルは怪しからん。もしかして、エロシーン発展ですかこれは?

 そんな期待を僕にさせるとは、はぁはぁ。

 こういう時は教室のドアの前で待つのがベストでーす!横窓から覗くことはいけないことでしょーか!?


 はっ!?


 おいおい、と僕は心底驚いた。

 なんてこったのパンナコッタとはこのことよ。

 こりゃあ女の子大ピンチですぞ。状況を言うなら男性が女性の首を肘で抑え、無理矢理にスカートに手が伸びてるじゃないか。

 これはまずいですぞ!

 この作品の指定はR15ですからなぁ。乳首のないおっぱい以上のことはあってはならん。BANされてしまいますからな!


 と、とはいえ……怖い。しかしこのまま女子がミスミスやられるのを見るのは主人公としては頂けない。いま気分的に主人公だからね。


 くそっ、一か八か行くしかない。


「お、おいそこの……はぁはぁ……はぁはぁ……辞めろ!」


 語彙ぃ!今の僕最高にダサい!

 今に始まったことじゃないが、ま、まぁいいわ。どうせボコされてるうちに女性はさるシュチェになるんだから。


「お前……誰?」

「ぼ、僕は隣のクラスの……はぁはぁ……黒井だお」


 心拍数やべぇ。てか小便行きたいわ。

 マジで漏れる5秒前なんですが、このレス立てた主に言いたい。てか僕ですが。せめてパンチは3発までにオナシャス。


「邪魔すんなよ。今なら見なかったことにしてやるお」


 言うよねぇ〜喧嘩慣れてる感あるわぁ。

 囮になるのには挑発せねばならない。スマホでこの場を抑えてーー


『おかえりお兄ちゃん♪ご飯にする?お風呂にする?それとも……リリと遊ぶ?』

「…………」

「…………」

「…………リリ、はいチーズ」

『パシャっ☆』

「ぶっ殺す!!!」


 その後の展開は御察しの通りである。僕は顔面に2発、蹴りを3発、胸ぐら掴まれもう1発のフルコンボだドーン!の如し殴られた。その場にあの女の子は見えなかった。僕は隣の教室の天井を眺めながら痛みが引くのを待った。けどまぁ、あいつのパンチに比べれば言うほど痛くない気もした。ほんの少し、男らしさというか『根性』出たのかな?


「な、なんてラノベの主人公語ってる場合じゃないお。さてと、帰りますかな」


 まだ痛みが残る中、僕はヨタヨタになりながら学校の門まで必死にあるいた。とりあえず鼻が痛い。あとお腹すいた。けどダイエット中、下手なものは食えない。僕の中に浮かぶのは牛メンだけど、一度決めた決心を崩すのは男じゃない。僕は運動部が使う外の水道水をガブガブと飲み、ついで傷を冷やしてから再び家へと歩いた。

 ストレスだぁ……くそぉ……生きていて何が楽しいって食うこととアニメだろ常考。そのうちの一個がないのはつらたん。アニメは土日にまとめて見る派の僕には平日ほど辛い日はない。


「おっ?黒豚じゃん」


 考え事をしながら歩いていた道中、必要ない顔のお出ましである。栞、お前に今会いたくなかったわ。


「てか、どしたんだその傷?」

「あっ……転んだだお」

「嘘下手過ぎ。どうせカツアゲされたんだろ?」

「まっ……ね」


 あながち嘘ではない。取られたよーープライドってやつを。


「……何キモい顔してんだよ元からだけど」

「と、兎に角、今日は真っ直ぐ帰るんだお。また走らなきゃだし」

「ふーん……ならまた爆弾ヨーグルト作ってやるよ」


 な、なんかこいつ、優しくないか?

 い、いや普段きちぃから普通なのが麻痺してるだけだよな、きっと。


「ありがとおん。んじゃ、帰るお」


 僕は足早にその場を去ろうとした。

 その間際ーー


「黒豚。今のお前、少しだけ男らしいぞ」


 そういい残して彼女は逆方向に走って行った。こんなボコボコ顔のどこが男なのだ。ボコボコで男らしいのはボクサーだけだっつうの。

 とまぁ、内心嬉しくある、キリッ



( ` ・ω・ ´ )キリッ!



