幸せ過ぎて
会社で1度、移動して私の家でもう1度、その後私たちはただベッドに寝転んで手を繋いだまま静かに会話を楽しんでいた。
「柚子さん好きだよ。」
「うん。礼二くん私も好き。」
「いつから?」
「分からない、もしかしたら会った時からかも。」
「そっか。」
「どうしたの?」
「柚子さん結婚しない?僕と。」
「えっ。」
「会社も軌道に乗ってきて来年は人を増やす予定だし。それをなしにしても僕いい男だし。」
「うーん。」
「柚子さん、僕には君しかいない。」
「うーん分かった、すぐに答えは出せない。」
「うん。待つよ。ずっと待ったんだから。」
「ん?」
礼二くんは誤魔化すようにキスをした。まあ誤魔化されてやるか。私たちは抱き合ったまま眠りについた。
私たちは幸せなまま朝を迎えた。礼二くんにコーヒーを出すと礼二くんは私の腕を掴み膝に私を座らせた。
「僕、柚子さんをでろでろに甘やかしたい。」
そう言って私の首にキスをする。くすぐったくて身をよじると礼二くんは少し笑った。
その時だった。玄関の方からガタガタと乱暴な音と共に信じられない存在が入ってきた。
「ゆずー!いないのかー。」
「ゆ、優ちゃん。」
「おお、俺さー捨てられちゃった!」
「柚子さん、下がって。」
礼二くんが私を庇うように前にたってくれる。
「おーなんだ、俺の弟じゃないか!まあ愛人の子だがな。なにしてるんだ?」
礼二くんが優ちゃんの弟…?愛人?何を言ってるの?
「おいおい、まさか!礼二こいつは俺の女だぞ。」
「もう、違います。」
「ゆず!本当に弟とねたのか?俺を1番好きだと言ったじゃないか!嘘吐きめ!」
怖い。もうこの人は私の知ってる優ちゃんじゃない。ああ忙しさにかまけて鍵を変えなかったからだ。
「優一さんもうやめて下さい。結婚したんでしょう?その人のところに戻ってはどうです?」
「あいつは、会社をクビになった俺を捨てたんだって。」
優ちゃん会社をクビになったの?
「元はといえばゆずが悪いんだぞ、あの人事部長俺とゆずの事を知ってやがったんだ。あいつはゆずの仕事を評価していた。俺に直接言ったんだ。ゆずじゃなくて俺が辞めればよかったと。俺は次期社長なのに。だからオレの仕事の失敗を、あいつのせいにして父さんに言いつけた。それであいつをクビにしたんだが、ばれて今度は俺がクビになったんだよ。」
部長、だから何も聞かずによくしてくれたのか。でも迷惑をかけてしまった。
「その人事部長さん来月からうちに来てもらいますよ優一さん。柚子さんと働くのが楽しみとおっしゃってましたよ。」
礼二くん。私は礼二くんを後ろから抱きしめた。それをみた優ちゃんが礼二くんに突っ込んできた。
「俺の前でゆずに触れるな!」
「やめて!」
と叫んだ瞬間、私は目を閉じた。
「いってーな。」
優ちゃんの声だ。礼二くんは?目を開けて確認する。
床に優ちゃんが転がっていて、礼二くんは何ともないようだ。
「僕は護身術をならいましたから。」
良かった。今度は私が礼二くんを守りたい!そう決意し礼二くんを庇うように前にたつ。
「優ちゃん!私とはもう関係ないでしょ!私もう優ちゃんのこと好きじゃないの、嫌いなの!それに私、礼二くんと結婚します!」
そう言って私は優ちゃんを睨んだ。優ちゃんに言葉が届くかは分からないが、もう伝えるしかなかった。
「ゆず…どうしても?」
「嫌いなの、優ちゃんもう顔も見たくない!」
「いじめから助けてやったろ!」
「勉強教えてあげたでしょ!もう子どもじゃないんだから聞き分けて。」
「もう俺たち終ったのか?」
「優ちゃんが終わらせたのに、今更だよ!もう出てって!」
「そっか。じゃあなゆず。」
そう言って優ちゃんは出て行った。
「はあ。」
私は安堵してぺたりと床に座る。
「柚子さん大丈夫?」
なぜか礼二くんはにやけている。
「怖かったのに。なんなのその顔ー!」
「だって、結婚するって。」
あっ。
「結婚してくれるね?」
うっ。
「はい。」
「やった!じゃあここに名前ね!判子ある?」
何故持っているのか分からないが、礼二くんは記入済みの婚姻届を差し出し、テキパキと私にペンを持たせ名前を書かせる。でも迷いは無い私は礼二くんが好きなのだから。
「そういえば、私のこといつから好きだったの?」
「優一さんの彼女になる前から。」
えっじゃあもう11年?それかもっと前?
「やっと初恋が叶ったよ!幸せになろうね!」
もしかして本当にストーカーだったのでは?
私は不安をよぎらせながら神父様の前で誓いのキスを交わした。