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邂逅

どうも、どこぞの委員長です!


初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶりです。


この度、前作の「武器召喚士」を経て、二作目となる「ニクスマギア」を書いていこうと思います!


また物語の世界を楽しんでいただけたら幸いです。


では、始めましょう、新たなる物語の幕開けです!

 

 頭上には月が登り、星が所狭しと輝いている。

 とても幻想的な眺め、恋人同士が来そうなロマンチックな場所に俺はいる。

 だが、そんな眺めを楽しんでいる余裕は全くなかった。

 どうしてこうなった、そんな言葉しか頭に浮かばない。

 何故か?簡単な話だ、追われているのである。

 そんな全力疾走中の俺に付きまとってくるのは謎の物体だ。

 月や星の光があるとはいえ、夜の暗闇は強く、その全貌を把握することはできない。

 しかし、一つだけわかることがある。定形を持たないものだということだ。

 今の情報だけでそいつを説明するならば、スライムということになるのだろうか。

 とはいえ、某竜を探索する物語に出てくるようなかわいらしい姿でないだろう。

 グチョグチョと不気味な音は響いているし、それに混じって時折聞こえる呻き声のような音からは、可愛さなどみじんも見いだせない。

 強面スーツ姿のお兄さん集団から追いかけられるという、俺の一番の怖い体験がはるかにマシに思えるほど、未知というのは恐ろしかった。


「はぁ、それにこいつは今ここにいるしな…」


 視線を少し右に向けると、その人物が目に入る。

 一流の人形師が作ったかのように整った顔立ち、閉じられた瞼の下にはサファイアのように澄んだ青い目、豪華なドレス…どれをとっても完璧なその人物は、俺の肩に担がれていた。