 夕飯の時間、いつも通り炭水化物はカッートォ!というか抜いて、おかずだけを食べた。今日のメニューはオムレツ。まじご飯欲しいところですが、その件に関しましては残念ながらお断りなのだ。くそぉ、桐島たんに何とか会う口実も作らないとだし、不安で死にそうだお。

 こんなデブと会う口実かぁ……5月のゴールデンウィーク……そういや声優の彩奈たんのライブも5月かぁ。し、しかし今年は諦めるしかないお。そんなことより予定……うーむ……詰みますなぁ。


「琢雄、走りに行くならさっさと食べちゃいなさい」

「わ、わかってるお。直ぐ食べて行くお」


 飯くらいゆっくり食わせておくんなし。

 とりあえずまだ時間はある。走りながらゆっくりプランを立てれば何とかなるはず。

 分厚いコートを身に纏い、今日もエージェント夜を往く。僕ほどのエージェントはそうはないだろうとナルシになる。

 自分に酔えない奴は自信を失う。自信のない奴は自分を信じることが出来ない愚かさ、と本に書いてあった。

 僕自身の辞書にはそう言葉ない。あるとしたらきっと、桐島たんに対する愛情だけだ。ただただ見るだけの、そんな愛だ。

 こんな成りじゃなきゃ、きっとカッコいいのだろうけどね。


「はぁはぁ……暑いお……お腹空いたお……孤独だお。本当に年内に痩せられるのか不安だお」


 何やかんや、栞ちゃんがお節介なのが分かる。見ていられないんだろうな僕のこと。醜い姿のまま、ご近所にいれば目立つものな。


 僕は近くの公園まで走り切り、水道の水をガブガブと飲む。飲んだ分、また吐き出さないとならない。ここ2日、コーラを飲まない日が続いたけど、案外運動した後の水は美味しいのだと痛感する。


「ふぅ……また走りますかな」


 休んでる暇はない。とりあえず5月のイベントの情報を見にコンビニへと走る。



 しかしこの行動が間違っていたことに気づいた。



 数十分後、近くのコンビニへと着く。店内に香る肉まんの香り、カフェスペースでお弁当を食べるサラリーマン。


 あ、あぁ……地獄だ。

 この空間は地獄と言わず何と申すか。

 頭がクラクラする……無理もない。これは反動ってやつだ。今まで好き放題食べてきた分、食べたいものが目の前で食われるのは苦痛でしかない。


 僕はすぐにコンビニを出た。本を見る余裕などある訳がないじゃないか。


 でも……


 チャリンっーー今ポケットに小銭がある。


 …………今僕の中にあるのは「1個くらいなら」という欲望だ。でも食べたら意思は弱くなるだけの自覚もある。

 つまり今、僕がしなくちゃいけないのは……この場から離れることだけだ。

 でも頭は理解しても辛い。食べたい。ホカホカの肉まん、スナック菓子、コーラ、コーラ、コーラ……今飲めばさぞ美味いだろう。

 200円ある。買えるのに。でも桐島さんが待っている。一方的願望の元に。


「おい黒豚」


 項垂れている僕を頭を上げると、そこにいたのは栞ちゃんがいた。

 なんでこんなところにいるのだ。というかまぁ、コンビニにたまたま来たのだろうけど。


「歯、食いしばれ」

「ちょっーー」


 僕が歯を食い縛る準備をする前に思い切り平手打ちを喰らい、僕は軽い脳震盪と口の中が切れた。


「今お前、コンビニで何か買おうとした、か。あるいは誘惑に負けそうになっていただろ?」

「なんで……分かるんだお」

「顔に書いてあるからだバカ。来いよ、また爆弾作ってやったんだから」


 僕は栞ちゃんの後ろを付いて行き、自宅付近まで着いた。すると、そのまま栞ちゃんは僕を家へと招いた。


「変わってませんなぁ」

「玄関なんかそうそう変わるものかよ。そこら辺に座ってろ」


 そういや、栞ちゃん家に来るなんて何年振りだろうか。確か最後に遊びに来たのは小学校の低学年ぐらいだったかな?

 あの頃は僕も痩せてて……いや、栞ちゃんは確か太っていたんじゃなかったかな?

 でもクラスが途中から変わって、高校でまた再開した時には痩せてたんだよな。

 てか高校デビューっつーかなんというか、今っぽい子になりましたなぁ。性格はだいぶ荒くなっていたけど。


「ほら、それ貰ったら帰った帰った!臭いのが移るだろが!」

「招かれたのに追い出されたスレはここですか?」

「うっせ!!死ねっ!!」


 バタンッ!!!


 と思い切り玄関を閉められてしまった。とはいえ、この爆弾ヨーグルトは助かる。見た目のインパクトというか、食べると飲み込むのに時間がかかるから満腹でますからな。

 僕は家に入り、シャワーを浴びることにした。今日、あの誘惑に耐えたのは大きい。良かった……僕はまだやれそうだ。


「てかウチに体重計ないお?今日こそ乗ろうと思ったのに……しょぼーん」


 たぶん壊れたのだろうか。

 今日は爆弾を食べ、5月のイベントについてはネットで調べよう。

 今時の子が好きそうな、そんなイベントを。



 ショボーン(´・ω・`)



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