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九・便利屋スカイ

 四月七日。木曜日。


 時刻は午前十時前。あたしとシンシアさんは家を出て十分ほど歩き、「便利屋スカイ事務所」と書かれた看板の出ている建物の前へとやって来た。


「ここが便利屋スカイなの?」

「はい。心の準備はいいですか?」

「うん、大丈夫」


 シンシアさんが建物の扉を開け、中に入る。


「おはようございます」


 あたしもシンシアさんに続いて中に入ると、挨拶を口にした。


「おはようございます」


 事務所の真ん中には大きなテーブルがあり、リンフォードさん、ヴィンス、カルロスさん、そしてもう一人、黒い髪を後ろで束ね、紫色の瞳を持った青年が座っていた。全員の視線があたしに集中する。


「おお、来たか。アカリ」

「……おはよう」

「あれー? 昨日の子だ!」


 リンフォードさん、ヴィンス、カルロスさんが、三者三様の反応を見せる。……何だか恥ずかしいな。


「あの、あたし、便利屋スカイで働く事になりました、柏明里と言います。よろしくお願いします」


 そう言って、あたしは頭を下げた。

 すると、黒髪の青年が椅子から立ち上がり、あたしに歩み寄ってきて、笑顔で口を開いた。


「君が噂の新人さんだね。僕はノエル・オグバーン。よろしくね」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 ノエルさんが右手を差し出してきたので、あたしはその手を握り返す。


「仲間なんだから、タメ口でいいよ。他の仲間に対しても、ね」

「あ、はい……じゃなくって、うん。わかった」


 手を離すと、リンフォードさんがあたしを呼んだ。


「アカリ。こちらに来るのじゃ」

「ん? 何?」


 あたしはリンフォードさんに近寄る。

 すると、リンフォードさんが一枚の紙を差し出した。


「これが事務所の全員の仕事予定表じゃ。アカリはどうせ暇じゃろうから、適当に仕事を入れた」

「……」


 「どうせ暇じゃろうから」という言葉にカチンと来たが、本当の事なので何も言わないでおく。


「ここでの仕事は習うより慣れろ、じゃ。依頼が入ったら他の者が動くから、彼等に同行するのじゃ。本当はおぬしに解決して欲しい依頼があるのじゃが、それはおぬしがここでの仕事に慣れてきてからでいいじゃろ」

「あたしに解決して欲しい依頼……?」

「うむ。火の守護者であるおぬしが適任なのじゃが、戦いに慣れてからでいいじゃろ。依頼が来ないうちは自由に過ごしていていいぞ」

「わ、わかった」


 戦うのかぁ。大丈夫かな……怖いけど、やるしかないよね。

 あたしは心の内でそう自分に言い聞かせ、適当な席に着いた。


 * * *


「はあ……それにしても、アカリさんは本当に可愛らしいですわね……」

「そ、そう……?」


 スカイ事務所で小説を読んでいると、ふと視線を感じたので、そちらに目を向けると、何故かうっとりとした表情のシンシアさんが、唐突にそんな事を口にした。

 シンシアさんは、実は本当にレズなのではないかと思ってしまう。

 と、その時、ノエルさんとカルロスさんのこんな会話が聞こえてきた。


「はあ……シンシアって、男に興味ないのかなぁ……」

「それ、オレも気になってんだよなー。いっつも女見て『可愛い』って言ってるし」


 二人の方に目をやると、何故か二人とも悲しそうな顔をしている。どうしたんだろう。

 と、そこでシンシアさんが、我に返った様子でノエルさんとカルロスさんの方を振り向きながらこう言った。


「あら、そんな事はありませんよ? 確かに女性は好きですけれど、初恋の相手は男性でしたし」

「「えっ!?」」


 ノエルさんとカルロスさんが、勢いよく身を乗り出す。

 それに驚いたようで、シンシアさんは目を丸くした。


「ど、どうしたんですか? お二人とも」

「う、ううん! 何でもないよ! 良かったね、カルロス!」

「おう! お前も良かったな! ノエル!」

「……?」


 シンシアさんが、不思議そうに首を傾げる。

 あたしは、何となく理解した。

 ああ……あの二人、ひょっとして……。

 と、その時、ガチャリと事務所の出入口のドアが開く音がした。

 そして、真っ青な顔をした一人の女性が慌てた様子で事務所内に入ってくる。


「すみません! 便利屋スカイの事務所はここで合ってますか!?」


 女性の問いに、リンフォードさんが普段とは全く違う雰囲気でこう答えた。


「ええ。ここは便利屋スカイ事務所です。何かありましたか?」


 えっ!? リ、リンフォードさんが敬語……!?


「助けてください! うちの息子が……レーンの森の近くで迷子に……!」

「! それは大変です。あの森には魔物がいる。急いで捜しましょう」


 あたしは、驚きを隠せなかった。

 普段は老人口調で我が道を行くリンフォードさんが、人の話をちゃんと聞いている。

 あたしが口を開けていると、リンフォードさんがこちらを見た。


「アカリ、ヴィンス、仕事だ。レーンの森で彼女の息子を捜してきてくれ」

「わかった」

「え? あ、う、うん!」


 あたしは慌てて立ち上がりながら、女性に質問を投げかけた。


「息子さんの特徴は?」

「えっと……私と同じ栗色の髪、緑色の瞳で、黒い帽子を被ってます。名前はシンって言います」


 すると、ヴィンスがあたしの方を見てこう言った。


「アカリ。準備はいいか?」

「う、うん!」

「よし。では、行くぞ」

「うん!」

「息子をよろしくお願いします……!」


 こうして、あたしとヴィンスはレーンの森という場所に向かう事になった。

■ノエル・オグバーン

・年齢:22歳

・誕生日:11月23日

・身長:173cm

・外見:襟足まで届く長さの黒髪を結んでおり、紫色の瞳をしている。

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