八・シンシアの事情
その日の夜。
「ねえ、シンシアさん」
「はい、何でしょう」
お風呂から上がり、リビングでくつろいでいたあたしは、些細な疑問を口にした。
「ずっと気になってたんだけど……シンシアさんって、一人暮らしなの?」
あたしの問いに、シンシアさんは嫌がる様子もなく答えてくれる。
「はい。……少し長くなりますが、聞いてくれますか?」
「あ、うん」
「実は私……代々守護者や従者を輩出する、メンデス家の末娘なんです」
「代々、守護者や従者を輩出する……?」
「はい。従者というのは、守護者と契約を交わし、彼等に付き従う者です。守護者の力の一部を使う事ができますが、従者になるには適性が必要ですわね」
「……さらっと言ってるけど、守護者とか従者を代々輩出するって、すごい事なんじゃあ……」
「ええ、そうですね。……実は、私の父は光の守護者なんです」
「えっ!?」
シンシアさんの言葉に、あたしは驚きを隠せなかった。
「ひ、光の守護者!? シンシアさんのお父さんが!?」
「はい。そして、私には三人の兄がいるのですが、彼等はお父様の従者なんです」
「す、すごい……」
お父さんが光の守護者で、お兄さん達が全員従者だなんて。そんな事、中々ないような気がする。
「お父様が言うには、私にも従者の適性があるらしく、お父様やお兄様達は私に従者になって欲しいようなのですが……」
そこで、シンシアさんの表情が曇る。
「守護者や従者は、戦わなければなりません。けど私は、幼い頃から争い事が嫌いで……従者になりたくないと言ったら、お父様やお兄様達に、皮肉や嫌味を言われるようになったんです。それで屋敷に居心地の悪さを覚えた私は、屋敷を出て一人暮らしをしている、という訳です」
「そうだったんだ……」
シンシアさん、大変なんだな……。
「でも、今は楽しいです。便利屋スカイで働いていれば、私の光魔法で怪我人を治療する事ができますし」
「ふふっ、そっか」
シンシアさんの笑顔を見て、あたしも自然と笑みがこぼれた。
「あ、でも……一人暮らしって事は、ベッドは一つしかないんじゃあ……」
「ご安心ください。私はソファで寝ますから、ベッドはアカリさんが使ってくださいませ」
「えっ!? そ、そんなの悪いよ! あたしがソファで寝るから!」
「お客様をソファで寝かせる訳にはいきませんわ。私は大丈夫ですから、お気になさらず」
「で、でも……あっ、そうだ!」
あたしはある事を思い付き、ぽんと手を打った。
「じゃあさ、二人一緒にベッドで寝るのはどう?」
「えっ!?」
シンシアさんの顔が、みるみる真っ赤になる。……嫌だったかな?
「あ、嫌ならいいよ? 別の方法考えるから」
するとシンシアさんは、ばん、とテーブルに手をつき、声高らかにこう叫んだ。
「い、いいえ! 嫌だなんて事はありませんわ! むしろ嬉しいです!」
今まで見た事のないシンシアさんの気迫に、あたしは目を丸くした。
「え……そ、そう?」
「はい!」
「そっか……じゃあ、一緒に寝る?」
「はい!」
こうして、あたしとシンシアさんは一緒に寝る事になった。
その後、何故かシンシアさんはずっと嬉しそうな顔をしていた。