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騎神戦記  作者: 卯月
第二章 支配者達の遊戯盤
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第四話 職場案内



 指導役の少女騎士ノンノ=フォーレのネガティブパフォーマンスに頭を抱えたニコラだったが、いつまでもそうしているわけにはいかず、軽く自己紹介をする。ノンノも多少ビクビクしつつも挨拶を返してくれた。


「ええっと、まずは騎士団の使用する施設を案内します。ここの訓練場での注意事項とか備品の使用上の注意とかもです。他にも離れているけどデウスマキナ用の訓練場とかも案内しますね」


「お嬢に変な事するんじゃないぞ新人」


「俺がそんな手が早いような奴に見えるかよ。連れが家で待ってるんだからそんな事しない」


 ニコラは非常に失礼な事を言う同僚達に憤慨する。それに例えセレンが居なくても会ったばかりの上司に手を出すような好色でもなければ常識知らずでもない。

 騎士達が納得したかどうかは分からないが、これ以上はノンノにも迷惑が掛かると意見も出たのでひとまずこの場は収まった。

 ぞろぞろと去って行く騎士達を見送り、ニコラは改めてノンノに案内を受ける。

 最初に訪れたのは騎士団の訓練場だ。ここでは今百人近い騎士や見習いが基礎鍛錬や模擬戦で汗を流している。


「ここが騎士団の訓練場です。真夜中でもなければ誰かしら居ますから、模擬戦相手には事欠かないです。武器は基本的に木を使ってますけど、刃引きした武器も置いてあるので、結構怪我人が出ます。でも、医師が常駐してますからコガさんも安心してください」


「石畳の訓練場か。こりゃ寝技でも簡単に怪我するな。ところでフォーレ殿の得物は何を使っているんです。ああ、それと俺はニコラで構いませんよ」


「ちょ、そんな敬称なんてむーりぃ!それに私はノンノでいいんですよぉ!」


 だからと言って粗雑な扱いをしてはニコラの騎士団内での立場が悪くなる。どうしたものかと考え、取りあえず彼女の事は名で呼び、ニコラの方も名で呼ばせる事と、互いに「さん付け」で落ち着いたが、結局彼女の得物は分からずじまいだった。想像以上に面倒臭い上官に当たってしまった事に胃が痛くなり始めたニコラだった。


 次に連れてこられたのが一度に二百人程度が利用出来るであろう騎士団用の食堂だった。昼にはまだかなり時間があるものの、十人程度がお構いなしに食事をしている。


「ここが騎士団専用の食堂です。騎士なら見習いでも団長でも好きな時間に食事が何と無料で幾らでも食べられるんです!だから大半の騎士は毎日ここで食事を摂ります。ニコラさんもこれからお世話になりますよ」


 兵士も騎士も体が資本であり大切なのは変わらない。そして大量のカロリーを消費する騎士にとって食費は死活問題になる。ノンノの説明も無料の部分を特に強調していたので、きっとこの少女は金銭面で相当苦労しているのだとニコラは気付いている。

 その理由を聞くのはマナー違反でありさして興味が無かった。そしてそれ以上にニコラが気になっているのが、調理係の一番近くに陣取っている白髪交じりの髪を逆立てた初老の男である。彼はテーブルに置かれている小瓶を傾けて中身をスープに入れている。多分色からして塩だろうが、その量が尋常ではない。塩がスープに溶け込まずに山になっているのに、男は構わず塩を大量に投入していた。


「ノンノさん、あれはいったい」


「あの人が騎士団の指南役と相談役を務めているハリスさんです。ありとあらゆる武器に精通してて、個人戦も集団戦もデウスマキナ戦でも経験豊富な方なんです」


「いや、それは分かったけど、あの塩はいったい」


「あれを理解するなんてむーりぃ!」


 ノンノは膝を着いて頭を抱えて絶叫する。指南役のハリスは塩の山を崩してスープに溶かしてから、一掬い飲んで満足そうにしている。ノンノの言う通り、あれを理解するのは常人には無理だ。

 そして腎臓および心臓と血管を確実に壊す食べ方をするハリスとニコラは目が合う。ニコラは気まずいと思ったが、相手はスープを飲みながら手招きしている。来いという事だろう。仕方なく、ニコラはノンノを抱きかかえて彼の元に近づいた。


「おう、ノンノ嬢ちゃんは今日も騒がしいな!それと、見た事の無い新顔が一人。お前さん生身でギルスのデウスマキナ二騎を奪って、そいつに乗って別の一騎を撃破したんだってな。それを知ったフランシスの小僧が珍しくウキウキしてたぞ」


