繋ぐは一つの共感
引き戻される。地獄に垂らされた糸を手繰り寄せるように、現実の世界へ息を吹き返していく。
電気ショックを貰ったように体を跳ねさせ、私は常世に帰ってきた。
「スズナッ!!」
レナの悲鳴混じりの叫びが聴こえる。その声には余裕がない。この状況で私の安否を心配してくれているのか、それとも彼女自身にもう余裕がないのか。
私の体はまだ足の間に捕らえられていた。
体が痛い。骨が軋み、内蔵は今にも押し潰されそうだ。
だが、まだ動ける。まだ戦える。
魔力が、少しばかり回復していた。幻のような世界にいたあの女性が何か手心を加えてくれたのだろうか。
それに、胸の奥に一つ、暖かい灯火がある。
それは加護で作り出した、付喪神とも言うべき存在。あの女性がやってみせ、聞かせてみせた今ならこの付喪神を産み出した加護の詳細が分かる。
私の加護は『縁結び』。心を込めて名無しに名付け、私と結び付ける事で付喪とする回りくどい加護。
「……『し、ら、うお』っ!」
付喪の名を呼ぶ。今も胸の内に付喪との繋りを、暖かさを感じられる。
音もなく、コカトリスの後ろに白い布の切れはしが浮き上がった。五十センチ直方程度の白布は、まるで亡霊のように中空に揺らめき佇む。
「な、何あれ……私の編んだ……布?」
レナが呟く声が聞こえた。
確かによく見ればそれは、先程まで足場として折れた枝にとめられていた、レナが自分の糸で編んだ白い布だったはずだ。
だが、私はその異質な布に眼に見えない魂の繋がりを感じていた。つまり、この布が『白魚』であり、使役する付喪なのだ。
白魚との繋がりは、不思議なものだった。自分が白魚を操作しているようで、その実私の考えていない動きをする。
声に出さなくとも右に寄れと念じればそちらへ動く。だが、完璧に思い通りに動くわけではない。
分かるのは、私の加護はあくまで繋がりを作るだけで、決して自分の手足を作っているわけではないという事だ。
―――クココッ、クココッ。
異変に気付いたのだろうか、コカトリスがレナへの追撃の手、いや嘴を僅かに緩め首をあげた。
その瞬間、ゆらり揺らめいていただけにだった『白魚』は猛烈に加速し、コカトリスの眼前に獲物を追う肉食魚のように飛び出す。
筆で描いたように、宵闇の中に白い軌跡が走る。
―――クケケケ!?
響き渡ったのは、コカトリスのつんざくような鳴声。
嫌がるように首を降り、翼を大きくばたつかせて白魚を追い返す。
その際、ぱたぱたと血の滴が周りに散った。
コカトリスの血だ。幸い、私達には降りかからず石化してしまう事は無かった。
コカトリスは鶏頭の方の右目を切り裂かれていた。
その原因である刃は、白魚が巻き付くようにして支えているナイフである。
私が拾った、先程までは折れた枝のそばに転がっていたナイフだった。
一端離れた白魚は隙を窺うようにゆっくりとコカトリスの右側、傷付き視界が潰れて死角になった場所へと潜り込もうとする。
嫌がらせのようなその動きに気をとられるコカトリス。その両足で私達を押さえ込んでいるため足を動かせず、視界は首が回る範囲に限られる。
やがて、視界に捉えきれない場所に入られるのが気にいらなかったのか、死角に入られる前にコカトリスが攻勢に出た。
――シャアアッ!
