解析終了 - 任務の果てに -
「はい、デバッグ完了。お疲れ様でした」
女性の声と共に、仁の頭から大型ヘッドマウントディスプレイが外された。
バイクのフルヘルムよりもずっと大きい装置だったので、
それから開放されると一気に新鮮な空気が顔に飛び込んでくる。
結構な重量があるせいか、首と肩が疲れているのだろう。
少年がメガネを外して、頭を横に動かすと、ゴキゴキと派手な音がデバッグテストルームに響いた。
大量に流れていた文字列は、もう目の前に浮かび上がってはこない。
「……で、結局、キャラ性格のデータ入力をミスっていたのは、田中さんだったんですか?」
「そうみたい。多分、他のキャラと取り違えたのね。ま、後でぶっ飛ばしておくから安心して」
怖いことを言いながらも、仁の側に立っている女性は、ふふっと笑みをこぼした。
ゲーム内のセラ・ライトニングにそっくりな、
いや、正しくはそのモデルになった人物だ。
ビシっと着こなしたオフィススーツの胸元には、
『スリー・デジタルエンターテイメント、VR開発部門 瀬良光』と書かれた名札が光っている。
「しかし、すごいですね。これが新しいゲームデバッグの形ですか?」
「まあ、新入社員の練習用に作らせたVRゲームのオマケみたいなもんかな。
でも、こういうのも楽しいでしょ?」
「ええ、最高でした」
「良かった。新しい試みなの。うちの会社に興味をもってもらうための、ね。
ウチも年々、離職率が上がっていて……おっとと、いけない」
慌てて口を手で塞ぐ光。
「そ、それよりもさ、仁君、かっこよかったじゃない。驚いちゃった 」
「す、すいません。なんかハッスルしちゃって。色々とやりすぎちゃいました」
「いいの、いいの。高校生なんだから、若さが爆発してるくらいじゃないとね」
その言葉に照れくささを感じると共に、来て良かった、という充実感に仁は満たされていた。
高校の職場見学、数ある企業の中で生徒から特に人気を集めたのがスリー・デジタルエンターテイメントだった。
最先端のVR技術が売りの大手ゲームメーカーであり、見学希望の生徒が殺到。
そして、仁は、奇跡的にも都合7回戦のジャンケン対決に勝利し、その切符を手にしたのであった。
「どう? 卒業したらうちの会社に来ない?」
「本当ですか? でも、俺、プログラミングとかあんまり……」
「大丈夫よ! 未経験でも全然オッケー! けど……」
「けど?」
光は、顔を近づけ、
「血ヘド、本当に吐くかもよ?」
と、ささやいた。
彼女の顔は笑っていた。けど、瞳の奥は本気であった。
短編なので以上となります。