 起きたら必ず怒られるのだろうが、今はそんなことも言っていられない状況だ。

 そこそこの重量のものを運ぶには、これが一番効率のいい方法。気絶した方が悪いのだ。

 俺はそう言い聞かせると、さらに先を急ぐ。

 とりあえず、後ろから追ってきている謎生物をまくまで、この追いかけっこは続くのだろう。

 本当にどうしてこうなったんだ…。

 俺はいきなり巻き込まれた不幸の原因を探るべく、これまでの経緯に思いをはせた。











 今日は大学の合格発表の日、人生一大イベントに数えるような人もいるくらい、これからの生活に関わってくる大きなものだ。

 大学院を卒業しても就職できない人が出てきているとはいえ、いまだに世間は学歴社会、最終学歴に大学があれば一つ大きなアドバンテージとなる。

 かくいう俺も大学卒業の肩書きを取るため、それだけのために大学を受験した。

 正直なところ、大学なんぞに興味はない。

 やりたい仕事も、将来の夢も特に持ち合わせていない。

 ただ四年間通い、肩書きさえくれればそれでいい。

 そんな感情もあって、受けた大学は自分の実力で確実に受かるとされるところだ。

 無理して高いところを狙う必要もないのだから。

 張り出された合格者の紙を見つけると俺はその前に陣取り、紙を見上げた。


「えーと、東雲遥翔(しののめはると)…っと、違ぇな、番号だった。8128…8128…」


 紙を斜めにざっと見て、8128の数字を探す。

 程なくしてその数字は見つかった。

 嬉しさは特にない。周りから聞こえる歓喜や落胆の声も、俺の中では一種のBGMと化していた。

 見るべきことは見た、もうここに用はない。

 俺は踵を返すと、そのまま大学の敷地外へと足を進めた。


 今は三月上旬、学校が始まるのは四月の上旬なので、これから丸一ヵ月ある。

 バイトでもしてお金を貯めるか、それとも旅行にでも行くか、はたまた何もせず自堕落な生活を送るか、選択肢は山ほどあった。

 どうせ家に親はいない。

 母は貿易会社勤めで、加えて多国語を操れるため、様々な国を転々としているのだ。

 父は母の食生活が心配だと、母について同じように世界を回っている。

 いつまでも仲が良い、いや、良すぎる夫婦なのである。

 ただ、一人暮らしといっても、生計を立てるためにバイトに追われているということはない。

 親が毎月銀行経由で生活費を送ってくれているからだ。

 逆に言えば、その口座が落とされると俺の生命線が切れるということでもあるのだが、まあそんなことはそうそう起きないだろう。

 今後について色々考えつつ大学の敷地を出ようとした、その時だった、声が聞こえたのは。


「そこの貴方、止まりなさい!貴方ですわ、8128番!」


 少し高めの鼻にかかったような声、呼ばれたのは間違いなく俺だった。

 しかし、人を番号で呼ぶとは…面倒くさい奴に違いない。

 そう断定した俺は関わり合いになるのを避けるため、振り返りもせず、足早に立ち去ることにした。

 だが、どうやらそれは悪手だったようだ。

 大学から出たところで、家に帰るにはバスに乗らなければならない。

 あいにく丁度バスが行ってしまったところで、次のバスが来るまで少し時間があったのだ。

 そして、俺を呼び止めた奴は、バス停で呑気に待っている俺を逃がすようなたちではなかった。


(わたくし)が止まるよう言っているのが聞こえませんの?貴方、耳はついているのかしら?」


 ああ、めんどくせぇ、一番俺が嫌いなタイプだ。

 この口調と態度、もう間違いない。

 いつも人の中心にいて、事あるごとに自分の意見を申し立てる、そのせいもあって常にトラブルの真ん中に存在するんだ。

 今日は厄日だ、こんな人間に見つかってしまうなんて。

 だが、この手のタイプは無視するとさらに面倒だ。

 俺は仕方なく、そいつの方を振り返った。


「―――ッ!」


 振り向いた瞬間、俺は一瞬硬直してしまった。

 だがそれは仕方ない事だと言いたい。

 そこにいたのは、人形かと思うほどに整った顔立ちと蒼い瞳を持ち、そして一般道路沿いのバス停にはふさわしくない程豪華なドレスを着た少女だったのだから。

 この少女は一体何者なんだ、どうして俺に声をかけてきたんだ、そんな疑問が俺の頭をめぐる。

 そんな疑問で頭がいっぱいで、まだ硬直したままの俺に軽く笑いかけると、少女は口を開いた。

 もちろん、にこやかな笑いではなく、少し見下したような笑いだったが。


「私はエリカ=ヴランツェットですわ。“私の”学び舎に通う貴方に忠告に参りましたの。“私の”学び舎に通う以上、目的を持ちなさい!大学は道具ではなくてよ?いいかしら?」


 こいつ、見抜いてやがる。

 俺は彼女の観察眼に驚愕した。

 俺が大学にいた時間はせいぜい五分、たったそれだけの時間でこいつは俺の真意を見抜いていたのだ。

 確かに関心が無いような態度を取っていたかもしれないが、あれだけの人の中でピンポイントに俺だけを狙ってくるなんて、並大抵の人ではできない。

 それに俺の呼び方、8128番、これは俺の受験番号。

 紙を出していた時間は数秒、口に出しはしたが小声だ、聞こえたとは思えない。

 人とは関係を持ちたくはないし、ましてやこの類の人間は苦手中の苦手だ。しかし…おもしろい。

 俺は自分の口がにやけるのを感じた。


「俺は人と関わり合いを持ちたくない。だが、ヴランツェットさん、何故俺がそう思っていると分かった?それだけは聞いてみたいな」


 気付けば俺は、エリカ=ヴランツェットと名乗る謎の少女に話しかけていた。

 何か特別な思いがあるわけではない。

 関わり合いになんてなりたくはない。

 ただ聞かなければいけない気がした。ここで聞かなければ後悔するような、そんな感覚があったのだ。


「あんな態度を取っていたら、だれだって分かりますわ。気付いたのは、きっと私だけではありませんわよ」

「なるほどな、じゃあ俺の受験番号が分かったのは何故だ?8128番、ヴランツェットさんに教えた覚えはないんだが…心でも読めるのか?」


 その言葉を聞いたとき、彼女はハッとしたような表情を浮かべた。

 次いで彼女の目がすっと細められる。

 そこには先ほどの高飛車お嬢様といった雰囲気はなく、代わりに何か奥の見えないほど深く複雑な感情の嵐のようなものが見えた気がした。

 そして、もう話は終わりだというように、そのまま歩き出す。


「人の心を読む…ね。そうよ、それが私の力。知ったからにはもう逃げられない、いいえ逃がさないわ、東雲遥翔君」


 先程までの高く鼻にかかったような声とは打って変わった低く小さい声。

 彼女はそう言い残すと、そのまま歩き去って行ってしまった。

 人の心を読むなんて馬鹿げた話は信じられるものではない。

 だが、彼女の最後の言葉、そこにはまぎれもなく俺の名前が入っていた。

 名乗ったのは彼女だけ、それなのにピタリと名前を当てられたのだ。

 信じないという選択肢はどうやら俺には残っていないようだった。

 だが、なるほど、人の心が読める…か。

 同類は引かれあうと言うが、あれは事実なのかもしれないな。

 ぼんやりとそんなことを考えながら、俺は帰路につくのだった。



 風呂に入ったりまったりしたりしながら、今日あったいろいろなことを脳内整理していたら、重要なことに気付いた。かなり重要で、そして生活にもかかわる大ごとだ。

 どうやら俺の望んだ、誰にも干渉せず、また干渉されない平和な日々は来なくなったらしい。

 間違いなく、お嬢様なのか何なのか分からない謎の少女、エリカ=ヴランツェットに目をつけられてしまった。

 一時しのぎで逃がさないなんて言うような奴じゃないことは、さっきの会話で分かっている。


「はぁぁ…」


 無意識にため息が漏れる。

 今日あったことが夢であってほしい、そんな甘い期待を描きながら、俺は眠りに落ちていった。


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