尾羽に混じり生えている蛇の頭が、白魚を食らい千切ろうとする。
しかし、その攻撃は白魚は鮮やかに翻り距離をとって回避する事でいなされる。
私は翻った白魚に武器を投げさせた。
コカトリスの体を切ったナイフは、その血の呪いにより半身が石へと変わりつつあった。石になったナイフをあえて使う必要はないだろう。
柔らかな布の見た目に反して鋭く投げられたナイフはしかし羽毛に防がれ、勢いを完全に殺されて地に落ちる。
かまう事はない、刃物ならゴブリンが持ってきた物がいくらでも転がっている。
それに、鶏頭は白魚に気をとられ、私達に大きな隙を晒してくれた。
「『インパクト』!!」
フリーになったレナからようやく放たれた矢は、人間で言うこめかみに見事に命中した。
相当な魔力を込めたのか、和太鼓を全力で叩いた音を数倍にしたかのような轟音が私の体を揺らす。
同時に、その中でごきりと何かが折れる音がした。私達を押さえつける巨体がびくびくと痙攣する。
そのままコカトリスはたたらを踏み、私達は拘束から逃れる。もっとも、踏み潰されていた私達にはその場から動けるほどの体力はなかったが。
見れば、コカトリスの首が支えを失ったかのように傾いていた。首の骨が衝撃に耐えきれず、折れたのだろう。致命傷だ。
「やった、倒した……!」
「まだよ、スズナ!油断しちゃダメ!」
思わず歓声をあげかけた私だったが、レナがそれを止める。
コカトリスの体はぐらぐらと揺れたものの、倒れる事なくその場に残っていた。
蛇頭の方が鎌首をもたげ、力を失った鶏頭を確認するように動く。
「白魚!蛇頭を狙って!」
――こいつ、片方の頭が死んでも生きているのか!私は付喪に、追撃の命令を下す。
ゴブリンが持ち込んでいた両刃の長剣を既に拾い上げていた白魚が、蛇頭を狙い躍りかかる。
――スシャアァァ!
刃は蛇頭の首を切り落とす事はできなかったものの、代わりに鱗を数枚弾き飛ばす。
蛇頭も衝撃が伝わったのか、威嚇の声をあげながらも一、二歩大きく下がる。
あの化物が見せた初めての後退。あれほどの力を持つ生物が、私達を怖がっている。
心が活気づく。今ならば、撃退できるかもしれない、と。
「白魚、畳み掛けて!」
白魚が、まるで俊敏な魚が獲物を追うような動きで詰め寄り、そのまま斬りかかる。一撃だけでは止まらず、回転するようにニ撃三撃と剣が舞う。
力任せの連撃。しかし、剣がひとりでに斬りかかるような、人間にはできない動きでコカトリスの鱗を弾き飛ばす。
コカトリスは攻撃に耐えながらも、次第に後退していく。
動体視力に優れていたであろう鳥頭はもう動かない。蛇頭は頭を持ち上げ、こちらの動きを探っているが、私のもといた世界と同じならば蛇の視力はそう良いものではない。
「『インパクト』!」
蛇頭だけでは体幹の制御が難しいのか、随分と動きが鈍くなったコカトリスの胴体に『インパクト』が付与された矢が命中する。
羽毛や鱗で防げないレナの矢は、コカトリスに撤退を選ばせる決め手となった。
シュウゥ、と蛇頭が唸ったかと思うと、踵を返し―――蛇頭が此方を向くことになる―――逃げ出し始める。
その動きは覚束なく、体のあちこちを樹木や茂みにぶつけながら逃げ去っていく。
前を見る役目を持っていた鶏頭が潰れたのだ。進行方向の大木に弾かれたり、逆に若木を踏み潰したりする音が、姿が見えなくなってもしばらく続いていた。
音が全く聞こえなくなってから一分程、私もレナも身を固くして耳を済ましていた。
静かだった森に再び虫の音がおりてきて、ようやく私達は大きく息を吐いた。
「はぁ……はぁ……い、生きてる……」
地面に大の字になったレナが呟く。
その両足は鉤爪が食い込んだせいか、痛々しい傷口が開いている。
しかし、出血は酷くない。処置が必要ではあるが、致命傷ではないだろう。
