ファイル07 恋多き女がやってきた
自殺課にしては軽めの話です。
でもちょっと人生訓ありです。
『あの…死なせてください!!』
「またアンタですか?小池さん。。」
『違う!今度こそ本気なの!!』
「あのねぇ…これで何回目だと思ってるの??」
『そう言わないでよ叩さん。書類なら書くからさ。』
「ほれ…書き方はもう覚えてるだろ。」
『…あれ??でも前はこんな項目なかったよ。
たしかそこの棚に凡例があったよね。見せてよ。。』
「ちっ…どんだけ書き慣れてるんだよ。。」
この人、小池恵さん。職業ホステスさん。
いわゆる恋多き女ってところで…
男に振られたと言っってはここにやってきては
グチを言ったら帰って行く…
常習犯…というか常連さんです。。
ここは県庁の自殺課。私は所長の叩一人。【詳細は第一話参照】
…本当にしつこいようだが今回も書きます。<(`^´)>
だってほどんどの読者が初めてかお忘れだろうから。
…とにかく…
うちは役所であり遊びに来るところじゃない!!
…などと言う間もなく書類は書きあがったみたい。。
「あれ??生年月日の欄だけ書き漏れてるよ。。」
『それは…もう年がばれるの嫌だし…』
「じゃぁ勝手に書いとくぞ。俺のちょうど10コ下だろ。」
『…そういえば前回、そんなこと言ってたよね。。』
「ほら、昭和●●年▲月■日生まれ!43歳!!」
『…いじわる…そんな大きな声でさ。。。』
小池さんは私と誕生日が同じでちょうど10年違い。
だから生年月日は覚えている。。
…だが10歳下とはいえ、もういい年のオバサン。
自称美魔女ということだけど…
よく見ればただ中年太りしてないだけの厚化粧。
美人でもなんでもない年齢相応の見た目。。
…そんな彼女だから当然、恋のチャンスも減少中。
せっかく捕まえた恋人にもすぐに逃げられ…
そのたびに人生の終わりのような顔でウチを訪れる。。
ウチは人生相談所じゃないってのに…
「…でもね小池さん。。
自分でもわかってる通りアンタもいい年なんだ。
いい加減、地に足のついた人生を考えるべきだよ。」
『…そんなのわかってるよ。。
結婚相談所にも何回か行ってるんだし…
けど水商売だし…子供も望める年齢でもないし。
だからって年相応の人格者でもないしさ…』
「じゃあ相手にされなかったの??」
『そう…幸せにしてもらえそうになかった。。』
…気の毒にな。。
そういえば以前もそんなことを言ってたっけ。
でも原因がわかるような気もする。。
この人…小池恵さんは…
幸せにしてもらいたいんだ。
いやむしろ…それが当然と考えているんだ。
だからずっと自分を幸せにしてくれる相手を探して…
まったく…なんて哀れなんだろう。
でもどうすれば気づいてもらえるんだろう。。
「…なぁ小池さん。
どうせ今回も夜の仕事は休むんだろう??」
『……うん。。』
「だったらちょっとウチを仕事をしてみないか??」
『えっ…いいの??』
「ああ。ちょうどウチの主任が夏休みなんだ。
その代行として手伝ってもらえないか??」
『仕事??時給いくらで??』
「…無給だよ。。。
死にに来た人間が金をもらってどうする??」
『…でも私は文無しだよ。あの男にぜーんぶ貢いだから…
せめて六文ないとあの川も渡れないよ。。』
「…ちっ。。…六文銭くらいは払ってやるよ。。
なにせ今回は主任代行だからな。。」
…やっぱり若い女とは感覚が違う。。
年の功なのかこのくらいの教養はあるんだ。。
ちゃんと年相応の生き方をすれば幸せになれるはず…
そのためには…どうしても分かってもらう必要がある。
…こうして彼女には自殺志願者の話を聞いてもらった。
…できるだけ彼女と同世代の人の相談を…
すると…彼女にもわかってきたのだろう。
自分一人で生きる人生がどれほど身軽であるのか…
生きるも死ぬも自分次第…
だから軽い気持ちでやって来るのだと…
でも背負うものがある身は違う。
自分と同じ世代の自殺志願者の多くは家族持ち。
家族のことを案じ、自分以外の者のために生きた結果…
だから…重い。。
自分のことだけを考え自分のためだけに生きた…
そんな自分とは違う同世代の生き方を知り…
『叩さん…私…恥ずかしいです。。』
「恥ずかしいって何が??」
『みんな…自分のためだけに生きてない。。
誰かを幸せにしようとして…生きてるんです。。
みんな…私と年も変わらないのに…』
「…そうだな。重いな。。」
『うん。それに比べて私は自分だけで…
誰かに頼らないと自分の幸せさえ掴めなくて…』
…よかった。気づいてくれたんだ。
人間の生き様は…その死に際にこそあらわれるという。
自分のことだけで精一杯の者とそうでない者…
所詮、自分のためだけに死にたいだなんて…
ましてそれを誰かのせいにするなんて…
人生を重ねた者として恥ずべきことなのだと。。
落ち込んだ表情を見せる小池さん。。
そんな彼女にかける言葉は…
なぜか…すごく簡単だった。。(-_-)
「…気付いてくれたんだね。。
所詮人間は一人で生まれて一人で死んでいくんだ。
自分を幸せにできるのは…自分以外にいないんだ。」
『じゃぁ…幸せにはしてもらえないんですか??』
「他人に幸せにしてもらえると考えるからいけないんだ。
けど自分が誰かを幸せにすることはできる。
一方的に幸せにしてもらえると思うのが誤りなのさ。」
『はい…私はもう頼らない。。
幸せにしてもらうんじゃなく幸せにします!!』
「それはよかった。
けどね。。そのセリフは何回目なの??」
『ええっと…それはその…』
「四回目!!本当にわかったのなら実践しなさい!!」
『…はぁい。。(´^ω^)』
なんかもぅ…茶番だよな。。
たしか先々月も同じようなことをやったような。。
その前の似たようなクダリを合わせたら…
もう吉●新喜劇なみのお決まりのパターンになってる。。
…まぁいいか。
安い時給で一週間も働いてもらって。
正直なところ彼女…うちの結構な戦力なんだから。。
『へぇ…また小池さんが来てたんですか??』
「そうなんだよ。永井主任。
まぁお決まりのパターンで帰ってもらったけどね。。」
『それで私が夏休みの間、業務を代行してもらうって…
なんてタイミングが良いんだろ。。』
「…ああ。全く滞りなくやってもらえたよ。
なにせ彼女はここでは私より古株なんだからさ。。」
『それはそうと、所長は夏休みを取らないんですか??』
「ああ、俺はいつでもいいよ。
どうせ独り身だし旅行の計画もないし。。」
そんな会話をしてた時…
またまたあの女が飛び込んで来た。
『叩さぁん!また振られてしまいましたぁ!!』
「はぁ…またですか小池さん!?」
『だからその…』
…というわけで…
私と永井主任は顔を見合わせて…
…ニヤリと笑った。(*^〆^)
『ちょっとなんで??
私…またここでバイトですかぁ??』
『…はいはい。
ちゃんと働きましょうね。小池所長代行。。』
『ええっ!?所長代行なんて初めてだよ。。
出世したんだから所長手当は奮発してよね!!』
『…出ませんよ。。
たかがバイトにそんなもん…』
…というわけで私は…
その翌日から夏休みを取った。。(*´з`)
他人に頼るのではなく自らが頼りになる。
一人前とはそういうことでしょう。