「そんな無茶苦茶な新人の指導なんて私にはむーりぃ!ハリス様が指導役になってくださいよぉ」


「何を情けない事を言っとるんだ、これは嬢ちゃんの指導でもあるんだぞ。その気弱な性格をどうにかしたいと団長がわざわざ仕事を与えたんだからしっかりせんか」


 ハリスから知られた事実にニコラは納得した。確かにノンノの性格は戦いには向かない。これをどうにか矯正したいと思うのは団長として妥当だ。それには多少荒療法でも強烈な人間を側において影響を与えようと考えたのだろう。それに指導はする方も色々と学ぶことが多い。

 しかしハリスからの激励とも脅しとも取れる言葉に『むーりぃむーりぃ』と唸っているノンノは放って置かれて、彼はニコラに話しかけた。


「儂は相談役だから何か困り事があれば金以外なら遠慮せずに言うんだぞ。それじゃあ、ノンノ嬢ちゃんを頼んだ」


 言うべき事を言ったハリスは再びスープを吸った塩の塊を美味そうに口にしていた。食事?の邪魔をするのも野暮だったので、ニコラはいまだに唸っているノンノを担いで食堂を後にした。


 途中から再起動したノンノが暴れたので担ぐのを止めた。降ろされた彼女は相変わらず弱音を吐いているが、職務までは放り出す気は無いのか、そのまま次の場所に案内される。ただし、今度は城の外だそうだ。


「今度はデウスマキナの格納庫と演習場です。第五区にあるので歩いていきましょう」


 流石に10mの巨人を扱うには城でも無理なのだろう。この点は騎士団でも不便だと意見もあるが場所が無いものは仕方が無い。

 二人は歩きで演習場へと向かうが、ニコラは途中で騎士は馬に乗ると聞いていたので自分も練習した方が良いのかノンノに尋ねると、彼女は非常に言い辛そうに答えてくれた。


「馬はですねえ、乗れるように練習するのは必要ですけど、購入と世話は自前でしないといけないんです。私には陛下から賜ったデウスマキナがあるので、式典の時にはそっちを使ってますから持っていません」


 つまり彼女は馬に乗れるが金の掛かる馬は持っていないという事か。ただ、ニコラもクラウディウスの私兵から奪った馬が四頭いる。今はまだ城で預かってもらっているが、騎士見習いになった以上は自分で管理しなければならないだろう。だとすると、一人で四頭は要らないので、早々に三頭は手放して一頭だけ確保しておけば、練習にも使用にも事足りる訳だ。それをノンノに伝えると、部下の非常識ぶりに泣きそうになりながらも、今度騎乗を教えると約束してくれた。


 城から五分も歩いていれば目的の施設には辿り着けた。

 そこは武術大会の会場だった円形闘技場の軽く倍の面積はあろうかという巨大な施設だった。入り口の検問には武装した警備兵らしき者が何名も居て、防備を固めつつ出入りする者を警戒している。彼等は皆屈強な体躯を持ち、小柄なノンノより遥かに騎士らしく見えるが、彼女の顔を見ると例外無く敬礼して、誰も侮るような素振りを見せなかった。ニコラもフランシスから支給された身分証を見せると拘束時間も無く、素通りに近い状態で中に通してもらえた。

 入口を通った後、歩きながらノンノが少し説明してくれたが、今の警備兵は引退した元騎士や騎士見習いが持ち回りで勤めているそうだ。道理で全員身のこなしに隙が無い。

 少し長い廊下を歩き終わったニコラの目に飛び込んできたのは圧巻の光景だ。広大な空間に鎮座する巨人、巨人、巨人。実に二十騎ものデウスマキナが整備用ハンガーに並べられ、この広大な空間に揃っていた。そして驚くべき事に、この格納庫のハンガーにはまだまだ空きが多い。ざっと見た所、五十騎は一度に収納出来るだろう。


「ここが帝国の武力の粋を集めた格納庫です。空きが多いのは整備中の騎体があるのと、今はガルナ王国との小競り合いで騎士団から何騎か派遣しているからですね」


「ガルナ?」


「帝国の北東部に位置する小国です。あそことの国境にあるクリスタル鉱山の採掘権を巡って揉めてるんですよ。それで国境に隣接するデュプレ家に応援という形で半月前に騎士団の一部を派遣してます」


 資源をめぐって国同士が諍いを起こすのは何も珍しい事ではない。地球でも鉄や金のような鉱山資源以外にも石炭や石油といったエネルギー資源、あるいは肥沃な農地を巡って人類は度々血を流してきた。この世界でもそれが行われているに過ぎない。それもデウスマキナの動力源となるクリスタルなら、是が非でも確保しようと国が鎬を削るように戦うのはごくごく当たり前だとニコラは思う。

 ガルナ王国はボルドに比べ七分の一程度の国土で山がちな土地もあって決して住みやすい土地と言えないが、鉱物資源が豊富にあるので、大陸でもそれなりに裕福な国らしい。そしてその豊富な資金を使って軍備を整えており、デウスマキナも三十騎と小国ながら無視しえない軍事力を保持している。

