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十・初めての依頼

 あたしとヴィンスは、シンくんという少年を捜して、レーンの森と呼ばれる場所にやって来た。

 ヴィンスの話によると、この森の奥に転移魔法陣があるらしいが、今はそれどころではない。


「シンくーん!」

「シン! どこだ?」


 あたしとヴィンスは、シンくんの名前を叫びながら森の中を歩く。しかし、返事はない。

 この森には魔物がいるのだという。早く見つけないと、シンくんが魔物に襲われる危険性がある。

 と、その時。


「……ん?」


 何か聞こえたような気がして、あたしは足を止めた。


「アカリ。どうした?」

「ねえ、ヴィンス。何か聞こえない?」


 あたしがそう言うと、ヴィンスは耳をそばだてた。そしてーー。


「……子供の声が聞こえる。この奥だ。急ごう!」

「う、うん!」


 あたし達は、声のする方へと駆け出した。

 少し走ると、開けた場所に出た。すると、そこにはーー。


「ううっ、く、来るなぁ……っ!」


 五歳くらいの少年が、木に背中を預け、二匹の狼のような生物(恐らく魔物だろう)と向き合っていた。


「シン!」


 あたしが状況を把握するより先に、ヴィンスは動き出していた。

 鞘から抜き放った剣を右手に持ち、狼のような生物に突進していく。

 そして、鮮やかな動きで剣を振るうと、一匹の生物を斬りつけた。生物の身体から血しぶきがほとばしる。


「ガァァァアアッ!」


 斬られた生物は凄まじい声を上げ、その場に崩れ落ちた。

 すると、もう一匹の生物が大きく口を開けてヴィンスの方へと向かってきた。

 しかし、ヴィンスは怯む様子もなく、返す刃で生物を斬りつける。


「ギャアアアッ!」


 もう一匹の生物も、断末魔の叫び声を上げながらその場に倒れた。

 ヴィンスは懐から取り出した布で剣についた血を拭うと、剣を鞘に戻した。

 あたしは、その様子をただ呆然と見守る事しかできなかった。

 ヴィンスが、少年に声をかける。


「おい、大丈夫か?」

「ひっ……!」


 少年はヴィンスを怖がっているのか、震えている。

 そこでハッと我に返ったあたしは、少年の元へと駆け寄った。

 そして、少年と目線の高さを合わせるようにしゃがみ込む。


「ねえ、君! 大丈夫?」

「……う、うん……」

「そっか、良かった。君、シンくんだよね?」

「……うん」

「あたし達、シンくんのお母さんに頼まれて、君を捜しに来たの。もう大丈夫だよ!」


 そう言って、あたしはシンくんの頭を優しく撫でる。

 すると、シンくんの両目から大粒の涙がこぼれた。

 そして、シンくんはあたしにしがみついてくる。


「うっ、ううっ……怖かったよぉ……」


 あたしはシンくんの小さな身体を抱き締め、背中をさすった。


「うん、怖かったよね。でも、もう大丈夫だよ」

「うっ……うう~っ……」


 それから、シンくんが落ち着くまで、あたしはシンくんの背中をさすり続けた。

 しばらくしてーー。


「もう大丈夫?」

「うん、大丈夫。ありがとう、お姉ちゃん、お兄ちゃん」

「ふふっ。どういたしまして」


 あたしは、シンくんの身体をそっと離した。


「そろそろ行こう。またいつ魔物が現れるかわからない」

「うん、そうだね」


 ヴィンスの言葉にあたしは頷き、立ち上がる。

 そして歩き出そうとした、次の瞬間。


「ぐあっ!?」


 あたしの目の前を「何か」が通過し、ヴィンスの背中に当たった。

 ヴィンスはバランスを崩し、そのまま前方に倒れる。


「ヴィンス!?」


 何が起こったのかわからず、あたしは慌ててヴィンスに駆け寄った。

 しゃがみ込み、ヴィンスに声をかけようとするとーー。


「きゃっ!?」


 あたしの頭頂部を「何か」がかすめていった。

 あたしは立ち上がり、周囲を見回す。

 すると、一本の奇妙な木が目に留まった。

 それは、目と口のような穴が空いており、まるで手のような長い枝の生えた木だった。

 あたしは、すぐに理解した。こいつは魔物だ、と。

 どうしよう。このままじゃ危険だ。ヴィンスは倒れているし、あたしとシンくんには戦う力なんてない。

 ……いや、リンフォードさんが言うには、あたしには戦う力があるらしい。

 何とかしなきゃ。何とか……。早くこの状況を打開しないと……!

 あたしが歯を食いしばった、その時だった。

 ーーあたしの身体が、勝手に動き出したのは。

 不思議な感覚だった。自分の意思とは関係なく、まるで何かに操られているかのように、あたしは両手を前に突き出す。

 そして次の瞬間、両手の平が熱くなり、光が放たれたかと思うとーーあたしの両手には、身の丈ほどもある大剣が握られていた。

 緩やかな曲線を描く淡いオレンジ色の刀身の根元には、鳥の翼のような装飾があしらわれている。

 その剣はとても美しく、使うには惜しい代物だと思った。しかし、それでいて不気味に輝く刀身は、まぎれもなく他者を傷付ける凶器そのものだ。

 気が付くと、あたしはその剣を大きく振るっていた。両手で持ってはいるが、重さというものをまるで感じない。

 そして、オレンジ色の刃は、魔物の身体から生えている片方の枝を容赦なく切断した。


「ギャアアアッ!?」


 魔物は、悲痛な叫び声を上げながらうずくまる。

 その隙に、あたしは剣を左手に持ち、右手を魔物に向かって突き出した。

 すると、右手の先端に赤い光が集まりだす。

 やがて、それは巨大な炎の弾丸へと変化し、魔物に向かって勢い良く放たれた。

 炎の弾丸は魔物の顔面に着弾し、魔物の身体はみるみるうちに燃え上がっていく。


「グ、ガアァァァッ……」


 しばらくすると、魔物は力を失ったかのようにその場に倒れた。

 そして、魔物の身体から白い光の粒が立ち上る。

 光の粒はどんどん増えていき、それに相反するように魔物の身体は小さくなっていく。

 ーーやがて、魔物の身体は完全に消え去った。


「アカリ……」


 ヴィンスの声で、あたしはハッと我に返る。


「あ、あれ? あたし……」


 気が付くと、あたしの手の中にあの剣はもうなかった。

 ヴィンスの方を見ると、彼はいつの間にか立ち上がっている。

 一方シンくんは、少し離れた所から、まん丸な瞳であたしを見ていた。


「今のが……守護者の力……?」


 あたしは自分の両手を見つめる。

 と、その時。


「あ、れ……?」


 突然、視界が歪んだ。

 同時に、手足に力が入らなくなり、あたしはその場に座り込んでしまう。


「アカリ? おい、どうした?」


 ヴィンスが駆け寄ってくるのがわかった。

 こんなところで座り込んでる場合じゃない。立ち上がらなきゃ。

 そう思うのに、身体は言うことを聞かず、あたしの身体は傾いていく。

 ーーこうして、あたしの意識は闇に沈んでいった。

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