ファイル03 冤罪被害者がやってきた。
黄金週間特別企画で増刊しています。
三回目にしてようやく社会問題らしいテーマです。
「もういやだ、死なせてくれ!!」
『わかりました。ではここに住所と連絡先を…』
「へっ??…驚かないんですか??」
『はい。これがウチの日常ですから。。』
今日も一人の男が、自殺志願にやってきた。
自殺課のメンバー、永井主任が対応するんだけど…
男は少し戸惑っているようだ。
「あの…事情とか聞かないですか??」
『はいはい。。手続きの後に聞きますから。。』
「手続きが終わったら…その…」
『でもねぇ。それは所長の仕事なんですよ。。』
そう…彼らの話を聞くのが所長の私、
叩一人の仕事ということになる。
とはいえこれは通常業務だから。。
だいたいは事務的に済まされるのことになる。
…男の希望には応えられそうにない。。
「…それで、自殺の動機は??」
「実は痴漢の冤罪をきせられまして…
仕事も家族も失って…人生がイヤになったんです。。」
これは…まぁよくある話だ。
性犯罪は立証が難しいわりに簡単に有罪になるし、
有罪になると罪科の割に社会的制裁が重い。
つまり…冤罪の温床のようなものだ。。
しかもそれが原因で命を絶つ人も多いらしい。。
つまり…殺人の温床のようなものだ。。
「…なるほどね。それで冤罪に至った経緯は??」
「酷いんです。証拠もないのに悪者にされて…
こっちの言い分はまるで聞いてもらえなくて…
罪を認めたら許すって言われたのに…
その後しつこく賠償請求されて…そして…」
これもよくある話だ。
気の毒に。悪い女に騙されたんだろう。。
でもこんな平凡な話。。
とっとと処理しちゃおうと思ってたけど…
「でも…許せないのがあの鉄道警察です。
たしか…鉄岡とか言いました。。」
「えっ、鉄岡??」
鉄岡は…かつて私の部下だった男だ。
コイツには一つ悪癖があって散々注意したはずだが、
もしそれが原因なら…
「わかりました。鉄岡に会いに行きましょう。」
「えっ、そんなことできるんですか??」
これは…決して人助けではない。。
いや、自殺課は人助けをする部署ではない。
けど…かつての部下の不始末は許せない。
私のせいで人死にをだすのは…
奇異に聞こえるだろうがやはり許せない。。
「こらぁ!鉄岡!!」
「えっ…叩さん?なぜここに??」
「何故もクソもあるか!この人殺しめ!!」
私の剣幕に鉄岡は驚いている。
何があったのだろうかと。。
「こら鉄岡!!俺は何度もお前に言ったよな!
裏付のない証言は信じるなと!!」
「…何の話ですか??」
「忘れたのか、この男を!!
お前がいい加減な証言を信じたせいで
命を絶つところなんだぞ、この人殺しめ!!」
「し…しかしですね、叩さん。。
あの女性は恥を忍んで証言したんです。。」
「…だからどうした!?」
「それに女性が痴漢にあったんですよ。
可哀想じゃないですか…」
「…(*_*)」
ダメだ。
鉄岡のヤツまるで成長していない。。
かつての私の注意をすっかり忘れているようだ。
いい年して…信じがたい…
「あのな…鉄岡、ようく聞けよ。」
「…はい。。」
「証言で何より大切なことは真実かどうかだぞ。」
「そんなの…当然ですよ。。」
「じゃあ真実である根拠は?以前に教えたよな。
可哀想かどうかは全く根拠にはならないと。」
「あっ。。」
「そうだ。お前は可哀想というまるで無根拠な理由で
ウソの証言を信じるクセがある。違うか??」
「しかしその後の対応はこの人が…」
「お前は…バカか!?でっち上げをするような女が、
無辜な相手に何をするかもわからないか!?」
「…はい。。。」
鉄岡は…改めて事件を調べなおす。
すると簡単に事件の真相が見えてきた。。
事件の自称被害者、鷺田という女は…
この二年で9件もの痴漢被害にあっているらしい。
およそ常識では考えられない数字。。
つまり…痴漢にあったという前提自体がウソ。
ウソを前提に話を進めた結果がこういうことだ。。
実はこんなことさえ見落とすのが痴漢捜査の実態。。
探偵の浮気捜査なんかはさらに酷いらしい。。
鉄岡は…慌てて鷺田を呼び出した。
「鷺田さんとやら…正直に話してもらおうか。。」
『フン。バレちゃしょうがないね。。』
「ふざけるなよ。人殺しめ!!
