ファイル04 ブラック企業がやってきた
久々の第4話です。
今回はブラック企業がテーマです。
「あの…死なせて…ください。」
深刻な表情の中年男性が訪れた。
ここは県庁の自殺課。私は所長の叩一人。
…詳しくは第一話を読んでください。
「ではこの用紙に必要事項をご記入ください。』
男は用紙に記入した。
名前、生年月日、住所、連絡先など…。
「ふぅん…伊野さん。48歳ですか。」
「あの…これだけですか??」
「そうですよ。何か不都合でも??」
「…いや…そうではなくて…」
「では逝きましょうか。」
「その…動機とか聞かないんですか??」
「…聞いてほしいんですか?」
「当然でしょ!!」
あらら…怒らせちゃった。。(´・ω・`)
まぁ自分でも面倒臭そうに答えたとは思う。。
なにしろ今日は、事務所には私一人しかいないから。
だがこの…伊野さんには意外だったらしいんだ。
死にたいと言う男にまるで無関心な私が…
「…会社を自主退職して…再就職できなくて…」
…誰も聞くなんて言ってないのに…
伊野さん勝手に話し始めちゃったよ。。
まぁこれも職務の一環だから一応は聞くのだが…
とはいえ中高年の再就職は厳しいのは常識だ。
それがわかっていてなぜ自主退職??
しかし…よく聞くと少し違うようだ。
この男の会社はいわゆる黒企業らしいから。
「だけど…私は自主退職だからどこも門前払いで…
いまだに再就職できなくって。。」
「はぁ…それでウチに来たってわけですか。。」
なるほど。事情は分かった。。
県庁には就職斡旋課もあるにはあるが、
やはり自主退職者は条件が厳しいのは事実だ。
でも逆に言えば…
もし伊野さんの元の会社が黒企業と証明できて、
就職さえできればきっと…
「わかりました。とりあえず元の会社名を教えてください。」
「え…どういうことですか??」
「…思うところがあるんですよ。乗り掛かった舟です。
少しぐらいは力になりますから…さぁ。。」
相変わらず面倒臭そうな口調ではあるが、
私は伊野さんに協力することにした。
もちろんこんなの業務範囲外。。
自分でもなぜこんなことになったのかわからない。
ただなぜかはわからないが…私は彼に愛着を感じるんだ。
そして彼の前の会社名を調べてみると…
「あらら…この会社…真っ黒けですね。。」
「…え、そうなんですか??」
「しかも先週、ガサ入れが入ったみたいですよ。」
「そんな…じゃあうちの会社は…」
「はい、おそらく倒産です。。」
伊野さんは…悲しそうな顔になった。
死にに来た男が訪問時よりさらに輪をかけて…
辞めたとはいえ会社に愛着はあるのだろう。
おそらく真面目な人なんだろうな。。
だが逆に…私は少し笑顔になっていた。(´・v・`)
「でもね…モノは考えようですよ伊野さん。
ここで会社が潰れれば今後は堂々と、
<倒産による離職>と主張できますから。」
「…そうか。そうなりますよね。。」
「…それで再就職できれば…
もうウチに用はないんですよね。。」
「そう…ですね。。じゃあもう一度がんばってみます。
潰れてしまった前の会社のためにも。。」
…よかった。私は少しほっとしたが…
ちゃんと注意をすることは忘れなかった。
「まぁ死なないならそれでいいですけどね。
あとで死にたくなったら必ずここに来てくださいよ。
他所で勝手に死なれたら…私の評価に関わるんでね。」
「…頑張りますよ。二度とここを訪れないように…
所長さんは命の恩人です。。」
「嬉しいような…嬉しくないような。。(´・_・`)」
…そう言い残して伊野さんは帰って行った。
でもなんでだろうな??
柄にもなく人助けなんてしてしまったのは…
だが私が彼に愛着を感じたは運命だったようだ。
彼とは意外な形で再会することになる。。
「…彼が今日からスタッフで入ってくれる…
伊野知守さんだ。」
「はぁ??課長…どういうことですか??」
なんと彼は数日後…
スタッフとして自殺課に配属されたんだから。。
「…伊野さん…なぜあなたが県庁に??」
「はい、スタッフの募集に応募したら合格したんです。
叩さんのおかげですよ。
自主退職では応募できませんでしたからね。。」
「うちを…自殺課を希望したの??」
「いえ、偶然です。でも私のような人生を送った者には
ここは適任だと言われまして…」
「…まぁいいか。たしかにうちは人員不足でしたからね。
では早速仕事にかかりましょうか。伊野さん。」
「はい。よろしくお願いします!叩所長!!」
…というわけで
さっそく一人目の訪問者に対応した伊野さんだが…
「…すいません所長…担当を代ってください。。」
「はぁ、いきなりそうなことでどうするんですか??
そんなことでこの仕事が務まると…」
「ですがあの人…かつての同僚なんです。。」
あらら…それはまた。。
さすがに最初の客が知り合いというのは厳しいか、、
「…まったく…今回だけですよ。。」
「はい…次回から頑張ります。。」
こうしてうちは、所長の私と伊野さんのオッサン二人と
永井主任(おばさん…といったら怒られるから言わない)
の中年三名で運営することになった。
…とりあえず頭数はそろった。業績(?)も順調だ。
まぁそれもこれも…例の黒企業のおかげかな。。
伊野さんもスタッフとして来てくれたし…
再就職ができなかった元社員が何人か、
客として来てくれたし…
もう少し掲載のペースを上げたいのですが、
他の作品の比べてこの作品はいつも難産です。
…しばらくはこのペースで行ってみます。