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スペア  作者: 宇都宮 沙羅
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ナツコ

もう少しで夜が明ける。

ナツコはほんのり赤みがさしてきた朝焼けの空を見ていた。隣では奈津子が寝息をたてている。同じ顔、同じ名前、同じ日に生まれた私たち。でも決定的に違うところ、それは私が奈津子の「スペア」だということ。スペアは本物になにかあったときに身代わりになる。友達のミカは、右足を事故でなくした主、美佳に右足を捧げた。美佳は健康な足を手に入れた。ミカは片脚となった。

これがスペアの役目。主が心臓を欲しがれば迷いなく捧げる。使命だから。スペアはなんだって身代わりになる。「存在」の代わりだって…。そう、私は気づいた。主、奈津子を殺せば私は奈津子の身代わりになって、奈津子として生きることができる。そんな考えが一度頭をよぎってしまえば、今までのことが全部馬鹿らしくなってきた。私たちスペアは人間として扱われたためしがない。ただのスペアだから。だからもちろん人権なんてない。常に健康であり、いつでも身代わりになることができる状態であることが、私たちが一生のなかですること。学校も行かない。スペアの施設をふらふらするだけ。

そんな生活を15年間続けてきたが、ある日、そう、昨日、私はふと気づいた。存在の身代わりをすれば?私が本物になれる?頭の中で答えが出たときには施設を飛び出していた。

奈津子の家の奈津子の部屋の奈津子の隣に立って、寝ている奈津子を見つめた。外でパトカーのサイレンが鳴った。少しビクッとしたが、

「大丈夫、私には人権がないんたもの。罪にはならないわ。」

うすら笑いを浮かべ、奈津子の細い首に手をかける。少しずつ力が入っていく。


私は朝焼けの空を見上げた。もうすぐ夜が明ける。

「さよなら、奈津子。恨むなら馬鹿な政府を恨んでよね。」


5月6日、ナツコは奈津子になった。



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