「本当に、私が編んだ布が宙に浮いてる……。これ、スズナの加護なの?」
そんな傷を負ったレナだが、本人はそれよりも『白魚』が気になるらしい。
痛みなど感じていないかのようにぽかんと口を開け、宙に浮く白い布を指差す。
「えぇっと……私も、自分の加護を今理解したと言うか……意識が朦朧とする中、誰かに教えてもらったと言うか……」
実際、余すことなく理解している自信はない。多分こんなものなんだろうな、という程度である。
随分とあやふやな、しかも夢の中のような世界で出会った実在するかも分からない人間という奇妙なワードを交えた説明は、なぜかレナの心を掴んだようだった。
嫉妬半分、羨望半分といった視線を隠すことなく私に絡む。
「……それ、たぶん神託を貰ったのよ」
「神託……」
「敬愛する神様に、助けて貰ったのよ。……ふ~ん、神託貰ったんだ、へぇ~そっか~」
「す、凄いことなの?」
「神様に目をかけてもらえたって事よ。凄いか、凄くないかの二択なら凄いわね」
どうやらレナは、神託を貰った事を羨んでいるようだった。
たぶん、神託を授かるというのは名誉な事なのだろう。
神様……神様か。
私は確かに『何者か』に出会ったが、あれが本当に神様なのだろうか。
私はそれと縁が深い生まれだが、どちらかというとあまり信じていない方だった。
それでもあえて存在すると考えるなら、神様とはもっと理解できない、人の形なんかじゃない人智を超えた何かだと思っていたのだが。
そもそも、神様とはなんなのか?
その存在を一心に信じる事ができない人間に加護を与え、神託を寄越すほど慈悲深いのか?なぜ私に神託を?
なぜ、私のもといた世界に加護は一般的ではなかったのか?
頭がぐるぐると巡る。結論は決まっている、『分からない』だ。
うん、ここはさっさと話を変えてしまおう。神様について考えても答えはでないだろう。
「ま、まぁ、今は神託の話はいいよ……。それよりも、怪我は大丈夫なの?」
「歩くのは難しいけど、骨も折れていないし死にはしないわ。咄嗟に身体強化を限界まで引き上げたから」
身体強化、防御にも使えるのか。
私も意識して使えるようになれば身を守るのが楽になるのだろうか。
「いつっ……とはいえ、痛むわね。傷を縫合するわ。大樹の根元に行きたいから手を貸してくれない?」
「無理しないでね。ほら、手を貸すよ」
助けを求めるレナに言われるまま肩を貸し、木の根元まで連れていく。
まるで最初の状況に逆戻りだ、と私は心の中で思った。
彼女は弓兵兼斥候なのだから、本来積極的に狙われる事に慣れている立場でないのは分かる。
だから誰かが前に出て守らなければならないのだが……。
「私が、もうちょっと勇敢で、強かったらなぁ……」
問題は前に出る人間が私しかおらず、その頼みの綱である私自身もただの防御の堅い一般人である、という点である。
「え、でもこれ……『白魚』だっけ?これがあるじゃない?」
レナは不思議そうに言う。
その視線の先にはふわふわと舞う布切れ。
端を剣の持ち手に巻きつけて持ち運ぶ姿は、どこぞのゲームのモンスターを思い出す。
確かに、白魚が前衛を勤める事はできるだろう。だが、使用者の私からはすでに問題も見えていた。
「うん、私も最初はそう思ったんだけど、使役しているだけで意外と魔力を使うみたい。もう維持できなくなるくらいには魔力が無くなっちゃってて……」
「ふぅん……ま、便利な加護の消費が重いのはよくある話だしね……」
白魚をどう運ぼうか迷ったが、そうこうしている内に白魚自身が寝床に帰るかのように私の左の袖に潜り込んでしまった。
出てくる気配はないので、ここで休むつもりなのだろう。
袖の中は引っこ抜いたストームバードの風切羽で一杯のはずだ。多分、布団がわりにでしているのだろう。