貴様のせいでこの人は…命を絶つところなんだぞ!」
『えっ、人殺し??』
…鷺田は驚いた顔を見せた。
騙した男のその後など考えたこともなかったから。
でも…人殺し??
「おそらく…この人は例外ではない。
貴様はこれまで何人の人生を潰してきたんだ?
この大量殺人者め…」
『そんな大量殺人者って…
人でなしみたいに言わないでよ!!
私はちょっとお金が欲しかっただけなの!!』
「思慮がなさすぎるんだ!考えろ!!
人並みの思考力のない者は人でなしだ!!」
『……』
だが…私の怒りは収まらない。。
相談しに来た男は弁護士を紹介して追い返した。。
…おそらく辛い人生にはなるだろうが…
冤罪さえ晴らせば彼は生きてはいけるはずだ。。
賠償金も取れるはずだし。。
だってそれ以上に…私が今すべきことは…
「こら鉄岡!!
確かにこの女は最低だが…お前はもっと最低だ!!
詐欺師の片棒を担いで無実の男を罪人にしたのは
他でもない貴様だぞ!この殺人鬼め!!」
「……すいません。以後気をつけます。。_(._.)_」
「以後とはなんだ!!以後とは!!」
「…でも…すいません。。(´;o;`)」
…私の剣幕に鉄岡も鷺田も委縮してる。
…怒りの収まらない私を見かねたのだろう。。
代わって永井主任が後始末を担当したのだが、
鉄岡はかなり凹んでしまったようだ。。
「ああ…私は恥ずかしい…もう死にたい。。」
『ダメですよ、鉄岡さん。
貴方は反省して…いい鉄道警察になってください。』
「…ありがとう…反省します。。」
永井主任の優しい励まし。これはウチの武器だ。
こんないい加減な私に所長が務まるのは、
実は彼女のおかげかもしれない。。
『ああ…私も恥ずかしい。もう死にたいです。』
『ダメですよ。鷺田さん…
貴女はウチでは受け入れませんよ。』
『ありがとう…私は…生きてていいんですね?』
すると永井主任は般若のような表情になった。
…そして…彼女のもう一つの武器が出た…
『ふざけないで!私はね、あんなのような大罪人に、
安らか最期など勿体ないと言ったのよ!!』
『…えっ??』
『うちはね、あんたのような悪人が来るとこじゃない!
生きたくても生きられない不器用な善人が来るところ!!
わかったら他所に行って逝かせてもらいな!!』
『そ…そんな。。(´;ω;`)』
さすがに…この言葉は鷺田にも堪えたようだな。。
ずっと下種な人生を送ってきた彼女は、他人から<死ね>と
言われることはあったが…
…死ぬことも許されなかったことはない。。
事実、冤罪を着せた男たちのその後を知らされた彼女は、
初めて本気で反省したらしい。。
その後…鷺田は郷里近くの出張所で静かに
その生涯を閉じたそうだ。
反省して恥を知った彼女にとって…
罪深い自分を許すことはできなかったらしいんだ。
私は…彼女に同情はしない。。
でも何も省みれなかった愚かな悪人に比べれば
少しだけマシだったのかもしれない。。
悪人のまま社会悪でしかないまま生き続けるよりは…
悪行を顧みて逝かせてもらえた方が…
幸せだったと私は思うから。。
こうあってほしいという願望も込めて書きました。
でも悪人が反省し、恥を知ることなど現実にあるのでしょうか?
…そういうテーマもいずれ書いてみようと思っています。