推理
学校新聞 第百二十八号
≪緊急募集≫我々新聞部は先日発生した事件についての推理を募集している。悲惨な結末となってしまったこの事件をこのようなネタにする事は、故人にそしてその家族に対して、非常に不謹慎であると思っている。だが、やってみる価値はあるはずだと、我々は確信する。
応募をしてくれる生徒に忠告しておく。これは本物の殺人事件だ。生半可な気持ちで推理して欲しくは無い。何よりも第一に故人の事を考えてくれたまえ。投稿者の個人情報に関しては公開するつもりは無い。
投稿の1
こんにちは。三年六組の榊原と申します。
先日発行されました新聞を読みましての投稿となります。
先日の事件ですが、私の見解を話してみたくなりました。
私は、図書室で亡くなった丹波三沙子と同じ吹奏楽部に入っています。彼女は普段から物静かな性格でしたが、恋人である大沢君には、色々と話をしていたようです。一緒に亡くなってしまいまして、ある意味では良かったのかな、なんて考えている時があります。
私って結構冷酷なのかな。
それでは、推理をしてみましょうか。私は三沙子には双子の妹がいた、と思います。最近噂にもなっていたようですが。
一年ぐらい前、彼女が部活に来始めた頃に、ぽろっと漏らしたことがあった気がします。自分には弟と妹が一人ずついる、と。
弟の名前は健、タケルと読みます、なのですが、彼に一度だけ聞いたことがあります。ですが、知りませんでした。さすがに両親に聞くのは忍ばれましたので、確かな事は言えませんが。
それで、私は、犯人は三沙子の妹ではないかと思うのです。間接的にですが、妹が三沙子を殺し、二年七組のみんなを殺したのだと思います。
妹は何らかの方法、脅迫とかでしょう、を使って笹野原に三沙子を殺すように仕向けた。しかし、その朝に包丁が見付かってしまいクラス全員を殺す。ここで二年六組の生徒に見つかってしまい、慌てて五階に上がる。図書室に入ると司書に気付かれ、恐怖心から、あるいは焦燥から殺してしまう。少しだけ落ち着いた彼女は、そこに目的の人物がいる事に気付き、三沙子を刺し殺す。その隣にいた大沢君にも刃を向け、ベランダに逃げた彼を刺して落とす。急に喪失感に襲われた彼女は、彼の後を追うようにベランダから落ちる。
このような感じでしょうか。動機は全く分かりませんが、ある程度筋は通っていると思います。
事件前々日のあるチャットでの会話
R−Ann>ねえねえ 知ってる? 笹野原芽守って子
KAMO>ああ、彼女
R−Ann>なんかね 小学校の時 ひどかったらしいよ
KAMO>どんな風に?
R−Ann>イジメだよ。 なんか クラスのボス だったんだって
KAMO>見えないよ
R−Ann>小学生の頃だったからね。
R−Ann>よく言うじゃない 小学校でいじめてた子は 高校だといじめられる って
KAMO>そう、よく言うね。
R−Ann>この話 けっこう確かだよ
KAMO>彼女が虐めてたって事?
R−Ann>それもだけど 彼女 殺したらしいよ 人を
(しばらくの間)
KAMO>ほんと??
R−Ann>さあ わかんない。
R−Ann>でも 小学校の名前が ☆☆☆小学校 なの
R−Ann>近く? かな
(しばらくの間)
KAMO>いつ
R−Ann>たしか 6年まえ
KAMO>笹野原 めもり?
R−Ann>うん 殺されたのは
KAMO>北条美佐
R−Ann>えっ よく知ってるね
(KAMOの接続が切れる)
R−Ann>ふー。
投稿の2
ていうか、僕こと谷崎潤一です。
なんかテレビとかで、掲示板に笹野原さんへの誹謗中傷文が有ったらしい。
それとこの前投稿してくれた榊原さんの話とを組み合わせてみると、面白い推理ができました。
面白いなんて不謹慎ですね。
殺害方法は彼女と同じですが、本当は丹波さんが笹野原さんを殺そうとしたのではないか、と。
図書室にタイキがいたのがちょっと分かりませんが、あながち間違いでは無いと思います。
週刊誌には、丹波さんの御家族、以前は北条という姓でした、は六年前に、何者かによって三人殺されています。両親と女の子。生き残ったのが彼女と弟の健。
その仇を取ろうと思ったのかもしれないです。つまり、北条一家を殺したのは笹野原さんなのではないか、と。
そう考えると、事件のあった朝、丹波さんが何を書いていたのか分かりました。
まず一枚目はタイキへのラブレター、ならぬ呼び出し状。
二枚目は、笹野原さんへの手紙。
三枚目が、殺害を隠蔽するための遺書。
そうか、タイキは丹波さんが危なくなった時に助けてもらうために、呼んだのか。
だけどタイキが先に来たために余裕ができてしまって、刺されたんだ。
事件当日の朝、図書室にて
あ、大樹、おはよう。
美沙子、おはよう。それで、何かあった?
うん。私の昔の事を話そうと思って。
何。
六年くらい前にさ、☆☆☆小学校の近くで、一家殺害事件があったよね。
あの北条一家?
そう。そこでさ、生き残った少女と少年がいたでしょ。
うん。
その少女っていうのが、私なの。それで、犯人が、笹野原芽守。二年七組の。
えっ、ほんと?
多分。それで、今日の放課後彼女に会おうと思ってるの。
……。
一緒に、来てくれる?
もちろんいいよ。
――ここで、会話は途切れる事になる。
ここは新聞部の部室。
今中にいるのは僕と部長。二人で投稿された文章を読んでいる。
丹波さんは双子であり実は笹野原さんを丹波妹がそそのかして姉を殺した、とするもの。ただ笹野原さんが大量虐殺をしただけだ、とするもの。笹野原さんは丹波さんから大沢君を奪おうとしただけだ、とするもの。
他にも色々とあった。
色々と考えている時、部屋の扉ノックされた。部長が返事をする。
「どうぞ」
少ししてから扉が開いた。
中に入ってきたのは、僕と同じクラスの高阪幸だ。
「失礼します」
そう礼儀正しく入ってきた高阪さんだが、声に棘があった。
「どうぞ、こちらへ」
部長は落ち着いて彼女をもてなす。
言われたままにパイプ椅子に座った彼女は、こっちを向いた。
「あら、ヒカリ君。こんにちは」
やはり棘があった。
軽く返事を返そうと思ったが、彼女は部長の方を向いていた。
「それで、どんなご用件でしょうか」
部長が聞く。
「あの推理を募集したことを、謝ってほしいの」
やはりそれか、と僕は思った。
「理由をお聞きしたい」
「私、丹波美沙子の友達で、同じ部活なの。それで美沙子、あの日の前日に部活が終わってから、やっとのことでラブレターを書き終えたのよ」
「ふむ。それで」
「たまたまその時に事件が起きて、美沙子と大樹君は巻き込まれただけなのよ。それを色々と騒ぎ立てるのは、止めてくれないでしょうか」
「ふむ。成程。言いたい事は解った。だが我々としては、丹波美沙子と大沢大樹の二人に贔屓をする事は出来ない」
「他の皆も、同じ気持ちよ」
「特に、君からの意見は、だ」
「それってどういう意味?」
やはり棘があった。