白魚が潜り込んだ際に袖の中が見えたのだろう、レナが自身のポーチを漁りながら言った。
「ふぅん、ストームバードの羽集めてたのね。綺麗な羽は良い値段で売れるのよ」
「へぇ、綺麗だから集めてみたんだけど……お金になるのかぁ」
「私も数本集めたしね。……よし、ちゃんと全部ある」
レナはその場でポーチを漁り曲線を描いた針と私も使った事のある点火用の道具、それといつもの鎮静剤と透き通った緑の石鹸もどきを取り出した。
コカトリスも今夜はもう襲ってこないだろうとまだ熱を持っていた焚き火に火を付け、ランタン以外の明かりを確保する。
視界を確保し鎮静剤を飲んだ後、レナは石鹸もどきをナイフで細かく削り、躊躇なく傷口に落としこんでいく。
「それ、服を洗う時に使った石鹸だよね……?だ、大丈夫なの?」
「石鹸?これはそんなに高価な物じゃないわ。これは衛生スライムよ?知らない?」
「知らないよ……スライムって聞いて、余計に心配になったよ……」
話を詳しく聞いた所、石鹸もどきは衛生スライムと言うらしい。
衛生スライムは人に慣れて家畜化したスライムで、溶解液で汚れや異物のみを溶かすため服の汚れ落としや傷口の浄化などに一役買うらしい。
家畜化した過程で移動力がなくなり、代わりに寿命が伸びた生物なのだそうだ。
衛生スライムの欠片を傷口に放り込んだ後、レナは手早く蜘蛛の糸を編み、点火用具で軽く熱した針に編んだ糸を通し傷口を縫い始めた。
慣れているのか動作は早く、痛みに時折顔をしかめるも手を止める気配はない。
それにしても、衛生スライムを入れたからといって土が付いた傷口をそのまま閉じるのは私の感性から言わせてもらうとなかなかにナンセンスだ。普通なら、体に砂粒が残って血栓になるだろう。
裏を返せば衛生スライムがそれを除去できるという事実と信用を得てきた実績があるのだろうが……。
私が未知の生物の便利さに関心している間に、傷口の一つを縫い終わったレナが針を置く。
「……ねぇ、スズナ。私、あなたに言いたい事……いえ、謝らなければならない事があるの」
「なに、改まって?」
若干顔を伏せ、視線をこちらに向けないその姿は発言に迷っているような印象を受ける。
口を開いては閉じ、顔色を伺い……ようやく話し始める。
「ごめんなさい。私、自分が生き残る事を一番に考えてた……」
「……」
「私が協力しているのは、あなたが迷宮の瘴気を退ける事ができるから。私が……生きていけるから。最初の頃は、あなたを半殺しにして背負って生活する事も少しだけ考えてた。」
「それは、また……思いきった……」
なにを今更、とは言わなかった。
彼女も私もお互いが利用できるから協力しているのは、わざわざ口に出さずとも暗黙の了解として分かっていたはずだ。
彼女は瘴気を退ける力を。私は知識と武力を求めて、お互いに手をとった。
私は彼女がいないとのたれ死んでしまうし、彼女は私がいないと瘴気で体の芯から腐って死んでしまう。
今の状況はいわば、お互いが握手しているように見せかけて、掴んでいるのは相手の首根っこなのだ。どちらかが裏切ればどちらとも死ぬ。そんな関係だった。
そんなことは、分かっていた。さすがに、四肢をもいで持ち運び浄化マシーンにする事まで考えているとは思わなかったが。
「私がそうしなかったのは、あなたが現状に絶望して自殺してしまえば、私も瘴気を防ぐ手段が無かったから。言ってしまえば、それだけだったの」
困った。こんな告白をされるとは思っても見なかった。
なぜ、彼女は少なくとも今は言わなくてもよい事を話すのだろうか。
私からの印象を悪くして良いことなどないというのに。
「でも、今はもう違う。あなたはここで共に戦ってくれた仲間。……こんな事を言った後だけれども、これからも協力してくれないかしら?」
レナは少し沈んだ瞳で此方を窺ってくる。