 ボルドも攻め滅ぼそうと思えば出来なくはないが、軍事的損失がかなりあると予想され、さらに他の隣国への警戒を疎かにしてまで戦力の摘出は賢明とはいえず、戦いは小競り合い程度に納まっていた。


「ならボルドは最終的に勝とうが負けようが、手早く終わらせないと損をするな。もう少しもう少しとダラダラやったら損失ばかりで旨味が無くなる。向こうはそれを狙っているのかな?」


「多分そうですね。ガルナのクリスタル鉱山はまだまだありますから、一つぐらい無くなっても痛いのは確かですけど、何も言わずに差し出すと面子が傷付きますし、今後の外交の力関係も悪くなりますから戦わない選択肢は無いです」


 ガルナからすればやりたくも無い戦に付き合わされて腹が立つだろうが、これも人の世と思って諦めてもらうしかない。ニコラも騎士団に入った以上、いずれはそうした国同士のパワーゲームの駒として駆り出されるのは間違いないだろうが、自分で納得して選択したのだから忌避感は持っていない。そこでニコラはふと、隣を歩くノンノは戦いについてどう思うのか聞いてみたいと思った。彼女も女でありながら騎士として生計を立てており、かつ数少ないデウスマキナを与えられた身の上だ。戦いをどう考えているのか、参考に聞いてみたくなった。

 ノンノに先導されたニコラは、とあるデウスマキナの前まで連れてこられた。


「これが私が帝国から与えられたデウスマキナ『ミーノス』です。二本の金色の角が可愛いですよぉ」


「かわいい?」


 ノンノの発言にニコラは首を傾げる。目の前のデウスマキナはノンノが言う「可愛い」とは世間一般からかなり外れている。全身を白銀の重装甲で覆い、如何にも打たれ強いと分かる。特に肩から二の腕にかけては異様に太く造られており、肉弾戦を重視した設計ではないかと睨んでいる。ニコラのヘリウスのような女性的な外見とは対極にあり、まるで鎧を纏った筋肉隆々の大男を思わせる騎体を可愛いとは言い難い。むしろ厳ついと言った方が万人の支持を得られるに違いない。しかし、ノンノは今までの気弱な態度とはかけ離れて、いかにミーノスが可愛いかを力説している。

 人の感性はそれぞれだと思うので、ニコラは面と向かって否定はしなかったが、これを可愛いと疑わないノンノはどこか感性がおかしいのか、愛騎故に目を曇らせていると確信した。

 そこでふと、騎体の壁際に立てかけられている巨大な武器に目が行く。斧と槍を組み合わせたような巨大な長柄武器。ポールアックスないしハルバードと呼ばれる重量武器だ。この場にあるという事は、あれがミーノスの主兵装なのだろう。重量級の騎体に相応しい武器である。間違ってもあれを振り回すミーノスは可愛くない。


「ミーノスの得物が長柄なら、ノンノさんも長柄武器を扱うのか?」


「そうですよぉ、私はハルバードをよく扱います。ニコラさんは何を扱います?できれば同じ長柄なら指導するのも楽なんですけど」


「ご期待に沿えずに悪いけど、槍は短い奴しか使った事が無い。後は棍棒とかナイフとか、大楯ぐらいだな。この前デウスマキナで戦った時は長柄の鉞を使ってたけど、騎体と合わないのかどうにもしっくりこなかった」


「うーんそれは残念ですね。けど、騎士は一通り武器は扱えないと困るので、どのみち色々な武器を使えるように教えますから、気長に行きましょう」


 ようやく上官らしい事を言うノンノを見て、ニコラは気長に見守ってやるかと部下としては少々不適切な感情を彼女に抱いた。


 デウスマキナの格納庫の見学を終えた二人はちょうど昼時だった事もあり、城へ戻りそのまま騎士団用の食堂で昼食を摂る。食堂内は時間帯もあり、かなり混んでいたが席には余裕があった。

 今日の献立は野菜シチューと塩茹でしたイモに刻んで焼いた豚の内臓を挟んだパンだ。一品一品作る手間を省いて簡単で大量に作れる献立だった。


「うーむ、不味くはないが、店で食べる料理よりは味が落ちる」


「味は仕方が無いですよぉ。でも、ここで食べれば食費は毎回タダなんですから贅沢は言えないです。貴族出身の方はよく外食してますけど、私みたいにお給金貰っても毎度素寒貧になる騎士には本当にありがたいんですよ」


 香料が少なく臭いのきつい豚の内臓を一口味わったニコラが料理に駄目出しをすると、ノンノがニコラへ苦言を呈する。確かにタダで食べさせてもらえるのに味にケチをつけるのは良くない。それにお替り自由なので腹は十二分に満たせる。ニコラも味には文句を言いつつもお替りを貰っており、ノンノもそれに続いた。大柄なニコラは分かるが、小柄なノンノも結構な大食いである。



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