ファイル06 いじめられっ子がやってきた。
第6話です。
今回のテーマはイジメです。
「…失礼します。自殺課ってこちらですか??」
中学生ぐらいの少年が入ってきた。
言葉遣いから察するに優秀な子のようだ。
「えっと…キミが自殺志願者かな?」
「そうです。」
「なぜその若さで?理由を聞かせてくれないか??」
「…お察しの通りです。いじめですよ。」
聞けば…イジメの内容は壮絶なモノであった。
ちなみに詳細はここでは書けない。
実は胃腸の弱い作者はイジメ問題が苦手なのだ。
また嘔吐してキーボードが壊れたら…恐ろしや。。。
「…学校や家族には相談したの??」
「はい。家族は理解してくれたのですが学校は…」
「学校はなんと言っていた??」
「はい…いじめはなかったと主張するだけで…」
やはりだ。。
自殺課ではいじめ問題も多く扱うが、
たいていはこのパターンだ。。
およそ学校という組織はイジメの存在を認めない。
なぜなら学校や教師の評価が下がるから。
だがそんな隠蔽を表沙汰にする方法も存在する。
それが自殺。。
つまり実際のイジメの深刻さは無関係。
自殺者が出れば≪いじめ≫は世間に認定される。
出なければ≪なかったもの≫として隠蔽される。
これが現在教育界の…常識なのだ。。
「しかしなぜキミはいじめられてるの??
見たところ聡明で、気が弱そうでもないが。」
「ボクは…いじめられている級友をかばったんです。
ただそれだけです。理由なんてありません。」
「ならば逃げればいいだろう。」
「いえ。ボクの目的は逃げではない。公表です。」
どうやら…あれに触発されたらしい。。
実は自殺課の調書は公表されることになっている。
つまりいじめの内容は実名で表沙汰になる。
そして先日これと同様のケースで初めて加害者の…
未成年の実名が出される事件があったばかりだ。
「…今までの自殺では遺書しかありませんでした。
だが死人に口なし…裏付けになりません。。
でも自殺課は違うんです。
まだ生きているボクは法的証拠になる。。」
…そういう…ことか。。
たしかに被害者が生きているうちに検証されれば
イジメの内容は正式に証拠として採用できる。
この子はちゃんと考えているんだ。。
…しかし惜しい。
これほど賢明な子が命をかけなければならないのか??
そこまでしないとイジメは解決しないのか??
…とりあえず彼の証言の裏付けだ。。
彼の担任と校長を自殺課に呼び出したのだが、
これがまぁなんとも軽い考えの教育者で…
『どうして自殺なんか…生きていることが大切なのよ。』
「そうだよ。死ぬより辛いことはない。」
『校長先生の言うとおりよ。命より大切なものなんて…』
私たち自殺課の関係者は先生方のご高説に…
あきれ果てていた。。(-_-;)
だって命の向き合ってきた自殺課職員は知っている。
…矜持…誇り…名誉…使命…職責…家族…思想…等々…
人間は命より大切なものを持っているってことを。。
なのに教育者はそのことを全く口にしない。
命と同等に大切なモノを持った経験がないのだろうか??
それとも本気でこんな軽薄な考えだから、生徒が
命を絶つで平然としていられるのだろうか??
仮に命を長らえて命が終わる時、
自分の命を賭けるに値するものが
一つもないという生涯。。
それは生ではあっても…
およそ人生ではあるまい。。
「校長も…先生もそんな考えなんですか?。?
生きてさえいれば問題はない。。イジメは存在しない。。
立場上そう言うしかないのですか??」
『いえ…そう言うわけでは…』
「いいんですよ。でもこれだけは考えてください。
生き地獄を放置することと、実際に自殺者をだすこと
どちらが罪深いと思いますか??」
『それは…その…』
「…組織人としては前者は問題にしたくない。。
表沙汰にしてはならないってことは分かっています。。
でも後者が出ないと動かない現実…
教育者として知っていただきたいんです。。」
『……』
その後も話し合いは続いたが…
ついに先生方は説得を諦めたようだ。
≪責任を取る覚悟を決めた≫ということだろう。
死者を出すのと同等以上の罪を自分たちは犯した。
それを教育者として理解し…自覚したのかもしれない。。
先生方が帰った後で…私は最後の確認をした。。
「…しかし…本当にいいのか??
