戦いの終止符
「グアァァァァ!!」
先に動いたのは、ブレンダの方だった。
先程とは、桁違いのスピードで斎賀との距離を縮めると、拳を振り下ろしてくる。
(これは、よけれられないな……)
避けても、衝撃で吹っとばれされてしまうだろう。それに、後ろにいる彼女にも被害が及ぶかもしれない。
それなら……
「とりあえず、普通のパンチ!!」
拳を振り上げる。
刹那
ドガァァァア!!
二人の拳が重なると、そこから閃光が走り、衝撃波が森の中に響く。
互いの拳がぶつかりながらも、一歩も動かない両者。
そこには、二人以外は何も残っておらず、木々をはじめ、その辺に転がってた石や岩も消えていた。
静寂が辺りを包む。
しかし、両者共に隙がない。ピリピリとした空気が静寂を消し去る。
(お、おもいな。)
結構、強めに撃ったがあまり聴いてはないようだ。
拳が重なり合うなか、ふっとゴリラ(ブレンド)の顔を見ると、一緒、ほんの一瞬だがニヤリと笑った。
その瞬間
シュ!!
後ろの尻尾が少し揺れると、鞭を振るうかのように斎賀に襲いかかる。
斬撃に近い攻撃は、岩を空気を切るかのように真っ二つにしていた。
まともに食らえば、死は免れない。
「あ、危ねぇ!!」
しかし、斎賀は腰をくの字に曲げて紙一重でかわしていた。とは言っても、髪の毛が数本切れてしまった。
奴がニヤリと笑った瞬間、斎賀はその瞬間を見逃さなかった。常人では感知できない一瞬を見逃さなかったのだ。
尻尾がほんの少し動いたので、本能的に避けたが正解だった。
しかし、斎賀もやられてばかりではない。
「これ、返すよ。」
手に持っている物を、投げつける。
それは、尻尾だった。
グアァァァァ!!
尻尾が切られていたのを気がつかなったがために、それに気づいた瞬間、雄叫びをあげて苦しんでいた。
一体いつの間に、斎賀が尻尾を切ったのか。
実は、攻撃を避けた瞬間に足を尻尾の付け根目掛けて蹴り上げたのだ。
見事命中し、尻尾は切断され地面に落ちたのだが、あまりにも早い一瞬よ出来事なので、気づかなかったようだ。
グアァァァァ!!
余程痛いのか未だに苦しんでいる。
しかし、これでいい。
俺が知っている通りなら、尻尾を切れば元に戻るはずだ。
徐々に体が小さくなって、元に戻っていく………
「あれ、おかしいな……」
元に戻るどころか、そのまんまだった。
それどころ、更に巨大化してないか?
尻尾は再生するどころか、めり込んで筋肉が膨れ上がっている。
斎賀は知らないが、実はこの尻尾は安全装置の役割をしていたのだ。
ブレンダが心臓に剣を突き刺したのは、人身の神力を限界まで引き出すためであり、暴走に近いパーワーアップをするためだ。
その間に、尻尾は体の崩壊を防ぐ役割をし、限界を超えないように制御していたのだ。
それの制御がなくなると、完全な暴走状態となる。
破壊と殺戮を繰り返す、化け物とかしてしまうのだ。
止める手段はただ、一つ。
この世から完全に消し去ること。
それ以外に、救う方法はない。
これがいかなる危機なのかは当然、斎賀は知る由もない。
「どうすればいいかな……これ……」
相変わらずの雄叫びで耳が痛くなってきた。
尻尾を切っても戻らないんならどうしようもない。
「まぁ、なんかなるか。」
悪いが、奴には気絶してもらおう。流石に少しやりすぎたと思うし、ここら辺で終了しても取れ高あるから問題ないはず。
「ちょっと、ごめんよ!」
地面を蹴って、近づくと腹部目掛けて拳をめり込ませた。
メシメシと肉に食い込む音が聞こえるとブレンダは雄叫びをあげる暇もなく倒れこんだ。
どしん!!と重たい巨体が倒れると、体が徐々に小さくなっていき、しまいには元に戻った。
「なんだ、気絶させればよかったのか。」
これでは、尻尾を切ろうとあえて面倒くさい方を選んだ自分がアホみたいだ。
「さて、こんだけやれば大丈夫だな。」
無事、戦いに勝利。これで出来上がったに違いない。
ふっと、さっきの女性どうしてるのかなと思い、探してはみたがどこにもいなかった。
残ってるのは、ブレンダと斎賀だけ。
あの、足を骨折してた人も知らないうちに何処かに消えてしまったようだ。
多分、帰ったのかな。
「………俺も帰るか。」
運動をしたから、少し汗臭い。もう一回風呂に入って今日は寝よう。そして、修行の再開だ。
戻ろうとしたその時
斎賀の横に、何かが通り過ぎた。
それは、一本の光の槍だった。
「な、なんだ!?」
振り返ると、そこには甲冑を纏った天使が何十人もいた。