一方、私の中では足りない脳みそが熱を吐きながら回転していた。
純粋に考えるなら、これは彼女の誠意、好意ととれるだろう。
わざわざ言わなくても良い内心を吐露し、懺悔の意を示す。これは「あなたを信頼してます、だからこれからもよろしくね」と暗に言っているに等しい。
後ろめたい部分を晒したのだ。あとは私が受け入れれば、より良い協力関係になれるだろう。
だが、底意地悪い考え方をする事もできる。
彼女はよく考えれば断れないタイミングでこの懺悔を行ったと考えられる事だ。
彼女ならやろうと思えば、今からだって魔力の残り少ない私に勝負をしかけ、疲弊した所で四肢をもいでバックパックにする事ぐらいできるはずだ。私はずぶの素人だ、格闘でも怪我をした彼女に負ける自信がある。
何より、河を渡る手段だって聞いていない。私一人では、渡れないのだ。どうしたって彼女の策を知る必要がある。
知識だって足りないし、まだこの森を彷徨っているコカトリスへの対抗策だってない。
ここで断れば、共倒れという未来が待っている。
それに、疑問もある。
私を道具として利用しようと最初は思っていた、ならば思わなくなったのは何時からだ?
食料を渡した時?
結界が張れると分かった時?
それとも、『白魚』が呼べるようになった時?
私が最初に彼女に求めたのは「知識」と「武力」だ。彼女は私と共にいる間、無意識にそれらを提供していた。
だが、「知識」は有限だ。流せば流すだけ私はそれを吸収し、やがてリソースは少なくなり、追い付かれてしまう。
互いの命がかかり信頼関係に関わる以上出し惜しみはできず、知識量に限界がある点も彼女に不利に働く。
ならば「武力」で自分を売るしかないだろうと彼女は考えたのではないのだろうか。どうみてもただの無力な少女、「武力」でならばリソースが枯れることもあるまい、と。
だが、少し過ごす間に私は加護を扱えるようになった。身を守る事ができるようになった。戦う事ができるようになった。
実際はどうであれ、怪我をした彼女を荷物だと思えるようになってしまった。
もちろん、彼女の主観だ。
私は私自身がひとりぼっちでここで生きていけるとは思っていない。
だが、彼女からみればそうなのだろう。
そもそも、瘴気をはね除ける加護がある時点で、私の家がこの森にありたまたま記憶を失っているだけで本来外に出る必要がない可能性だって考えるだろう。
「……スズナ……。」
そうした場合、彼女がとりえる最良の選択はなんだろうか。
それは『お友達』になる事じゃないだろうか。
掛け値なしに庇い合う仲に潜り込めば、安泰だろう。
どのみち、心証はどうあれ私には彼女を突っぱねる理由がない。
「……許すよ。私だって、逆の立場だったらそんなことも考えちゃうし」
「……ありがとう、スズナ」
「別に実際にやられた訳じゃないんだから。お礼も謝罪もいいよ。それより、これからどうするの?」
レナは少し考える。
袖から除く蜘蛛の足が、ぴこぴこと動いた。
「……えっと、実は、コカトリスで一つ思い出した事があるの。」
「思い出した事?」
「ええ。……私のパーティーメンバーなんだけど、まだ石像として残ってるなら解呪できるかもって……その、完全に弔っちゃったから、今の今まで助けられるかもって事、忘れてて……スズナ、聞いてる?」
「う、うん。聞いてる」
新しい『武力』。
提供できる代償。
想像できる打算的な考えに、親近感さえ感じる。
「それで、できれば助けてあげて欲しいなって。その人の名前はね―――。」
「レナさん。私―――。」
「ん?どうしたの、スズナ?」
「……ごめん、なに言おうとしてたのか忘れちゃった。」
「えぇー……。」
―――私、生きる事に必死なあなたを見て、ようやくあなたの事を私と同じ『人間』だと思えそうだよ。