キミは死ぬんだぞ。将来はなくなるんだぞ。」
「いいんですよ。これがボクの命の意味ですから。」
「バカな。そんな簡単に決めていいのか?」
「いいんですよ。…これは家族しか知らないことですけど…
実はボクには持病があって長くは生きられないんです。
だから元々この命でできることなんて…
でもそんなボクがいじめを少しでも減らせるんです。。
…ならばこれ以上の命の使い方はないと…。」
「わかった。…そこまで覚悟しているのなら。
ならばキミの命…最大限有意義に使わせてもらうよ。。」
「ありがとうございます。。
これで少しでも…世間が変わってくれれば…」
その後…私は入念に画像音声付きの調書を作成した。
そして彼が亡くなると、全て包み隠さず公表した。
加害者は…その家族情報まで実名で晒した。。
…私は容赦しなかった。
可能な限り積極的に情報を売り込んだ。
なぜならこれは…≪知られて困る情報≫ではないから。
いじめっ子たちは自分の意志で行動した。
自分の責任で悪質で違法な行為を続けた。
彼らの両親にも、罪深い子供を育てた責任がある。
隠すべきも守られるべきも一切ない。。
人権派が少しだけ動いたけど…
結果的には誰も私を止めなかった。。
数日後…加害者の親の一人が私のもとを訪れた。
「どういうつもりだ!?うちは近所のさらし者だぞ。
息子は決まっていた高校にも行けず、将来は真っ暗だ。
俺も…会社もクビになって無収入だぞ!!」
「…それがどうしました??自業自得でしょ。。」
「しかし…これはやりすぎだろう!!
こんなのどう見てもイジメじゃないか!!?」
「…おやおや。。イジメって言葉を知ってたのですか??
なのになぜ息子さんには教えてあげなかったの??
そうすれば誰も不幸にならなかったのに…
貴方も息子さんも…そして被害者とその家族もね。」
「くっ…」
私は…あえて意地悪に突き放した。。
もちろん私の心は痛む。。
でも…それでも許すわけにはいないから。。
…その後…
自業自得とはいえ加害者家族の将来は凄惨を極めた。。
そしてさらにその一年後…
「…死なせてください…」
「おや、あなた方はいつぞやのいじめっ子家族。」
「あれから…地元を追われ…再就職もできず…
これ以上は生きていられません…」
「構いませんよ。でも一つだけ確認させてください。」
「何をですか??」
「あなた方…被害者への賠償は済んだのですよね??」
「いや…自分たちの生活で精一杯で…」
「なるほど。思った通り理解力と想像力に欠けた方々だ。
いまだに贖罪の意味がわからないんですね。
そんなんだから平然とイジメができたってわけだ。」
「くっ…」
「…お引き取り下さい。今のルールでは…
この世に負債のある者を逝かせられませんから。。」
こうして私は再び加害者一家を突き放した。
あえて死ぬより辛い人生を送らされること…
マスコミを通して逐一を世間に晒すことにした…のだが…
『叩所長?さすがに今回の措置はやりすぎでは??』
「…私自身もそう思ってるよ。。
永井主任も加害者も気の毒だと思うだろう??」
『ならばどうして?』
「…命を有意義に使いたかったんだ。被害者も…加害者も。」
『たしかに…ここしばらくいじめは減少したそうですね。。
そのために彼らの命はあったと言うのですか??』
「…そうかもしれないな。。
被害者はもちろん…ろくでなしのあの加害者でさえ
意味のある命になったんじゃないのかな??」
『…そう考えればみんな有意義になったとは思います。
けどこれって…見せしめですよね。』
「…そうだよ。だがそのどこがいけない??」
『…どういうことですか??』
「いじめの加害者に理解力と想像力がないからさ。
見せしめ以外で理解できる人ならば、
はじめからイジメなんかしないからだよ。。」
結果…この事件は大きな抑止力になった。。
想像力はなくても見せしめならば伝わる。。
現実にいじめの加害者には…
言ってもわからない理解力のない輩には
かなりの効果があったらしいんだ。。
これまでイジメで自殺者を出した加害者は、
反省どころか笑い話にする者が多かったらしいが…
それはもう…不可能になったから。。
その翌年からイジメは半減。。
社会は少しだけ良くなったように思う。
彼は命を失ったが…その遺志は生かされた。。
ただ一つ、変わらない哀しい事実もある。
相変わらずイジメはなくなってはいない。
そして学校や社会の対応は何一つ変わっていない。
いじめを表沙汰にする方法は変わっていない。
被害者が命をかけること…だけ。。
以前に連載中の別の小説でいじめ問題を調べたのですが…、
その内容が壮絶すぎて何も書けませんでした。
(詳しくは【空を飛ぶ鳥のように】1-033参照)
その時の資料の一部を使って書いたのが本編です。
なお内容が重めなのは、今の教育委員会・日教組のやり方では絶対に解決しないと思ったからです。
あしからずご了承ください。